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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第95話 教授たちの依頼

「こんばんわ、お邪魔します」


「突然おしかけてしまって申し訳ありません」


「こんばんわ、ユリーさん、ヤチさん」


「ヤチ姉さん、会いたかったよ!」



 夜の帳が下(よるのとばりがお)り始める頃、ユリーさんとヤチさんが拠点を訪問してくれた。お昼寝をしていてヤチさんが来ることを聞いてなかったオーフェは、ずっとそわそわとしながら待ち続けていたので、大喜びで抱きついている。



「いらっしゃい、ユリーさん、ヤチさん。来てもらって早々ですけど、ご飯にしましょう」


「ありがとうマイちゃん、今日はおやつを食べてないからお腹が空いてるのよ」


「マイさん、ありがとうございます。私も教授に教えてもらって楽しみにしていたので、おやつは食べませんでした」



 2人ともお腹を空かせて来てくれたみたいなので、全員で食堂に移動すると、そこにはキリエが立って待っている。



「ユリーおねーちゃん、ヤチおねーちゃん、いらっしゃい」


「キリエちゃん、こんばんわ。お昼もそうだったけど、ちゃんと挨拶ができるのは偉いわね」



 ユリーさんが頭を撫でてくれて、キリエも嬉しそうにしている。一方のヤチさんは、キリエを見つめたまま固まってしまったみたいだ。オーフェの時と同じ様に、もしかすると普通の人族と違うことに気づいてしまったんだろうか。



「かっ……」



 何かを言おうとしているが言葉にならないみたいだが、これは人見知りの方が発動してしまったかもしれない。いきなり会わせたのは失敗だったか。



「可愛いです! どうされたんですか、この娘。髪の毛の色を見ると、ダイさんの子供なんですか!?」



 ヤチさんが俺に詰め寄ってきた、人見知りで言葉が出なかった訳じゃないみたいだが、掴みかからんばかりの勢いでこちらに迫ってくるので、少し後ろに下がってしまう。



「ヤチ、落ち着きなさい。この娘は、ここにいる家族全員の子供みたいだけど、詳しい話はご飯を食べてから聞きましょう」


「……おっ、お見苦しい所をお見せてしてしまいました。キリエさんでしたね、私はユリー教授の助手を務めているヤチと申します」


「おとーさんとおかーさんたちの子供で、キリエといいます。よろしくお願いします、ヤチおねーちゃん」


「こちらこそよろしくお願いします」


「あとね、キリエは子供だから、さんは付けないでほしいの」


「そっ、そうなのですか。では……キリエちゃんでいかがでしょうか」


「そっちの呼び方のほうがキリエは好き、ヤチおねーちゃん」



 オーフェ以外はさん付けのヤチさんも、キリエのお願いは断れなかったか。とういか、人見知りの彼女が会った瞬間にその存在に心を奪われていた、さすがに俺たちの娘だ。


 その後は食事にしたが、麻衣のお魚中心のメニューに、やはりユリーさんが求婚する場面を見ることになった。もちろんヤチさんのツッコミが入ったのは言うまでもない。


 ちょうど良いタイミングなので、火の月の青が誕生日のアイナにも、おめでとうの言葉を伝える。教授たちにも祝ってもらえて、すごく嬉しそうにしていた。こうして、ちょっとしたお食事会の時に祝えてよかったと、俺に頭を撫でられて出会った頃と変わらない笑顔を向けてくれるアイナを見てそう思った。



◇◆◇



「私の耳がおかしくなってなければ、その娘は黒竜族の子供なのね?」


「えぇ、そうです」


「あのね、ダイ君。この国が建国された当時ならともかく、その後に竜族と出会ったって記録は、この千年くらいは全く無いのよ。せいぜい山に迷い込んだ人が、いつの間にか(ふもと)に居て、竜に助けられたって酒場で噂される程度なの」


「さすがは虹の架け橋の皆さんです。そんな貴重な体験をされて、しかもこんな可愛らしい子供を託されるなんて、この大陸に来て本当に良かったです」



 なんか今日のヤチさんは少しテンションがおかしいな。仕事のストレスが溜まってるのか、それともキリエの可愛らしさにタガが外れてしまっているのか、俺には判断できない。



「しかも竜族最強の黒竜なんて、あなた達はこの大陸を支配できるわよ」


「いや、キリエはこんなに可愛くて優しい子ですし、そんな事はしませんよ」


「そうよね、ごめんなさい、くだらない事を言ってしまったわ」


「ところで、なにか依頼があるんですよね、それを聞かせてもらってもいいですか?」


「わかったわ」



 そう言ってユリーさんは、この大陸の地図をリビングのテーブルに広げてくれる。竜が住む山脈の向こうや、大森林の詳細はわからない、人の生活圏を中心とした大雑把な地図だが、俺たちの行ったことのある街も書き込まれている。



