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第69話 ホームパーティー

「みんな、おかえり」


「ただいま戻りました、旦那様」



 帰ってきたカヤは薄い水色で長そでのワンピースを着ていた、スカートも今の仕事着より短く素足が見えている。普段が足首まであるスカート丈の長い黒っぽいワンピースにエプロン姿なので、明るい色の服を着るだけでだいぶ見違える。



「きれいな水色の服がとても良く似合ってる、可愛いよカヤ」


「ありがとうございます、旦那様」



 頭を撫でながら感想を言うと、頬を染めて恥ずかしそうにしている、後ろにいるみんなも満足そうに俺とカヤを見ている。こんな所で立ち話も何だから、リビングで輝樹さんを紹介しないと。



「みんな、お客さんが来ているんだ、リビングに居るからついてきて欲しい」



 カヤは麻衣の所に行き、残りのメンバーでリビングに向かうと、輝樹さんはソファーから立ち上がって迎えてくれる。あれから2人メンバーが増えてるが、1人は猫人族でオーフェはまだ10歳の子供だ、輝樹さんも少し驚いた顔をしている。



「輝樹さんお待たせしました、新しくパーティーに加わったエリナとオーフェリアです」


「……始めまして、エリナです」


「ボクの名前はオーフェリア、オーフェって呼んでくれると嬉しいな」


「僕の名前は輝樹、王都で勇者をやっている、と言っても数人居る勇者の1人だけどね」



 輝樹さんは候補が外れて正式に勇者になったのか、でも勇者は複数いるみたいだ。色々な世界から召喚された人がいると言っていたが、その中で今まで戦いなんてしたこと無いだろう輝樹さんが選ばれたというのは、本人の適性や努力もあったんだろう。



「輝樹さん、候補から正式な勇者になったんですね」


「つい先日、正式に任命を受けてね、いくつかのグループに分けて魔族の襲撃に備えるそうだよ」


「本物の勇者に会えるなんて思ってなかったよ、やっぱりダイ兄さんと一緒に居て良かった。ボクも魔族だけど、過激派の人たちは変な思想に囚われちゃってるから、どんどん倒して転生させてね」



 いきなりオーフェがカミングアウトしてしまった、それを聞いた輝樹さんが固まっている。まぁそうだよな、敵のはずの魔族がこんな所に居て、嬉しそうな顔で話しかけてきたら思考停止に陥るか。


 輝樹さんは首から音がしそうなぎこちない動きで、俺の方を見る。なんか『ギギギギギ』という擬音が聞こえそうだ。



「大君、僕の聞き間違えでなければ、いま魔族という言葉が聞こえた気がするんだけど」


「オーフェ、言っちゃっていいのか?」


「この人がマイちゃんと一緒の世界から来た人だよね、それにダイ兄さんの友達なら構わないよ」



 オーフェにも俺や麻衣の事は話してるし、一緒に召喚された輝樹さんのことも言ってあるので、魔族とバレても大丈夫と思ったんだろう。



「彼女は融和派という派閥に属している魔族なんです」



 それから、輝樹さんに今の魔族の現状を説明する。大きく2つの派閥があって、この大陸に攻めてきているのはごく一部の魔族だけなこと。過激な思想に囚われる人が急に増えて、魔族の内部でも洗脳や催眠説が出ていること。魔族に大きなダメージを与えると転生して自我の状態に戻るので、そうして記憶をリセットさせて解放して欲しいこと等を話した。



「まさか王城でも知られていない事を、こんな所で聞く事になるなんて思ってなかったよ」


「輝樹さんの口から言うと魔族と内通してると疑われそうなので、話すのは信用できる人だけにしたほうが良いと思いますけど、人型(ひとがた)の魔族と戦う時の罪悪感はかなり減るんじゃないかと」


