表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
86/176

第84話 フォーウスの街

「では、気をつけて行ってくるんじゃぞ、土産話を楽しみにしとるからの」


「あまり無理はしないようにな」


「また遊びに来てね」


「なにか面白いものを見つけたら持ってきますので、また色々と教えてください」



 翌朝、イーシャの家族に見送られてエルフの里を出発する、フォーウスの街へも森を突っ切っていくと早く着くらしい。ヨークさんが少し待つように言って家の中に入っていったので、家の玄関に集まってこの先の行程を話している。


 この大陸は“大森林”と呼ばれるものがいくつかあり、それが都市間を分断しているので、街道を使うと大回りになり時間もかかる。イーシャの生まれたこのエルフの里も、“西の大森林”と呼ばれる中に存在する。


 普通の冒険者だと森林の中を移動しようとして、道に迷ったり危険な場所に入り込んでしまったりするが、エルフのイーシャが居るおかげで、目的地に向けて一直線に進めるし、危険な場所も回避してくれる。道が獣道みたいな感じで整備されていないので、歩き辛いという欠点はあるが、移動距離が大幅に減ることを考えると、少しペースが落ちるくらいは全く問題にならない。



「イーシャ、これをお前にやろう」



 家の中から戻ってきたヨークさんは、イーシャに1本の弓を手渡した。かなり使い込まれていて古い弓だが、普通の弓とは明らかに雰囲気が違う。木で出来ている本体の部分は、古い木製の家具のような輝きを放っているし、全体からオーラのようなものが出ている感じがする。弓の良し悪しはわからないが、相当すごい品であることは間違いないだろう。



「この弓は凄いのです、周りに風の下級精霊が集まっているですよ」


「やはりウミさんにはひと目で分かるの」


「これはお祖父様が一番大切にしていた武器じゃない、貰ってしまってもいいの?」


「これは風の加護を受けた弓じゃ、風の精霊に愛されているお前になら十分使いこなすことが出来る。儂の命を救ってくれたお礼と、誕生日の贈り物として受け取ってくれ。そして、これでみんなの事を守ってやるんじゃぞ」


「わかったわ、お祖父様」



 イーシャは弓を胸元に抱き寄せて、愛おしそうに撫でている。風の精霊の声が聞こえるイーシャなので、弓もなにか語りかけているのかもしれない。


 この弓を使うと、放たれた矢に必中効果が付くらしい。風の下級精霊が矢の軌道を変えてくれるので、障害物の奥にいる敵にも当たるし、動いていても追尾してくれるみたいだ。更に飛距離も大幅に伸びるので、空中を飛ぶ敵の狙撃も楽になる。まさにゲームに出てくるようなアーティファクト(秘宝)級や、レジェンド(伝説)級の武器じゃないだろうか。



「こんな貴重な武器をありがとうございます」


「儂はもう、この武器が必要な場所には冒険に出られんからの。それにイーシャが経験を積めば、いずれ渡そうと思っておったんじゃ。お主達と出会ったお陰じゃろう、今のイーシャにならこの弓も答えてくれるはずじゃ」


「ありがとう、お祖父様。私にも弓の声が聞こえる、これでみんなの事を守ってみせるわ」



 矢も大量にもらって精霊のカバンにしまうと、イーシャの家族に行ってきますの挨拶をして里の外へと向かう。思わぬ贈り物を受け取ったイーシャはとても機嫌がよく、ニコニコしながらみんなと貰った武器のことを話している。


 ヨークさんの話す冒険譚の中にも、この弓のことは度々話題になっていて、ずっと憧れていたらしい。いずれ自分でも同じような武器を持ちたいと、幼い頃から弓の練習を欠かさなかったおかげで、かなりの腕前になる事ができた。魔法の形状に矢を選んだのも、それをイメージしやすく命中精度が上がるからだそうだ。



