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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第1章 異世界転移編
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第5話 アイナ

 目が覚めると知らない天井だった。


(そうだ、異世界に飛ばされてリザードマンの所でお世話になったんだった……)


 昨日のことを思い出しながらゆっくりと起き上がる。

 隣を見たら誰も寝てなかった。


 視線を巡らせると、部屋の隅に女の子が小さくなって座っていて、こちらを伺うような目で見ていた。



「おはよう、体の調子はどう?」



 女の子に話しかけたが、ビクリと体を震わせて更に小さくなった。


 何か怖がらせるような事をしたのだろうかと一瞬考えたが心当たりはない、まぁ起きたら知らない男が隣に寝てるなんて警戒するのは当然かもしれない、とは言えあまり怯えられるとちょっとショックだけど。



「あ……、あのぉ」



 どう話を切り出そうか悩んでいると、意を決したように女の子が話しかけてきた。



「ん? なにかな?」


「あのっ! ごめんなさい!! 人族の方に迷惑かけてしまって、私にできることは何でもします。でも、あまり痛いことはしないでいただけると……」



 突然、涙目になった女の子に全力で謝られて混乱する。

 痛いこと? するわけないじゃないか、人を何だと思ってるんだ。



「ちょっと待って、まずは落ち着いてくれ」



 降参のポーズで両手を上げたが、それだけで女の子は「ひっ」と言って体を震わせた。叩かれるとでも思ったんだろうか。


 こちらが動くたびに怯える彼女をなんとか落ち着かせて、まずは名乗ってみることにした。



「俺の名前はダイ。フルネームは朝宮大(あさみやだい)、こちらの世界だとダイ・アサミヤになるのかな?」


「わ、私はアイナです。もしかして貴族の方ですか?」



 今まで名字は名乗らなかったけど、やっぱりこっちの世界だと家名付きは貴族になるのか。



「いや、違うよ。ちょっと事情があるんだけど、まずは君のことを聞かせてもらってもいいかな?」


「はい、私は――」



 アイナは小さな村に住んでいた12歳の女の子。父親は数年前に魔物に襲われて死んでしまい、母も去年に病気で亡くなったそうだ。村では森に入って薬草採取や果物の収穫をして何とか生活していたが、今年は村で作っている作物が全く育たなくて、他所から食料を買うお金を作るために村長が奴隷商に売り払った、と目を伏せながら話してくれた。



「なんで君が、その……奴隷商に売られなきゃいけないんだ?

 他になにか方法はなかったのか?」


「実は獣人族って人族の方に嫌われてるんです。それで身寄りの無い私が売られることになって――」



 獣人族は昔、人族に対して戦争を仕掛けたそうだ。身体能力は人族に比べて高い獣人族だが、魔法や戦略の面で劣っていたため戦争に負けて数を大きく減らしてしまった。敗戦後は人族より下等な存在として差別を受け、肉体労働や危険な仕事、下働きとして使われることが多いそうだ。


 アイナも幼い頃から危険な森の中で何度も危ない目にあったと、悲しそうに笑いながら話してくれた。



「それで、ダイさんはどうして私のことを助けてくれたんですか?」



 アイナに聞かれたので、異世界から飛ばされてきたこと、アイナの乗った馬車が魔物に襲われているのに遭遇して、拾った杖で魔法が使えたので倒せたこと、他の人は全員死んでしまったこと、自分の居た世界だと獣人は物語の世界にしか居ない存在で、実物に会えて感動していること、今はリザードマンの所でお世話になってることを話した。



