第6話 ファースタの街
次の日の朝、いよいよ街へと出発することになった。
洞窟の前には長老や他のリザードマンの人達も見送りに来てくれた。
リクや長老以外とはほとんど話せなかったのが残念だけど、また来る機会があったら色々な人と話してみたい。
クウは昨日、俺たちが長老と話している時に自分たちの部族の元に帰っていったそうだ、こっちも少し心残りだった。
「それでは長老様、色々とおせわになりました」
「こちらこそ魔物の件では世話になったの。
また機会があれば来るといい、歓迎するぞ」
「ありがとうございます、それとこれを」
俺はサイクロプスを倒した時にドロップした牙を長老に差し出した。
「良いのか? 滅多に手に入らない貴重品じゃぞ?」
「えぇ、リクさんが武器の材料になると言っていたので使ってください。
それに、もしあなた達に会うことが出来なかったら、夜の街道で魔物に襲われるか、食料も水もなくて途中で倒れていたでしょうから」
「そうか、では遠慮なく貰っておくとするよ」
そうして俺と長老はリザードマン流の挨拶と教えてもらった、拳と拳を合わせる挨拶をした。
「あのっ、私もおせわになりました。
それと靴、ありがとうございました」
アイナは足に動物の皮を縫い合わせて紐で結んだ靴を履いていた。助けられてからずっと裸足だったアイナのために作ってくれたそうだ。異世界に来て最初に出会った人たちが、とても親切だったのは凄い幸運に恵まれたと思う。
「わしらの種族は獣人族に思うところはないが、人族の街に行くと辛いこともあるじゃろう。ダイ殿と一緒に頑張るんじゃぞ」
長老の言葉に「はい」と元気に答え、俺はリクの腕に、アイナはカイの腕に乗せてもらって出発した。
◇◆◇
森の中で時々出会う動物や魔物も、リクとカイの2人は槍で危なげなく対処しながら、順調に街へと進んでいった。アイナも最初は怖がっていたけど、今は慣れてきたのか「凄いです」「速いです」と言いながら周りを見る余裕が出てきたみたいだ。
そして森の密度が下がってくると、少し高い丘の上に到着した。
「あれ、人族の街」
リクが指さした方を見ると、壁に囲まれて建物が密集する場所があった。遠目で見ると中世ヨーロッパの石やレンガ造りっぽい町並みの様に見える。
異世界で初めて訪れる人間の街ってことで、俺もちょっとドキドキしてきた。異世界転移に関する手がかりが見つかるといいんだが。
「ここまで、来たら、後、2人でも、大丈夫、気をつけて、行くと、いい」
「リクさん、ありがとうございました、色々おせわになりました」
そう言ってリクと拳を合わせた。
「カイさんもありがとうございました」
「問題、無い」
カイとも拳を合わせて別れた後、アイナと2人で街に向かって歩き出した。
◇◆◇
門の前には入場待ちの列ができていたので、一番後ろに並んだ。
俺の着ている服が変わっているのもあるのだろうか、チラチラとこっちを見てくる人もいるが、特に絡まれたりすることはなかった。
2人の衛兵が立っていて、そのうちの1人がチェック作業をしている、次はいよいよ俺達の番だ。
「ファースタの街へようこそ。
お前たち、入場証はあるか?」
「いいえ」
「身分証はあるか?」
「田舎の方から出てきたので、そのようなものは持ってないです」
そう答えると、もうひとりの衛兵が俺たちを詰め所の方に案内してくれた。
詰め所の中にはテーブルと椅子があって、担当者らしき男が座っていた。
「身分証の無いものは銅貨20枚必要だ、獣人は銅貨50枚だが金はあるか?」
と言われたので、皮袋の中から茶色の硬貨を70枚出して「これでいいですか?」と聞くと、担当者の男はこんな事を言ってきた。
「そこの獣人は野良か?」
野良と言われて何のことかわからなかったので頭にはてなマークを浮かべて担当者の顔を見ていると、めんどくさそうな感じに説明してくれた。
奴隷契約しているものは奴隷印や魔道具で、主人登録している獣人は首輪かブレスレットを付けているのですぐ判る。身元保証のない獣人は街の中には入れない、入るには奴隷契約か主人登録が必要で、獣人が犯罪を犯したり誰かに不利益をもたらした場合は、奴隷の主か登録した主人も罰せられる。アイナの村ではそのような制限はなかったみたいで、街に入るなら詰め所で仮の主人登録をするように言われた。銀貨1枚かかったが、正式登録する際に詰め所で貰った支払い証を渡すと、その分引いてくれるそうだ。
詰め所で受け取った仮登録の赤い首輪をアイナに付けて、街に入る許可をもらった。10日以内に本登録するか、街から出て登録抹消しないと罰則があるので注意が必要だ。
冒険者ギルドに登録所が併設されているので、身分証の代わりにもなるギルドカードを手に入れるために向かってもいいが、先に服をなんとかしたい。俺の格好はTシャツにデニムのパンツとスニーカーだし、アイナは貫頭衣なので目立って仕方がない。まずは詰め所で聞いた雑貨屋を目指すことにした。