◇◆◇



 門番の男性エルフに挨拶をして、里を守っている柵の外に出る。里の周りは魔物も発生しないので、しばらくは気を張らずに進んでいくことが出来る。



「里の近くは果物も多いから、少し採りながら進みましょうか」


「それは大賛成なのです」


「勝手に採ってもいいんでしょうか?」


「大丈夫よマイちゃん。お祖父様にも断っているし、私たちの食べる分だけなら何も言われないわ」



 エルフの里で食べた果物はどれも甘くてジューシーで美味しかったので、それが補充できるのはありがたい。麻衣の作るお菓子も今までとは違う味わいになるし、ウミも大喜びしている。



「街の近くの森だと見たことない実もありますね」


「熟してないと酸っぱいのもあるから、採る前に私に聞いてちょうだい」


「……わかった」


「一番おいしそうなのを探すよー」


「わうん!」



 この辺りの森は里の人もよく入っているので歩きやすく、のんびり辺りを見ながらでも危険はない。みんなも周囲に視線を走らせながら、森の中を進んでいく。



「イーシャ、これなんか真っ赤で美味しそうだけどどうだ?」


「それはとても渋い実なの、干して乾燥させると甘くて美味しくなるけれど、いま採るのはやめておきましょう」



 俺たちの世界にあった干し柿みたいなものだろうか、麻衣なら作り方を知ってそうだけど、他にもすぐ食べられる果物が多いしやめておこう。



「イーシャちゃん、これなんかどうなのです?」


「それはとても甘くて果汁も多いから美味しいわよ」


「……イーシャ、これは?」


「噛むとさくさくとした歯ごたえで美味しいわ」



 みんながイーシャに聞きながら果物を集めていくが、俺の目に留まる物はどれもあまり美味しくないようだ。りんごのように赤い実や、ブドウのような果物を見つけては尋ねているが、どれもハズレばかりでほとんど採れていない。俺には果物採集のセンスが無いのかもしれないと少し落ち込んだ。



◇◆◇



「いっぱい集まったね」


「これでしばらく果物には困らないのです」


「美味しいお菓子もたくさん作りますね」


「私も簡単なお菓子に挑戦してみたいです」


「……アイナの作るお菓子も楽しみ」



 魔物が発生しないエルフの里の結界領域の端まで進んだが、結構な量の果物を採ることが出来た。麻衣やアイナはお菓子作りに意欲を燃やしているし、ウミも満足そうな顔で俺の頭の上に戻ってきた。イーシャも嬉しそうな顔でみんなを見ているし、俺も珍しい果物を1つ発見できたのが嬉しかった。



「ここから先は魔物も出るから慎重に進もう」


「索敵は任せてください」


「わんっ!」



 そこからはいつものようにアイナとシロの索敵で進んでいくが、イーシャの使う弓が凄いの一言に尽きた。障害物の奥にいる敵でも、針の穴を通すように矢が進んでいき命中する。死角に居てもカーブを描くように横から回り込んで当たるので、森のような場所だとまさに無敵だ。


 矢が風を(まと)っているからだろう、威力も上がっているようで、一撃で魔物が青い光になって消えていく。それに精霊魔法と違い、弓に宿っている下級精霊が自主的に協力してくれるので、使いすぎて嫌われる事も無いそうだ。



「さすがヨークさんの使っていた武器だな」


「飛んでいる矢が曲がって進むってすごく不思議な光景だよね」


「どこに居ても必ず当たるのがすごいです」


「魔法と違って連射がし辛いのと、矢の残数に気をつけないといけないけれど、狙った敵に必ず当たるのは素晴らしいわね」



 イーシャも憧れだった武器を使うことが出来て、とても嬉しそうにしている。万能というわけではないが、地形や敵の数に合わせて使う武器を選択すれば、大きな力になるのは間違いない。これで森の中の移動も前衛の負担が減って、かなり楽になるはずだ。




―――――・―――――・―――――




 俺のストーンバレットの杖や麻衣の濃霧の杖、イーシャの風の弓と新しい武器を使いながら森の中を進んでいき、それぞれの扱いにもだいぶ慣れてきた頃に、フォーウスの街に到着した。街の規模は俺たちが最初に行ったファースタと同じくらいだろうか、歩く人たちは冒険者が多くギルドも結構賑わっている。


