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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第81話 イーシャの家族の訪問

 次の日、おじいさんの家には朝から里の人が大勢訪ねてきた、病気が治ったと話が広まって様子を見に来てくれたみたいだ。俺たちも口々にお礼を言ってくれ、ウミは拝まれるし、シロの前にはお供え物が積まれている。



「わうーん……」


「ははは、まぁみんな感謝してくれてるし、素直に受け取っておこう」



 行儀よくお座りして訪ねてくれた人を出迎えているシロだが、目の前に積まれたお供えには少し困っているみたいだ。エルフの子供はシロを見て撫でたり抱きしめたりしてくれるが、それを他の大人たちがハラハラとした目で見ている。シロも尻尾を振って喜んでるし、失礼にはならないから大丈夫です。



「シロ、これは凄いわね」


「わふーん」


「ウミもいっぱい拝まれて困ってしまったのです」



 おじいさんと一緒に挨拶をしていたイーシャが部屋に戻ってきて、シロの前に積まれたお供えの山を見て微笑んでいる。拝まれ続けたウミも少しお疲れ気味だ。



「いただいた食材は快気祝いの時に使いましょうか」


「……マイのエルフ野菜の料理、たのしみ」


「ボクもマイちゃんの豆料理を楽しみにしてるよ」



 野菜や豆だけでなく果物もあるからウミも喜んでくれそうだ。俺たちが積まれたお供えの前で話をしていると、おじいさんが部屋に入ってくる。足取りもしっかりしているし、一晩でだいぶ回復したみたいだ。



「もう出歩いても大丈夫なんですか?」


「おかげで体調は万全じゃよ、今から旅に出られるくらいじゃ」


「お祖父様、ずっと寝たきりだったんですから無理はだめよ」


「イーシャも儂に対する言い方が年々ミーシアに似てくるの。ここの所、里の事が殆どできなんだから、暫くは大人しくしておるよ、心配せずとも大丈夫じゃ」



 長老というのは里の相談役やご意見番のような立場らしい。困った事があったりすれば助言をし、何か決める事があれば年配エルフのまとめ役として仕切ったりするみたいだ。



「お主達はこれからどうするんじゃ?」


「俺たちは一度、王都に戻ろうと思っています」


「快気祝いの準備をしていますから、必ず来てくださいね」



 アイナがおじいさんを誘っているが、5日後に快気祝いをすることに決まった。イーシャの両親も来てくれるそうで、みんな楽しみにしている。



「必ず行かせてもらうからの。儂も久しぶりの王都じゃから楽しみじゃ」


「泊まる準備もしてきてね!」


「わかっておる、わかっておる。しかしこうしておると、可愛い孫が一度に増えたみたいで嬉しいの」



 腕にまとわり付いて、見上げるように念を押したオーフェの頭を撫でながら、おじいさんは笑っている。自己紹介をして少し話しただけだが、とても人当たりの良いおじいさんの雰囲気のお陰で、年少組はすっかり懐いてしまったみたいだ。



「しかし、凄いお供えの量じゃの」


「わうん」


「白狼は里に安定と繁栄をもたらすと言われておるからの。遊びに来てくれれば里の者も喜ぶから、いつでも訪ねてくれ」


「まだエルフの里も見ていない所ばかりですし、近いうちに必ずお邪魔させてもらいます」



◇◆◇



 おじいさんやイーシャの両親に別れを告げて、王都に戻ってきた。カヤも心配しているだろうし、早めに報告してやりたい。



「カヤ、ただいま」


「お帰りなさいませ、旦那様、皆様」


「おじいさんの病気は治ったよ」


「本当ですか、良かったです」


「カヤちゃんにも心配かけてしまったわね」


「いえ、ご無事で何よりです」



 ホッとした表情になったカヤの頭を撫でてあげながら、みんながただいまの挨拶をして、全員リビングでお茶を飲みながら、今回の経緯を説明する。



「そんな事があったのですか、皆様で行かれて本当に良かったですね」


「そうね、私1人だったら何も出来なかったわ」


「今回のことで、色々な場所に行って様々のものを見て体験しておくのは、俺たちの力になると痛感したよ」


「今度、おじいさんに面白い場所を聞いて回ってみようね」



 オーフェもそう言っているが、俺はこの世界で知らないことがまだまだ多い。エルフのように寿命は長くないので出来ることは限られてしまうが、多くのものを見て経験を積めば、周りにいる誰かの力になるに違いない。




