表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
87/176

第85話 岩山

評価やブックマークありがとうございます。

 翌日、冒険者ギルドに行って依頼が張られたボードを見ている。ヨークさんの言った通り、遺跡の調査や探索の依頼も多い。ただ、失敗してもペナルティーが無い代わりに、成果が出ないと報酬も支払われないものが多く、少しハイリスク・ハイリターンすぎる。


 他に定番の収集系もあるが、やはり調査や探索に比べると報酬は低い。



「ご主人様、何か出来そうな依頼はありますか?」


「何かを探して見つけたり、新しい発見があったりすると報酬がもらえるのは多いけど、今日一日で出来そうもないな」


「……あまり他の人がやらない収集とか無い?」



 エリナに言われてボードに張られた依頼表を見るが、初心者向けのものが多く、俺たちが受注してしまうと駆け出し冒険者の仕事を奪ってしまいそうだ。



「ねぇダイ兄さん、これとかどうかな」



 背の低いオーフェが、下の方に貼ってあった依頼表を見つけて、みんなに見せてくれる。



「これは報酬額もけっこう高いですね」


「本当だな、山を登った所にある素材の収集だけど、場所の割に報酬が高い気がするな」


「ダイくん、この場所には飛行型の魔物が多いので注意が必要と書いてるのです」


「ほんとね、下の方に小さく書いているわ」



 飛行型の魔物は剣も届かないし、魔法も当たりにくいし、何かしらの対策や有効なスキルが無い冒険者にとっては鬼門だからな。



「イーシャさんの弓があれば何とかなりませんか?」


「……あれなら当たりそう」


「これはボクたち向けかもしれないよ」



 俺のストーンバレットの杖も使えるかもしれないし、今の実力ならワイバーン以上の魔物が出ない限り行けそうな気がする。難易度もシルバーランクで受けられる依頼だし、手に負えない魔物が出る可能性は低いだろう。



「この街での最初の依頼はこれにしようか」


「わうっ」



 シロもやる気十分みたいなので、依頼の受注手続きに受け付けに向かう。受付嬢に差し出すと、とても喜んでくれて、依頼に出ている量以上の素材も買い取ってくれると約束してくれた。帰りはオーフェの空間転移で街まで戻ってこれるし、山の奥の方まで行っても良いかもしれない。



◇◆◇



 目的の山は木や草のあまり生えていない岩山だ。谷底のような場所にある道や、山肌を回り込むように作られた道があって、地上に出る魔物はあまり居ない。依頼表の説明にもあった通り、出てくるのはほぼ飛行型で、遠くの方にも空を飛んでいる黒い影が見える。


 ストーンバレットの杖は、弾を発射する時に大きな音がして、辺りに響き渡るので使うのをやめている。広域スタン魔法で地上に落として前衛組に倒してもらったり、イーシャの自動追尾の矢で倒したり、麻衣の濃霧に突っ込んだ魔物が方向を見失って崖に激突して気絶したり、俺たちの戦力とこの依頼の相性は非常に良かった。



「オーフェのおかげで良い依頼が見つかったな」


「えへへ~、ボク偉い?」



 俺の近くに来て見上げてくるオーフェの頭を撫でてやると、嬉しそうに抱きついてくる。麻衣の回復力強化のパーティースキルのおかげで山登りも楽になっているし、このペースなら相当奥の方まで探索できそうだ。



「イーシャさん、素材の生えている場所ってもう少し上ですか?」


「そうね、山の中腹から少し上の地帯に生育しているみたいよ」


「……この調子ならすぐ着きそう」


「採集を始める前にお昼にしちゃいましょうか」


「賛成なのです」


「わうっ!」



 だいぶ上の方に登ってきたが、山頂はまだまだ遠い。しばらく歩いていると広場のようになっていて、地上が見える眺めの良い場所に出たので、そこでお昼ご飯にする。


 高い所の怖い麻衣は広場の一番端に座っているが、眺め自体は楽しめるみたいだ。今の宿には厨房がないので作り置きが中心だが、いつものように美味しそうな料理が並べられていく。



