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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編

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第87話 キリエ

資料集の方に黒髪の女性を追加しています、作中では語られていなかった事情も少しだけ書いていますので、興味があればご一読ください。

 卵を預かってから、俺たちは危険が少なそうな依頼を選んでこなしている。布をクッションにしてリュックに入れて持ち運んでいるが、強い敵との戦闘で万一の事があると、託してくれた女性に顔向けができないので、いつも以上に慎重に行動するようにしている。


 季節も火の月に入り夏本番を迎えた日、お昼を食べた後にリビングに集まってゆったりと休養日を楽しんでいると、卵を抱いて座っていたアイナが立ち上がってこちらに歩いてきた。



「ご主人様、卵が光りだしました」



 テーブルの上のクッションに倒れないように卵を置いたくれたが、確かに明るくなったり暗くなったりしている。表面もいつもより温かい。



「これは生まれる兆候かもしれないな」


「いよいよね、どんな子が生まれてくるかしら」


「ウミたちが育てたのです、きっといい子になるですよ」


「……絶対かわいい」


「光る間隔が短くなってきたよ」



 オーフェの言う通り、明るくなったり暗くなったりするスピードが上がってきた。みんなが固唾をのんで見守っていると、卵は明るくなった状態で点滅が止まり、表面に細かいヒビが入ってきたと思うと、ポロポロと崩れだし、中から黒いものが現れてくる。



「きゅー」



 小さな鳴き声とともにその目が開き、下の部分を少し残して崩れていった卵の中から、首を動かしてこちらの様子をぐるりと見ている。その目はプラチナ色でとてもきれいな瞳をしていて、体は黒くてまだ柔らかそうな皮膚で覆われている。ゲームに出てくるようなドラゴンみたいな、ゴツゴツとしたウロコは付いて無く、全体がツルッとしていて、とても綺麗だ。


 少し長い首と立派な尻尾があり、背中には小さな羽が生えている。しばらくこちらを見ていたが、後ろ足でしっかり立ち上がり、猫のように手で顔を撫でるような仕草をしている。



「きゅいっ!」



 少し強めに鳴くと、その体が空中に浮かび上がり、俺たちの周りを飛び始めた。



「かっ、可愛いです!」


「スマホがあれば動画を撮りたかった」



 アイナと麻衣が真っ先に反応した。確かにこれは動画を撮影して宝物にしたい可愛さだ。いつもは俺や麻衣の使う知らない言葉に反応するメンバーも、今は黒竜の子供に夢中で気づいていない。



「竜の子供ってすぐ飛べるのね」


「羽は動かしてまいせんね」


「ウミと同じで種族の能力を使って飛んでるですよ」



 イーシャとカヤの言葉にウミが答えてくれる。飛び上がる時も風が舞うような反動はなかったし、空中で静止することも出来るみたいだ。いずれ巨大になる体で飛ぶために、羽は方向転換や上昇と下降の補助に利用するんだろうか。



「すごいねキリエちゃん、ボクはオーフェリアって言うんだ、オーフェって呼んでね」


「きゅーい!」


「……私はエリナ」


「きゅきゅきゅー」



 オーフェとエリナが自己紹介を始めると、みんなもそれぞれ名前を告げていく。キリエは、その一人ひとりに鳴き声で答えている。



「俺の名前はダイ。キリエは俺たちの子供だ、これから家族として仲良くしていこうな」


「きゅーぅ」



 鳴き声とともに俺の肩に着地して、頭を顔にこすりつけてきた。てっきりトカゲのような皮膚かと思ったが、サラサラとしていて気持ちがいい。



「やっぱりダイ先輩に一番懐いてますね」


「さすがです、ご主人様」


「……あるじ様すごい」



 アイナとエリナがいつものように褒めてくれるが、たぶん俺が一番最後に挨拶したのが理由だと思う。キリエにはみんなが愛情を注いでいるので、誰が一番というのは無いはずだ。


 その後はみんなの膝の上に座ったり、ウミと一緒に空中を飛んだり、キリエも楽しそうに過ごしている。



◇◆◇



 今日は午後のおやつは食べずに、早めの夕食になった。キリエとベッドの上で一緒に遊びたいから、お風呂も早めに入る事にしている。


 キリエは食堂をくるくると飛び回っているが、みんなが食事を始める時にはテーブルの端に降り立って大人しく座った。ところが、ウミが食事の果物を食べ始めると、近くに寄って行ってじっと見つめている。



「キリエちゃん、これが欲しいのです?」


「きゅいっ!」



 ウミが差し出してくれた果物を食べたキリエは、美味しそうに咀嚼(そしゃく)して、またウミの手元をじっと見つめだした。



「もしかすると、エルフの里の果物が好きなのかもしれませんね」


「食べたがっているものがあったら食べさせてほしいと言ってたから、少し出してみようか」



 麻衣が厨房に入っていき、切り分けられた果物をお皿に盛って戻ってくると、キリエはそれに向かって一直線に飛んでいく。



「とても美味しそうに食べているわね」


「果物が好きな所はウミちゃん似だね」


「ウミの愛情を受けたおかげなのです」



 キリエが同じものを好きになって、ウミはとても嬉しそうにしている。麻衣の出してくれた果物のお皿をあっという間に食べてしまったので、新しく切り分けて出していたが、とうとう3皿目の果物を食べ始めた。



