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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第78話 イーシャの祖父

評価やブックマークありがとうございます。

「みんなおかえり」


「皆様お帰りなさいませ」


「わう!」



 玄関から入ってきた女性陣を迎える、買い物が楽しかったようでみんな笑顔だ。エルフの里の話だし病気の話題なので、まずはイーシャだけに伝える事にしよう。



「イーシャ、少し話があるんだが構わないか?」


「あら、私にだけ?」


「あぁ、まずはイーシャに話しておきたいんだ」


「2人だけで話しってちょっとドキドキするわね、いったい何かしら」



 他のメンバーはカヤがお茶を()れてくれると言って、リビングに入っていく。俺はイーシャを連れて2階の大部屋に向かった。部屋にある椅子に座って、テーブルを挟んで向き合う。



「それで私だけにお話って何かしら」


「実はイーシャの里の長老が病気になったと聞いたんだ」


「それは本当なの!?」



 普段のイーシャからは想像できない、取り乱したような勢いで椅子から立ち上がり、俺の方に身を乗り出してきた。



「イーシャ落ち着いてくれ、俺も魔法回路屋の店員さんに聞いただけで詳しい事はわからないんだ」


「ごめんなさい、ダイ。今から魔法回路屋に行ってもいいかしら」


「俺もついていくよ、一緒に行こう」


「ありがとう、ダイ」



 とても不安そうな顔をしているイーシャを放って置く訳にもいかないので、一緒に魔法回路屋に向かうことにする。リビングに居るみんなに断って2人で出かけたが、イーシャは俺の手を握ったまま離そうとはしない。会話もなく少し早足で街を歩いていくが、そんなイーシャの姿を見ていると長老という人物はとても大切な人なんだろうと思えた。



「こんにちは」


「あぁ、お前か」


「お祖父様が病気になったと聞いたのだけど、本当かしら」



 いまイーシャは“お祖父様”と言ったな、つまり彼女は長老の孫娘ということになるのか。以前聞いた時にはぐらかされたが、有名人じゃないか。



「俺も自分の里から話を聞いただけで詳しいことはわからないが、病気で倒れたのは本当らしい」


「症状とか必要な薬とかわからないのね」


「昔、お前の里の長老には世話になったから俺も力になってやりたいんだが、里同士の交流があまりないから詳細はわからんのだ、すまんな」


「いえ、病気の事が聞けただけでもありがたいわ、ダイに伝えてくれて本当にありがとう」



 お礼を言って魔法回路屋を後にする。手をつないで隣を歩くイーシャの顔は晴れないままだ、祖父の容態もわからないし不安なんだろう。何が出来るかわからないが、可能な限り力になってやりたい。



「俺たちパーティーメンバーでイーシャの里に行ったらだめだろうか」


「構わないの?」


「どんな病気かわからないから、何が出来るか行ってみないと判断できないが、オーフェの転移魔法やウミの治癒魔法もある、それに他のメンバーも力になってくれる」


「ありがとう、ダイやみんなの力を貸して頂戴」



 イーシャはそう言って俺の腕を抱きしめて体を寄せてきた、行くと決まったら早速準備を開始しよう。戻って全員に説明をしたら行動開始だ。



◇◆◇



「「ただいま」」


「お帰りなさいませ、旦那様、イーシャ様」



 玄関にはカヤだけでなく全員が集まっていた、みんな突然出かけた俺たちの事を心配してくれたんだろう。



「ご主人様、何かあったんですか? それにイーシャさんもいつもと感じが違います」


「……あるじ様にピッタリくっついてる」


「今から説明するよ、みんなでリビングに行こう」



 そしてエルフの里の長老が病気なこと、その人はイーシャの祖父なこと、今から里に向かって何か力になってやりたいことを全員に話す。



「それなら明日にでも早速出発しましょう、ご主人様」


「ウミも病気を()てあげるですよ」


「……イーシャの力になりたい」


「元気になれる食事なら私が作ります」


「必要なものがあったらボクの転移魔法で揃えるからね」


「わうんっ!」


「みんな、ありがとう。私の都合につき合せてしまってごめんなさい」


「イーシャは俺たちの家族なんだ、そんなこと気にしないでいいよ」



 みんなに向かって頭を下げるイーシャに、俺はそう言ってから優しくその頭を撫でてあげる。少し頬を染めて俺を見上げてくるイーシャの顔は、いつもの雰囲気と違って見えた。


 それから、それぞれに別れて買い出しや、作りおきの準備を開始した。暗くなる前に消耗品や食材を買い、ポーション類も普段買わない種類まで揃えておく。みんなの協力で、あっという間に旅の準備が整えられていく。普段から精霊のカバンに様々なものを入れている俺たちのパーティーは、こんな場合でもすぐ動けるフットワークの軽さが素晴らしいと思った。