「実は新しいダンジョンが発見されたのよ、そこに国に協力してくれている冒険者が調査に向かって、その全貌がやっと判明したところなの」


「それはどの辺りにあるんですか?」


「今までほとんど人が踏み入れたことのない場所なんだけど、この辺りにあるわ」



 地図に置かれた指を見ると、大陸の南西にある大森林の中みたいだ。大陸の端を囲んでいる大きな山脈と、サードウの街に行く途中に有ったような連山に囲まれた場所で、その先には街も無いようなので、人が訪れるような所ではないのだろう。



「そこは俺たちでも行ける難易度なんですか?」


「調査に向かった人たちによれば、中級ダンジョンだそうよ」


「近くには古代の遺跡も発見されているので、オーフェちゃんの空間転移の目印になるかもしれません」


「うん、覚えやすい建物とかが残ってたら大丈夫だよ!」



 そういう条件なら、俺たち向けの依頼だな。みんなの実力を知っている教授たちが、無茶な難易度の依頼をしてくるとは思えないし、メンバー達を見ても誰も難色を示していないので、受けてもいいだろう。



「その依頼、受けさせて下さい」


「ほんと! 助かるわ。近くに拠点になる街がないから、普通に調査しようとすると、物資を運ぶ隊だけでも大掛かりになってしまうのよ。でも、あなた達ならこのメンバーだけでも行くことが出来ると思うし、その分を全額報酬に回してあげられるわ」



 前回の火山ダンジョンもそうだったが、この辺りをかなり厚遇してくれるのは、こちらとしてもありがたい。



「この位置ならフォーウスの街に行って、そこから移動するのがいいわね。方角と大体の距離がわかれば、森の中は私が案内できるわ」


「あなた達フォーウスの街に行けるの!? それならかなりの行程が省けるわよ」


「キリエちゃんと出会ったのが、フォーウスの街の依頼だったのです」


「やっぱりあなた達にお願いしたのは正解だったわ、今日はお母さんの所に行って本当に良かった」



 今日は施設に寄った後に冒険者ギルドに行って、この調査の依頼を出す予定だったらしい。ところが俺たちに偶然出会えたので、まずはこちらに話を持ってきてくれたようだ。本来ならダンジョン内の護衛と、物資を運ぶ複数のポーター(運搬人)と彼らの護衛まで必要になるが、俺たちなら両方を兼任してしまえる。そして、十分な支度金が支給されるのも、国からの依頼だけあってしっかりしている。


 その後、細かい打ち合わせをして出発は5日後に決まった。途中で補給もできないし、教授たちが使う物資もこちらで用意することになっているので、作り置きや消耗品をいつも以上に揃えておかなければならない。近くにある遺跡をオーフェが覚えられるなら、王都の拠点から通うことも出来るし楽になると思うが、まずは現地に行ってみないと判断できないので、帰れないことを前提に準備を進めていこう。



「おとーさん、冒険の旅に出るの?」


「そうだよ、他の人が行ったことのないダンジョンを調べに行くんだ」


「お泊りしながらの旅は初めてだから、キリエも楽しみ」



 俺の膝の上に座って大人しく話を聞いていたキリエが、泊りがけの冒険に出られると聞いて喜んでいる。森の中でも俺たちに付いてこられる身体能力があるし、いちど長期間の旅も経験させてみたいと思っていた所なので、気心の知れた教授たちとならちょうどいいだろう。



「キリエちゃんも冒険者登録してるの?」


「うん! おとーさんやおかーさんたちと同じなの」



 そう言って、施設に行くときは外していた冒険者カードを取り出して、ユリーさんの前に差し出した。



「凄いわね、シルバーランクのカードよ」


「よく冒険者登録ができましたね」


「特殊な能力を持ってる人は、年齢制限を除外される特例措置があるみたいで、それを利用しました」



 キリエの能力や特例措置のことを説明したが、2人ともその制度は知らなかったみたいで驚いていた。長く生きてきて知識の豊富なヨークさんと、過去の事例に詳しいヴェルンダーのギルドマスターの2人が居たからあっさり登録できたようなものだし、こんなレアケースなんて普通は誰も知らないだろう。



◇◆◇



 必要になりそうなものや、あると便利そうなものをみんなで色々と話し合って、順番にお風呂に入っていく。今回はユリーさんもヤチさんも泊まる用意をしてきているので、お風呂の後は大部屋のベッドでくつろいでもらっている。



