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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第94話 意外な人物

あの人の再登場です。

 あれから数日、施設の方にも毎日通っている。怪我をした職員も順調に回復してるらしく、臨時のお手伝いの人も明日から来られるようなので、俺たちの依頼も今日で最後になる。子供たちはかなり名残惜しそうにしているが、今日までになるというのはずっと言い聞かせているので、なんとか納得してくれている感じだ。


 まぁ、依頼じゃなくても施設を訪ねることは問題ないので、時々遊びに行くのも良いかもしれない。



◇◆◇



「よし、次は俺の番だな」



 眼の前の砂山をじっと見つめる、あまり削りすぎると刺さっている棒が倒れてしまうので、どの程度砂を取るかの見極めが肝心だ。かと言って、ほんのちょっとだけ取っても男らしくない、ここは年長者としても大胆に攻めるべきだろう。


 何人かが砂を取って歪な形になった砂山に指を差し込み、一気に削り取った。棒はすぐ倒れることはなかったが、下の方から徐々に崩れていき支えきれなくなったのか、こちら側に傾いてしまった。



「しまった、ちょっと取りすぎたか」


「お兄ちゃんの負けー」


「こんどは私たちが勝った!」


「ちょっとたくさん取りすぎたね、お兄ちゃん」



 アーキンドの砂浜から砂を取ってきて、それを水洗いして乾かした後に、庭の一角を花壇のように囲って砂場を作らせてもらった。そこに大きめの砂山を作って、頂上に棒を刺して山崩しを数人で遊んでいる。俺もこういった遊びにはあまり詳しくないが、砂さえ持ってくれば簡単にできそうなので、オーフェに頼んでアーキンドに行ってもらい作ってみたが、ここの子供たちにはかなり好評だ。


 最初のうちは誰が先にやるかで少し揉めたりしたけど、今はみんな順番を守って代わり番こ(かわりばんこ)に遊んでいる。



「いけると思ったんだけどな」


「欲張りすぎたらダメ」


「勢いよく取ったからだよ、お兄ちゃん」


「こんにちわー」



 みんなで今回の結果を話していたら、門の方から女の人の声が聞こえた。覚えのある声に聞こえたが、お客さんみたいだ。犬人族の男の子を腕に抱いて、兎人(とじん)族の女の子と手を繋いで、一緒に遊んでいた子供たちと門の方に行く。



「あれ? ユリーさんじゃないですか、どうしたんです」


「ダイ君こそ、ここで何してるの?」


「あっ、ユリーお姉ちゃんだ!」


「お姉ちゃんこんにちは!」



 聞き覚えのある声だと思ったら、門の所にはユリーさんが立っていた。一緒に居た子供たちは顔見知りのようで、ユリーさんの(もと)に走っていく。今日はヤチさんの姿が見えず1人のようだが、国の研究機関の教授がこの施設に一体何の用事なんだろう。



「俺たちはこの施設から依頼を受けてここに居るんです」


「そうだったの。私はね、ここの出身なのよ」



 そうだったのか、ここを巣立って研究所の教授まで上り詰めるなんて、ユリーさんはやっぱり凄い人だ。きっと獣人に偏見がないのは、ここの施設長の意思を受け継いているからだろうな。



「あっ、ユリーさん、こんにちは」


「こんにちは! 今日はヤチ姉さんは居ないのかな?」



 庭で遊んでいたアイナとオーフェも、こちらに気づいて近づいてきた。一緒に遊んでいた子供たちも、その姿を見て嬉しそうな声を上げて近づいていく。ユリーさんもかなり慕われているみたいだ。



「ヤチは今日は別の仕事で来られないのよ。それよりお母さんは居るかしら」


「施設長なら家の中でお昼の準備をしてると思いますよ」



 門の近くに集まってきた全員で家の中へ向かう、子供たちと手を繋いで楽しそうに話しながら歩くユリーさんは、本当にみんなのお姉さんという風に見える。



「でもダイ君、あなたは本当に獣人に好かれるわね」


「お兄ちゃんのぶらっしんぐ、とっても気持ちがいい」


「なでてもらうのも好き」



 抱いている犬人族の男の子と、手を繋いでいる兎人族の女の子がそう答えると、ユリーさんは嬉しそうにその頭を撫でてあげている。家に入るとユリーさんに気づいた子供たちが声を上げながら近くに寄ってくる、それに気づいたからだろうか、奥の方から施設長が出てきた。



