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第67話 カヤ

「あなたたち誰?」



 半透明で後ろが透けて見える女の娘が、俺たちの方を見て話しかけてきた。その姿はとても儚げで、存在感というものがあまり無い、何かのきっかけですぐ消えてしまいそうな危うい感じに見えた。



「俺の名前はダイ、こっちはオーフェリア、この小さいのは精霊のウミだよ」


「君はこんなところで何をしていたのかな?」


「私は旦那様の帰りを待っているの」



 オーフェの質問にその女の娘が答えたが、この家の持ち主はもうずいぶん前に死んでしまっている。



「ダイくん、この娘は家に()く妖精さんなのです」


「この家を守っている存在ってことか?」


「そうなのです、でも持ち主が居ないと、どんどん弱ってやがて消えてしまうのです」


「それって、消えちゃいそうだから半透明になってるってこと?」


「もうあまり長くは保たないと思うのです」



 ずっと持ち主の帰りを待って、そのまま消えてしまうなんてのは悲しすぎるな。少し残酷だが、ちゃんと前の持ち主のことを話して、納得してもらう方がいいだろう。


 女の娘の前に膝をついて目線を合わせて話しかける。



「この家の持ち主は出かけた先で、事故にあって帰って来られなくなってしまったんだ」


「それって、私は捨てられたってこと?」


「違うよ、その旦那様が出かける前に、君に何か言ってなかったか?」


「すぐ帰ってくるから家のことを頼むって言ってた」


「その旦那様はここに帰ってくるつもりだったけど、二度と戻れなくなってしまったんだよ」


「旦那様とはもう会えないの?」


「残念だけど、もう会うことは出来ない」



 女の娘は凄く悲しそうな顔になって涙を流す、とても前の持ち主の事を慕っていたんだろう。だが事情を知らないまま帰りを待って消えていくより、もう会えないとわかった上で消えた方がいいような気がする。


 俺は女の娘を頭を撫でながら、泣き止むのを待った。



「あなたに撫でられると、旦那様のことを思い出して、とても温かい気持ちになれる、私はこれからどうしたらいい?」


「君はどうしたい?」


「わからない、でもこの家を守っていきたい」


「俺たちはこの家に住まわせてもらおうと思っているんだ」


「あなたが私の新しい旦那様になってくれるの?」


「君がそれを望むなら、俺が新しい旦那様になるよ」


「あなたは私の前から居なくならない?」


「俺たちは冒険者だから、家はしょっちゅう空ける事になるかもしれない、でも必ず帰ってくると約束する」


「わかった、これからあなたが私の旦那様。私の名前はカヤ、この家に()む妖精」



 そう言った瞬間にカヤの体が光り、今まで儚げだった存在感が一気に増し、半透明だった体もしっかりと実体を感じさせるものに変わった。そして少し(よど)んだ感じだった地下の空気も、清涼感のあるものに変化した。


 俺はカヤの手を引いて地下から出る、埃っぽかった家の中の空気もきれいになった気がする。



「家の中の雰囲気が変わったのです」


「うん、家の中がすごく明るくなった気がするよ」


「カヤ、この家の修理をしたいんだけど構わないかな」


「家の修理は私が出来ます、必要な材料があれば家具もお作りしますので、宜しければ買い物に付き合ってください」


「じゃぁ、この家の契約をしてくるから、それが終わったら買い物に行こうか」


「わかりました、お帰りをお待ちしております、旦那様」



 そう言ってカヤは深々と頭を下げた、存在感が増して口調も変わっている。俺はカヤの頭を撫でて、すぐ戻ってくるからと家を出た。



「お客様、どうでしたかこの物件は」


「すごく気に入りました、ここを買わせてもらおうと思います」



 店員さんは驚いて何度か確認してきたが、この家を購入する意志が固いと思ったのか、そのまま店に戻って契約の準備を始めた。俺たち3人は家の購入代金をパーティー口座から引き出しに、冒険者ギルドに向かう。



