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第76話 教授たちのお泊まり会

第7章の最終話になります。

「ヤチ凄いわ、お魚づくしよ!」


「これだけ贅沢にお魚を使った料理は、王都でも滅多に見られませんよ」



 夕食の準備も進んでいき、テーブルの上には様々な魚料理が並んでいる。オーフェがアーキンドを覚えてくれてから、朝市に通った成果だ。


 教授たちがおみやげにワインを持ってきてくれたので、イーシャとユリーさんとヤチさんがお酒、他のメンバーは果実水で乾杯の準備をしている。



「それじゃぁ、ユリーさんとヤチさんとの再会を祝して、乾杯!」


「「「「「「「「乾杯[なのです]!」」」」」」」」「あんっ!」



 今日は焼いた魚に揚げた魚、蒸した魚もある、それに魚の身を細かく刻んで団子にしたスープまであるな。シロのご飯も魚中心のメニューだ、団子も同じように入っている。シロは肉が好きだが、魚料理も美味しそうに食べていて、尻尾が元気に揺れている。


 乾杯の挨拶では言っていないが、水の月の緑はウミと出会った時期でもある。メンバーにはその記念も兼ねてパーティーを開くと言っているので、今日はデザートの種類もいつもより多く、ウミも嬉しそうに頬張っている。



「どれも美味しいわ。それにスープに入っている丸い塊も魚なのね、細かく刻まれていてとても柔らかくて美味しい、こんなの食べたことないわ」


「マイさんの料理はやはり凄いですね、それにこれだけのお魚をよく王都で揃えられましたね」


「これはアーキンドまで買いに行ったんですよ」


「そうなの!? わざわざこのために買いに行ってくれたの?」


「みんなでアーキンドまで旅をして、ボクが場所を覚えてきたから、これからいつでも好きな時に行けるよ!」


「そう言えばオーフェちゃんの反則な魔法があったわね。うぅっ、ヤチ、私この家の子になりたい」


「教授、私たちのほうが歳上なんですから、そんなこと言わないでください」



 ユリーさんがとうとう、この家の子供になりたいとか言い出した。お酒が入っているからだろうか、少し幼児退行してる感じがする。



「マイさん、このお魚の塊、少し硬い所がありますね」


「……でも美味しい」


「それはお魚の骨も細かく刻んで入れているからですよ、体にもいいのでたくさん食べてね」


「あの時一緒に混ぜていた白いのがそうだったんですね、お魚の骨まで食べられるなんて凄いです」



 すごいな、ちゃんとカルシウムの補給も考えて作ってくれている。現代日本の栄養学の知識はこの世界より進んでいそうだし、育ち盛りの子の栄養バランスもちゃんと考慮したメニューになってるのはさすがだ。そう言えば俺たち全員、今まで病気知らずだったな、これはきっと麻衣のおかげだ。



「マイちゃんは凄いわね、私もこの味に慣れてしまったから、もう元の生活に戻れそうもないわ」


「イーシャさん、私もですよ! 皆さんと別れてからどれだけ辛かったか」


「教授の食欲がしばらく落ちてましたからね」


「でもヤチが食事を作ってくれたから持ち直すことが出来たのよ」


「料理はいつでも作りますから言って下さい、教授」



 見つめ合う2人は相変わらず仲がいいな、見ているとほっこりする。



「マイ様のおかげで私の料理の腕もどんどん上達している気がします」


「カヤちゃんは元々料理は上手だったんだから、すぐ同じものが作れるようになりますよ」


「私も頑張ってマイさんに追いつきます」


「アイナちゃんは飲み込みが早いから、すごく上手になってますよ」


「ヤチ、凄いわ。マイちゃんが3人いる厨房なんて、この大陸最強じゃないかしら」


「魔族より先にこの大陸を制覇できそうですね」



 ユリーさんとヤチさんが何やら不穏当な会話をしている気がする。でも、スコーンとジャムの件もあるから、上流階級も麻衣のお菓子と料理で支配できそうな気がするだけにちょっと怖い。


