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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第90話 孫とひ孫

評価やブックマーク、感想ありがとうございます。

執筆の励みになっています。

「おとーさんとお風呂に入る」


「えっと、他のお母さんたちじゃダメなのか?」


「いつも一緒に入ってた、おとーさんがいいの」



 家に帰って夕食を食べて、順番にお風呂に入ろうか言う時にその事件は発生した。夕食の時にはカヤが作ってくれた椅子も完成していて、キリエは俺の膝の上から卒業した。などという話はどうでもいい。問題は目の前の事だ。


 確かに今まで一緒にお風呂に入っていたが、それはあくまでも竜の姿をしていたからだ。年齢的には0歳児なので何ら問題はないはずなのだが、本当に一緒にお風呂に入って良いものか悩んでしまう。しかし今日一日全くわがままを言わなかったキリエが、こうして自分の意見を譲らないのはよほどなんだろう。



「ダイ、諦めて入ってきたら良いんじゃないかしら」


「キリエちゃんがこうまで言っているんですから、一緒に入っても問題ないですよ、ダイ先輩」


「ボクはお母さんだから諦めるけど、キリエちゃんとは一緒に入るのが良いと思うよ」



 アイナやエリナやウミもうんうんと頷いていて、どうも味方は誰も居ない感じだ。それに可愛い娘の頼みだ、出来るだけ聞いてやろう。



「わかった、それじゃぁお風呂に行こう」


「やったー、シロちゃんも行くの」


「わんっ!」



 こうして3人でお風呂に行くことにした。身長も小学校に上がるかどうか位なので、妹と一緒にお風呂に入っていた頃を思い出すな。



「まずはシロを洗ってあげようか」


「わかったー」



 2人でシロの体にお湯をかけながら、まんべんなく行き渡る様に手で流れを変えながら優しく撫でてあげる。



「シロちゃん、朝は水をかけちゃってごめんね」


「わうっ」


「もう気にしてないって言ってるよ」



 シロはもう謝らなくてもいいと言うように、キリエの腕に顔をすり寄せている。シロが俺とお風呂に入っている事はキリエも知っているから、こうして朝のお詫びに綺麗にしてやりたくて、一緒に入りたいとねだったんだろう。こういった優しい気遣いができるのは、とても素晴らしいことだ。



「次はおとーさんも洗ってあげる」


「じゃぁ、お願いしようかな」



 シロを流し終えたあと、キリエが石鹸とタオルを持って俺の方に駆け寄ってきたので、背中を向けて椅子に座る。後ろから石鹸をタオルに擦りつけて泡立てている音が聞こえた後、背中が優しく撫でられていく、ちょっとくすぐったいが気持ちがいい。



「おとーさん、どう?」


「とっても気持ちがいいよ、キリエは洗うのが上手だな」


「ほんと!? キリエもっとがんばる」



 そう言いながら一生懸命俺の背中を洗ってくれる。そうして背中を丁寧に洗ってもらった後に、俺もキリエを洗ってあげる。



「お湯をかけるから、目を開けちゃダメだぞ」


「わかったー」



 頭についた泡を流すために上からお湯をかけると、泡で白くなっていた所から黒い髪の毛が姿を表してくる、キリエの髪はきめ細やかでとても綺麗だ。十分洗い流した後は2人で湯船に入った。



「キリエの髪の毛はすごく綺麗だな」


「おとーさんと同じ色でとっても嬉しい」


「この髪の毛の色の人はあまり居なかったから、俺もキリエと同じ色で嬉しいよ」



 足の上に座って俺に背中を預けてくるキリエにそう答えると、おとーさんの子供だからねと言いながら笑ってくれる。俺も色々な場所に行っているが、同じ髪の色をした人は遠目に見かけたくらいだから、この世界では本当に少ないんだろう。そんな希少な色をしたキリエが生まれてくれて、俺もかなり嬉しかったりする。


 ゆっくりと温まった後にお風呂を出て、大部屋に戻った。



◇◆◇



 キリエも初めての人化で疲れたのか早々に眠ってしまい、みんなのブラッシングを終えた後に俺たちもベッドに横になる。俺の横にはキリエが眠っていて、その隣はオーフェがいる。



「ダイ兄さん、キリエちゃんとお風呂は楽しかった?」


「俺も背中を洗ってもらったりしたけど、キリエはシロを綺麗にしてあげるのが目的だったみたいだ」


「それって朝、水をかけてしまったお詫びかしら」


「朝も謝ってたけど、お風呂でも謝っていたよ」


「……キリエ、とってもいい娘」


「そうですね、まだ小さいのにとても偉いです」


「エリナちゃんやマイちゃんの言う通りなのです、さすがウミたちの子供なのです」


「キリエちゃんは行儀もいいですし、言うことも素直に聞いて、とても生まれたばかりとは思えないいい娘ですね」



 カヤの言う通り、少し行儀が良すぎる気もするけど、これから一緒に生活していけば、我が儘や聞き分けのないところも、少しは出てくるようになるかもしれない。まだ人化して1日しか経っていないし、長い目で見てあげることも必要だろう。


