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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第8章 エルフの里編
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第77話 シロの活躍

第8章の開始になります。

章タイトル通り、イーシャ絡みの話が進んでいきます、ぜひお楽しみください。

 シロを見つけてから一月半ほど経ったが、体も大きくなってきて、今では街を歩く時も抱かなくてよくなった。この世界には首輪やリードが無いのでそのまま連れて歩いているが、シロはとても大人しくて行儀が良いのでトラブルになった事は一度もない。むしろオーフェの迷子を未然に防いでくれるので、凄く助かっているくらいだ。


 数は少ないが、猟犬や鷹狩りのように犬や鳥を連れているパーティーもあるので、冒険者のよく行く店なら一緒に入っても大丈夫な事もありがたい。


 気配の察知にも優れていて、アイナとほぼ同時に敵を発見する事が出来るので、一緒にダンジョンや森に行くようになった。




―――――・―――――・―――――




「この先の大きな岩の影に中型の魔物が居ます」



 シロがなにかの気配に気づき、アイナが魔物の大きさと場所を指示してくれる。俺たちはゆっくりとその岩に近づいて、ある程度の距離になるとシロとエリナが同時に飛び出した。


 森のような足場の悪い場所では、身体強化を発動したエリナよりシロの方が速い。



「わん、わんっ!」



 先に岩の陰に回り込んだシロが吠えると、びっくりした魔物が反対側に飛び出した。だがそこにはエリナが待ち構えている。氷雪(ひょうせつ)氷雨(ひさめ)がミスリルの刀身の周りに氷の(やいば)を纏わり付かせ、魔物の首と胴体を切り離した。



「……シロ、ありがとう」


「わうん」



 魔核を回収して戻ってきたエリナとシロの頭を撫でる。今日は物陰で待ち伏せしている魔物が多い場所に来ているが、シロに吠えられた魔物は動きを止めたり逆方向に逃げるので、こうして共闘するとすごく楽に倒せる。



「2人ともありがとう、特に打ち合わせもしてないのに、毎回うまく連携できるな」


「……私がシロの動きを見て反対側に行くと、シロもうまく合わせて吠えてくれるから楽」


「わう!」



 今日は森の奥にある珍しい素材の収集に来ているが、不意打ちを嫌って他の冒険者があまりやりたがらない依頼のようで、シロと一緒に行くのにちょうどいいと思って受けたが正解だった。


 地上の敵はシロが追い立てたり、おびき寄せたりして前衛組のアイナとエリナとオーフェが、木の上など高い場所や飛んでいる敵は俺とイーシャが倒している。


 俺も魔法の命中精度がかなり良くなってきたので、風の刃のような幅のある形でなく、ピンポイントで狙える魔法回路を組んでみても良いかもしれない。すぐには無理だろうが、イーシャの様に木の隙間とか障害物の中にいる敵を狙い撃ち出来るようになりたい。



「みんな、そろそろお昼にしましょうか」


「やった! 今日のお弁当は何かなー」


「今日は私とカヤちゃんが作ったおかずも入ってますよ」


「それは楽しみね」



 少し開けた場所でお昼にする。シロは硬いものも難なく食べられるようになってきて、食べる量も多くなってきているので、ますますお肉が好きになったみたいだ。今日もお肉や野菜や芋がバランス良く入った特製のお弁当をもらって、一心不乱に食べている。



「ご主人様、私とカヤちゃんが作ったおかずを当ててみて下さい」



 お弁当にはコロッケのような揚げ物と、野菜や芋の煮物が入っている。アイナはまだ揚げ物は無理だったはずだから、煮物のほうだろうな。



「こっちの野菜と芋を煮たものか?」


「ダイ先輩、残念でした。こっちの揚げ物がそうなんですよ」


「いっぱい練習してカヤちゃんにも手伝ってもらって作りました」


「すごいな、初めて作ったと思えないくらい上手に揚がってるじゃないか」


「これソースが掛かってるのでパンに挟んでも美味しいですよ、みなさん試して下さい」



 パンに挟んで食べてみると、コロッケパンみたいで美味しい。味の濃いソースがパンにとても良くあっている。カヤに手伝ってもらったとは言え、味付けの仕方すら知らなかったアイナが、これだけの料理をつくることが出来るようになるなんて、本当に頑張ったんだな。