「天気もいいし下の方もよく見えるし、こんな所で食べる食事もいいね」


「高いからちょっと怖いけど、眺めはいいですね」


「……街が小さく見える」


「あの下の方に見えるのが、私たちの抜けてきた森ですか?」


「そうよ、あの大きな森の中にエルフの里があるのよ」



 眼下には見渡す限り緑色をした景色が広がっている、あれが西の大森林と呼ばれる森だろうが、あの中を迷わず進めるエルフの能力はすごい。森の周囲を迂回するように整備された街道や、フォーウスの街も一望できる。



「ウミもこんな高いところまで飛ぶ事はないのです」


「飛ぼうと思ったらもっと高く飛べるんだよな?」


「頑張ればどこまでも高く飛べますですよ、でも甘い物が無いのに行っても仕方がないのです」



 そうだよな、ウミの行動基準は甘い物だった。俺が見た限りでは、この世界の高い山は全て岩山だった、木の実や果物が生えていないような場所に、わざわざ行く理由はないな。



「高い場所にしかない甘い物があったらウミちゃんは行くのかしら」


「興味はあるのですが1人は嫌なのです、みんなと一緒なら行くのです」


「ヨークおじいさんにそんな場所がないか聞いて、あったらみんなで行ってみようよ」


「危険な所でなかったら行ってみたいのです、でも今のウミの居場所はダイくんの頭の上とマイちゃんのお菓子のある場所なので、無理はしなくていいのですよ」



 麻衣のお菓子は当然だと思ってたけど、俺の頭の上もそんなに気に入ってくれてたのか。出会った頃からずっと定位置にしていて、今ではそこに居るのが当たり前のように感じていたけど、自分の居場所として大切に思ってくれているのは嬉しい。



◇◆◇



 お昼を食べて少し登っていくと、目的の素材が生育している地帯に到着した。買い取りを保証してくれているので、次々採集して別の場所へと進んでいく。だいぶ奥の方まで進んできたが、素材も順調に集まっている。


 みんなで雑談したり、飛んでくる魔物を倒していると、シロとアイナが急に立ち止まって気配を探り出す。正確な場所がわからないのか、普通とは異なる気配なのか、2人とも立ち止まって辺りをキョロキョロと見ている。



「なにか感じるのか?」


「はい、人でも魔物でも動物でも無い気配なんですが、少しおかしいんです」


「わぅ」



 以前感じた魔族の気配だろうかと少し緊張する。ストーンバレットの杖を取り出そうかとも考えたが、アイナも怯えていないし、シロも不思議そうにはしているが警戒はしていない。



「アイナちゃん、魔族とも違うのかしら?」


「あの時みたいに怖い感じはないです。大きな気配には違いないのですが、それが強くなったり弱くなったりして、何かの合図みたいなんです」


「ボクたちを呼んでるとか?」


「こんな山の中で誰かを待っているって何者なんでしょう」



 麻衣の言う通り、この山の中でいつ来るかわからない誰かを待つなんて、普通に考えるとありえない。ただ、山の中で採掘中に怪我をして動けなくなった、ノーム族のルーイさんのような人も居るので、岩山に暮らす種族が居て困っている可能性はある。



「イーシャ、山の中で暮らしている種族ってあるのか?」


「前に出会ったノーム族とかは山に居ることが多いけれど、それ以外はちょっと思い当たらないわね」


「……あるじ様、困ってるなら人がいるなら助けてあげたい」



 この辺りは冒険者もあまり来ないだろうし、俺たちがここで引き返してしまうと、次に誰かに会える機会はほとんど無いだろう。



「誰か困ってるかもしれないし、慎重に近づいてみよう。アイナとシロは敵意を感じたらすぐ教えてくれ」


「わかりました、ご主人様」


「わんっ!」



 アイナとシロの先導で気配のする方に慎重に進んでいくと、視線の先に洞窟が見えてきた。辺りには何もなく、岩肌にポッカリと穴が空いているだけで、奥の方は暗くてよく見えない。