 イーシャの故郷には、一度ヴェルンダーまで飛んで、そこから徒歩で向かうのが近いらしい。途中から森に入るので馬車は使えないみたいだ。そしてシロも同行する、エルフにとって白狼(はくろう)は神聖な生き物なので、里での俺たちの待遇が良くなるだろうとイーシャが言っていた。



◇◆◇



「お祖父様はね、里で長老なんて呼ばれているけれど、外の世界を放浪するのが好きな人だったのよ」



 今日は俺の隣にイーシャが寝ている、やはり不安があるんだろう、俺の腕をずっと握っている。そんなイーシャが祖父の話を聞かせてくれる。



「もしかしてイーシャが旅に出るきっかけって、そのおじいさんの影響なのか?」


「そうよ、子供の頃から外の世界の話を聞かせてもらっていたから、ずっとそれを自分の目で見てみたいと思っていたの」


「イーシャさんはおじいちゃん子だったんですね」


「そうね、子供の頃はずっとお祖父様の所に行っていたわね。マイちゃんもそうなの?」


「私はおばあちゃんにべったりでしたね、お料理もおばあちゃんから教えてもらったんですよ」



 麻衣の料理スキルがやたら高いのはそのせいだったのか。煮炊きはもちろん、焼いたり揚げたり蒸したり料理全般得意だし、更に魚を自分で(さば)いたり出来るのは、おばあさんの指導を受けたからか。



「マイ様が色々な料理が得意だったり、食材の扱いに長けているのはその方のお陰なのですね」


「もしかしてお菓子もなのです?」


「そうですよ、お菓子もおばあちゃんから習いました」


「イーシャちゃんのおじいさんも、マイちゃんのおばあさんもどっちも凄いね!」



 料理だけでなく洋菓子まで作ってしまうおばあさんも凄いし、長寿なエルフのおじいさんが一体どれだけの旅をしてきたのか、とても話を聞いてみたい。それにレオンさんと知り合えたのも、イーシャのおじいさんのおかげだ。



「レオンさんと知り合いだったのは、旅を続けていたからなのか」


「そうよ、レオじいさんがまだ見習いだった頃に知り合って、それからずっと友達だそうよ」


「……たしか小さい頃のイーシャを知ってるって言ってた」


「小さい頃、お祖父様と一緒に遊びに行ったことがあるのよ、ずいぶん可愛がってもらったわ」



 初めて工房に行った日にレオンさんが言っていたことを思い出したのか、エリナがその事を聞くとイーシャは懐かしそうに天井を見ている。その当時の事が思い浮かんでいるんだろう、みんなと話しているうちに少し表情も穏やかになってきた。


 これならイーシャもよく眠れるだろう。

 明日からの旅に備えて、今日はしっかり睡眠を取ることにしよう。




―――――・―――――・―――――




「久しぶりに来たけど、ずいぶん暖かくなったな」


「もう夏の季節に入ってますから、過ごしやすいですね」


「……寒くない街は好き」



 次の日の朝、オーフェの転移魔法でヴェルンダーの街まで一気に移動してきた。ここを出た時はまだ寒かったが、風の月に入ってこの街も気温が上がって風も暖かくなっている。



「オーフェちゃんありがとう、王都からだと時間がかかるけれど、ここまで運んでもらえたら大幅な短縮になるわ」


「お安いご用だよ、イーシャちゃん。それにボクもエルフの里に行くのは楽しみなんだ」



 話をしながら街の外へと向かう、レオンさんに挨拶もしたいが、イーシャのおじいさんの様子を確認するのが先だ。元気になれば一緒にこの街に来てもいいし、今は先に進むことを優先しよう。



