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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第86話 買い物

 街に戻った後に冒険者ギルドで依頼達成の報告をして、素材を買い取ってもらった。受注した時に言われた通り、依頼以上の数を全部買い取ってくれて、かなり感謝された。


 空間転移で王都の自宅に移動すると、カヤが小走りで迎えに来てくれた。



「カヤ、ただいま」


「お帰りなさいませ、旦那様、皆様」



 全員で挨拶をして、近くに来たカヤの頭を撫でながら、リビングで話があると誘い移動した。



「実は新しい家族を迎えようと思うんだ」


「パーティーメンバーを増やすのですか?」



 俺の隣りに座ってそう質問してきたカヤに、持っていたリュックから卵を取り出して机の上に置く。ほんのりと温かい黒に近い灰色の殻に、白い模様が入っている卵を見たカヤは、色々な方向から見たり触ったりして確かめている。



「見たことのない色ですが、鳥か何かの卵でしょうか、その割に大きすぎると思いますが」


「実は黒竜の卵なんだ」


「竜というのは、あの竜でしょうか?」


「たぶんカヤが考えている竜だと思うよ」


「旦那様、さすがに竜を飼うにはこの家は狭すぎると思います」



 なんかすごく冷静に返されたぞ。もっと驚かれるかと思ったが、現実的な問題点を突きつけてきた。家のことを中心に考えているからだろうか、カヤの意外な一面を見た気がする。


 その後、全員で今日のことを説明すると、カヤもこの子が健やかに優しく育つように協力すると、やる気をみなぎらせていた。



「そうですか、黒竜最後の1人になってしまうのですか」



 膝の上に卵を置いて、愛おしそうにその表面を撫でるカヤは、背は小さいが母性溢れる姿に見える。こうやってみんなが愛情を込めてあげれば、この卵から生まれる子供も優しくていい子になるだろう。



◇◆◇



 久しぶりに全員で食事をとって、お風呂も堪能してベッドの上にみんなで集まってのんびり中だ。卵はそれぞれ順番に抱きしめたり、撫でたりして可愛がってもらっている。思いが強いほど生まれるのも早くなると黒竜の女性は言っていたので、これだけみんなに可愛がってもらえれば、案外すぐ卵から出てこられるかもしれない。


 順番にブラッシングもやっていき、アイナがウトウトしだすのを合図に全員でベッドに横になる。今日はカヤが俺の隣に寝て、2人の間に卵を置いている。



「この卵から黒竜が生まれたら、旦那様や私たちの子供になるんでしょうか」


「俺がお父さんで、みんながお母さんか、それは素敵かもしれないな」



 今日はカヤの意外な一面を見たが、この子にも包容力とひたむきさが受け継がれるといいと思う。



「ボク、この歳でお母さんになるのか。ヤチ姉さんにびっくりされそうだよ」



 オーフェの誕生日は火の月の赤だからもうじき11歳だけど、地球だと小学5年生でお母さんか。色々問題になりそうだから深く考えるのはやめよう。ただ、この人懐っこさは受け継いで欲しい。



「……あるじ様と私の子供なら絶対かわいい」



 エリナ似の子供なら絶対かわいいくなるはずだ。それに美味しいものを食べたり嬉しい事があると、感情がストレートに顔に出る感受性は受け継がれると良い子に育ちそうだ。



「ウミより大きな子供になりそうですけど、飛び方なら教えてあげるのです」



 ウミに似たら、きっと甘い物が好きな子供になるに違いない。それに、この純真さは受け継がれるといいだろう。



「竜族の子供が生まれる瞬間に立ち会えるなんて夢のようね、それに私たち全員の子供なんて素敵だわ」



 イーシャの好奇心旺盛なところを受け継ぐと、毎日が刺激的で楽しく過ごせて幸せになれそうだ。



「ダイ先輩と私の子供……うふふふ」



 麻衣はいつものように、どこか別の世界に旅立ってしまったようだが、優しい所やよく気がつく所が受け継がれると良いだろう。それに、もう寝てしまったアイナの前向きさや天真爛漫な部分、シロの無邪気な部分も受け継いで欲しい。



「旦那様の、どんな種族の方に対しても優しい部分が似るといいですね」


「ちょっと望み過ぎかもしれないけど、みんなのいい所を受け継いでくれると良いな」



 その日はどんな子に育つと良いか、みんなで話しながら眠りについた。




―――――・―――――・―――――




 次の日は全員でアーキンドに転移した。カヤを朝市に連れていきたいのと、水着を購入するためだ。ある程度はイーシャがサイズ直しをしてくれるが、成長期のメンバーは新調しても良いだろうと、新たに購入する事も考えている。