 いちど詳しく知っていそうな人に相談に行きたい、もしかしたらこの先一緒に暮らしていく時のアドバイスや注意点が聞けるかもしれない。



「一度ヨークさんに相談に行こうと思うんだけど、構わないか?」


「そうね、明日にでも行ってみましょうか」


「キリエちゃんの好きな果物も採っていいか聞きたいのです」



 明日の予定も決まったし、俺たちも眠る事にしよう。




―――――・―――――・―――――




 次の日の朝、目が覚めるとキリエはやはり俺の上に移動して、気持ちよさそうに寝ていた。空いたスペースにはキリエの隣で寝ていたオーフェが移動してきていて、俺に抱きついてきている。そうして空いたスペースに次々隣が詰めてきていて、みんな寝てるのに器用に寄ってくるものだと感心してしまった。


 そんな朝の一幕もあったが、キリエが住みやすくなるように、家の中を整えたいというカヤを除いたメンバーで、エルフの里に転移してきた。



「お祖父様おはよう、いま時間いいかしら」


「イーシャじゃないか、おはよう。時間なら構わんよ、それでフォーウスの街はどうじゃった、何か困った事でもあったのか?」



 俺とイーシャの2人でヨークさんの部屋に行くと、机に座って本を読んでいるところだった。何の本かはここから確認はできないが、きっと新しい知識を得るために何かを読んでいるんだろう。



「実はフォーウスの街で家族が一人増えたのだけれど、その事で相談したいの」


「パーティーメンバーが増えたのか、どんな子じゃ?」



 そう言われたので部屋の外で待っていた他のメンバーを招き入れて、キリエを前に連れてくる。ヨークさんはキリエをじっと見て少し考えるような間の後に、もう一度じっくり見つめている。キリエも少し顔を傾けるようにしてヨークさんの方を見ている。イーシャと同じ耳の長い他のエルフ族を見るのは初めてだろうし、どういった関係か考えているのかもしれないな。



「人族とは違うし魔族でもない感じじゃな、儂の知らない種族かの」


「実は黒竜族の子供なのよ」



 自分の知らない種族に知的好奇心が刺激されたのか、ヨークさんが身を乗り出すようにして聞いてきたが、イーシャの言葉でその姿勢のまま固まってしまった。いつも落ち着いていて余裕のあるヨークさんにしては珍しい姿かもしれない。



「……イーシャ、儂の聞き間違いでなければ黒竜族と聞こえたのじゃが」


「えぇ、そうよ。キリエちゃん、少しだけ元の姿に戻ることって出来る?」


「できるよ、イーシャおかーさん」



 そう言うとキリエの体が黒い球体のようになり服が床に落ちる、その丸い形が次第に竜の姿に変わっていった。



「きゅーっ!」


「また少し成長したみたいだな。きっと好き嫌いなくよく食べてるからだ、キリエは偉いな」



 ひと鳴きして俺の胸に飛び込んできたキリエは、海で遊んだときよりも少し大きくなっているみたいだ。手足を広げて俺に甘えるように抱きついてきたキリエの頭を撫でてあげながらヨークさんを見ると、完全に固まって身動き一つしていない。


 キリエがメンバーたちに連れられて別の部屋に着替えに行ってところで、ヨークさんの硬直が解けた。



「イーシャよ、儂は確かにフォーウスには面白い依頼や場所があるとは言ったが、まさか竜族と出会うなんて思いもせなんだぞ。しかも黒竜族は竜族最強の種族じゃぞ」


「キリエちゃんは黒竜族最後の生き残りみたいよ」


「そうじゃったのか、そこまで少なくなっておったのか」


「あの、最強種族なのになぜ絶滅寸前になったのですか?」


「強すぎたからじゃよ。他の種族や竜族達に迷惑をかけないように、ひっそりと暮らしていたんじゃが、そのせいで黒竜族同士の交流も無くなってしまって、数を減らしていったようじゃ」



 同じ種族同士の交流が減って、卵を孵化させるだけの思いも集まらなくなってしまったのか。俺たちに卵を託してくれた女性も、邪悪な存在にだけはしたくないと言っていたし、強いけど優しい種族だったんだな。