「ダイ君、本当にいいお父さんをやっているわね」


「この家に住む皆さんのお父さんという感じですね」


「キリエちゃんが生まれてから、あたたかく包み込む感じが強くなってるわね」


「なでなでも更に気持ちよくて優しく感じるようになりました」


「ダイ先輩が近くに居ると感じる安心感も大きくなってますね」


「……あるじ様に握ってもらう手も大きくなった気がする」


「ボクも抱きついた時に感じるダイ兄さんが大きくなった気がするよ」


「頭の上の居心地も良くなってるのです」


「私も最近は毎日外に出ていましたが、家に居る時と同じ様に過ごせたのは、旦那様から感じる力が大きくなったからだと思います」


「おとーさんは、おっきくて優しいから好き!」


「わぅ」



 俺とキリエのブラッシングを受けているシロも同意してくれているようだが、自分としてはあまり意識していないので実感か沸かない。でも、キリエのおかげで家族の絆は一段と深まったと思う。



「俺もキリエやシロやお母さん達のことは大好きだぞ」



 嬉しそうに座っていた俺の膝の上から見上げてくるキリエや、背中に抱きついてきたオーフェのぬくもりを感じながら、ブラッシングを続けていく。頭の上でもゴソゴソと動いているので、きっとウミが頬ずりとかしてくれているんだろう。




―――――・―――――・―――――




 翌日から遠征の準備を開始する。

 俺は新しい武器を作ろうと思っているので、魔法回路屋に足を運んだ。


 一つは魔物溜まり対策の範囲魔法を作ろうと思っている。魔物溜まりの部屋には、誰かが足を踏み入れないと魔物は外に出てこないので、遠隔発動でその場に留まって効果を発揮するタイプの回路を組む予定だ。


 それともう一本は、イーシャ用の高威力3並列魔法回路を作る事にしている。前に急造したものは、元々2並列用に作ったものを無理やり3並列化しているので、効率も悪く威力も抑え気味になってしまっている。保険の意味も込めて作ることは彼女も了承してくれているので、俺のストーンバレットの杖と同じく威力を追求した氷の矢の回路にするつもりだ。


 いつものようにエルフの店員さんに挨拶をして、お店の中を物色する。俺用の杖は目をつけているものがあって、時間が経つと爆発する魔法が発動する回路だ。持続のパーツがタイマーになっていて、手元から飛ばして発動させることも出来るが、それだと敵との距離を合わせないと効果が無くなるので、遠隔設置型の時限爆弾のイメージで作ることにする。


 ダンジョンでの使いやすさをと爆弾のイメージから属性は火にして、ある程度の大きさの部屋に対応できる範囲と威力を得るために、規模や密度のパーツを並べていく。動かす必要が無いので速度のパーツを省いて、インターフェースユニット同士を直結する。発動はコマンドワード方式で、飛ばすわけではないが“発射”で良いだろう、杖によって変えても混乱しそうだしな。


 イーシャの杖は密度を目一杯上げて、速度も速くして貫通力を向上させるオーソドックスな回路にする。もちろん3並列魔法回路なので、一般のものより威力の次元が異なるのは言うまでもない。充填部分がかなりリッチになってしまうが、常用するわけではないし、イーシャのマナ耐性の高さがあれば大丈夫だろう。


 中型魔法回路用のレールに小型魔法回路のパーツを並べて、2列目は全てダミーパーツで埋める。前回実験して成功しているので、回路のマルチコピーで作ることにする。



「難易度の高いダンジョンにでも行くのか?」


「発見されたばかりのダンジョンの地質調査に同行することになったんです」


「ほう、それは国の仕事だろう、準備はしっかりしておけよ」


「はい、出来るだけの事はしておこうと思います」



 各パーツの比率を見た店員さんが何かを察したみたいで、そう声をかけてくれる。ヨークさんと挨拶しに行ったことをきっかけに、ここのエルフの店員さんとも世間話みたいなことをするようになった。俺の魔法回路の組み方に関しては口外しないと約束してくれているし、義理堅い性格でヨークさんと知り合いの俺たちの事を特別視してくれるようになったので、こういった少し突っ込んだ話が出来るようになり、ますますこのお店が利用しやすくなったのが有り難い。


 回路を印刷した後は武器屋に行って杖も購入するが、イーシャも俺が選んだ武器を使いたいと一任してくれたので、赤い玉の飾りがついた杖と、青い線の模様のプレートが付いている杖を買って家に戻る。






 魔法回路の改造も済ませて、近くのダンジョンで試し撃ちもして、その威力に驚いたりしたが、遠征の準備は着々と整っていった。


主人公の謎パワー(笑)の正体は、この章の後半で明らかになります。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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