第92話 お手伝い
第9章の開始になります。
この章で主人公は、様々な秘密の一端に触れることになります、ご期待下さい。
キリエを冒険者登録してから一緒にダンジョンに行ったり依頼を受けたりしているが、意外なほどに小さい子供を連れている事で何か言われることは無かった。
街ではあまり見ないが、小さな村だとキリエくらいの外見年齢になると、森に入って採集をしたりする子供も多いようだ。アイナやエリナも、それくらいの時期から森に入っていたらしい。
キリエが冒険者活動をしたいと言った時も、麻衣と俺が心配したくらいで、他のメンバーは特に何も言わなかったし、ヴェルンダーのギルドマスターも、キリエの能力を見て期待してくれていた。こういった常識の違いは、やはり異世界だと思ってしまった部分だ。
冒険者活動をしている時のキリエはとても元気に動き回る、普通の魔法回路は使えないので、攻撃や防御に参加はできないが、魔核やアイテムを拾いに行ったり一生懸命手伝ってくれる。空を飛べるからだろうか、人化の状態でもバランス感覚が非常に優れていて、足場の悪い森の中でも危なげなく走ったり出来る。
今は日帰りの依頼を中心に受けているが、もう暫くしたら泊りがけの活動をしても大丈夫かもしれない。
―――――・―――――・―――――
今日は王都のある場所に来ている、冒険者ギルドには捜し物やお店の手伝いに土木工事の依頼などもあるが、これも狩りや収集以外の依頼の一つだ。
門をくぐりドアをノックすると、中から歳をとった女性が現れる。その家は平屋で、広さは少し大きめのコンビニくらいだろうか、外側は所々傷んだまま放置されている。
「おはようございます、冒険者ギルドからの依頼で来ました虹の架け橋と申します」
「すまないね、こんな依頼を受けてもらって」
「パーティーメンバーには歳の近い子も居ますし、料理の上手な者も居ますので力になれると思います、よろしくお願いします」
「ギルドから話は聞いていたけど本当に小さな子が居るね。みんな、冒険者の人が来てくれたよ」
おばあさんが奥の扉に向かってそう呼びかけると、中から小さな子どもたちが次々と玄関の方に出てくる。全部で15-6人だろうか、キリエより小さい子もいるみたいだ。それに耳やしっぽの生えた子供もいて、アイナやエリナの方をじっと見つめている。
この家は事故や病気で親を亡くしてしまった子どもたちを保護している、王都にもいくつかある児童養護施設の一つだ。ここは小さい規模だが、人族と獣人族の両方を受け入れてくれている。施設長のおばあさんともう一人の職員で運営しているが、その人が怪我をしてしまった。臨時でお手伝いをしてくれる人に来てもらっていたが、数日どうしても来られないので、冒険者ギルドに一日だけでも手伝える人が居ないか依頼を出したらしい。
パーティーメンバー全員で来なくても良い依頼だが、ギルドに相談すると自主的に手伝ったり協力したりするのは問題ないとの事だった。同じような依頼の場合、他のパーティーでも数人で向かうこともあるみたいだ。何人で行っても成功報酬が上がるわけではないが、仕事内容が獣人を含めた子供の相手と調理なので、俺たち全員でやるのにちょうどいい依頼と思い受けることにした。
「お耳の長い人がいる」
「この白い犬かわいい!」
「おねえちゃんのしっぽふさふさー」
「白いお姉ちゃん、抱っこして」
「お姉ちゃんの持ってる袋の中には何が入ってるの?」
「この子の髪の毛、赤くて長くてきれー」
「黒い髪の子はそっちのお兄ちゃんの子供か?」
「ねえ、あなたいくつ?」
「このちっこいのは何だ?」
「ウミは水の中級精霊なのです」
「すげー、喋った!」
「空飛んでるぜ!」
あっという間に囲まれてしまった。イーシャは興味を示した子を抱き上げて触らせてあげているが、エルフの耳は敏感なのでくすぐったそうだ。シロも数人にもみくちゃにされているが、尻尾を振って嬉しそうにしている。アイナも同じ犬人族の子供にしっぽを触られて、俺のブラッシングのことを話しているみたいだ。エリナは小さな女の子を抱き上げていて、その子に「ふかふかだー」と言われて少し恥ずかしそうにしている。
麻衣はこの施設でも無理なく手に入るもので食事の準備をするみたいで、その材料を袋に入れて持っているが、中身が気になる子に取り囲まれている。この様な施設は寄付や募金で経営が成り立っているので、今日だけのごちそうを食べさせるのではなく、ここで使えるものを工夫して美味しい料理が作れるように、レシピを書き残してあげるらしい。
