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第71話 隠し部屋

 王都にはいくつかダンジョンがあるが、そのうちの一つに俺たちは来ている。


 ここは中級者向けのダンジョンだが一つ面白い特徴があって、隠し部屋がいくつか存在するらしい。その隠し部屋も時間が経つと場所が変わってしまうらしく、運良く見つけるとレアなアイテムが発見できる事もある。時間によって場所が変わるとか、まさにダンジョンが生きている証拠みたいなものだ。


 ある程度攻略され尽くしており一層の広さもかなり広いが、地図もあるし万が一隠し部屋で迷ってもオーフェが居るので安心だ。


 今日はシロは家でお留守番をしている、カヤが居るのでご飯の心配もいらないし、まだ仔狼なのでダンジョンの中は危険だろう。もう少し大きくなって自分で狩りができるようになれば、一緒に冒険をするのもいいかもしれない。



「一攫千金を狙ってもっと人が多いかと思ったけど、そうでもないな」


「探索され尽くしているみたいだし、隠し部屋は滅多に見つからないから、余裕のある時に入ってみる人が多いのかもしれないわね」


「こういうのは宝探しみたいでワクワクするから、ボクは好きだよ」



 全く人が居ないわけではないが、もっとごった返してるイメージがあったのでちょっと拍子抜けだ。時々見かける人が壁に手を当てながら歩いていたり、叩いたりしてるのは隠し部屋を確認してるからだろう。



「魔物もあまり強くないですね、ご主人様」


「……もっと下の階に行っても大丈夫」


「そうだな、行ける所まで下ってみようか」



 全8階層でそこまで深いダンジョンではないから、行けそうなら最下層まで降りてみよう。



◇◆◇



「最下層まで来ましたけど、何も見つかりませんでしたね」


「1つくらい見つかると思ったのです」



 麻衣とウミが残念そうに言っているが、ここに来るまで隠し部屋は見つけられなかった。ダンジョン内に埋まっている宝石を見つけられるくらい感覚の鋭いエリナが居るので、もしかしたら発見できるかもしれないと思ったが、甘い考えだったようだ。



「まぁ仕方ないさ、そんなに簡単に見つかったら、ここももっと人で溢れかえってるだろうし」


「……魔核はいっぱい集まった」


「アイテムも少しだけ出ましたね」


「もう少しだけこの階層を探索して帰りましょうか」



 最下層には降りてきたばかりだから、もう少し探索してみるのがいいだろう。このダンジョンは複数の魔物が一度に出てくることがあまり無いので、アイナの索敵と前衛組だけでほとんど対処できる。後衛の3人と、治療担当のウミはあまり活躍できていない。



「……あるじ様、あそこの壁が変」



 しばらくダンジョン中を探索していると、エリナが少し前方にある壁を指差して違和感を訴えた。俺の目には普通の壁に見えるが、彼女の感覚が何かを感じ取っているので隠し部屋の可能性が高い。



「この辺りか?」


「……うん、その辺」



 ペタペタと触ってみた感じは普通の壁だ、少し叩いてみるが崩れる気配もない。俺はあらかじめ購入していたハンマーを取り出して、少し強めに壁を叩いてみる。すると壁に亀裂が入ってボロボロと崩れだした、崩れた先は小さな部屋になっていた。



「見つかったね! 何が出るかなー」


「魔物の気配もないですし、入ってみましょう」


「さすがエリナちゃんね、この感覚の鋭さは素晴らしいわ」



 隠し部屋を見つけて、少しテンションの上がってきたメンバーで中に入る。

 すると、部屋の奥に更に下に降りる階段が見つかった。



「階段があるのです」


「最下層の更に下に行く階段ですか」


「ちょっと期待できそうだね、ボク楽しみだよ」



 人がひとり通れる幅の階段が下の方に続いているが、どこまで続いているかはここからは見えない。麻衣の言う通り、最下層の更に下に行く階段があるなんて、一体何が出てくるのか自然と期待が高まってしまう。



「何が出てくるかわからないけど、慎重に降りてみよう」



 アイナが敵の気配に注意しながら、並んで階段を降りていく。しばらく降りると前方に少し明るい部屋のようなものが見える。魔物の気配もしない様なので中に入ってみると、そこには濃い青色の小さな花がたくさん咲いていた。



「ふわっ、すごくきれいです」


「……かわいい」


「きれいな色をしてますね」


「すごいね、ダンジョンの奥でも花が咲くんだね」


「花の蜜は取れそうもないのです」



 若干一名残念そうにしているが、ダンジョンの奥でこんなに花が咲いているのは不思議だ。草っぽいものが生えているダンジョンもあって、薬の材料になったりするので収集の依頼があったりするが、花を見るのは初めてだ。



「これはツキカゲ草の花ね」


「それはどんな花なんだ?」


「薬の材料になる貴重な花なのだけれど、ダンジョンの奥にしか生育していないの。しかも摘み取ったり生えている土ごと掘り出してもすぐ(しお)れてしまうから、その場で加工するか大急ぎで戻るかしないとダメなのよ」



 イーシャの話だと扱うのが難しい花みたいだが、俺たちには精霊のカバンがあるので、その中に入れておけば時間が停止して鮮度は保てる。



「私たちなら問題なく運べますね」


「精霊のカバンに入れておけば大丈夫なのです」


「10本ずつ束ねてしまっていこうか」



 そうして摘み取ったツキカゲ草を束ねて精霊のカバンに入れていく、全部で10束ほど出来たので100本近く生えていた。その部屋には他に何もなかったので、俺たちはそのままオーフェの空間転移で自宅に戻ることにした。