「やっぱりダイくんのなでなでは最強なのです」


「妖精も(とりこ)にしてしまったね、さすがダイ兄さんだよ」


「そんなスキルは持ってないと思ってたんだけど、最近ちょっとわからなくなってきたよ」



 そんな話をしながら、冒険者ギルドに行ってお金をおろす。不動産屋に行って代金を一括で支払うと、店員さんは少し驚いている感じだった。若い冒険者が現金一括払いで家を買ったりすると、やっぱり驚かれるのか。しかし他とは値段の桁が違う安価な物件だったので、かなり余裕ができた。それに必要な家具もカヤが作ってくれると言うので、大きなベッドの問題も解決だ。こんな優良物件は他を探しても絶対に見つからないだろう、すごくいい買い物が出来たと思う。



◇◆◇



 不動産屋で鍵を受け取って、家に戻ってみると先程とは全く違う状態になっていた。門や塀も綺麗に補修されており、庭の雑草も刈り取られて(たいら)の状態に(なら)されている。屋根や壁の穴もふさがっていて、玄関の前ではカヤが待っていた。



「ただいまカヤ。すごいな、こんな短時間で直してしまうなんて」


「お帰りなさいませ旦那様。家を修理したいとご希望でしたので、全て直しておきました」



 そうか、今までは持ち主が帰ってこなかったから、荒れるままに現状維持していたが、新しい持ち主が修理したいと言ったので、全部直してくれたわけか。



「すごいのです、さすがは家の妖精さんなのです」


「うん、これはすごいね、ボクもびっくりだよ」


「お褒めいただきありがとうございます、ウミお嬢様、オーフェリアお嬢様」


「お嬢様!? ボクちょっとくすぐったいから、普通にオーフェでいいよカヤちゃん」


「カヤちゃん、ウミもウミでいいのですよ」


「承知いたしました、ウミ様、オーフェ様」



 カヤにお嬢様と言われて、2人ともちょっと恥ずかしそうにしている。様と言われるのも少しくすぐったそうだが、俺も旦那様と呼ばれているし、そこは我慢してもらおう。



「他に4人と、狼が1頭ここに住むんだけど、同じように呼んでもらっていいかな」


「かしこまりました、旦那様」



 そしてそのまま買い物に出かける。カヤは小さくて俺たちのペースで歩くと付いてくるのが大変そうなので、俺が腕に抱きかかえて運んでいる。妖精だからだろうか、とても軽くて全く負担にならない。カヤはすごく恐縮していたが、こっちの方が早く買い物が終わるからと説得して、今は俺の腕に座るようにして、首元に掴まっている。


 そう言えばリザードマンに運んでもらう時が、ちょうどこんな感じだった。あの3人や長老は今も元気だろうか。



「ねぇカヤちゃん、妖精って家から離れても大丈夫なのかな」


「旦那様やご家族の方が近くにいると大丈夫です、ウミ様もオーフェ様も家族として認識しておりますので、近くに居てくださると私も外で行動できます」


「ダイくんたちと家族なんてちょっと嬉しいのです」


「うん、そうだね、ボクもみんなと家族って言われるとすごく嬉しいよ」



 拠点を持つとより家族っぽくなれるとは思っていたけど、カヤの認識ではあの家に住むパーティーメンバー全員が家族になるんだな。それはとても素敵なことに思える。


 しかし、カヤを腕に乗せて、オーフェと手をつなぎ、ウミを頭の上に乗せて歩いている俺は、他の人からどう見えるだろうか。子連れのお父さんか仲のいい兄妹か、ウミはまぁ人形にしか見えないな。


 カヤにはあらかじめ10人くらい眠れる巨大なベッドが欲しいと伝えてあるので、雑貨屋で材料を次々購入していく。クッションの素材や布や木材、木を保護する塗料みたいなものも買っていった。家の維持やメンテに必要なものも、まとめて精霊のカバンにどんどん入れていく。麻衣の整理法が早速役に立った。


 しかしこの世界の雑貨屋って、俺たちの世界のホームセンターみたいな感じだな。日曜大工に必要な材料や道具に、生活雑貨や衣類がまとめて手に入る。今までは自分に必要なものしか見なかったが、この品揃えは少し驚いた。