 洞窟がはっきりと見える距離まで近づくと、中から人影が浮かび上がるように現れた。その人影は真っ黒の長い髪の女性で、両手で卵のような形のものを抱えている。暗闇から浮かび上がるように見えた理由は、髪も黒だし着ている服も黒いからだろう。


 抱えている卵は黒に近い灰色で、真っ白の模様がついていて、以前テレビで見たダチョウの卵の倍くらいはあるだろうか、片手で持つのが難しいくらい大きい。



「アイナ、シロ、あの女性の気配なのか?」


「そうです、とても大きいですが穏やかな気配です」


「わう!」


「……危ない感じはしない」



 気配に敏感な4人とも警戒はしておらず、女性も卵を抱えていて襲ってくるような兆候はない。卵の事をとても大切に扱っている感じだ。



(わらわ)の気に答えてくれる者がやっと見つかった」


「あなたは一体……」



 女性は微笑みながらゆっくりとこちらに近づいてくるが、その笑みはとても儚くて、地下で出会ったカヤの様な感じがする。



「獣人族に、エルフ族、精霊族と白狼までおるな、それに魔族もおるのか」


「ダイ兄さん、この人もひと目でボクのことわかっちゃったよ」



 オーフェが驚いて俺の顔を見上げてくる。この女性はヨークさんよりも、はっきり確信しているような言い方で魔族だと見破った。



「妖精との繋がりも見えるし、そこな人族の2人はこの世界の者ではないな」


「なっ……!?」


「うそっ……」



 俺と麻衣はびっくりして固まってしまう。俺の髪の色は珍しいが、そこから異世界人と結びつけることは不可能のはずだ。それに麻衣のことも異世界人だと見抜いているし、更にここに居ないカヤとの繋がりも見えるという。この女性は俺たちより遥かに高位の存在なんじゃないだろうかと思い当たって少し恐ろしくなる。



「あなた、この2人の事もわかるなんて一体何者なのかしら?」


「すまぬ、驚かせるつもりはなかったのだ。妾は黒竜族の生き残り、消えゆく身ゆえ名は聞かないでくれ」



 竜族と言えばこの世界最強の種族だと聞いたことがある、寿命もエルフより遥かに長いし、そんな存在だから俺たちの事も異世界人だとわかってしまったのだろうか。



「消えゆく身って一体どういうことなんですか?」


「妾は長く生き過ぎた(ゆえ)もう寿命での、その前にこの子を誰かに託したかったのだが、誰でも良いというわけではなくてな、気配に気づいてくれる者を待っておったのだ」


「あの強くなったり弱くなったり感じた気配が、あなただったんですか?」


「そなたが気づいてくれたのか、あれは特殊な気の使い方で邪悪を遠ざける効果があるのだ」



 見た感じは30代くらいにも見える少し影のある女性だが、寿命が近いと言っている。病気なら何か力になってあげたいが、老衰を止める(すべ)は残念ながら無いだろう。



「あなたの気配に気づくことが出来る者でないといけない理由ってなんでしょう?」


「竜の子供は誰かの思いを受けて生まれる事が出来るのだ、しかし我ら黒竜族は妾1人になってしまった。このままでは、この子が生を受けることが出来ぬ。だが邪悪な心を持つものには渡せぬので、気を使って純粋な思いを持っている者に託そうと思ったのだ」


「……邪悪な人に渡すとどうなるの?」


「子供がその思いを受けて邪悪な存在になってしまう、その様な竜は世界の災いになってしまう故、どうしても避けねばならん」


「他の竜族には託せないのかしら?」


「竜は縄張り意識が強くてな、自分たちの領域に他の竜種が居ると心の負荷が大きくなってしまう。生まれる前の卵をその様な環境で育てると、悪影響が出かねんのだよ」



 だから他の種族に託そうとしたのか。でも、誰でも良いわけではないから、こうして邪悪を遠ざける気配に気づいてくれるのを待ち続けていた。長寿種の竜らしい気の長い話かもしれないが、こんな場所でひとり、来るともしれない誰かを待っているのは、寂しいことだと思う。