「ユリーちゃん、久しぶりだね」


「お母さん、ただいま」


「今日はどうしたんだい?」


「仕事が一段落したから寄ったのよ、これおみやげね」



 そう言って持っていた袋を差し出すと、施設長も嬉しそうに受け取った。こうやって時々帰ってきては、おみやげを渡しているんだろう。



「今日はお昼ご飯を食べていくかい?」


「いえ、あまりお邪魔しても悪いから帰ろうと思うんだけど」


「ユリー姉ちゃん、お昼ご飯食べていきなよ」


「そうだよ、マイお姉ちゃんの作ってくれるご飯はすごく美味しいぞ!」


「えっ!? マイちゃんがご飯作ってるの?」


「なんだい、マイちゃんと知り合いかね」


「実はヴェルンダーの街でユリーさんの依頼を受けてたんです」


「そんな縁があったのかね、それなら今日はご飯を食べていくといいよ」


「わかったわ、お母さん。ごちそうになるわね」



 ユリーさんは麻衣のご飯と聞いてとても嬉しそうな顔をしている。拠点でお泊まり会をしてから2ヶ月近く経ってるから、久しぶりに食べられるのが楽しみのようだ。



◇◆◇



「凄いわね、ここにある食材でこんな料理ができるなんて」


「そうだろ、マイお姉ちゃんはすごいんだ!」


「私、豆が好きになったよ!」


「私も、お芋が美味しく食べられるようになった」


「俺も野菜をいっぱい食べるようになったよ」



 みんな口々に麻衣の料理を褒めてくれて、本人も嬉しそうにその光景を見ている。今日の食事も無理なく手に入るものや安価なものを使って、とても美味しい料理に仕上げてくれた。これまで作ったものや、ここでも作る事の出来るレシピは、全て書いて渡しているらしいので、これからも美味しい食事が食べてもらえるだろう。



「私がここで生活していた頃に居てくれたら、教授なんかにならずにマイちゃんに(とつ)いだのに」



 今度はお嫁さんに欲しいではなく、(とつ)ぎたいとか言い出すユリーさん。今日はツッコミ役のヤチさんが居ないけど、ダンジョンの生態を数多く解き明かしている人が世に出なかったら、この世界の損失になっていたかもしれない。


 ご飯とデザートを食べ終えた後は、いつものようにブラッシングタイムだ。小さい子から俺の前に来て、他の子も行儀よく順番に待っている。犬人族の男の子から順番に、兎人族の女の子や猫人族の女の子とブラッシングを進めていくが、終わっていくに連れて俺の周囲の密度が上がってくる。


 でも、こうやってみんなの囲まれるのもすごく居心地がいいので、今日で終わりなのは少し寂しい。子供たちもそれが判っているのか、いつも以上にくっついて来ていて更に密度が上がっている。



「ダイ君、これはちょっとすごい光景ね。ヤチが居たら目を輝かせて見るに違いないわ」


「……ここに初めて来たときから、こんな感じだった」


「初日は帰る時に泣かれたものね」


「ダイくんのブラッシングとなでなでを体験してしまったら仕方がないのです」



 ユリーさんと仲間たちがそうやって話していると、キリエが器用に子供たちの隙間を抜けて、俺の膝の上に座ってきた。いつもは他の子に遠慮して、あまり俺にくっつかないようにしているみたいだが、もしかしたら自分の知らない人と親しげに話しているのが気になったのかもしれない。



「このおねーちゃんは、おとーさんやおかーさんたちのお友達?」


「この人はユリーさんと言って、ダンジョンの研究をしている人なんだ。お父さんやお母さん達と一緒に仕事をしたお友達かな」


「わかった。私はおとーさんとおかーさんたちの子供でキリエです。よろしくお願いします、ユリーおねーちゃん」



 いつものように、きちんと挨拶ができたキリエの頭を撫でてあげる。



「かっ……、可愛らしいわ。この施設の子じゃなかったのね」


「俺とメンバーたち全員の子供なんですよ」


「どういう事かわからないけど何となく理解は出来たわ、詳しい話はまた聞かせてね」



 流石にそれなりの付き合いがあるユリーさんだ、急にこんな大きな子供が出来るなんて普通はあり得ない事だろうけど、何か理由があると察してくれた。ここで黒竜の子供だと話す訳にはいかないし、仕事が休みならまた家に来てもらって、そこで話をしてみるのも良いだろう。ユリーさんも他種族の事や文化に詳しいので、ヨークさんとは違う話を聞くことが出来るかもしれない。