―――――・―――――・―――――




 5日後、昼食をとってすぐに俺とオーフェとイーシャがエルフの里に転移する。今日は王都の拠点でヨークさんの快気祝いをするので、イーシャの家族を迎えに来た。


 すでに準備を整えていてくれたので、そのまま拠点にとんぼ返りした。



「転移魔法というのは私も初めて体験したが、本当に扉をくぐるように別の場所に行けるんだな」


「儂も長く生きてきたが、こんな体験ができるとは思わなかったの」


「あなた、それにお父様、みんなが出迎えてくれていますよ」



 家の玄関ホールには、家族全員が揃って待っていた。みんな嬉しそうな顔で再会できたことを喜んでいる。カヤが一歩前に出て代表で挨拶するみたいだ。



「ヨーク様、マーティス様、ミーシア様、いらっしゃいませ」


「今日はお世話になるがよろしくの。ところで、お主は家の妖精じゃの。長く旅を続けていた儂でも滅多に会えなかったのじゃが、まさか孫の家で出会えるとは、これほど長生きして良かったと思ったことはないぞ」


「家の妖精って、イーシャはそんな凄いところに住んでいるのかい?」


「とても可愛らしいわ、お名前をお聞きしてもいいかしら」


「はい、家の妖精のカヤと申します」



 興奮気味の3人に、カヤが一礼しながら自分の名前を告げる。エルフ族も妖精の()む家に憧れがあるみたいだし、到着してすぐの衝撃に驚いているようだ。


 このまま玄関で話をするわけにもいかないので、みんなで挨拶を交わした後に、リビングに全員移動してカヤの淹れてくれたお茶を飲みながら話をする。



「カヤさんと言ったの、とても美味しいお茶じゃな」


「ありがとうございます、ヨーク様」



 俺の隣りに座って頭を下げるカヤを撫でてやると、頬を少し染めながらこちらを見て、嬉しそうに微笑んでくれる。そんな姿をヨークさんはじっと見つめている、何か好奇心を刺激してしまったのか、すごく真剣な目つきだ。



「ヨークさんは妖精のことは詳しいんですか?」


「そうじゃな、人族よりは良く知ってると言ったところかの」



 この際だから、カヤと一緒に旅をできるような方法がないか聞いてみるか。これだけ経験と知識が豊富な人なんだから、もしかすると何かの抜け道的な方法を知っているかもしれない。



「家の妖精を長時間外に連れて行く方法って、ご存じないでしょうか」


「家を依り代にしている妖精は、住んでいる者とその家から力を分けてもらって存在できるんじゃよ。仮にダイ君が別の家を手に入れたとしても、そこに移住させるのが無理なように、外に連れ出すのは難しいの」



 ヨークさんの知識をもってしても、カヤを自由に外に出してやることは無理か。他のメンバーも残念そうにしているが、こればっかりは仕方ないな。



「旦那様、あまり気にしないでください。それに一日くらいなら外でも一緒に居られますから、それだけで私は十分です」


「カヤさんは今の持ち主がこの家に住んでから長いのかの?」


「いえ、旦那様がここに住むようになられて2ヶ月位でしょうか」


「今でも家の外に出ても大丈夫なんじゃな?」


「はい、皆様とよく一緒に出かけたりします」


「私も食材のお買い物に2人で一緒に行ったりしていますよ」



 それを聞いて、少し考えるように目を閉じたヨークさんだが、やがてその目を開けて俺の方に視線を合わせて、何かを確かめるようにじっと見つめきた。



「家の妖精は、その姿が認識できないくらい存在が希薄な者も多くてな、いつの間にか家が綺麗になっていたり、壊れた所が直っていたりという、怪現象として捉えられる事もあるくらいなんじゃ。しかしカヤさんは、しっかりと姿かたちが認識できるし、一緒にお茶を飲んだり、家主以外とも出かけることが出来ておる。ここまで家の住人と絆が深い妖精は、儂も聞いたことがない。もしかしたら、この先お主達の願いは叶うかもしれんな」



 それを聞いてみんなの顔が明るくなる、カヤも俺を嬉しそうに見つめて体をそっと寄せてきた。ハーフリングの宿屋の女将さんにも、絆の深さを教えてもらったが、ヨークさんから更に詳しい話を聞くことが出来たのは良かった。



