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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第79話 エルフの里

 今日の野営地点に到着した、少し開けた場所になっていて簡易宿泊施設の設置もできるスペースが有る。最短距離を進んでいるため森を突っ切ることになるが、森の民と言われるエルフのイーシャが最適な場所を見つけてくれる。



「イーシャって小さい頃おじいさんと、ここを通ってヴェルンダーに行ってるんだよな」


「小さいと言っても、人族や獣人族の年齢でいうと、出会った頃のアイナちゃん位かしら」


「12歳位ってことですね」


「よく2人だけで野営しながら旅ができましたね」


「お祖父様は寝ていても魔物の気配に反応できたし、安全な場所がわかるみたいなのよね」



 それは凄いな、気配察知に優れたアイナや周囲の状況に敏感なエリナも、眠っている時は感覚が鈍るようだが、このメンバーではシロがそれに近い知覚を持っているくらいか。イーシャのおじいさんにも、野生の勘的な能力が備わっていたのかもしれない。最初から持っていたのか、旅をする中で身につけたのか、ますます色々な話を聞きたくなってきた。



「そんなすごい人とボクもお友達になりたいよ、絶対病気を治そうね」


「……私も色々教えて欲しい」


「ウミも色々な場所の話を聞いてみたいのです」



 みんなイーシャのおじいさんと話をしてみたいだし、なんとしても病気を治してあげたい。俺たちは麻衣の回復力強化のパーティースキルの恩恵で移動ペースは速いはずだから、なるべく短時間で到着できるように早めに寝て明るくなったらすぐ移動できるようにしよう。



◇◆◇



 夜、簡易宿泊施設の前で焚き火の番をしているとイーシャが中から出てきた。俺の方を窺うように見ながらゆっくりと近づいてきたので、体にかけていた毛布を広げて隣に来るように誘う。



「眠れないか?」


「目が覚めてしまったら寝付けなくて、迷惑だった?」


「構わないよ、少し話をしよう」



 隣りに座ったイーシャと毛布を分け合って体にかけると、俺に寄り添うように近づいてきて肩に頭を乗せてくる。普段の余裕がある態度と違って、なにかに怯える小さな子供のような彼女の体に腕を回して支えてやる。



「私……だめね、お姉さん失格だわ」


「大切な人が病気で容態がわからないんだ、不安になっても仕方ないさ」


「あなたの側に居ると落ち着くの、頭を撫でてもらってもいい?」



 イーシャのきれいな金色の髪を優しく撫でると、目を閉じて気持ちよさそうにしている。強張っていた体も力が抜けて、俺に一層体を預けてきた。



「おじいさんって、かなり高齢なのか?」


「そうね、私の里の中では年齢は上の方だけれど、お祖父様は古いエルフの血を濃く受け継いでいるから、まだまだ元気で生きられるはずよ」


「長老って言うから最高齢の人がなるのかと思ったけど、そうじゃないんだな」


「長く生きてると次第に気力というのかしら、何かをしようという力が衰えていくから、下のものを導けなくなるの、だからお祖父様のように元気な人が長老になるのよ」


「イーシャのおじいさんのように好奇心が旺盛で、色々なものを見て知識をつけた人が長老になると、里も良くなっていくんじゃないか?」


「まだまだ閉鎖的ではあるけれど、他の種族やその文化に対する偏見は少なくなったわね」



 そんなおじいさんが治めている里だから、イーシャも人族の俺たちや獣人族のアイナやエリナ、そして魔族のオーフェも受け入れてくれたんだろうな。やっぱりおじいさんには元気になってもらって長生きして欲しい。



「さっき言ってた、古いエルフの血ってイーシャも受け継いでいるのか?」


「お祖父様ほど濃くはないけど受け継いでいるわよ」


「もしかしてイーシャって良家のお嬢様じゃないのか?」


「やめてよダイ、私はそんな柄じゃないわ、冒険者のほうが性に合ってるもの」



 そう言って微笑むイーシャからは、最初の頃のような怯えた感じが無くなってきた。しばらく2人で話していると、そのまま俺の肩に頭をあずけて寝てしまった。その体を倒れないように支えながら火の番を続ける。




―――――・―――――・―――――




 もうじきイーシャの故郷の里に到着するようだ、俺たちの足も自然に速くなる。エルフの里に近づくと魔物が出なくなった、里の周りは一種の結界のようになっていて魔物が発生しないんだそうだ。森の中で生活しているというから、もっと魔物の脅威にさらされているのかと思ったが、やはり何かしらの対策がされているようだ。


 少し木の密度が下がっている場所が柵で囲まれていて、その中に里があるみたいだ。門には若い男性のエルフが立っていて、こちらに気づいて近づいてきた。



「イーシャ様、お帰りになられたのですか!」


「ただいま、久しぶりね」


「それで後ろの方々は……」


「私の大切な仲間たちよ」


「人族に獣人族、それに……みっ、水の精霊様!? 足元にいるのは………はっ、はっ、はっ、白狼様じゃないですか!! 一体どうされたんですかイーシャ様」


「みんなの事は後で紹介するわ、それよりお祖父様がご病気だと聞いたのだけど」


「は、はい、今はご自宅で休んでおいでです」



 門番の男性はウミやシロのことを見て少しうろたえている。精霊にも馴染みがある種族だし、神の使いとして神聖視している白狼が一度に現れたら、驚くのは仕方ない。


 門を開けてもらい里の中に入ったが、エルフの家は大きな木に寄り添うよに建てられていて、一部が木と一体化しているような家まである。畑も所々にあって、何かの作物が緑の葉を茂らせていた。


