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第75話 教授たちの訪問

「カヤ、ただいま。今回の旅は、無事終わったよ」


「お帰りなさいませ、旦那さま、皆様」



 出迎えてくれたカヤの頭を撫でて、みんなで挨拶をする。シロもカヤの手をペロペロと舐めて、とても嬉しそうに尻尾を振っている。



「旦那様。昨日、王立ダンジョン研究所からお手紙が届きました」



 受け取った手紙を開封してみると、今から3日後に教授たちが俺たちの家を訪問したいという内容だった。ちょうどいいタイミングで帰ってこられた事にほっとして、買い出しとか色々準備を整えておかなければいけないと、全員に日程を伝える。



「ヤチ姉さんに会えるのが楽しみだよ」


「オーフェちゃん、アーキンドの朝市に連れて行ってくださいね」


「うん、任せてよマイちゃん」



 2人だけで買い物はちょっと不安なので、俺か他のメンバーも付いていくことにしよう。主にオーフェの迷子対策なんだが。



「ご主人様、お二人にも泊まっていってもらいましょうよ」


「そうだな、できれば泊まってもらってゆっくり話がしたいな」


「……お風呂も一緒に入りたい」



 教授はこの世界の人族だけど、獣人に偏見を持ってないので2人もとても懐いていて、せっかくなのでこの家に泊まってゆっくりして欲しい。



「それなら、2人の寝間着とかも用意しちゃいましょうか」


「イーシャちゃん、それいいね」


「大きさとかわかるのか?」


「それは私に任せなさい、完璧に揃えてみせるわ」



 なんかイーシャがとても燃えている、あの2人の話は面白いので是非とも引き止めたいんだろうな。


 こうして教授たちを迎える準備が次々と決められていった。



◇◆◇



「カヤとこうして眠るのも久しぶりだな」


「皆様が居ない時も眠るようにしていますが、一緒のほうが安心します」



 今日はカヤが俺の隣で横になっているが、いつもより距離が近い。ずっと1人にしてしまったので、寂しかったんだろう。頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めてくれる。



「カヤちゃんも一緒に旅が出来るといいんですけど」


「こればかりはダイでも解決できないわよね」


「カヤが家以外のものにも宿ることが出来るなら可能かもしれないけど、ちょっと思いつかないな」



 旅の疲れで寝てしまったメンバーを起こさないように、麻衣とイーシャとカヤの4人で話をしているが、家に()く妖精のシステムがわからないので、どういった手段で回避できるか想像もつかない。



「私はこうやって大切にしていただけるだけで十分幸せです。他の家の妖精のことはわかりませんが、とても恵まれていると思っていますので、気に病まないで下さい」



 そう言ってカヤは俺の方にそっと身を寄せてくれる。あまりこの話題のことを話すとカヤが気にしそうだし、これくらいでやめる事にしよう。



「アーキンドの街に行けるようになったから、今度はカヤも一緒に朝市に買い物に行こうな」


「夏になったら一泊して泳ぎにも行きましょうね」


「カヤちゃんの水着も買わないといけないわね」


「イーシャ様、みずぎって何でしょう」


「泳ぐ時に着る服よ、カヤちゃんもきっと似合うわよ」


「泳いだことはないのでうまく出来るかわかりませんが、皆様と行くのなら楽しみです」


「泳ぐだけでなく、砂浜で遊ぶのも楽しいから、きっと気にいると思うぞ」



 これから訪れる夏のことを話しながら、みんなで眠りについた。




―――――・―――――・―――――




「こんにちは、素敵な家を買ったのね」


「お邪魔します」



 3日後のお昼すぎに、ユリーさんとヤチさんが家を訪ねてくれた。2人ともいつもと違ったよそ行きの服で、とても似合っている。



「いらっしゃい、ユリーさん、ヤチさん」


「いらっしゃいませ、ユリー様、ヤチ様」



 俺とカヤが玄関で出迎える。2人は丁寧な挨拶をした背の低いカヤのことに驚いているみたいだが、彼女の秘密を知ればどんな表情になるだろう。



「とても小柄な方だけど、使用人も雇ったの?」


「彼女の事は後で紹介しますので、まずはリビングに行きましょう、みんなが待ってます」



 少しお預けをしているようで心苦しいが、朝からオーフェがそわそわとして待ちきれない様子だったので、早く合わせてやろう。疑問を浮かべたままの2人をリビングに案内する。



「ヤチ姉さん、こんにちは!」


「オーフェちゃん、元気にしてましたか?」


「うん、ここに来てから毎日が楽しいよ!」



 オーフェがヤチさんに走り寄って、抱きつきながら挨拶をしている。ヤチさんもオーフェの頭を撫でながら嬉しそうにしていて、こうして見るとほんとに仲の良い姉妹に見える。オーフェには実の姉がいるらしいが、あまり構ってくれなかった様なので、こうして相手をしてくれるヤチさんの事が嬉しくてたまらないんだろう。



「ユリーさん、ヤチさん、こんにちは」


「……こんにちは、また会えて嬉しい」


「いらっしゃい、今日はゆっくりしていってね」


「ウミも会いたかったですよ」


「今夜はごちそうを作りますから、楽しみにしていて下さい」


「あん、あんっ!」



 全員がそれぞれ挨拶をして、最後に声を上げたシロの事に気づいたユリーさんとヤチさんの顔が、少し緩んだ気がする。



「かっ、可愛らしい犬を飼ってるのね」


「真っ白ですごく綺麗です」



 シロは2人の足元に行ってじゃれ付いている。頭を撫でてもらったり手を舐めたりして、シロも嬉しそうにしているが、2人も表情を更に緩めて抱き上げたり頬ずりしたりしている。シロの可愛さが2人の琴線(きんせん)に触れてしまったようだ。