「ふえー、それで私のこと見ても嫌な顔しないんですね」



 色々話すうちに打ち解けてきたみたいで、口調がちょっと砕けてきた。そして、自分のことを嫌わないとわかって安心したのか、今は隣に並んで座っている。



「それにしても、そんな事があったなんて大変でしたね、私だったら泣いてしまうだけで、その場から動けないかも」


「アイナの方こそ大変じゃないか、病気だったお母さんを支えて危険な仕事をするなんて、俺には真似もできそうにないよ」



 そう言って思わずアイナの頭を撫でてしまった。

 アイナは目を閉じて身じろぎしたので、嫌がられてしまったのかと思い謝る。



「あっ、ごめん、つい妹にするみたいに頭を撫でてしまった、嫌だったかな」


「いえ、ダイさんに撫でられるのは気持ちいいし、なんだか安心します……

 こんな気持は初めてです、できればもっと撫でてください」



 そう言って頭を差し出してきたので撫でてあげる。



「妹さんと私って似てるんですか?」


「顔はぜんぜん違うけど、雰囲気と背の高さが似てるかな」


「あの……妹さんに会えなくて寂しいですか?」


「たしかに今頃どうしてるかなって心配だけど、こっちに来てからいろんな事がありすぎて、寂しいと思う暇はなかったよ」



 頭を撫でながら笑いかける。俺の答えに少し安心したのか、アイナも気持ちよさそうに目をつぶって身を委ねる。


 そんな風に話をしていると、入り口からリクが顔をのぞかせた。アイナはちょっとビクッとして、俺の服の裾を掴んできた。

 小動物みたいで可愛い。



「あ、リクさんおはようございます」


「朝飯、持ってきた、よく、眠れたか?」



 そう言って焼いた白っぽい塊と、やっぱり何の実かわからないスープを渡してくれた。



「おかげさまでよく眠れました」


「そうか、よかった。

 そっちの、子供は、どうだ、起きて、大丈夫か?」


「あ、はい、大丈夫です。

 昨日は助けていただいてありがとうございました」



 俺の服を掴んだままアイナも返事を返した。ちょっと人見知りなところがあるのかもしれないな。



「魔物、倒したの、ダイだ、お礼、いい。

 食べ終わったら、長老のところ、行ってくれ、話ある、らしい」


「わかりました、アイナと一緒に伺います」



 そう言ってリクは姿を消した。


 そう言えばリクが俺の名前を初めて言ってくれたな、認められたようでちょっと嬉しい。



◇◆◇



 朝食を食べて2人で長老のところに行った。



「長老様、おはようございます」


「おぉ、ダイ殿。昨夜はよく眠れたかな?」


「はい、おかげさまでよく眠れました」



 リクにした返事と全く同じことを長老にも答えた。長老も名前で呼んでくれるようになった、やっぱり嬉しい。



「そちらの娘さんはどうじゃ? 体は大丈夫か?」


「あ、はい。痛いところとかないですし、大丈夫です」



 やっぱり俺の服の裾を掴んだまま返事をした。



「名前を聞いてもいいかの?」


「アイナといいます」


「少し聞きづらいことを聞くが、どうしても確認しておかねばならんことがあるので、答えておくれ」



 そう言って長老はアイナのことをじっと見つめた。



「アイナさんは、奴隷商に売られたというのは本当かね」


「はい、村にお金がなくて、身寄りのなかった私が売られました」



 俺の服を掴む手が少しだけ強くなった気がした。



「すまんが、体をちょっと見せてもらっても良いか?

 首と手首の所を見るだけじゃから大丈夫じゃよ」



 長老の言葉にアイナがこちらの目を見て不安そうにしているので、「大丈夫だ」と答えて長老の側まで連れて行った。


 長老は首元と、手首の裏と表を確認してアイナを開放した。

 アイナは俺のそばまで戻ってきて、やっぱり服の裾を掴んだ。



「奴隷の印が刻まれてないようなので、契約前だったようじゃな。

 これならどこに行っても大丈夫じゃろう」



 奴隷制度のことが気になったので聞いてみると、奴隷商に買われると隷属契約をさせられて、首か手首に印がつけられるらしい。奴隷は国に管理されていて、購入者の元を逃げ出したり、誰かが勝手に連れて行ったら追跡調査されて罰せられるそうだ。



「詳しくは知らんが、魔法で追跡されて逃げるのはほぼ不可能だという話じゃよ」



 奴隷から開放する手段もあるということだが、アイナに印がついてなくて良かった。



「それで、ダイ殿。お主はこれからどうする?」



 長老に聞かれたので、人の住む街に行って手がかりを探したい事を告げると、街の近くまで送ると言ってくれた。街道を使うと森を大きく迂回して進まないと行けないので時間がかかるが、リザードマンなら森の中を突っ切れるので、この場所からなら半日もあれば街の近くまで行けるそうだ。



「アイナさんの方はどうするかね?」



 その問いにアイナは俺の方をじっと見つめて。



「できればダイさんと一緒に行きたいです。

 もう村には帰れないし、人族の方は怖いですけど、ダイさんと一緒なら大丈夫だと思うんです」



 服の裾を掴んだまま潤んだ瞳で上目遣いに言われたら断れるわけがない。

 それに妹と同じくらいの背丈で、どうしても姿を重ねてしまう。



「わかった、一緒に行こうか」



 そう言うとアイナは嬉しそうに「はい」と返事をしてくれた。



「ふぉっふぉっふぉっ、獣人族にそこまで懐かれる人族は珍しいの、ダイ殿が違う世界から来たせいかもしれんな。明日の朝リクとカイに送らせよう。今日はここでゆっくりしていくといい」



◇◆◇



 その日は近くの湖で水浴びさせてもらったりして過ごした。


 明日はいよいよ人間の住む街に行ける。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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