◇◆◇



 リビングでお茶をした後は、麻衣とミーシアさんとカヤが夕食の準備を開始した。残りのメンバーは、ヨークさんの病気の事を教えてくれたエルフの魔法回路屋に行くことにする。


 俺とイーシャとエリナが手をつないで先頭を歩き、ヨークさんはアイナとオーフェと手を繋いで楽しそうにしている。マーティスさんは横にシロが付いていて、こちらもとても嬉しそうだ。ウミはもちろん俺の頭の上にしがみついて、流れる景色を楽しんでいる。



「王都は久しぶりじゃが、だいぶ変わってしまったの」


「お義父さんがここに来たのは、どれくらい前なんですか?」


「確か今の国王はまだ生まれてなかったの」



 国王の年齢は知らないが、そこそこ高齢なはずだからヨークさんがここに来たのは数十年以上前ってことか。それだけ年月が経つと王都も変わってるだろうな。



「ボクたち、ちょっと注目されてる?」


「エルフが3人も歩いているから、しょうがないの」



 通りを歩いていると、街を行く人が確かめるように俺たちをじっと見ている。獣人と人族の子供に見えるオーフェに手を引かれた年配のエルフと、獣人とエルフの女性と手を繋いでいる俺、そして白狼を連れて歩いているエルフの男性。イーシャだけでも注目される事があるのに、3人も歩いていたら仕方ないな。



「でも、こうやってみんなで手をつないで歩くのは楽しいわね」


「……あるじ様と手をつないで歩くのは好き」


「私も白狼様と一緒に歩く日が来るなんて思ってなかったよ」


「わうっ!」


「今度はマイさんやカヤちゃんやミーシアさんも一緒に歩きたいですね」


「そうだな、またみんなでお弁当を持ってどっかに行くのもいいな」



 エルフの里に景色のいい所があれば、そこにみんなでピクニックに行くのも良いかもしれない。そんな事を考えながら歩いていると、魔法回路屋が見えてきた。



「お邪魔するよ」



 ヨークさんがそう言いながら店に入ると、エルフの店員さんは一瞬ビックリした顔をして、後に続いてる俺とイーシャを見ると、得心が行った表情になった。



「病気になったと聞いたが、もう良いのか?」


「孫たちに助けてもらっての、この通り回復したんじゃ」


「ヨークさんの事を教えてくれてありがとうございました」


「あなたに教えてもらわなかったら、間に合わなかったかもしれないわ、本当にありがとう」



 俺たちは揃って頭を下げる。わざわざ本人を連れてお礼に来るとは思っていなかったのか、店員さんも少し恥ずかしそうな顔をしているように見える。



「あんたには昔世話になった恩があるし、そこの人族の男はうちの店のお得意様なんだ、これからも売上に協力してくれたらそれでいい」



 店員さんは少しぶっきらぼうにそう言ったが、その顔はヨークさんの回復を喜んでいるようだった。


 それから少し話をしたが、ヨークさんが昔、旅の途中で困っていた店員さんを助けて、自分の家にしばらく泊めてあげたそうだ。その時に、まだ小さかったイーシャの事を見かけて、覚えていたという事らしい。ヨークさんの所は大きな家だったので、そこに居たイーシャも良い所のお嬢さんと思って印象深かったせいで、ずっと記憶に残っていたみたいだ。


 あまりに短時間に解決してしまった上に、本人が王都まで来ていることに疑問を持っていたようだが、その辺りは追求されなかったので助かった。



◇◆◇



 お店を出て少し街を回りながら歩いたが、ヨークさんが来た当時から残っているお店もあって、懐かしそうにその頃の思い出を話してくれた。


 イーシャと同じく、エルフの力を目当てに近づいてくる人は多かったみたいで、だいぶ苦労したそうだ。出会った時からウミは気づいていたが、ヨークさんは火と風の精霊魔法が使える。古いエルフの血が濃いせいだろうと言っていたが、里の中にも2属性の精霊の声が聞こえる人は他に居ないらしい。


 それに以前イーシャが言っていた、魔法の同時発動が出来るもう一人の人物がヨークさんだった。そう考えるとイーシャにはヨークさんの血が色濃く受け継がれてるのかもしれない。好奇心が強くて単身で旅をしていた所なんかもそっくりだ。






 思い出話に花を咲かせながら家へと戻っていった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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