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第74話 アーキンドの街での再会

「カヤ、ただいま」


「旦那様、オーフェ様、お帰りなさいませ」



 挨拶をすると嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるカヤの頭を撫でる。夕食後、ロイさんの家の離れから自宅に一旦戻ってきた、カヤも安心させたいし経過報告をするつもりだ。



「カヤちゃんただいま、新しい街に着いたから顔を見に戻ってきたよ」


「セカンダーの街に寄るとおっしゃってましたが、無事に着かれたのですね」


「あぁ、以前お世話になった人の所に泊めてもらえることになった」



 カヤの出してくれたお茶を飲みながら、リビングでセカンダーの街の話をした。オーフェのおかげで、旅の途中でも一時的に戻ってこられるのがいい。空間転移には明確なイメージが必要なので、街や村など特徴のある場所しか覚えられないが、こうやって時々にでもカヤの顔を見に帰って来られるのがありがたい。


 しばらく3人で話をして、ロイさんの家に戻ることにした。




―――――・―――――・―――――




 昨夜はアイナだけでなく、オーフェも俺のベッドに来て一緒に寝ることになった。2人とも独り寝が寂しかったようで、俺にくっついたまま一晩中離れなかった。ウミとシロもいるので少し狭かったが、2人のぬくもりを感じながら俺も安心して眠れた気がする。



「突然の訪問だったのに、宿泊までさせていただいてありがとうございました」


「君達ならいつでも歓迎するよ、また旅の話を聞かせて欲しい」


「お菓子も美味しかったわ、またいつでも来てちょうだいね」



 後ろに控えている使用人の人達も頭を下げてくれた、少し名残惜しそうな感じなのは、麻衣のお菓子が美味しかったせいだろう。


 翌朝、ロイさんの家を後にして、アーキンドに向けて出発する。


 石鹸やジャムもお願いしていくつか分けてもらった、今回も無料でいいと言ってくれたが、流石に毎回は悪いので、代金は支払っている。といっても、かなり格安で売ってくれたが。それに、今年の夏もアーキンドに行くなら別荘を使ってくれていいと言ってくれた、ロイさんにはお世話になりっぱなしで、何か2人の為に出来ることを考えなければいけない。



「2人とも優しい人だったね、特にリンダさんの近くに居るとすごく不思議な気持ちになるよ」


「……私が一緒に居ても嫌な顔をしなかった、とてもいい人」



 リンダさんのあの空間はとても居心地がいいし、アイナのおかげで獣人に対する見方が変わったみたいだから、初めて会ったオーフェとエリナもそれを感じたんだろう。



「リンダさんとウミちゃんが一緒にいると何か癒やされる感じがするわね」


「それわかります、美味しそうにお菓子を食べながら笑っていると、とても優しい気持ちになれますね」


「それはマイちゃんのお菓子が美味しいからなのです」



 ウミとリンダさんは妙に馬が合うみたいだし、2人が話していると近くに居る使用人の達も幸せそうな笑顔で見ているので、その気持はあの家にいる全員が持っているに違いない。



「お二人には何かしてあげたいですね、ご主人様」


「そうだな、何か困っている事が出来たら最優先で力になろうな」



 セカンダーの街を離れて街道を進んでいく、ロイさんに直接お礼も言えたし、前回来た時に出かける時間がなかった麻衣も一緒に街を回れたのも良かった。海に面しているだけあって、商店には魚も売っていたので何匹か購入していた。この街では朝市は開催されないようだが、それは次のアーキンドに期待しよう。


 美味しい魚介類を目指して馬車は進んでいく。




―――――・―――――・―――――




 その後も旅は順調に進んでいて、もうすぐアーキンドに着くはずだ。シロも毎日元気に走り回っていて、旅を楽しんでくれている。馬の背中に乗せてもらうのも相変わらずで、ウミが頭に乗ってシロが背中に乗っていると、すれ違う冒険者や商人が立ち止まってこちらを見てくる事が多い。


 白くて目立つし、何より可愛いからな。女性冒険者が頬を染めて、馬の上のシロとウミを見る気持ちもよく分かる。狼の子供も犬と同じで成長は早いだろうから、この光景が見られるのは今だけだろう。



「みんな、アーキンドが見えてきたぞ」



 俺の声で全員が馬車の前方に集まってくる。



「……私があるじ様たちと出会った街」


「海水浴楽しかったです」


「この馬さんと出会ったのもここなのです」


「とても賑やかそうな街だね」


「お店も屋台も多くて、いい匂いのする街だったわ」


「朝市が私を呼んでます」



 みんなそれぞれがアーキンドの感想を言い合う。この馬とここから旅に出て、とうとう戻ってきたな。お店の人はあまり懐かないと言っていたが、俺たちパーティーメンバー全員に加えて、シロとまでとても仲良くなった。このままシロを背中の上に乗せてお店まで行ったら、きっと驚かれるに違いない。



◇◆◇



 この街もセカンダーと同じく、獣人の主人登録もいらないし身分証を簡単にチェックするだけで、すんなり入ることが出来る。馬の背中に乗るシロには少し驚いていたみたいだが、飼っている動物の入場で何か言われることもない。