「イーシャおかーさん、服を着てきたよ」


「キリエちゃんはどちらの姿も可愛いけれど、こちらの方がお話できるからいいわね」



 竜の姿になった時に脱げてしまった服を着て部屋に飛び込んできたキリエを、イーシャが抱き上げて頬ずりする。



「ねぇ、イーシャおかーさん、この人は誰なの?」


「この人は私のお祖父様よ」


「イーシャおかーさんのおじーちゃんだから、キリエのおじーちゃん?」


「そうだな、お母さんのおじいさんだから、大きなおじいさんかな」


「わかったー」



 そう言ってイーシャのもとを離れてヨークさんの方に走っていく。机の前まで近づいて、ペコリとお辞儀をした。



「おとーさんとイーシャおかーさんたちの子供のキリエです。よろしくお願いします、大きなおじーちゃん」


「こっ……、これは可愛いの。儂にもとうとうひ孫が。キリエちゃん、果物があるんじゃが食べるかな?」


「うん、食べる!」



 ちゃんと挨拶も出来てキリエは本当に偉いな。それにヨークさんがひ孫を前にして激甘おじいちゃんになってしまった、やっぱり俺たちの娘は可愛すぎる。



◇◆◇



 テーブルのある部屋に移動して、ヨークさんの出してくれた果物をみんなで食べる。やはりエルフの里で採れる果物は甘くて瑞々(みずみず)しくて美味しい。



「キリエこれ大好き! 大きなおじーちゃんありがとう」


「そうかそうか、それは良かったの。まだまだ沢山あるから、遠慮せずお代わりするんじゃぞ」



 自分の膝の上に座って果物を頬張っているキリエに、ヨークさんはとても嬉しそうに微笑んでいて、頬が緩みきっている。



「ご主人様、ヨークさんの感じがいつもと違う気がするんですが」


「私もお祖父様のあんな姿は見たことがないわ」


「……キリエが可愛いから仕方がない」


「果物を頬張るキリエちゃんは大陸一可愛いのです」


「うん、ボクもそう思うよ」


「こんな可愛いひ孫が出来たら仕方ありませんよね」


「そうだな、キリエだから仕方がない」



 その言葉に全員が納得してしまう。当の本人たちは2人ともすごく幸せそうにしているし、この理由で何の問題もないだろう。



「お義父さん、すごく賑やかですけど誰かお客さんですか?」


「あら? 皆さん帰ってたのね。それに、お父様の膝の上に乗っているのは、ダイさんとイーシャちゃんの子供かしら」



 部屋の入口からマーティスさんとミーシアさんが入ってきた、そして俺とイーシャの子供かと言い始めるミーシアさん。



「いくら何でも2人の子供にしては大きすぎると思うよ」



 ナイスツッコミですマーティスさん。とは言え、実質俺たち全員の子供なので、どちらも間違ってないですが。



「この娘はダイと私たちの子供でキリエというの」


「イーシャおかーさん、この人達は誰?」


「この2人は私のお父様とお母様よ」


「えっと、おかーさんのおとーさんとおかーさんだから、おじーちゃんとおばーちゃん?」


「そうよ、よくわかったわね。キリエのお祖父様とお祖母様よ」



 それを聞いたキリエはヨークさんの膝から降りて、マーティスさんとミーシアさんの方にトコトコ歩いていく。キリエが膝の上から居なくなったヨークさんは少し寂しそうだ。



「おとーさんとイーシャおかーさんたちの子供のキリエです。よろしくお願いします、おじーちゃん、おばーちゃん」



 ヨークさんの時と同じ様に2人に向かってペコリと頭を下げる。2人とも見た目が20代だから、いきなりおじいさんやおばあさんと言われて気分を害するかと思ったが、しゃがんで目線を合わせるとキリエの頭を撫でて嬉しそうにしている。



「さすが私たちの孫だ、礼儀正しくて可愛いね。そうだ、今日はうちでご飯を食べていきなさい。おばあちゃんの作るご飯はとても美味しいよ」


「私にも孫ができたのね、とても嬉しいわ。ご飯を食べるだけじゃなくて泊まっていってもいいのよ」



 さっきのツッコミは無かった事にされて、マーティスさんは自分たちの孫として受け入れてしまった。ミーシアさんも泊まっていくようにしきりに勧めている。これが孫の力か、一瞬で2人とも魅了された。


 色々と説明をしないといけないが、今は成り行きを見守ることしか出来ない。なにせ2人ともすごく幸せそうにしているし、頭を撫でられたキリエもとても嬉しそうだからだ。






 こうしてイーシャの家族とキリエの初顔合わせが終わったのだった。


孫やひ孫を前にすると激甘になってしまうのは仕方ありませんね(笑)


この章は次回で終了になります。

次話更新後に資料集の方を更新して、キリエのプロフィールを追加します。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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