「今までも倒したはずの魔族が復活すると、人が変わったように大人しくなったり逃げ出したりという事があったみたいなんだけど、そういう事だったんだね」


「だから思いっきりお仕置きしてあげて欲しいんだ」


「それに最近、魔族の侵攻があまり無いのは君たちのお陰だったのか。しかし幹部クラスの魔族を撃退してしまうなんて、もしかしたら君たちが勇者でもいいんじゃないかい」


「結局、その魔族を転生させたのはオーフェですし、あの時は相手が油断して本気で攻撃してこなかったので、運が良かっただけですよ」



 あの魔族はまだまだ余力を残してる感じだったし、オーフェがちょうど高い場所にいてマナコートの蹴りで転生させられたからな。でも、他の魔族は警戒したのか、侵攻の手を緩めてくれたのは良かった。


 その後、仕事着に着替えたカヤが麻衣から引き継いだのか、お茶とお菓子を持ってやってきたが、彼女のことを輝樹さんに紹介すると、また固まってしまった。妖精が管理してる家だもんな、滅多なことでは見られないだろうし、仕方がない。



◇◆◇



 軽いお昼を食べて、みんなでパーティーの準備をする。簡単な飾り付けをしたり、花を買ってきて飾ったりすると、なんかそれっぽい雰囲気になる。完成した料理も次々と運ばれてきて、テーブルの上が彩られていった。



「カヤもこっちに来て一緒に食べよう」


「私は食べる必要は無いので給仕を」


「カヤは俺たちの家族になったんだし、今日はカヤと出会えた記念のパーティーでもあるんだ、主役が働いていたらダメだよ」


「家族……ですか、ありがとうございます、とても嬉しいです旦那様」



 カヤは住んでいる人からエネルギーを貰って存在しているので食事の必要はないが、料理が作れるだけあって味もわかるし食べることも出来るみたいだ。この先も食事は全員で食べたいし、一緒に食べる楽しさを味わって欲しい。


 飲み物を配って乾杯の準備をする、イーシャと輝樹さんは地下収納で見つけたワインを、他のメンバーは果実水をそれぞれ手に取る。シロにはミルクだ。



「それでは、俺たちの拠点ができた記念と、オーフェの歓迎会と、エリナの誕生日と、シロとの出会いと、カヤが家族になった事と、輝樹さんの勇者就任を祝して乾杯」


「「「「「「「乾杯[なのです]!」」」」」」」「あんっ!」



 色々な記念が重なってしまったけど、みんなで乾杯をして料理に手を伸ばす、煮物や揚げ物に焼いた物など色々あってどれも美味しそうだ。シロも小さく切った素焼きのお肉を美味しそうに食べている、横の野菜もちゃんと食べるんだぞ。



「マイちゃん、どれも美味しいよ。ボクの食べたことのない料理がいっぱいで嬉しい」


「マイ様の料理は本当に美味しいです」


「この家の台所はとても使いやすいですから、たくさん作りました。どんどん食べてね」



 オーフェもカヤも美味しそうに食べている、この家の厨房は一度に何種類も料理が出来るようになっているので、自然と品数が増えていったんだろう。



「この焼いたお肉がとても美味しいわね、地下で見つけたワインとよく合うわ」


「お肉が厚くて凄く食べごたえあります」


「焼き料理専用の調理器具があったので、それで焼いてみたんです」



 あの鉄板みたいなものを上に置いた調理器具だな、肉厚のあるステーキが上手に焼かれていて、とても美味しい。遠赤外線効果みたいなものがあるんだろうか、あの調理器具には。