 卵はリュックに入れて、水着を買う予定のない俺が背負っている。



「これが朝市ですか。お魚や貝がたくさん並んでますし、とても賑やかです」


「ここの魚介類はどれも新鮮ですから、買って帰って美味しい料理を作りましょうね」


「私もマイさんやカヤちゃんみたいに、お魚を捌けるようにいっぱい練習します」



 カヤは初めて来た場所に、珍しく興奮しているようだ。家の妖精でこの距離を移動できる者は他に存在しないだろうし、この食材の山を見て気持ちが高ぶるのもわかる。



「オーフェ様、ありがとうございます。こんな場所まで連れてきてもらえる私は幸せ者です」


「お安いご用だよ! みんなの作るお魚料理は、ボクも大好きだからね」


「……私も美味しいお魚を探す」


「私は前にマイちゃんが作ってくれた、貝の揚げ物がまた食べたいわね」



 あの貝柱みたいなフライか、あれはサイズも大きくて美味しかった。思い出すと俺も食べたくなってきたな、見つけたら買っておこう。



「麻衣、あれは貝柱のフライだったっけ?」


「そうですよ、大きな貝柱のついた貝があるので、それで作ってみたんです」


「それは私も作ってみたいです。マイ様、その貝を見つけたら買っておきましょう」



 露天をひとつひとつ見ながら、気になる魚介類や以前食べて美味しかったものを買っていく。ウミも美味しそうな果物があれば俺に話しかけてくれるので、それも買って袋に入れていく。シロは色々な匂いに興味を惹かれてるようで、あちこち鼻を鳴らしながら嗅ぎ回っているが、決して露店の商品には近寄らないのが、とても賢くて行儀がいい。


 目的の貝も見つかったので、たくさん購入したらお店の人が喜んでいた。イーシャも嬉しそうだったし、俺もあれはまた食べてみたいので楽しみだ。エリナの選んだ魚や、オーフェを見た露天のおばさんが、アーキンドの子供はみんな大好きなんだと、大きなエビみたいなものを勧めてくれたので、それも購入する。エビフライとかにすると良さそうだ。



◇◆◇



 朝市を一周りしたら、全員で雑貨屋に向かった。水着はまた当日のお楽しみと言われたので、俺は買う所を見ないようにするが、手をつないでのんびり街を歩くのも背中の卵に味あわせてあげたいので、一緒に移動している。



「ご主人様、カヤちゃんの水着の色は何がいいでしょう?」



 そう言えば去年はそれぞれのイメージカラーみたいなものを言ったな。アイナが赤で、イーシャが緑、麻衣に白を告げたら拒否されたっけ、でも白はエリナが着てくれた。ウミは青の水着をイーシャに作ってもらったんだったな。



「今日みたいに出かける時に着ている水色の服もよく似合ってるけど、黄色か茶色もいいんじゃないかと思うよ」



 家の妖精だから、何となく木の色っぽいイメージが俺の中に湧いてくる。家にある古い家具も飴色で綺麗だから、それを丁寧に掃除しているカヤの姿と重なって、似合いそうな色に思える。



「……あるじ様、私は?」


「エリナは白で決まりだな、去年見た時もとても似合ってた」


「じゃぁ、ボクはどうかな」


「オーフェは髪の毛が赤くて綺麗だから、濃いめの色はどうだろう。黒とか紺色とかが合いそうだ」



 思いつくままに意見を出してみたが、みんなはどんなものにしようか相談しながら歩いている。俺の手を握って歩いているカヤは水着を知らなかったみたいだが、これから向かう雑貨屋が楽しみなのか、いつもよりウキウキと足取りが軽い気がする。



「それじゃぁ、俺はシロとウミを連れて海岸に行ってるよ」


「わかったわ、後で私たちもそちらに行くから合流しましょう」


「ダイ兄さん、ボクの水着も楽しみにしておいてね」


「どんなのを選ぶが、当日の楽しみにしてるよ。来月はオーフェの誕生日もあるから、海に行ってお祝いもしような」



 雑貨屋の前で別れて、シロと頭の上にいるウミを連れて海岸に歩いていく。いま向かっている海岸は富裕層が利用している別荘が多くて、あまり一般の人が泳ぎに来ず空いているので、もしこの夏の間にキリエが生まれたら、一緒に連れてきてやっても騒ぎになりにくいかもしれない。



