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「もしも~し? 大丈夫?」

 私はニースの顔の前でひらひらと手を振った。ニースはハッと我に返った。

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと聞いている」

「そう、それは良かった。で、彼女を殺すことに対してなんだけど……」

「だから聞いたって」

「そうじゃなくて私の話をちゃんと最後まで聞いて」

 私はニースの顔を真っ直ぐ見つめた。ニースがなんだか気まずそうに私を見る。なんだか目を合わせたくなさそうだ。彼の黄色い瞳が私から逃げようとする。心理状態が直接目に影響を与えるなんてなんだか皮肉よね。どれだけ嘘をつこうとしてもバレてしまう。だいたい視線を下に逸らす時は、恥ずかしくなったり、照れている時だった気がする。今のこの状態で照れる要素なんて一つもなかった。けどこの行動ってマイナス要素よりもプラス要素が含まれていると言われているけど、ニースは私のことを嫌いなはず……、あ、ソフィアのことを思い出しているのかな。

 ニースはもっと自分の感情を隠すのが得意なんだと思っていた。

「なんなんだ、話って」

「ああ、えっと、レイチェルって何歳か知ってる?」

「分からないが、想定年齢は約十歳ってところか」

「十歳なら女が魔法を使えるということがどういう扱いを受けるかという理由をしっているはず」

「ああ、確かにな」

「彼女が馬鹿なのか、それとも親の責任なのか」

 私の言葉にニースが怪訝な表情を浮かべた。前者をとっても後者をとっても私はなかなか酷いことを言っている。

「もし私が彼女の立場なら、何としても生き残ってみせる。その為には誰も信じないし、墓場まで自分が魔女だったという事実を持っていく。自分から魔女だなんて言わない。……後者だった場合、両親は守る為でなく、レイチェルの存在を疎ましいと考えて何も言わなかった可能性がある」

「彼女の両親がレイチェルを殺したいと考えているのか?」

 ニースの言葉に怒りが感じられた。

 普通、親は子を守りたいと思うが、魔女の子を持つ両親の気持ちまでは分からない。というか、母親になったことないから実際は何の気持ちも分からないのだが。

「こんな人気のないところ、誰が彼女を虐めるの」

「レイチェルを殴っているのは……」

「まだ可能性の段階だから決めつけるのはよくないけど」

「……どうしてそんなに苦しそうな表情を浮かべているんだ」

 私はニースの言葉に驚き、そのまま彼の方を勢いよく振り向いた。彼は少し眉間に皺を寄せて心配そうな目で私を見ていた。心臓が一瞬止まった気がした。ふわりと風が私を包むように流れた気がした。彼の表情が私の胸をキュッと引き締める。私、ニースに心配されていることが嬉しいのかな? 

「……レイチェルの、腕には」

 私はそこまで言って話すことをやめた。彼女の両親が犯人だと決まったわけじゃない。余計なことを言わない方がいい。

「火傷の痕」

 私が思っていたことをニースがさらりと言った。

 気付いていたんだ。服で隠されていたけれど、あの火傷はかなり大きい。

「知っていたんだね」

「ああ、真皮の深い部分まで損傷しているな。赤く膨れ上がっていた」

「肥厚性瘢痕」

「……どこでそんな言葉を覚えたんだ」

「本。本は私に膨大な知識を教えてくれる」

「リルが本を読んでいるところなんて今まで見たことないんだけど」

「見てないところで読んでいたんだよ」

 私は軽く笑って答えた。なんだかニースとこんな会話をしているのがおかしく思えたのだ。

 ニースは片手で顔を覆うようにして下を向き、ため息をついた。

「どうしたの?」

「なんか緊張するんだよ。普段のリルじゃないから。落ち着いてるし……、やっぱり何にもない」

「おい! お前ら~、早く来い!」

 少し前からグラントが叫んでいるのが目に入った。あれ? いつの間にかもうこんなに小屋に近づいていたんだ。

「分かったよぉ~。けど、皆、歩くの早いんだもんっ」

 私は咄嗟に声のトーンを上げて、ぶりっ子演技に入った。我ながら見事な対応力だと思う。

 ニースの前でこの演技をするのは恥ずかしかったが、もうこればかりはしょうがない。ここで演技をしなければ私の死亡フラグがどんどん立っていくばかりになってしまう。……そういえば、ニースは本当に私のことを言わないという保証はどこにもない。私はニースの方をちらりと見て聞いた。

「ねぇ、誰にも言わないで」

 ニースがニヤリと口角を上げて笑うのが目に入った。

 ……なんだかまずいことになりそうな予感が物凄くする。やっぱり私、判断間違えた?

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