「……ウミより食いしん坊?」


「生まれたばかりでお腹が空いてるんでしょうか」



 エリナとアイナも、キリエを優しい目つきで見守っている。3皿目を食べ終えてお腹が一杯になったのか、満足そうにお皿の横に座っているキリエを見ながら、新しく増えた家族と初めての食事を楽しんだ。



◇◆◇



 食事の後は順番にお風呂に入っていったが、俺がシロと一緒に風呂場に向かおうとすると、キリエが飛んできて俺の肩の上に乗ってくる。



「もしかして、お風呂に行きたいのか?」


「きゅいっ!」



 生まれたばかりだけど、この世界の最強種族と呼ばれてるくらいだし、お風呂くらいなら問題ないだろう。



「じゃぁ、一緒に入ろうか」


「きゅきゅー」



 肩の上で嬉しそうな鳴き声を上げるキリエとお風呂に向かう。シロをお湯で丁寧に洗ってやり、お風呂に設置してある大きな桶の中にお湯を溜めると、その中に入って気持ちよさそうにしている。


 俺もかけ湯をして体を洗い始めるが、キリエが石鹸の付いたタオルに体を擦り付けてくるので、膝の上に乗せて洗ってやると、気持ちがいいのか体から力が抜けてベッタリとへばり付いてくる。



「キリエ、気持ちいいか?」


「きゅーい」



 羽の下に手を添えて優しく洗ったり、尻尾も丁寧に洗ってやると、器用に仰向けになってくれたので、お腹や羽の裏側も洗っていく。首や顔も洗ってお湯で流してやった後に、俺も体と髪の毛を洗い湯船に入る。


 キリエもお湯から顔だけ出して湯船に浮かんでいるが、これはウミと同じように飛行スキルを上手く使ってるんだろうな。



「キリエもお風呂は気に入ったか?」


「きゅいっ!」


「シロもお風呂が大好きだし、きれい好きなのは良いことだな」


「わうんっ!」



 3人でゆっくり温まってから体を拭いて大部屋に戻ると、みんなベッドの上で話に花を咲かせている。



「ご主人様、お風呂どうでしたか?」


「キリエも気持ちよさそうに湯船に入っていたよ」


「お風呂好きなのは私たち全員に似たわね」



 ウミの精霊魔法で乾燥と足を綺麗にしてもらったシロと一緒にベッドに登って、みんなの近くに座る。キリエは先に飛んでいって、撫でてもらったり頭を擦り寄せたりして可愛がってもらっている。



「キリエちゃんからいい匂いがしますね」


「……石鹸の匂い」


「キリエ様も洗ってあげたのですか?」


「石鹸の付いたタオルに体を擦り付けてきたから洗ってみたけど、凄く気持ちよさそうにしていた」


「きゅいー」


「キリエちゃんもきれい好きなんだね」



 オーフェもキリエに近づいて、いい匂いがすると言いながら抱き寄せている。俺の前で伏せのポーズをとっているシロをゆっくりブラッシングしながら、ゆったりとした時間を過ごす。


 半日程度触れ合っただけだが、キリエは俺たちの良い所を受け継いでいると思う。少なくとも邪悪な存在として生まれてきてはいないと確信できる。人化の能力が使えるようになるまで、どれ位の時間が必要になるのかわからないが、今の姿の時にも騒ぎにならないように注意しながら、どこかに連れて行ってあげたい。


 キリエとじゃれ合ったりしながら、いつもよりゆっくり時間をかけて3人のブラッシングをして、全員がベッドに横になる。俺の横にはキリエが丸まって寝ていて、隣で横になってるイーシャが優しくその頭を撫でている。



「竜の子供がこんなに可愛いだなんて思ってもみなかったわ」


「卵から出てきて目が合った時、思わず抱きしめたくなりましたね」


「わかるよマイちゃん、ボクも飛びつきそうになったもん」


「果物を食べるキリエ様の姿も、とても可愛らしかったです」


「果物をいっぱい食べて早く人の姿になれると良いのです、そうすればもっと遊べるのです」


「……その姿も絶対かわいい」


「人化できるようになったら、お祖父様にも紹介しましょう。喋れるようになってからの方が喜ぶと思うわ」


「ヨークさんにも聞きたいことはあるし、そうしようか」



 俺たちのこと全員を孫みたいに思ってくれているヨークさんにキリエを紹介したら、きっとひ孫扱いしてくれるに違いない。たぶん、かなり驚かれるとは思うが。






 キリエと過ごす最初の夜はこうやって更けていった。




―――――・―――――・―――――




 翌朝、いつもと違う重さに目を覚ますと、キリエが俺の胸の上に移動して丸くなっている。寝ている間に登ってきたようだ。アイナはいつものように胸元に顔をうずめて気持ちよさそうに寝ているし、イーシャも俺の腕を抱きしめて寝ている。


 身動きがとれないので、胸の上のキリエをじっと見ているが、昨日より少し大きくなっている気がする。竜の成長はそんなに早いんだろうか。もしかするとエルフの里の果物が、成長を促進させているのかもしれないな。


 考えに(ふけ)っていると、みんなも起き出してきたので感想を聞いてみたが、やっぱり昨夜より大きくなっているという意見で一致した。


 その日の朝食も果物をたくさん食べて、満足そうにしているキリエを見ていると、人化できるようになるのもそう遠くない日に思えてきた。


黒竜の子供がとうとう孵化しました。

彼らの性格上、世界に仇なす事は絶対にないですが、純粋な戦力だけなら国内最強に近づいていっていますね(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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