オーフェは髪の毛を褒められて嬉しいのか、その場でくるりと回ったりしている。キリエは男の子に人気があるみたいだ、俺たちの娘は可愛いから仕方がないな。カヤは同じくらいの身長の女の子に年齢を聞かれているが、どう答えたら良いのか少し困っている。ウミは空中に浮かんで喋ったり動いたりするので、こちらも子どもたちに大人気だ。
「お兄ちゃんは冒険者なんだろ?」
「そうだよ、ここにいるみんなとパーティーを組んで冒険者活動してるよ」
小さな男の子が話しかけてきたので、しゃがんでそう答える。
「俺も大きくなったら冒険者になるんだ!」
「それは凄いな、俺も応援するぞ」
「なぁ、どうやったら強い冒険者になれるんだ?」
「そうだな、自分が強くなるのも大切だけど、信頼できる仲間を見つけることかな」
「仲間か、俺も強くて可愛い子を見つけるよ!」
そこはあまり参考にならないと思うが、冒険をしていく上で仲間が大切なのは事実だし、本人のやる気に水を差す事もないだろう。
「それから一番大事な事は、決して無理をしないことだ。出来ることを少しずつ増やしていけば、自然に強くなれるから、焦らずがんばるんだぞ」
「わかった! ありがとうお兄ちゃん」
そう言って他の子どもたちの方に走っていく。そっちの方を見ると、みんなすっかり打ち解けて何をして遊ぶか相談しているみたいだ。俺も自分の出来ることをやろうと、カヤの方に近づいていく。
「カヤ、少し良いかな?」
「はい、何かご用でしょうか旦那様」
「すごい、だんなさまだって」
「2人は結婚してるのかな」
「わたし知ってる、ハーフリング族っていう人たちはこれくらいの背の高さでも大人なんだって」
「カヤちゃん大人なんだー」
年齢が高めの女の子たちが、俺とカヤのことをキラキラとした目で見ている。小さくても結婚とかに憧れるんだな、少しおませな気もするけど。
「みんなごめんな、ちょっとカヤと仕事があるから、連れて行くよ」
「私たちはあっちで遊んでくるから、終わったらお話聞かせてね」
女の子たちが別の場所に行くと、カヤは少しだけホッとしたような顔になる。背こそ低いが子供とは違う雰囲気があるので、きっと質問攻めにあっていたんだろう。
「この建物の修繕をしていんだけど、手伝ってもらえないか」
「私たちの家ではありませんので、材料加工の手伝いや修理方法をお教えすることしか出来ませんが、構いませんか?」
「それだけで十分だよ、よろしく頼むな」
2人で施設長のところに行くと、パーティーメンバーと楽しそうにしている子供たちを見て笑顔を浮かべている。キリエやオーフェが喜びそうだと受けた依頼だったが、みんな嬉しそうに子供たちと遊んでるので、全員で来てよかったと思う。
「少しいいですか?」
「あぁ、構わないよ。それとありがとうね、あんなに楽しそうにしてる子供たちを見られて私も嬉しいよ」
「俺たちの子供も楽しそうにしていますし、この依頼をお受けして良かったと思っています。それで、建物の修繕をしたいと思うんですが、構いませんか?」
「やってもらえるのはありがたいけど、依頼内容に無い事なんだが良いのかい?」
「家の修理に関しては彼女が助言してくれますので、俺たちの出来る範囲でやってみようと思います」
「それじゃあ、お言葉に甘えるよ。必要な物は裏の小屋にあるから、すまないけどよろしくお願いするよ」
修理が必要な場所を聞いた後に、カヤと一緒に小屋に行って必要な資材を選んでいく。俺たちの拠点だと、カヤの妖精の力で映画の特殊効果のように家が修繕されるが、ここではそうはいかないので俺が運んで古い部分と交換したり、新たに作り直したりしていく。それでもカヤが加工してくれる資材は、補修する場所にピッタリの形なのでかなり楽だ。
「カヤ、疲れたらすぐ言ってくれよ、無理は禁物だからな」
「はい、旦那様。でも、これは体を動かすのとあまり違いはありませんので大丈夫です」
家の外で力を行使するので、何か影響があるかと思ったが、特に問題はないみたいだ。そもそも限定的とは言え家の外で力が使えること自体が、一般的な家の妖精とは違うのかもしれない。カヤの力が上がっているのか、俺たちとの絆が深まってきているのか、どちらにせよ良い傾向だろう。
古くなって危ない部分や、立て付けが悪くなって固くなっているような所も、カヤに教えてもらったり手伝ってもらったりしながら修理していく。こうやって自分でやってみるとわかるが、家を維持メンテしていくのはかなり大変だ、カヤのありがたさを改めて認識し直した。