 ここで宿を紹介してもらって、街を観光して一泊しようと思う。明日はギルドで依頼を探して適当なものがあれば受注し、それが終わったら一度王都の家に戻る予定だ。


 獣人と一緒に宿泊でき、衛生的な宿と勧めてもらった【朝の山頂】に来ている。受付にはおばあさんが座っていて、少し眠そうな目でこちらを見ている。エルフや精霊が居る俺たちのパーティーだが、おばあさんの表情に変化はない、もしかしたら慣れているんだろうか。



「今日は休憩かい、それとも宿泊かい」


「宿泊でお願いします。1人は精霊なんですが全部で7人、あと狼が居ます」



 ウミが俺の頭からカウンターの上に降り立つが、おばあさんは特に驚いた様子もなく、じっと見つめるだけだ。精霊を見ても驚かない人は少ないので、なかなか新鮮な光景だ。



「水の中級精霊のウミなのです」


「わうん」


「両方ともちっこいし、そっちの白いのも行儀が良くて大人しそうだから、6人分で構わないよ」



 飛んだり喋ったりする姿を見ても全く動じずに、おばあさんは料金を告げてくれるたので、それを支払って部屋の鍵を受ける。案の定、休憩も聞かれたが、この手の宿はウミやシロのことで追加料金も取らないし、総じてサービスがいい。水や明かりも他の宿と同じシステムだ。


 渡されたカギ番号の部屋に入ると、やはり大きなベッドが一つだけ置いてあった。この点はもう、この世界の宿のお約束として受け入れることにした。



◇◆◇



 宿を一度出て街の中を散策しているが、冒険者が多い街だけあって雑貨屋や武器防具の店が充実している。酒場も多い半面、屋台は少なめだ。



「ねぇ、見たことない料理があったら買ってみてもいいかな?」


「味の参考にもなるから、見つけたら買っておいてね」


「お肉の屋台が多いですね」


「……お魚は売ってない」


「ここは海から遠いから、あまり出回らないのね」



 お肉の好きなアイナとイーシャは嬉しそうだが、魚が好きなエリナは少し残念そうだ。オーフェは一通り見て回るみたいで、迷子にならないように繋いでいる俺の手を引っ張って歩いていく。シロもそんなオーフェの側を付いてきてサポートしてくれている。



「ダイくん、見たことのない果物が売ってるのです」


「おっ、ほんとだな。買ってみよう」



 ちょっと形はいびつだが、赤紫色の果物があったのでいくつか購入する。お店の人によると、真ん中に大きな種が入っているので、中心にぐるっと切れ込みを入れて半分に割って食べるといいらしい。


 オーフェの見つけたミンチにした肉と豆を使った料理や、アイナや麻衣が見つけた他の街とは違う香辛料やタレを使った料理を買い込んで、今日の夕食にする。


 その後は街をぐるっと回って、オーフェに覚えてもらったので、これでフォーウスにはいつでも来られるようになった。


 宿屋に戻って水とランプの油を購入して部屋に戻る。自前の水を使ってもいいが、ウミやシロの事でサービスしてくれる宿の売上にはなるべく貢献したいので、出来るだけ購入して洗濯などに使うことにしている。


 やはり地域独自の味付けがあるのか、ここの屋台で売っているものも他の街にはない味がする。麻衣も今度は食料品店に行って、香辛料や調味料を見たいと言っている。何度も足は運ぶ予定なので、ゆっくり観光だけする日を作るのもいいな。


 ウミの見つけた果物は、少し酸味があるが後味がとても甘く感じられる不思議な味で、小さなスプーンで一生懸命食べている姿がとても可愛かった。






 明日はギルドに依頼を探しに行くが、面白そうなものが見つかる事を祈ろう。


この投稿の後に資料集の更新もしています。

宿屋の名前と、ページの最後の部分に、この世界の暦を追記しました。


物語の最初の方で説明したきりだったのですが、作中で語られる一ヶ月が地球では約二ヶ月に相当するため、混乱を防ぐため記載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