 その後はデザートも食べて食事会はお開きになった。果物の入ったゼリーを食べたユリーさんが、またうちの子になりたいとか言い始めたのはお約束だ。



◇◆◇



「凄いですね、このベッド。宿屋でも見ることの出来ない立派なものです」


「それに、いつまでもここに居たくなる寝心地は素晴らしいわ、上級冒険者向けの宿でもこんなベッドを置いている所なんて今まで無かったわよ」



 2人とも大部屋のベッドを絶賛している。メンバー全員に好評だったが、こうして他の人にも褒めてもらえると嬉しくなるな。俺は感謝の気持ちを込めてカヤの頭を撫でてあげながら、ベッドを堪能している2人を見ていた。



「これはカヤが作ってくれたんですよ」


「家の妖精って凄いのね、本で読むのと実際に見るのでは大違いだわ。こうやって目の当たりにすると、私もまだまだ勉強不足だって痛感するわね」


「教授のその向上心があれば、いつかこの世界のダンジョンの秘密も解き明かせる日が来ますよ」


「ありがとうヤチ、私がんばるからね」



 この若さで教授の地位まで上り詰めた人だけあって、ユリーさんはすごい人だ。ダンジョンの地質調査を通じて、様々な学説を発表しているみたいだから、きっとその夢は叶うと思う。



「ヤチ姉さん、ボクとお風呂に行こうよ」


「さっきお湯は溜めてきたから、いつでも入れますよ」


「ありがとうございます、ではお先にいただきますね。オーフェちゃん行きましょうか」


「ダイ兄さんありがとう、じゃあ行ってくるね!」



 オーフェとヤチさんが2人で仲良くお風呂に向かっていく、その姿を見ているユリーさんの目がとても優しそうになる。



「ヤチのあんな楽しそうな笑顔って、あまり見られないのよ」


「そうなんですか? ユリーさんと一緒の時はとても楽しそうにしていますけど」


「私とはあんな感じなんだけど、実はねヤチは人見知りなのよ」


「そうだったんですか?」


「そうなのよ、アイナちゃん。初めて会った人にはとても落ち着いた感じに見えるみたいなんだけど、実は人見知りを隠しているのよ」



 ユリーさんは「本人には私が話したって言わないでね」といたずらっぽく笑っていた。



「でも人見知りなのに、他の種族と仲良くなりたいってこの大陸にまで来たのは凄いわよね」


「その気持がとても強かったんでしょうね、それに彼女も人見知りを克服しようと頑張ってるの」



 俺たちが他の種族だけでなく動物とも仲良くしている姿を、ヤチさんがいつも絶賛してくれるのは、その気持がかなり強いからなんだろう。とてもクールな人という印象があったヤチさんの、意外な一面を知ることが出来た。



「私たちとは最初から普通に話してくれていた気がします」


「私もちょっとびっくりしたんだけど、初めてダンジョンに行った日から、あなた達のことは気に入っていたみたいだし、それにマイちゃんの飲み物やお弁当が美味しかったからよ」


「……オーフェが居るし、みんな仲良しだから?」


「ヤチはあなた達のようになりたいと思っているから、きっとそれもあるわね」



 その後もユリーさんからダンジョンの話を聞いたり、学会の愚痴を聞いていたらお風呂から2人が出てきた。手を繋いで楽しそうに部屋に入ってくる2人は、よく温まってきたんだろう湯気が出そうなくらいにホカホカとしているようだ。



「お風呂はどうでした?」


「いいお湯でした、広くてとてものんびり出来るお風呂ですね」


「ヤチ姉さんはすごく柔らかかった!」



 ヤチさんが恥ずかしそうに頬を染めている、オーフェは風呂場で一体何をしたんだ。



「ユリーさん、次は私たちと入りましょう」


「……一緒に入る」


「わかったわ。それじゃあ、お先にいただくわね」



 今度はユリーさんがアイナとエリナに連れられてお風呂に向かった。アイナのしっぽも揺れていて、エリナのしっぽも伸びているので、2人ともとても嬉しいみたいだ。



「ヤチ姉さんも今日は一緒に寝るよね?」


「このベッドでですか?」


「他にも部屋はあるけど、ここでみんなと一緒に寝るのもいいと思うわ」


「他の部屋のベッドは普通の寝心地ですよ」


「ウミも一緒に寝たいのです」


「あんっ!」


「本当に良いんでしょうか?」


「ユリーさんもアイナとエリナに誘われると思いますし、俺も一緒の事に問題がなければ是非」



 俺の方を窺うように見てきたヤチさんにそう答えると、ここで寝ることを了承してくれた。オーフェがとても嬉しそうにしている、今日はヤチさんの隣で寝るんだろう。


 それからヤチさんと話をして、ユリーさんのちょっと怠惰(たいだ)なエピソードなどを聞いた。研究や自分の興味のある事には積極的だが、それ以外の事は不精な所があるみたいだ。生活面や身の回りのことをヤチさんがサポートしているらしく、もう少ししっかりして欲しいと言ってはいるが、とてもいい関係だというのは話をしている顔を見ればわかる。