「……焼いたお魚も美味しい」


「今日買ったはちみつで作ったお菓子も最高なのです」


「石窯もありますから、それで焼いたお魚とケーキですよ」



 この焼き魚はあの食堂の料理にも負けていないな。初めて使った石窯で、こんなに上手く魚料理やお菓子を作ってしまえる麻衣の料理スキルは凄いものがある。



「稲葉さんの料理はどれも凄いな、お店が開けるレベルだよ」


「どれも美味しくて目移りしてしまうな」


「石延さんもダイ先輩もいっぱい食べてくださいね」



 みんなでおしゃべりしながら食べる食事は、やっぱり美味しい。こうして気兼ねなくワイワイ騒げる場所ができたのは、とても良いことだ。



◇◆◇



 楽しく賑やかな食事の時間が過ぎていき、そろそろお開きにすることにした。テーブルの料理はほとんど無くなっていて、みんな満足そうな顔をしている。


 俺とカヤで玄関を出た所まで輝樹さんを見送りに行く、他のメンバーは後片付けをしている。



「今日はごちそうさま、こんなに楽しい食事はこの世界に来て初めてだったよ」


「喜んでいただけてよかったです、またいつでも遊びに来てください」


「でも本当に大君は凄いな、この世界に来てまだ一年と少ししか経っていないのに、この大陸の誰よりも充実した生活を送っている気がするよ」


「いい仲間に恵まれましたので」


「そうだね、みんな素敵な女性ばかりだ。オーフェさんの事は流石に驚いたけど」



 輝樹さんと2人で苦笑する。でもヤチさんの事もあるし、きっと他の種族と仲良くしたくてこの大陸に来て生活している魔族も居ると思っている。それに魔族界にも、この大陸に来たいと思っている人はたくさん居るはずだ。



「魔族とも仲良く手を取り合っていければいいと思いますね」


「僕もそう思うよ。でも今日は色々な話を聞かせてもらって、勇者として魔族を撃退する目標みたいなものが出来たと思う。本当に感謝してる」



 そう言って輝樹さんは頭を下げてくれる。魔族を前に攻撃を躊躇して危険な目に遭うより、思想の開放を狙って思いっきり攻撃するほうが良いだろう。今日の話が輝樹さんの身の安全に繋がれば俺も嬉しい。



「それじゃあ、僕はそろそろお(いとま)するよ」


「気をつけて帰ってください」


「お気をつけてお帰りくださいませ、テルキ様」



 輝樹さんは門の前でもう一度手を振って王城へと帰っていった。



◇◆◇



「旦那様、それでは失礼します」



 寝間着に着替えたカヤが俺の隣に横たわる、お風呂で洗ってきたのだろう、体からは石鹸のいい匂いがしている。俺はカヤの方に手を伸ばして、頭をゆっくりと撫でる。カヤの髪の毛はとても細くてきめ細やかで触り心地が良い。


 今日からはカヤも一緒のベッドで寝る事になった。お風呂も必要無いと言っていたが、全員に説得されて入る事になった。



「こうやって皆様と同じように食事をして、お風呂に入って一緒のベッドで寝る、なんだかすごく不思議な気分です」


「カヤも大事な家族だからな、家族はみんなで一緒の方がいい」


「私は人とは違う存在ですが、旦那様は同じように扱ってくださいますね、何故ですか?」


「俺は元々この世界の人間では無いんだ。元いた世界では人以外の種族は居なかったし、この世界に来て獣人やエルフや精霊に魔族や妖精という存在に初めて触れることが出来た。俺はそれが凄く嬉しくて楽しくて、大切にしたいと思っているからかな」


「そうだったのですか」



 カヤの黒くてきれいな瞳が俺の事をじっと見ている。その目に異世界人の俺はどう映っているかわからないが、家の持ち主を失って消えそうになり、そして泣いてしまった少女を救うことが出来たのは良かったと思う。



「カヤちゃんもダイくんのなでなで仲間なのです、思いっきり甘えるといいのですよ」


「ダイ兄さんに溶けるまで撫でてもらうといいよ」


「……あるじ様のなでなでは身も心も溶ける」


「まさに骨抜きね」



 イーシャがなんかうまいこと言ってる気がするが、撫でると軟体化しそうで怖い。



「お肉も柔らかくなったりするでしょうか」



 麻衣、俺のなでなでに変なスキルを追加するのはやめてくれ。



「なんだか凄く楽しいです」



 柔らかく微笑んで俺の方に少しだけ身を寄せてきたカヤの頭を撫でながら、全員が眠りについた。






 新しい家で過ごす最初の夜が更けていく。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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