「アイナちゃんこれ美味しいよ、中身もほくほくで細かく刻んだお肉も入ってる」


「パンと一緒に食べるとちょうどいい味付けになっているのね」


「……これならお店で出しても大丈夫」


「確かにこれは売り物になるくらいの出来だな」



 美味しそうに食べるみんなの姿を、アイナと麻衣は嬉しそうに見ている。アイナやカヤの料理の腕が上がると、麻衣も一品にかけられる手間が増えていくだろうし、これからの食事やお弁当も楽しみだ。



◇◆◇



 昼食後も森の探索を進め、依頼の素材を集めていく。シロはアイナやオーフェともうまく連携してくれるので、地上の敵は安心して任せられる。俺はさっき思いついた一点集中型の魔法回路の構想を練りながら、王都にあるエルフのお店に行こうと考えていた。


 十分な量が集まった後は、空間転移で自宅に戻り冒険者ギルドに納品に向かう。人気のない依頼ということもあって在庫も少なくなっていたようで、納品した素材はかなり喜んでもらえた。


 家に戻って夕食後、今日は俺とシロが一緒にお風呂に入る。麻衣によると頻繁に石鹸で洗うのは良くないみたいなのでいつもはお湯洗いだが、今日は森に入っているし薄めた石鹸水で丁寧に洗ってやる。



「シロ、気持ちいいか?」


「わふーん」


「顔も洗うからちょっとじっとしててくれ」



 お風呂で洗われている時のシロはおとなしいので、顔も丁寧に洗っていく。目を閉じてじっとしてるシロにお湯をかけてやってよく洗い流し、洗い場においてある大きめの桶にお湯をためてやると、自分から飛び込んで気持ちよさそうに浸かっている。


 俺も体と髪を洗って湯船で温まり、シロと一緒にお風呂を出る。体をブルブル震わせて水気を飛ばした後に脱衣場に入ってきたシロを拭いてやる。



「ちゃんと俺や部屋の中に水を飛ばさないように、離れた場所でやるのは偉いな」


「わふんっ!」



 特に誰かが教えたわけでもないようだが、自然とそうするようになったみたいだ。とても知能が高くて、人の言葉がわかっている様に感じることもある。エルフが神の使いとして神聖視しているだけあって、他の狼とは違うのかもしれないな。


 ベッドに上る前にウミに足の洗浄と、体毛の水分を飛ばしてもらってブラッシングをしてやる。



「今日はシロが大活躍だったな」


「……森の中だと私も勝てない」


「体もどんどん大きくなってきましたし、もっと速くなりそうですね」


「森の魔物くらいなら単独で狩れるようになるわよ」


「今度ウミが魔物さんに追いかけられたら、シロに助けてもらうです」


「わうっ!」



 シロも任せておけとばかりに吠える。この調子で成長を続けていけば、本当に俺たちの頼もしいパートナーになってくれそうだ。




―――――・―――――・―――――




 今日は珍しく俺1人で買い物に来ている、目指すはマニアックな魔法回路のお店だ。エルフの店員さんに挨拶をして、雑多に並べられた魔法回路のケースをひとつひとつ見ていく。


 隅の方に霧を発生させるという回路が置いてある、目くらましに使えそうだが普通に組んだだけでは濃度が足りないみたいだ。遠隔発動でないと効果がないタイプで、その為に発現位置の精度が悪く範囲を狭めて濃くしようとしても、ちょうどいい場所に発動できなかったり使い勝手が悪いみたいだが、その問題なら並列魔法回路でなんとでもなる。


 森のように広い空間だと、麻衣の壁魔法が活躍する機会がない。遠隔攻撃を仕掛けてくる魔物も居るので、出番が無い訳ではないが、非殺傷で認識阻害系の魔法があれば使う機会は多いはずだ。霧の魔法回路はその場に発生させて自然消滅まで持続する魔法なので、障壁のようにマナを流しつづける必要がなく、麻衣の負担も軽くなるのが利点でもある。


 そう考えて、その魔法回路を手にした時、その隣にあった回路に目が移る。それは指先程度の涙滴型の物体を、回転させながら打ち出す魔法のようだ。これは銃弾と同じ仕組みじゃないだろうか。


 作られる物体が小さく殺傷力が低いので実用性がないと書かれているが、密度を上げた土の上位属性の石で弾頭を作って、速度に極振りした回路にしてやれば、銃と同じ効果が得られる気がする。魔族との戦闘も経験して、今の戦闘力ではもしもの時に仲間を守れないかもしれないと痛感したので、自重しない武器も作っておきたい。