 そうしていると3人がお風呂から上がってきたようだ。こちらも楽しそうに笑っていて、お風呂を満喫してくれたのがわかる。



「湯船も大きくてすごく良いお風呂だったわ、ありがとう」


「ユリーさんに頭や体を洗ってもらいました」


「……私も洗ってもらった」


「ふふふふふ、エリナちゃんのあれは反則だったわ」



 その時のことを思い出したのか、ユリーさんがベッドの上に崩れ落ちた。体を洗ってもらったと言っていたし、きっとあの“まろやかさん”に直接触れてしまったんだろう。強く生きて下さい。


 入れ替わりに、イーシャとウミと麻衣とカヤとシロがお風呂に行く。



「本当に精霊も妖精もお風呂に入るのね」


「ウミちゃんはお風呂が大好きなんですよ」


「カヤちゃんもダイ兄さんがこの家に住むようになってから入るようになったね」


「……シロもお風呂が好き」


「虹の架け橋の皆さんとこの家は本当に素晴らしいです、こんな場所が王都に存在するなんて夢のようです」



 ヤチさんが何やらうっとりとした目で語り始めた、彼女の目指す理想の世界に近いこの家は楽園(パラダイス)に映っているのかもしれないな。



◇◆◇



 あれから俺もお風呂に入り全員のブラッシングをして、ユリーさんもアイナ達やヤチさんに説き伏せられて、みんなで一緒に寝ることになった。



「まさか、ダンジョンの護衛を依頼した冒険者のパーティーと、こうして同じベッドで寝ることになるなんて、思ってもみなかったわ」


「私もこうやって色々な種族の方と枕を並べられるなんて、今日ほどこの大陸に来て良かったと思ったことはありません」



 今日はヤチさんの隣でオーフェが寝て、ユリーさんの隣にエリナが居る。アイナはブラッシング後にうとうとし始めて、いつものように俺の隣で寝ているし、そのアイナの横は麻衣の定位置だ。反対側にはカヤが居てその隣にイーシャが寝ている。ウミは枕の上で、シロは俺の頭の近くで丸まっている。



「ダイ君のなでなでとブラッシングは凄いわね。普通、狼は人には殆ど懐かないのよ、でもシロちゃんはあなたの事を凄く信頼しているみたいだわ」


「それに以前見た馬も凄く懐いてましたね」


「それにカヤちゃんも、ダイ兄さんのなでなでで救われたんだよ」


「優しく撫でていただいて、私の存在する道を示してくださったのが旦那様です」


「……あるじ様のなでなでは、私の心も癒やしてくれた」


「ダイ君、あなたはきっと他の人とは違うものを持っているのよ、それを大切にすると良いと思うわ」



 ユリーさんがそう言って俺に微笑みかけてくれる。異世界人である俺や麻衣は、この世界の人達と違う感性を持っていると思うが、それを忘れないようにしようと思った。




―――――・―――――・―――――




 次の日は布ボールを使ってみんなで遊んだり話をしたり、教授たちはお昼も食べて帰る事になった。朝食も昼食もとても喜んでくれて、少し食べすぎたと思ったのか、シロ達と一緒に走っていた。



「本当にありがとう、食事も美味しかったし、ベッドは素敵だったし、お風呂も気持ちよかったわ」


「また泊まりに来てね」


「必ず来ますね、オーフェちゃん」


「今度はちゃんと泊まる準備をしてくるわね」



 ユリーさんはそう言って笑ってくれる。少し強引だったが、2人に泊まってもらえて本当に良かった。みんなとそれぞれ挨拶を交わして、自宅へと戻っていった。






 こうして教授たちとの食事会とお泊まり会が終了した。


再会編とでも言うべき7章でしたが、これで終了です。

次章はとある人物絡みの話になります(章タイトルで一目瞭然ですが(笑))


年末に向けて多忙になるため、次章から更新ペースが落ちると思います。

数日空いたり不定期になってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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