 そのまま馬車を返却しに店に向かう。ちょうど借りる時に馬の世話の仕方や扱い方をレクチャーしてくれた、元気なお姉さんが居たので挨拶する。



「こんにちは、馬車の返却に来ました」


「あんた達はあの時の冒険者じゃないか、それにこの子はうちから借りていった子だね」


「はい、ずいぶんと俺たちの旅を助けてくれました」



 お姉さんはこちらの方に歩いてきながら馬の方を見て、背中に乗っているシロを発見したのか立ち止まった。



「なんか白いのが上に乗ってるけど、これもあんた達の仲間かい?」


「あんっ!」


「あたいは馬の背中に乗っている犬なんて初めて見たよ、しかもこの子も全然嫌がっていないし、夢でも見てるんじゃないかね」



 お姉さんがちょっと現実逃避し始めたので、ここまで旅をしてきたルートとシロのことも紹介した。



「じゃあ、あんた達は北まで行って、そこからまた王都を経由してここに戻ってきたっていうのかい」


「そうなりますね」


「この子がそんな長い時間、特定のお客さんと旅をしたことなんて今まで一度も無かったよ。それにすごく元気ではつらつとしてるし、毛艶はこの店に居た頃より明らかに良くなってるよ」


「餌もよく食べましたし、ブラシがけも毎日気持ちよさそうに受けてましたから」


「あんた達に借りてもらって本当に良かったよ。あんたなら他の馬とも仲良くやれそうだし、やっぱりうちで働かないかい? 優遇したげるよ」


「申し訳ないですが、まだ冒険者を引退するつもりはないので」



 今回もまた勧誘されたので、お断りした。それからみんなそれぞれ馬と別れの挨拶を済ませ、お店を後にする。



「また誘われたわね」


「あの馬には特別気に入られたけど、他も同じようにはいかないと思うんだけどな」


「ご主人様のなでなでとブラッシングがあれば大丈夫ですよ」


「……あるじ様なら、他の牝馬(ひんば)でも大丈夫」



 エリナもなぜそんな単語を知ってるのか。というか、女たらし設定をずっと引きずってるわけじゃないだろうな、頼むから忘れてほしい。



「エリナちゃん、ひんばってなんのです?」


「……女の子の馬のこと」


「ダイ兄さんはシロにも一番なつかれてるし、何か出てるのかもしれないね」


「あんっ!」



 オーフェ何かってなんだ、フェロモンみたいなものか? それにシロは狼だから、群れのボスみたいに俺のことを思ってる気がする。



「ダイ先輩、狼や馬ならいいですけど、あまり変なものに好かれないで下さいね」


「変なものって一体何だ!?」


「魔物とか?」



 さすがに魔物はないだろう、撫でる前に襲われてしまいそうだし、万一好かれてもそんなのを連れて歩くとパニックになる。



「魔物にも性別ってあるのか?」


「私は聞いたことないわね」



 それ聞いてちょっと安心した。あの馬の事になると、どうしても俺が弄られるのは避けられそうもないな。


 そんな他愛のない話をしながら、街を歩いていく。



「この街って本当に屋台が多いね、王都と違ってあちこちにあるから目移りしちゃうよ」


「はぐれないように、ちゃんと手を握ってるんだぞ」


「うん、ダイ兄さんの手は絶対に離さないよ」



 俺の手を握り直してきたオーフェを連れて、ロイさんの別荘へと進んでいく。何度もみんなで歩いたこの街並みは、季節が違っても変わることがない。ただ、夏とは異なり観光に訪れる人が少ないからか、人の数は減っている。



「これが別荘か、とても素敵な建物だね」


「お風呂もあるし、厨房も広かったな」


「ウミもここでお風呂の事が好きになったのです」


「みんなで眠ることが出来る部屋もあるわよ」


「ベッドを2つくっつけて一緒に寝ましたね」


「……私もみんなと寝るようになった大切な場所」


「王都から直接来られるようになりましたから、カヤちゃんも連れて一泊して、一緒に朝市に行くのもいいですね」


「ちゃんと場所は覚えたから、絶対みんなで来ようね!」


「あうんっ!」



 その後は港の方にも行ってみる、流石にこの時間に市は開かれていないが、多くの船が停泊していて行き交う荷物も多い。



「おっ、あんたらはロイさんのとこの冒険者じゃないか」



 声のした方を見ると、俺たちをセカンダーからアーキンドまで運んでくれた運搬船の船長さんだった。



「ご無沙汰してます、あの時はお世話になりました」


「なに、荷物を運ぶついでだ構わねぇよ。それにあの時はセカンダーからここまで来る時間の最短記録だったんだぜ。他の船員の間じゃ、精霊とエルフの加護のおかげだって噂になってな。またいつでも運んでやるから声をかけてくれ」



 そう言って豪快に笑う船長さんだが、やはり俺の考えは正しかったのかもしれない。



「あの、船長さん、これ良かったらまた皆さんで食べてください」


「こりゃすまねぇな。以前もらった焼き菓子と同じものを買ってきたやつが居るんだが、お嬢ちゃんにもらったほうが断然うまくて、一体どこの商品なんだって話題なったんだ。みんなもきっと喜ぶぜ」



 麻衣が渡したお菓子を、船長さんは嬉しそうに受け取る。こうやって折にふれてお菓子を渡してくれるから、お世話になった人達の印象や覚えも良くなってるんだろう。麻衣には感謝しないといけないな。


 船に戻る船長を見送ってから、俺たちもそろそろ自宅に帰ることにする。



「しっかり覚えたから、いつでもこの街には来ることが出来るよ」


「それじゃぁ、俺たちの家に戻ろうか」



 建物の影に移動して、空間転移で自宅への門を開く。あまりゆっくり出来ない旅だったが、これでいつでも来られる場所が増えたのは大きい。そろそろ教授たちも王都に来る時期だし、戻って準備を整えよう。


次回、教授たちが再登場です。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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