 霧の魔法回路は範囲を少し広くして、密度を上げたものを2本用意して発動部分だけ片方から抜いた小型回路を、中型のレールに並べる。動かす必要が無いので速度のパーツは省いて、インターフェースユニット同士を直結する。発動は障壁の魔法と違い動作方式にした。


 銃弾の魔法は石の密度をかなり高くして、速度を中型魔法回路のレール一杯まで詰め込む。今回は実験も兼ねているので、片方を全てダミーブロックにして魔法回路のコピーのコピーを試してみるつもりだ。速度の構築パーツが多いので、見合う量の充填部分を確保しないといけないが、俺のマナ耐性があれば問題ない。そして拳銃で狙うイメージにするため、こちらの発動はコマンドワード方式にした。



「久しぶりに見たが、相変わらず面白い回路を持ってくるな」


「色々と試してみたい事が増えてしまったので」


「その辺の事情は聞かないさ、約束だしな。ところで以前一緒に来たエルフの女は里に帰ったか?」


「いえ、今も俺たちのパーティーで活動してますよ」


「そうか、てっきり帰ったと思っていたんだが」



 エルフの店員さんはそう言って考え込んだ風な仕草を見せる。この店に初めて来た時はイーシャと一緒だったが、俺たち2人の関係は良好だったし、仲違いして別れたりするような事が無さそうなのは、この店員さんも見てるはずだ。確か昔のイーシャの事を知っている感じだったし、もしかしたら彼女に関係する何かを知っているのかもしれない。



「もしかして彼女の事で何かあったんですか?」


「いや、あの女が居た里の長老が病気で倒れたと聞いてな、心配して様子を見に帰ったと思っていただけだ。まぁ気にするな」



 そうは言っているが、イーシャからそんな話は聞いていない。つい最近まで、このエルフの男性みたいに定住してなかったから、連絡が来なかったのかもしれない。


 俺は急いで魔法回路を印刷して、杖を2本買った後に家に戻った。



◇◆◇



「ただいまカヤ、イーシャは帰ってるか?」


「お帰りなさいませ旦那様、イーシャ様は買い物に出て、まだ帰ってきていません」


「わかった、今日はこのまま家で魔法回路の露光をするよ、庭に居るから何か用事があったら呼んでくれ」


「はい。終わられたらお茶をお()れします」



 女性メンバーで買い物に行くと言っていたから、まだ帰ったなかったか。入れ違いになったら時間がもったいないし、今日はこのまま家で待つことにしよう。


 俺は家の玄関先で魔法回路の露光をして、終了するのをシロと遊びながら待つ。今日中に発動実験をしてしまおうと思ったが、俺の武器は回路の改造だけやってしまおう。


 回路を起動して、まずは充填回路の置き換えを進めていく。それを列コピーをして回路同士のインターフェース部分を繋ぎ、片方の発動部分を切り離して回路を縮小し、更に隣に列コピーした回路を作る。これで石の銃弾を高速で打ち出す魔法回路の完成だ。3列の魔法回路が光っているので、おそらく問題なく動くだろう。名前は“ストーンバレット”で良いな、単純な命名だがこれが一番しっくり来る。



「シロは俺が何をやってるかわかるか?」


「わう?」


「そうだよな、わからないよな」



 隣で大人しく俺の作業を見ていたシロの頭を撫でて、一度リビングに戻ることにした。シロはずっと俺の手元を見ていたので、もしかしたら何かわかってるのかと思ったが、どうもそうじゃないみたいだ。



「旦那様、それは新しい武器ですか?」


「あぁ、俺と麻衣の武器を作ってみたんだ」


「私は魔法回路は扱えないですが、旦那様の作る回路は凄いと皆様おっしゃってます」



 お茶を持ってリビングに来たカヤが、興味深そうに俺の持っている2本の杖を見ている。妖精は魔法回路を使う事は出来ないが、俺たちとは違う種類の魔法を扱えるので、家の補修や家具の製作に遺憾なくその力を発揮してくれている。



「俺がこの世界に来る時に手に入れたスキルは、かなり特殊みたいだから、おかげで強力な魔法回路が組めるよ」


「皆様が強くなると、怪我や事故も減ると思いますから、私も嬉しいです」


「カヤとの約束もあるし、無事に帰ってこられるように俺も出来るだけの事はするよ」



 そう言って隣りに座っているカヤの頭を撫でると、嬉しそうに身を寄せてくれる。そうして2人でお茶を飲んでいたら、リビングの窓からみんなが帰ってくるのが見えた。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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