 家に戻って買ってきたものを2階の大部屋に全て出し、後はカヤに任せることにする。余った材料は屋根裏部屋に保管して、必要な時に使ってくれるそうだ。


 それが終わると日がだいぶ傾いてきたので、今日はいちど宿屋に戻ることにする。カヤの頭を撫でて明日の朝に帰るからと伝え家を出る。



「明日ここに引っ越そうと思うけど、カヤのことは黙っていようか」


「みんなを脅かせるんだね、ボクは賛成だよ」


「面白そうなのです、ウミも黙っているのです」



 この家のことはちょっとしたサプライズにしておこう。みんなも、まさか妖精が管理している家を購入したとは思わないだろうからな。



◇◆◇



「みんなただいま」「ただいまー」「ただいまなのです」



 宿屋に戻ると他のメンバーは全員帰ってきていた。シロが俺の方に走り寄ってくる、しゃがんで頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振っている。



「ご主人様、いい家は見つかりましたか?」


「あぁ、見つかったぞ。2階建てで広い部屋があって、厨房も立派なのが付いてる。石窯もあったしあそこなら麻衣も存分に腕をふるえるはずだ。庭もそこそこ広いし、もちろんお風呂付きだからな」



 俺の言葉に全員が嬉しそうな顔をする。ウミとオーフェは顔を見合わせて笑っている、明日のサプライズが楽しみなようだ。俺もみんなの驚く顔を楽しみにしている、明日は俺たちの拠点に引っ越しだ。




―――――・―――――・―――――




 翌日、宿屋を出て家に向かう。女将さんがすごく残念がって、ウミとシロの撫で納めをやっていた。今回は滞在期間が短かったからしかたないが、王都に拠点ができたことだし会おうと思えばいつでも会える。なにせ、この宿があるブロックと同じ南東だからな。


 新しい家について門を開けると、玄関ではカヤが待っていた。



「ダイ、玄関に誰かいるわよ」


「……とても小さな女の人」


「宿屋の女将さんより少し大きいくらいでしょうか」


「彼女はこの家の管理人だ」


「ご主人様、そんな人を雇ったんですか?」


「まぁ、行ってみればわかるよ。まずは、ただいまを言おう」



 そう言ってみんなを連れて玄関まで歩く、カヤはこちらに向かって頭を下げた。



「ただいま、カヤ」


「お帰りなさいませ、旦那様」


「カヤちゃんただいま」「ただいまなのです」


「お帰りなさいませ、ウミ様、オーフェ様。そしてアイナ様、イーシャ様、マイ様、エリナ様、シロ様」



 カヤのことを知らなかった4人は、あっけにとられた顔で固まっている。これはサプライズ成功だな、ウミとオーフェと顔を合わせて微笑み合う。



「彼女の名前はカヤと言うんだ」


「始めまして皆様、私は家の妖精のカヤと申します」



 カヤの自己紹介で、メンバーの硬直も解けたようだ。イーシャが俺の方を見ているので、にっこりと笑い返してやる。



「ダイ、まさか妖精つきの家を見つけてくるなんて思いもしなかったわ、あなたはいつも私の想像の上を行くわね」


「驚いてもらえたら何よりだよ、ウミとオーフェと相談して黙ってることにしたからな」


「こんな超優良物件、一体いくらかかったのかしら」



 イーシャに言われて、簡単な経緯と昨日支払った金額を告げるとまた固まってしまった。まぁ、他の物件より桁が少なかったから、相当安いはずだ。



「ふふふふふ、もう笑うしかないわね。ダイ、あなたはやっぱり最高よ」


「不動産屋で見つけたのはオーフェで、ここに妖精が居る事を教えてくれたのはウミだから、2人のお陰だよ」


「でも、ご主人様のことを旦那様って呼んでますし、やっぱりご主人様が居なかったら手に入らなかったんじゃないですか?」


「ダイくんのなでなでが妖精さんに認められたからなのです」


「あれは凄かったね、みんなにも見せたかったよ」


「旦那様のなでなではとても温かいです」


「……あるじ様のなでなでは最高」


「あうっ!」


「やはり決まり手はダイ先輩のなでなででしたか」



 麻衣、決まり手って相撲じゃないんだから。



「とりあえず玄関で立ち話も何だから、まずは家に入ろう」






 みんなでパーティーの拠点になる自分たちの家に入っていった。


この後、資料集の方も更新します。

プロフィールも大幅に加筆していますので、宜しければご一読下さい。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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