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第72話 ピクニック

 そのまま街を横切るように移動して、公園へと到着した。やはりこの時期はまだ人は少ないようだが、今日は比較的暖かい日なので、ピクニックにはちょうど良い。


 麻衣の案内でその場所に行くと、木々の間の広場になっていて、日当たりも良く地面には芝のような草が生えている。他には誰も居ないので、俺たちの貸し切りだ。



「これはいい場所だな」


「とても素敵な場所です、今日は一緒に出かけることが出来てよかったです」


「日当たりもいいし気持ちいいわね」


「ここなら思いっきり遊べそうなのです」


「シロ、走りに行きましょう!」


「あうんっ!」


「ボクも行くよ」


「……私も行く」


「すぐお昼にしますから、あまり遠くに行っちゃダメですよ」



 元気よく返事をして走りに行ったアイナやシロたち以外のメンバーで、大きな布を広げてお昼の準備をする。お弁当は大きめの箱をいくつか用意している、やはりピクニックは個別の弁当でなく、同じ箱のものをみんなで食べるのが良いな。


 お弁当作りは俺も手伝おうとしたが、お昼の楽しみにと言われたので中身は知らない。だが、麻衣の作るものに間違いはないので期待が膨らむ。


 お弁当を並べ終わった頃、アイナ達が帰ってきたが何か様子が変だ、2人とも不安と焦りが見える。よく見るとオーフェが居ない。



「……オーフェが居なくなった」


「少し目を離した時に何処かに行ってしまいました、どうしましょうご主人様」



 申し訳なさそうにしている2人の頭を撫でながら思い出す、そう言えばオーフェは方向音痴だったな。王都では誰かが手を繋いで歩いていたから、迷子になることはなかったが、遊んでいたら隣町に行ってしまうような娘だ、木の密集してる場所に入り込んでしまったのかもしれない。



「2人のせいじゃないよ、俺もうっかりオーフェが方向音痴なことを忘れていた」



 アイナが気配を察知できないくらいだから、離れた所に行ってしまったんだろう。最悪、空間転移で家には帰って来られるだろうが、せっかくのお弁当をみんなで食べたい。どうしようか考えていたら、シロが俺のズボンの裾を噛んで引っ張ってきた。



「もしかしてオーフェを探せるのか?」


「あんっ!」



 俺が立ち上がると、先行するように歩き出したので、付いていくことにする。



「シロがオーフェの居場所をわかるみたいだから、ちょと行ってくるよ。みんなはここで待っていてくれ」



 俺が付いてきてる事がわかったシロは、一直線に広場の外を目指して走っていく。木の間を走り抜けてしばらくすると、前の方に赤い影が見えた。オーフェは不安そうにキョロキョロと辺りを見回している、始めて来た場所だし周りは木ばかりなので心細いのだろう。



「オーフェ!」


「あっ、ダイ兄さん、良かった。ごめんね、ちょっと道に迷っちゃったみたいなんだ」


「シロが見つけれくれたから大丈夫だ、もうお昼だからみんなの所に戻ろう」


「うん、シロもありがとう」


「あうっ!」



 ホッとした表情を見せるオーフェと手をつないで広場の方に戻る、ここでもシロが先導してくれたので一直線に戻ることが出来た。多分、犬と同じように匂いでわかるんだろうな。シロのお陰でピクニックが台無しにならずに済んだ、今夜のブラッシングは時間をかけてやってやろう。



「みんな、見つかったぞ」


「オーフェちゃん、良かったです」


「……心配した」


「みんなごめんね、気がついたら周りが木でいっぱいだったんだ」


「シロが見つけてくれたのね、偉いわ」


「お手柄なのです」


「あうんっ!」


「みんな、お腹がすいたでしょ、ご飯にしましょう」


「そうだな、こんな天気のいい日に外で食べるお弁当は美味しいぞ」


「お飲み物を用意しましたので皆様どうぞ」



 カヤが全員にコップを渡してくれたので、みんなでお弁当の周りに座る。お弁当の蓋を開けると、野菜と一緒にお肉や魚を挟んだパンに、色々な種類の果物を細かく切って何かで固めてあるデザートが入っていて、とても綺麗だ。



「こっちの箱がお肉で、こっちがお魚です、いっぱいあるのでたくさん食べてくださいね」


「これはいつも以上に豪華だな、作るのが大変だっただろう」


「アイナちゃんやカヤちゃんも手伝ってくれたので、そうでもないですよ」


「ご主人様をびっくりさせたくて頑張りました」


「旦那様に喜んでいただけるように心をこめて作りましたので、お召し上がりください」



 俺に手伝わせてくれなかったのはそういう訳だったのか、とても嬉しいし早速いただくことにしよう。



「ダンジョンで食べるお弁当や、移動中に食べるご飯とは違う美味しさがあるね」


「ダンジョンとかはあまり落ち着けないから、こうやってのんびり食べるお弁当はいいわね」



 オーフェとイーシャも美味しそうに食べている。アイナの索敵があるとはいえ、ダンジョン内や移動中だとどうしても気を張ってしまうし、こんな自然に囲まれた場所で純粋に食事だけ楽しむのとは違うから、更に美味しく感じるな。



「……お魚を挟んだのが美味しい」


「この小さく切った果物を固めたのがすごいのです」


「それは食堂のおじさんに、新しいソースの作り方と冷えると固まる材料を教えてもらったので作ってみたんですよ」



 先日、挨拶に行くと言っていたが、レシピや材料を教えてもらってきていたのか。おじさんも流石にプロの料理人だけあって、常に新しい味の探求に力を注いでいるのが凄い。それに、この世界にも寒天やゼリーみたいな材料があったんだな、これがあるとお菓子のバリエーションも増えそうだ。