◇◆◇



 海岸に来たが、やはり人は少ない。シロは寄せては返す波に興味があるようで、波打ち際に行って迫ってくる波から逃げたり追いかけたりしている。



「ダイくん、卵はウミが見てますからシロちゃんと遊んできてもいいのです」


「ありがとう、ちょっと行ってくるよ」



 卵をリュックから取り出して砂浜の上にそっと立てて、その横にウミが降り立った。背の高さがほとんど同じなので、並ぶと遠近法を使って撮影したトリック写真みたいな感じになる。



「シロ、競争しようか」


「わんっ!」



 すっかり体も大きくなって、うちのメンバーの中では一番足の速くなったシロと一緒に砂浜を走る。俺もこの世界に来てだいぶ体力もついたし、体の使い方も以前より良くなってるが、全く勝負にならずどんどん距離を開けられていく。


 遥かに先の方に行ってしまったシロが、こちらを見てひと吠えすると、また猛ダッシュで戻ってくる。追いかけていた俺と合流して、今度はペースを合わせて走ってくれる。



「シロは本当に速くなったな」


「わぅ!」



 横に並んでしっぽを振りながら並走するシロと、海岸をぐるっとまわってウミの所に帰ってきた。俺のペースに合わせたシロにとってはあまり負担になっていないのか、息もそんなに荒れていないが、俺の方は荒い息が口から漏れている。



「はぁ、はぁ……、俺はもうダメだ、構わず先に行ってくれ」


「わうー?」


「ダイくん何を言ってるのです?」



 何となく映画のセリフっぽく言ってみたが、2人には理解してもらえなかった。



「今度はウミが遊んできたらいいよ、シロに乗せてもらうと凄く速いぞ」


「シロちゃん、構わないです?」


「わうんっ!」



 近寄ってきたシロの背中にウミが乗って、そのまま猛ダッシュで走り出した。障害物のない広い場所を思いっきり走れる機会はあまりないから、シロもとても楽しそうだ。



「シロちゃんとっても速いのですー」


「わうっ!」



 ウミの声が尾を引くように、目の前を通り過ぎていく。その姿を胡座(あぐら)をかいた足の上に卵を乗せて、表面を撫でながら見守る。何となく卵からも楽しそうな感じが伝わってくるのは気のせいだろうか。



「シロもウミちゃんも楽しそうね」



 後ろを振り返ると、イーシャを先頭にして水着を買いに行っていたメンバーが戻ってきている。



「おかえりみんな」


「おまたせしました、旦那様」


「シロもウミちゃんも楽しそうです、私も走りに行ってきます」


「……私も行く」


「ボクも行くよ」



 前衛組は砂浜を走るシロのもとに駆け出していった。抱きたいという麻衣に卵を渡して、俺の隣にイーシャとカヤが座る。



「どうだった、いい水着は見つかったか?」


「はい、皆様に選んでいただいて買うことが出来ました」


「それは良かったな、当日楽しみにしてるよ」


「少し恥ずかしいですが、旦那様にも見ていただきたいです」


「よく似合って可愛かったわよ」



 普段はゆったりとした服が多いカヤが、水着を着るとどんな感じになるか楽しみだな。



「他のみんなも水着は新調したのか?」



 俺がそういった瞬間に、イーシャと麻衣の雰囲気が一変した。何か触れてはいけない話題を言ってしまったのだろうか。



「……まさかアイナちゃんに追いつかれるなんて」


「ふふふ、私なんて去年の水着でも大丈夫だったわ」


「エリナ様は去年の水着を、だいぶ窮屈そうに着てらっしゃいましたね」



 あぁ、しまった、そうか2人とも成長してたのか。麻衣も去年より身長は伸びてると思うが、同じ様な身長差のまま成長してるアイナの方が大きくなった部分があるんだな。しかし、エリナは更にまろやかさが増しているって事か、このまま成長していくと少し恐ろしい。


 イーシャは、まぁ、エルフだし、今の外見年齢くらいの時期が一番長いんだから、気長に構えて欲しい。全く慰めになりそうもないので口には出せないが。


 それより、あまり負の感情を溢れさせると、卵に悪影響が出そうだから、そろそろ元に戻って下さい。






 砂浜を思う存分走って満足したシロたちが帰ってきたので、その日は王都の家に戻ることにした。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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