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「じゃあ、行ってらっしゃ~い!」
私は満面の笑みで両手で手を振った。
嫌われ者の私と一緒に旅をする皆の気持ちを気遣って、私はあえてこう言った。絶対に私がいない方が楽しい。まぁ、魔女かどうかを確かめに行く旅なのだけど……。
「お前も勿論一緒に行くぞ」
ニースが私を睨みながらそう言った。
イッショニイク?
「どこに?」
驚きのあまりつい地声でそう答えてしまった。
「魔女と言われている女の子の所に決まっているだろ。言い出した奴が来なくてどうするんだ」
「でもぉ、私、病み上がりだからぁ~」
私が体をくねくねさせながらそう言うと、ニースが呆れた表情でため息をついた。他の皆は痛い奴を見るような目で私を見ている。
「リルも一緒に行こ?」
ソフィアが優しい口調で私のことを上目遣いで見つめる。なんて可愛らしい女の子なのだろう。双子なのに、ここまで出来が違うとは……。
「リルに選択肢はない。強制的に行かせる」
私がソフィアの言葉に頷こうとした瞬間、ニースが少し乱暴な口調でそう言った。
あれま、強制参加ですか。私への嫌がらせなのかな。
「しょうがないっ! ニースがそこまで言うのなら行くよぉ! 本当にもうニース様は私の事が大好きだなぁ~」
私はニースの腕をツンツンッと指先でつついた。ニースはそのまま黙って私の腕をぐっと自分の方に寄せた。私とニースの距離が一瞬にして縮まる。ニースの黄色い双眸に釘付けになった。一瞬、時が止まったように感じた。
え? 何この状況。 私の心臓の鼓動が早くなるのが分かる。拍動促進! 交感神経が働いている。どうしてニース相手にこんなにドキドキしているのだろう。そんな色気のある瞳で見つめないで欲しい。彼は敵だ。いや、彼だけじゃない。この世界では自分以外は全員敵だ。
「俺に見つめられて固まっているリルこそ俺のことを好きなんじゃないのか?」
ニースが口の端を軽く上げてニヤリと笑った。
「そんなわけないいいいいいいいいい!」
必死にぶりっ子を演じようとした結果、部屋全体に響き渡るような声で叫んでしまった。私はそのまま思い切りニースの手を振り払った。動揺しすぎてもう私の頭の中はパンク寸前だ。
まさか自分がこんなにも大声を出すなんて思っていなかった。私の声に皆顔をしかめる。声を出せるってなんか面白い事よね。私は彼らの顔を見ながらそんな事を考えた。左右の声帯の間の声門を呼気が通過する時、声帯が振動して音が出るんだっけ? そう思ったら、やっぱり人体って凄い。
「……知ってる」
ニースの声が微かに耳に響いた。
「リルの好きな奴はウィクリフだもんな」
「こっちはいい迷惑だ」
グラントの言葉に即座にウィクリフは反応した。
人に好かれてもらっていい迷惑って……、確かにそうか。私に好かれても何のメリットもない。むしろデメリットしかないな。これは反論のしようがない。
「話を元に戻すぞ」
ニースはそう言って、アルビノの女の子の写真を手に取った。
「この子の居場所は分かっているの?」
「ああ。この外見のせいでかなり大変な思いをしているみたいだ」
ソフィアの方を向きながらバイロンが難しい表情をしながら答えた。
確かにこんなにも透明感があって神秘的な見た目なら魔女だと疑われるかも。私は写真を眺めながらそんな事を思った。不憫な子……。
「よし、会いに行くか」
グラントは覇気ある声でそう言った。私以外の皆が頷く。私は頷かなくても強制参加だ。