 シロはパンを食べさせるのはダメみたいなので、肉と野菜と芋を細かく切って茹でたものを作ったらしいが、こちらも美味しそうに食べていて、尻尾の動きがその喜びを表現している。


 お肉を挟んだパンも、新しいソースをかけた魚のフライを挟んだパンもとても美味しかった。それにフルーツ入りのゼリーみたいなデザートも、上品な甘さでついつい手が出てしまう味だった。


 あれだけ量のあったお弁当もきれいに無くなって、みんなで食休みすることにした。



◇◆◇



「はぁー、お腹いっぱいだ」


「……しばらく動きたくない」


「ボクもちょっと食べすぎたよ」



 地面に広げた布の上で大きく伸びをする、今日は風も穏やかで雲ひとつない青空が広がっている。日差しのよく届くこの場所は暖かく、このまま眠ってしまえば気持ちが良さそうだ。



「ねぇ、ダイ先輩」


「なんだ?」


「教授たちが来る前に、新鮮なお魚を買いに行きたいです」



 王都でも魚は手に入るけど、この世界は物流や保存技術が発達してないので、あまり種類が豊富じゃないんだよな。アーキンドの朝市で見た魚の種類と比べると、どうしても見劣りしてしまう。今から出発すれば、陸路でアーキンドまで行っても、オーフェの空間転移で十分戻ってこれそうだ。



「ロイさんたちにも別荘のお礼を直接言いたいし、セカンダー経由でアーキンドまで陸路で行くのもありかな」


「新しい街に行くの? 街とかならすぐ覚えられるからどこに行っても大丈夫だよ」


「ジャムもたくさん買うのです」


「石鹸も欲しいわね」


「アーキンドで食べた貝は美味しかったです」


「……お魚も美味しい」



 この機会にオーフェの行ける場所を増やしておくのは良いかもしれない、観光は時間のある時にゆっくりすればいいし、折角だし行ってみるか。



「カヤって長い間あの家から離れても大丈夫なのか?」


「旦那様やご家族の方と一緒なら一日程度離れても大丈夫ですが、長期間だと力が無くなってしまいます」



 残念だけど、カヤと旅行は無理みたいだな。みんなも残念そうにしているが、家の妖精だから仕方ないか。オーフェが場所を覚えてくれたら連れて行くことも可能だろうし、一緒に出かけるのはその時にしよう。



「オーフェが色々な場所を覚えたら、その時はカヤも一緒に行こうな」


「はい、ありがとうございます旦那様」



◇◆◇



 食休みが終わったら遊びの時間だ。ここなら思いっきりボールを投げても大丈夫なので、力いっぱい振りかぶる。



「いくぞー」


「身体強化なしでも負けませんよー」


「……がんばる」


「ウミだって負けないのです」


「ボクはマナコートが使えるから負ける訳にはいかないよ」


「あうーんっ!」



 今日はウミも参加している、もちろん精霊魔法は禁止だが、彼女はボールを持ち運べないのでタッチしたら勝ちにした。アイナとエリナは身体強化禁止だ、オーフェは年齢や身長のハンデがあるので、マナコートを使っても良いことにしている。


 遠くを狙って投げると、クッション材を目一杯詰め込んだボールは意外に飛距離が出た。庭と違って地面に凹凸があるからか、シロが一番早い。さすが4本足で走るだけあって、足場の悪さを物ともしない安定した走法で、後続をわずかに引き離す。ウミも空中を飛んでいるだけあって割と早いが、シロには追いつけないようだ。



「あうっ!」


「すごいなシロ、整地されてない場所ならお前が一番だ」



 俺の前にボールを運んできたシロの頭を撫でると、尻尾をブンブン振って喜んでいる。



「ここに来たときも思ったけど、結構走りにくいね」


「急に低くなってる所とかびっくりします」


「……草も強敵」


「ウミは空を飛んでるのに追いつけなかったのです」



 その後も、フェイントを入れながら別の方向に投げたり、色々やってみたが、シロの勝率が一番だった。



「シロ、いくよー」


「あうっ!」



 今はそれぞれ離れてキャッチボールしながら、時々シロにボールを投げている。オーフェの投げた山なりのボールを、シロは空中で器用にキャッチする。フライングディスクを空中で捕まえる犬とか見たことあるが、ボールでやってしまうとはシロもなかなかすごい。


 ウミも空中を飛び交うボールを追いかけたりしていたが、途中で疲れたらしく今は他のメンバーと一緒に見学してる。


 そうしてしばらく遊んでいたが、オーフェが疲れたと言って地面に敷いた布の上で横になっていたら、そのまま電池が切れたように眠ってしまったので、その日はお開きにすることにした。



◇◆◇



 オーフェは俺がおぶって、シロはイーシャに抱いてもらっている。みんなで公園を出て街の中をのんびり歩く。



「……うにゅ…………ダイ兄さん」



 俺の背中からオーフェの寝言が聞こえる、なにか夢を見てるんだろうか。今日は迷子になるトラブルもあったが、とても楽しい一日だった。いっぱい食べて、いっぱい動いて、オーフェもだいぶ疲れたんだろう。



「オーフェちゃん笑ってるわね」


「なにかいい夢を見てるんでしょうか」


「夢の中でもダイ先輩と遊んでいそうですね」


「……私はあるじ様に撫でられる夢を見たい」


「ウミはその夢見たことあるですよ」


「ウミ様うらやましい」



 俺は、精霊も夢を見るんだなと考えながら、オーフェを起こさないようにそっと背負い直す。こちらからは顔は見えないが、みんなで楽しく遊んでいる夢を見てるに違いない。






 オーフェのぬくもりと重さを感じながら、笑顔を浮かべる仲間たちと我が家へと帰っていく。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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