「シロは白狼(はくろう)の子供なのよ」


「白狼ってすごく希少な動物じゃない、一体どうしたの?」



 王都に移動中に怪我をしたシロを見つけた経緯と今までの出来事を話したが、ヤチさんは「流石です」と言いながら話を聞いていた。やはりこの人は動物を含めた他種族と仲良くなりたいみたいだ。



「確か白狼はエルフが神聖視していたわね」


「そうよ、神の使いと呼んでいるわ」



 俺には仔犬にしか見えなかったシロを狼の子供だと言ったのはイーシャだったし、神聖視している存在だから詳しかったのか。それにしてもさすが教授だ、他種族の風習にも詳しいんだな。



「皆様、お茶の準備ができましたので、お席にお付きください」



 そう言えば、リビングに来たままずっと立ち話をしていた。全員でソファーに座り、カヤがそれぞれにお茶を配っていく。ちょうどいいので、ここで紹介しよう。



「この娘はカヤと言って、この家を守ってくれているんです」


「この家に()んでいる、妖精のカヤと申します」



 俺の横で頭を下げるカヤを見た2人が固まってしまった、教授はなにか言いたげに口をパクパクとさせている。人族はあまり妖精に興味が無いと宿屋の女将さんが言っていたが、博識な教授のことだから詳しいのかもしれない。



「よ、よ、妖精!? まさかこの王都で、妖精のいる家を手に入れるなんて、ダイ君一体何をやったの」



 何をやったのとは人聞きが悪い、強いて言えばカヤの頭を撫でたくらいだ。しばらく俺とカヤの間で視線を彷徨(さまよ)わせていたが、落ち着いてきたので説明をすることにしよう。カヤも隣りに座ってもらい、一緒にお茶をしながら説明をした。



「あなた達と居ると驚くことばかりだわ、少し離れている間に白狼や妖精まで仲間になるなんて」


「俺としては巡り合わせが良かったとしか。それにしても、人族は妖精にあまり興味が無いと聞きましたが、ユリーさんはかなり詳しいみたいですね」


「確かに私たち人族は興味を持つ人が少ないけど、他の種族にとって妖精のいる家は憧れだもの。それに私は他の種族の伝承や風習に興味があったから、色々調べて知っているだけよ」



 ヤチさんがユリーさんと一緒にいるのは、きっとこうして偏見を持たずに他の種族と向き合ってる姿勢に惹かれたんだろうな。



「妖精のことは文献で見たくらいだけど、家事や家の管理をやってくれる存在でも、こうして一緒にお茶を飲んだり、笑い合ったりするなんて書いてあるものは無かったわよ」


「カヤちゃんは私たちと一緒に寝ていますよ」


「前は一緒に公園にも遊びに行ったのです」


「食材の買い出しも手伝ってくれますね」


「……お風呂も一緒」


「シロも時々遊んでもらってるよ」


「あうっ!」


「カヤちゃんの作ってくれたベッドは素晴らしいわよ」


「カヤは大事な家族ですから」



 みんながそれぞれ、この家でやっていることを口にして、俺が隣りに座っているカヤの頭を撫でながら纏めると、嬉しそうに微笑みを返してくれる。



「あなた達の仲間は、全員規格外ね」


「すごく感動しました、本当に素晴らしいです」



 2人は優しい笑顔を浮かべてこちらを見ている。カヤも最初に会った頃と比べて俺に甘えてくるような仕草も多くなったし、喋り方も肩肘を張った感じが抜けて少し柔らかくなってきた。こうやってみんなで仲良くしていけば、妖精としての在り方にも変化が訪れるかもしれない。



「ところで、ヤチ姉さんたちは今夜泊まっていってくれるの?」



 話が一段落したところで、オーフェが早速お泊まりに誘っている。色々と準備は整えてあるし、時間さえ許せば、ぜひ泊まっていって欲しい。



「いえ、流石にそこまでお世話になるわけには」


「お二人は何か予定はあるんですか?」


「明日はお休みだし、特に予定はないけど」


「私、ユリーさんと一緒にお風呂に入りたいです」


「……私も入りたい」


「この家のお風呂なら3人位一緒に入れるのです」


「でも私たち着替えとか持ってきてないわよ」


「それなら大丈夫よ、こんな事もあるかもしれないと用意してあるわ」



 イーシャが精霊のカバンから、着替え一式を取り出した。あまりの用意の良さに2人とも少し唖然としているが、もうひと押しで心の天秤も傾きそうな気がする。



「明日の朝ごはんも、よければお昼も食べていってもらっていいですよ」


「そっ、それは……!」



 ユリーさんがすごく葛藤しだした、なにせ麻衣の手料理だからな。あのお弁当の味を知ってしまったからには、この誘いに(あらが)うことは非常に困難だろう。



「教授、これは私たちの負けです、素直にお誘いをお受けしましょう」


「わかったわ、今夜は泊まらせてもらうことにするわね」



 アイナとエリナとオーフェは手を取り合って喜んでいる。イーシャは、してやったりという様な笑顔を浮かべているが、ちょっと悪い笑顔に見えるので自重したほうが良いかもしれない。


 シロも2人の足元に近寄ってくるくる回っているので、泊まっていってくれることを喜んでいるみたいだ。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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