◇◆◇



「ただいま、カヤ、シロ」


「お帰りないませ、旦那様、皆様」


「あうっ!」



 こちらの方に小走りに近寄ってきたカヤの頭を挨拶しながら撫でる。少しホッとしてる表情なので、この家に来て初めてのダンジョンに行った俺たちの事を心配してくれていたんだろう。シロはアイナやオーフェたちに頭を撫でてもらって嬉しそうに尻尾を振っている。


 その後、俺とウミとイーシャで冒険者ギルドに行く。麻衣は夕食の準備で、アイナ達はシロと遊ぶそうだ。今日は1日ダンジョンに居たし、シロも寂しがっていただろうから思う存分遊んであげたらいい。


 ギルドの買取カウンターで、魔核とアイテムを出し、ツキカゲ草の事も聞いてみることにする。鮮度が命みたいだし、特別な準備が必要だったり、何かの条件があるかもしれない。



「ツキカゲ草の買い取りもお願いしたいんですが」


「ツキカゲ草だって!? どんな状態だ?」



 そう言われたので精霊のカバンから一束取り出してカウンターの上に置く。



「こりゃあ摘んだ状態そのままじゃないか、一体どうやって……」



 買取カウンターのギルド職員が俺たちと頭の上のウミを見ている。



「あぁ、あんたらが精霊を冒険者登録したってパーティーか、エルフも居るし噂どおりだ」



 そう言えばウミを冒険者登録したのがこの王都のギルドだったな。あの時は結構注目されていたし、噂になってもおかしくないか。



「時間がたつとダメになるみたいですが、俺たちはそのままの状態で運べますので」


「それなら薬剤師ギルドの方に直接卸してくれないか? こんないい状態のまま運べるなら、そっちの方が向こうのギルドも喜ぶ。それに手数料がかからない分、報酬も増えるぞ」


「わかりました。では明日の朝、薬剤師ギルドに直接行かせてもらいます」


「こっちの方からも連絡を入れておくから、すまんが頼むよ」



 そうして、魔核とアイテムの分だけパーティー口座に入金してもらって、冒険者ギルドを後にした。



「俺たち噂になってたみたいだな」


「あの時は注目を浴びていたのです」


「エルフの歴史に刻まれるような出来事だったものね」



 そう言えばそんな事も言っていたな。あの後、大陸南部の方に行って、そのまま北部に行ってしまったので、王都の噂とか全然気にしてなかった。特に誰かに絡まれたりする訳でも無いので、何か対策をしようとは思わないが、拠点がここに出来たことだし、変に目立つような事は控えておく方が良いかもしれない。




―――――・―――――・―――――




 翌日、全員で薬剤師ギルドへ向かう、今日はカヤとシロも一緒だ。納品の後に、みんなで王都にある公園に行こうと思っている。まだ行楽の時期には少し早いが、麻衣があまり人も来ず思いっきり遊べる穴場を知っているようなので、お弁当を持って出かけることにした。



「ダイ先輩、あの建物って教授たちの研究施設じゃないですか?」



 薬剤師ギルドのある北東ブロックを歩いていると、麻衣が1つの建物を指してそう言ってきた。門にある看板には【王立ダンジョン研究所】と書かれている。確かこれは教授たちが所属している研究機関の名前だ、拠点も出来たし約束もあるので、帰りに寄って2人の伝言を頼んでおこう。



「後で拠点が出来たことを教授たちに伝えてもらえるようにお願いしよう」


「また面白いお話を聞けるといいですね」


「お魚料理を何か考えますね」


「ヤチ姉さんに会えるの楽しみだよ」


「泊まってもらうのもいいわね」


「……2人も一緒に寝る?」



 エリナ、それはどうだろうか。2人共もう大人なんだし、俺たちと一緒の感覚でベッドに誘ってはダメな気がする。


 そんな事を話しながら薬剤師ギルドに到着した。



「君たちが冒険者ギルドから連絡のあった冒険者だね」



 受け付けの若い男の人が、俺たちの対応をしてくれた。冒険者ギルドから予め連絡を入れてくれていたので、即座に加工できる準備をして待っていてくれたみたいだ。



「こちらが納品できるツキカゲ草です」


「これは凄く状態がいいね、もし数があるなら60本買い取りたいんだけど大丈夫かな?」


「はい、大丈夫です」



 精霊のカバンからツキカゲ草の束を6個取り出して机の上に並べる。受け付けの男性はそれを一つ一つ確認して、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。



「これだけ一度に手に入ることは滅多に無いから凄く助かるよ、これで多くの人を救うことが出来る、本当にありがとう」



 男性は俺の手を握ってお礼をしてくれる。近くに居た人にツキカゲ草を渡して、加工する所に運ぶようお願いしている。まだ納品できるものは残っているが、製造のキャパシティーもあるだろうから、一度に全部は無理だろう。精霊のカバンに入れておけばいつまでもこの状態を保てるし、また別の機会か他にも必要としてる人のために置いておこう。


 状態が非常に良かったため、買取金額を割増してくれたみたいだ。冒険者ギルドの口座に振込ができるようなのでお願いして、薬剤師ギルドを後にする。


 帰りに王立ダンジョン研究所に寄って、教授たちに伝言をお願いすると、水の月の緑の時期に王都で学会が開かれるので、それに合わせて帰ってくることがわかった。その時に時間があれば会えるかもしれない、もう少し先だが色々準備だけはしておこう。






 その後は公園に向かって移動を開始した。


ちゃんと収入もありますよという回(笑)


この世界の冒険者は収入は不安定ですが、ある程度の実力があれば生活に困ることは少ないようです。仕事の性質上、宵越しの銭は持たずに使ってしまう人が多いですが、主人公たちはかなり堅実な方です。

(しかも、人気のない依頼をやったり、時々こうやってレアアイテムを発見するので、活動資金はかなり潤沢です)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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