◇◆◇



 休憩中に麻衣の新しい杖も作ってしまおうと、精霊のカバンから取り出して近くに行く。



「麻衣、言いそびれてたんだけど、新しい杖を作ってみたんだ」


「それはどんな魔法回路なんですか?」


「狙った場所に霧を発生させる魔法回路を見つけて、これなら麻衣でも使えると思って組んでみた」


「森のような広い場所で使える魔法は凄く嬉しいです」


「時間がなくて杖は俺が勝手に選んでしまったけど、ごめんな」


「いえ、ダイ先輩が選んでくれた杖ですから問題ありません!」



 麻衣が力強くそう言ってくれたので、そのまま改造に取り掛かる。3並列化された杖を麻衣が振ると、視線の先に濃い霧の塊が発生する。アイナとエリナが霧の方に走っていって、後ろ側に回り込んだ。



「ご主人様、そっち側が全然見えません」


「……真っ白」


「わん、わんっ!」



 霧の中に突っ込んでいったシロも全く見えなくなった、元々保護色みたいな色だしな。



「ダイ兄さんこれ凄いね、中に入ると周りが全然見えないよ」



 オーフェも参加して霧の中に行ってしまったが、マナを流し続ける持続性の魔法ではないので徐々に薄くなって、中にいるオーフェとシロの姿がはっきりしてきた。



「ダイ先輩、これなら敵を一時的に足止めできます」


「普通に組むと霧の濃さが足りなかったり範囲が狭くなったりするみたいなんだが、そこは並列魔法回路で解決できた」


「相変わらずダイの組む魔法回路は、範囲や効果の調整が凄く良いわね」



 その辺りは何度も魔法回路を組んでいると、何となく自然にわかってくるようになった。並列回路を前提で構築するので多少過剰気味になってると思うが、流れるマナの量は少なくなるように調整してるから、効果が薄すぎて失敗するより良いと思う。


 俺の杖の方は魔物が出てきた時にでも試してみることにして、どんどん進んでいこう。



◇◆◇



「アイナ、シロ、魔物が出てきたら俺の杖を試してみたいから教えてくれ」


「わかりました、ご主人様」


「わうんっ!」



 森が近くなってきたので索敵に優れた2人にお願いして、敵の場所を教えてもらうことにする。



「……あるじ様はどんな回路を組んだの?」


「石の塊を飛ばす回路を組んでみたんだけど、まだ試してないからどれだけ効果があるかわからないんだ」


「ダイ先輩の組んだ回路ですから、きっとすごい魔法ができてると思いますよ」



 今回は魔法回路のコピーのコピーという、回路が劣化してしまうかもしれないやり方だし、うまく発動できれば良いんだが。いまさら試し撃ちをするのもなんだから、ぶっつけ本番で使ってみよう。



「わんっ!」


「ご主人様、左前方に中型の魔物です」


「わかった、ありがとうアイナ、シロ」



 慎重に近づいていくと、鹿のような魔物が見えてきた、体も大きめだししちょうどいいかもしれない。杖を構えて狙いを定め、コマンドワードの“発射”を唱える。




  ――――ドンッ!




 空中に出現した石の弾丸が高速で飛び出したからだろうか、空気の震えるような音がする。魔物に向かった弾丸は首元を貫き、更に後ろの木も貫通してしまった。拳銃のように反動がないので、音だけ響いて不思議な感じだ。もちろん実弾なんて撃ったことはないから、ゲームやマンガの知識しか持っていないが。



「ご主人様、いまのは一体何ですか? すごい音がしましたけど」


「……びっくりした」


「小さな石の塊を回転させながら飛ばす魔法回路だったんだが、俺たちの世界にあった武器と同じ感じだったから、それとよく似た仕組みになるように調整したらこうなった」



 銃弾の当たった魔物は青い光になって消えたが、少し過剰すぎたかもしれないな。跳弾(ちょうだん)も発生しそうだし、硬い障害物の多い場所では気をつけて使うようにしよう。



「またとんでもない物を作ってしまったわね、ダイ」


「ダイ兄さんの魔法回路は本当にすごいね」


「ウミも驚いたのです」


「これ3並列魔法回路ですよね?」


「そうだよ麻衣。これは魔族に襲われた時や、火山ダンジョンに居た突然変異種なんかと戦う時の保険みたいなものかな。威力だけを追求して流れるマナの量や、他への影響は考えずに作ってみた」



 貴族や国なんかに目をつけられないように、目立ちたくないというのは変わっていないが、冒険を続けるうちに魔族や突然変異種という強大な相手と戦ってきて、自分たちの身を護る事に自制はしないようにしようと考えるようになった。特に帰る家が出来てからは、その気持が強くなっている。






 2人の新しい武器の性能もわかったし、移動を続けることにしよう。


主人公も次第に自重しなくなってきました(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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