 膝の上でウトウトしだしたキリエを倒れないように支えて、ユリーさんと話をしていたら昼食の後片付けをしていた麻衣たちが戻ってきた。



「マイちゃん、お母さん、ごちそうさま。とても美味しかったわ」


「マイちゃんの料理は子供たちにも好評でね、好き嫌いを言う子が居なくなったよ」


「少し手間のかかる料理も多いのが申し訳ないです」


「何を言ってるんだい、子供たちのあんなに嬉しそうな顔が見られるんだ、これくらいどうってこと無いよ」


「マイちゃん直伝の料理が食べられるなんて、ここに居る子供たちは幸せね」



 ユリーさんは近くで寝ている子供の頭を優しく撫でながら、慈愛のこもった目でお昼寝スペースで眠る子供たちを見渡している。



「ねぇ、あなた達はここのお手伝いをいつまでするの?」


「ここの依頼は今日で終わりなんです」


「みんな残念がっていてね、今日は特に兄さんにべったりだよ」



 施設長は俺の周りで固まって寝ている獣人の子供たちを見て微笑んでいる。ここの子供たちはみんないい子だった、行儀が良いしちゃんと言うことも聞いてくれる。遊びの順番で揉めることもあったけど、最終的には小さい子優先で決まっていく。施設長やもう一人の職員の教育やしつけのおかげだろう。キリエをここで集団生活の経験をさせてもらえたのは、このさき生活していく上の大きな(かて)になったと思う。



「もしこの依頼の後に予定が無いなら、お願いしたい事があるのだけど」


「護衛の依頼でしたら喜んでお受けしますよ」


「ダイ先輩、詳しい話は私たちの家でしてもらってもいいんじゃないですか? 良かったら夕食も作りますし」


「いいの!? マイちゃん」


「オーフェちゃんも喜ぶし、ヤチさんと泊まりに来てもいいわよ」


「わかったわ! 今から研究所に戻ってヤチの仕事が終わったら家に行かせてもらうわね。お母さん、また来るからね!」



 そう言うなりユリーさんは玄関から飛び出して行ってしまった。そこまで慌てなくても大丈夫なんだが、よほど麻衣の料理に飢えていたんだろう。



「ユリー様、すごい勢いで出ていかれましたね」


「きっとマイちゃんの料理が楽しみなのです」


「今夜はお魚にしましょうか」


「きっと喜んでくれうと思うよ」



 魚料理を前にしたユリーさんは少し子供っぽくなるのが可愛い。今日もまた麻衣をお嫁さんにしたいと言い始めて、ヤチさんに(いさ)められる姿が目に浮かぶな。



「ユリーちゃんは昔から男の子が苦手だったんだけど、兄さんとは普通に話をしてるね」


「そうだったんですか? ここの子供たちとは仲良くしてましたけど」


「子供相手なら大丈夫みたいだけど、同年代や大人の男の子は苦手だったね」



 最初に依頼を受けた時も、かなり俺のことを警戒している感じだったが、それは男が苦手というのも原因だったのか。俺たちとは友人に近い感じで接してくれてるけど、他の冒険者を護衛に雇っている時は、もっとそっけなかったり事務的だったりするのかもしれないな。


 そのあと施設長に、ここに居た頃のユリーさんの話を聞いたが、本人に言うのは絶対にやめよう。悶絶しながら、何処かに走り去ってしまうかもしれない。



◇◆◇



 お昼寝が終わってから、夕食の仕込みが終わるまで子供たちと過ごして、いよいよ依頼も終了になる。全員が玄関まで見送りに来てくれている。



「本当にお世話になったね、ありがとう」


「こちらこそ、うちの子供も一緒に過ごさせてもらって感謝しています」


「またいつでも来ておくれ、待ってるからね」


「はい、必ず顔を出しに来ます」



 そう言ってそれぞれ別れの挨拶を済ませる。俺に一番懐いてくれた、犬人族の男の子と兎人(とじん)族の女の子はやっぱり泣いてしまったが、抱きしめて頭を撫でてお別れをした。他のメンバーも撫でたり抱きしめたり、中には再戦を誓ってる姿も見える、そうして数日間過ごした施設から帰途についた。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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