作業をしながら他のメンバーを見ていたが、アイナはシロや子供たちと一緒に、庭で追いかけっこやボール遊びをしている。ウミも子供たちに捕まらないように飛び回って遊んでいた。
イーシャは家の中で女の子に裁縫を教えているみたいだ、服の破れた所や痛んだ所をきれいに直していているが、端切れを使って花や動物の形に縫い直してるので、教えてもらってる子供たちも大喜びしてる。
エリナはその近くで小さい子を膝の上に乗せて、本を読んであげていた。アイナとエリナは拠点ができてから、イーシャに読み書きを習っているので、子供向けの本なら問題なく読めるまでになっている。
オーフェとキリエも子供たちと一緒に、絵の描かれたカードを使った遊びをしている。神経衰弱みたいに同じ柄のカードを集めて競っているみたいだ。
麻衣は厨房で料理中だ。普通のお店だと捨ててしまう鳥の骨をもらってきて、それでスープを作っている。時間は少しかかるが、無料で手に入る骨と、この施設にもあるハーブや香辛料で、美味しい料理にしてみせると張り切っていた。施設長も隣で作り方を教わっているが、この世界とは違う知識で作る料理なので、少し戸惑っているかもしれない。
◇◆◇
「このスープ、すごくうまい!」
「パンと一緒に食べても美味しいよ」
「お芋を焼いたのもおいしいね、こんなの食べたことない」
お昼になって麻衣の作ってくれた料理を食べているが、全員に好評だ。鶏ガラで作ったスープで豆や野菜を煮込んだものには、少しだけお肉も入っている。芋は茹でたものを潰して味をつけ、小麦粉のようなものを混ぜて固めて焼いてるのだろう、表面っはカリッとしているが中はモチモチでとても美味しい。
「うちにある材料と鳥の骨で、こんな料理ができるんだね」
「お姉ちゃんすげーな、どっかのお店で働いてるのか?」
「私、お豆はあまり好きじゃないけど、これなら食べられる」
「私もお芋は食べ飽きてたけど、これは好き」
子供たちの素直な感想に施設長は若干苦笑気味だけど、麻衣はこれ以外の料理のレシピも渡しているようなので、今後は献立も増えるに違いない。
みんながデザートの果物も食べ終えた後は、少し食休みをしてお昼寝の時間になる。冒険者活動のことを聞きに来る男の子や、カヤとの関係を聞きに来る女の子と話をしていたが、獣人の子供たちが俺の近くに集まってきた。
「みんなどうした?」
「あのね、アイナちゃんやエリナちゃんから聞いたの」
「お兄ちゃんの“ぶらっしんぐ”が気持ちいいって」
「私たちにもやってほしい」
近くに寄ってきた子供たちがそれぞれ順番に話しかけてくる。この施設の獣人は小さな男の子が一人と、あとは全員女の子のようだ。
「構わないよ、誰からする?」
靴を脱いで上がるお昼寝スペースに全員移動して、一番小さな犬人族の男の子からブラッシングを始める。精霊のカバンから予備にしまっているブラシを取り出して、アイナのより毛が短けど長さがある男の子のしっぽを、優しくブラッシングしていく。
「痛かったりくすぐったかったりはしないか?」
「だいじょうぶ、きもちいい……」
しばらくブラッシングをして毛並みが整ってきたので交代をしてもらおうとしたが、半分寝かかっているみたいで目がとろんとしている。体を支えて立ち上がらせて、頭を撫でながら横の方に移動してもらったが、そのまま俺の服を握って寝てしまった。
次に俺の前に来た子は長めの垂れた耳が付いていて、しっぽは丸に近い形をしている。たぶん兎人族の女の子だ。長さは短いがボリュームのあるしっぽをブラシで丁寧に梳いていくが、表側と裏側の毛の感じが少し違うみたいだ。表側は毛も長めだが、裏側は毛も短くてふわふわしている。
「ふわふわしていて、すごく可愛いな」
「ほんと!? とっても嬉しい」
頬を少し染めながらブラッシングを受けていたが、最初の子と同じ様にうとうとしだしたので、頭を撫でて別の子に変わってもらったが、俺の後ろに移動してもたれかかるように眠ってしまった。
そうして次々とブラッシングをして交代していったが、全員俺の近くで寝てしまうので、この一帯だけ人口密度が異常に高くなってしまっている。
周りを見るとお昼寝スペースのあちこちで他の子供たちも全員寝ていて、オーフェとキリエも眠ってしまったようだ。下手に動いて起こしてしまうと可哀想だから、このままじっとしてることにしよう。
キリエに集団生活を経験させたり、同年代の子供の友達を作ってあげたいと思い受けた依頼ですが、ここでも良い出会いが待っています。
さすがは出会い系チート(?)持ちですね(笑)