「私やダイ先輩はこの世界の人間とは違いますが大丈夫なんですか?」


「そなた達は様々な種族が手を取り合って信頼関係が出来ておる、それに妖精や白狼にまで信頼されておるなら、この子もその思いを受け継いでくれるはずだ」


「ウミもダイくんなら大丈夫だと思うのです」



 ウミもそう言ってくれるが、竜の卵を預かって孵化させるって大丈夫だろうか。そもそも竜って、その存在がほとんど知られていないはずだから、街なかを連れて歩くと大騒ぎになってしまいそうだ。



「あの、この子もあなたのように人の姿になれますか?」


「生まれてすぐは無理だが、しばらくすれば人化の能力が使えるようになる。我らもこの姿で居るほうが色々と都合が良いのでな」



 竜はかなりの巨体になるはずだから、動くだけでも大変なんだろう。この子も人の姿になれるのなら、王都の家に連れて帰っても問題ない。とりあえず全員の意見を聞いてみよう。



「みんなはどう思う?」


「このまま生まれることが出来ないなんて可哀想ですし、連れて帰ってあげましょう、ご主人様」


「そうね、竜族なんて貴重な種族が絶滅するのは私も悲しいわ」


「ウミの気持ちもいっぱいこの子にあげるのです」


「食べ物の事とか聞いておかないとダメですね」


「……私もお世話する」


「竜とお友達になれるなんてボクとても嬉しいよ」


「わうっ!」


「俺もこの人の願いは聞いてあげたいし、みんなの家族にしてあげようか」



 全員の意見もまとまった、カヤは事後承諾になるが反対はしないだろう。正直、少し不安はあるが、俺たち家族の思いを受け取ってくれれば大丈夫な気がする。



「そなた達、本当にありがとう。その子が生まれたら“キリエ”と名付けて欲しい、それが妾の最後の願いだ」



 そう言って頭を下げて、俺に卵を渡してくれる。見た目より軽い感じがするが、少し暖かくて生きているのが伝わってくる。精霊のカバンからリュックを取り出して、その中に入れて背中に背負うことにした。


 女性から卵の扱い方や食事のことを聞いたが、かなり丈夫なので落としたりぶつけたりした程度は大丈夫だそうだ。その代りなるべく一緒に連れて行動してほしいと言われた。食べ物は基本的に必要ないが、食べたがっているものがあれば食べさせてあげて欲しいとのことだ。



「あなたはこれからどうするんですか?」


「妾は仲間の(もと)(かえ)る事にするよ。最後にそなた達のように様々な種族が手を取り合っている者に出会えて良かった、長く生きてきたがこれほど嬉しかった事はない」



 満足そうな笑みを浮かべて、女性は洞窟の中に戻っていった。恐らく他の仲間達が眠る場所に行くんだろう。最後に見せてくれた顔は、悔いを残すことなく旅立っていける表情だったと思う。預かった卵から子供が生まれても、黒竜族最後の1人になってしまうのは寂しい事ではあるが、もしかするとまだ知られていない場所や大陸に生き残りがいるかも知れない。希望だけは捨てずに持っておくようにしよう。






 俺たちは全員で洞窟に向かって黙祷を捧げて、街に戻ることにした。


ファンタジー世界お約束の存在、ドラゴンがとうとう登場しました。


この世界の竜族は総じて温厚で穏やかな性格のため、人に災いをもたらしたり他の竜種と争いになる事はありません。ただ自分たちの生活圏を大切にしているので、そこに他の竜種が住み着くとストレスでお肌(ウロコ)が荒れたり睡眠障害を起こしたりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