 里の中を早足で進んでいくが、時々すれ違う里の人達は美男美女ばかりだ。こちらの方を遠巻きに見ているが、俺の頭の上にいるウミと足元をついてきているシロを見ると、一様に動きを止めて固まっている。


 周りより大きな木のそばに建てられた家にイーシャは向かっていった、玄関から中に入るとおじいさんの寝ている部屋に一直線に進んでいく。



「お祖父様!」



 部屋に入ると、床より少し高くなった台の上に1人の男性が横たわっている、その横にはお世話をしていたんだろうか、若いエルフの女性が居て突然入ってきたイーシャにびっくりしていた。



「イーシャ様、お戻りになられたんですか」


「お祖父様の容態はどうなの?」


「今は熱も下がって眠られています」


「それで薬は? 治療法はあるの?」


「イーシャ、少し落ち着きなさい」



 入り口からイーシャと同じ金色の髪の、見た目は20代くらいに見える男女が入ってきた。女性の方はイーシャをそのまま大人にした感じのきれいな人だ。お世話をしていた女性に詰め寄っていたイーシャは、2人の姿を見て少し落ち着きを取り戻したようだ。



「お父様、お母様」


「イーシャちゃん、まずは一緒に来た人たちのことを紹介してくれないかしら」



 俺たちは別の部屋に案内されて、テーブルを囲むように椅子に座る。イーシャは俺の手を握ったまま離さないが、それを見た母親がニッコリと微笑んでくれた。歓迎はされているみたいで少しホッとする。



「私はイーシャの父のマーティス、娘に付き合ってここまで来てくれて感謝する」


「私はイーシャちゃんの母のミーシアよ、こんな森の奥深くまでよく来てくれたわね」


「俺はこのパーティーのリーダーをしているダイと言います」



 その後みんなが自己紹介をしたが、やはりウミとシロのことは驚いているようだった。あの後、門番からイーシャが精霊や白狼と一緒に帰ってきたと話が伝わって、ご両親がこっちに来てくれたみたいだ。



「数年ぶりに戻ってきたと思ったら、水の精霊様に白狼様まで一緒に連れてくるとは、私も最初なにかの冗談だと思ったよ」


「ウミのことは、様なんてつけなくてもいいのですよ」


「わう!」



 ウミもシロも様と呼ばれるのがくすぐったいのか、抗議の声を上げるが多分聞き入れられない気がする。



「それでお祖父様の容態はどうなの?」


「今は少し落ち着いているが、このまま長引けば覚悟を決めなければいけない」


「そっ、そんな……」



 イーシャが俺の手を強く握ってくる、そこから震えが伝わってきて必死に気持ちを抑えているのがわかる。



「俺たちは街から薬やポーションを買ってきてるんですが、何か病気に効くものは無いでしょうか」


「お義父さんの病気はエルフ族にしか(かか)らない非常に珍しい病気で、残念だが人族の街で売ってる薬は効かないんだよ」



 王都で手に入る薬やポーションは一通り買ってきたが、特定の種族しか罹らない病気だとは思わなかった。せっかくここまで来たのに、何も出来ずに手をこまねいているのだけは絶対に避けたい。



「あの、エルフの間に治療法とか薬の作り方とかは伝わってないんでしょうか?」



 麻衣の質問に両親は顔色を暗くする、不治の病とか言われたらイーシャは泣き崩れてしまいそうだ。そんな姿を見るのは俺も辛い。



「一応、文献に薬の作り方は存在するんだ。ただ作るのに必要な素材は、それぞれ手に入る場所が違って、どれも採取するとすぐ枯れてしまう難しい材料なんだよ。そして薬を作ってもすぐ飲ませないと効果が無くなるから、我々でも精霊のカバンを持っている者に頼んではいるんだが、仮に発見できたとしても移動時間を考えると、とても厳しい状況なんだ」


「その材料をお聞きしてもいいですか?」


「一つはツキカゲ草の花で、これはダンジョンの奥にしか生えていない。もう一つはヒナタ草の花で、これは南部地域の森の中にしか生えていないんだ」



 それを聞いてみんなの顔が一気に明るくなった。ツキカゲ草は以前採取した残りが精霊のカバンに入っている、ヒナタ草ならアーキンドの森に行けば手に入るはずだ。オーフェが居るのでアーキンドは一瞬で行ける。



「ダイ、私たちならなんとかなるわ」


「ご主人様、行きましょう」


「……絶対見つける」


「ウミも探すです」


「わんっ!」


「ダイ先輩、みんなでここまで来た甲斐がありました」


「アーキンドまで行っておいてよかったね、ダイ兄さん」



 席を立って俺の周りに集まってきたメンバーを、イーシャの両親は唖然とした表情で見ている。とにかく今は時間が惜しい、薬を作る準備だけしてもらってヒナタ草を探しに行こう。



「ツキカゲ草とヒナタ草はどれ位あればいいんですか?」


「それぞれ10本もあれば十分足りるが」


「わかりました、俺たちは今からヒナタ草を採ってこようと思います、ツキカゲ草は持っていますから薬を作る準備だけしておいてもらえませんか」


「待ってくれ君達、今から南部地域まで一体どれだけの日数がかかると思ってるんだ、お義父さんの体はそれまで保たないぞ」


「大丈夫です、パーティーメンバーに空間転移が使える者が居ますので。オーフェ、この場所はもう大丈夫だな?」


「うん、エルフの里やこの家は覚えたから、いつでも移動できるよ」


「よし、じゃぁ出発しよう」


「ま、待つんだ、空間転移なんてそんな伝説級の魔法――」



 イーシャの父親の声を背にして、俺たちはアーキンドの街に転移した。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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