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第65話 小さな気配

第7章の開始になります。

この章は再会編となる話が多く、今まで出会った人が何人も登場します。

どうぞお楽しみ下さい。

 旅は順調に進んでいて、だいぶ南下して気温も上がってきた。エリナは暖かくなってきた事に喜んでいて、俺にくっつく時間も減った。それはそれで少し寂しく感じてしまう俺も現金なものだが、あのまろやかな感触は俺の精神力を容赦なく削っていく事があるので、寂しさと安心が入り混じった複雑な気分だ。


 今日移動している場所は、左手が切り立った山で右は谷のようになっていて、かなりの高さがある。道幅はだいぶ広いが、日本の道のようにガードレールなんてものは無いから少し怖い。そんな道がずっと続いていて、景色も代り映えしないので少し退屈だ。



「同じ様な景色が続くと、どこまで進んでいるか分かり辛いな」


「何もないからちょっと退屈だね」


「この辺りは動物の気配もほとんどしませんね」


「周りは岩ばかりだから仕方がないわね」



 この辺りは木や草もほとんど生えていない岩山と、水の流れていない谷が続いている。時々、他の冒険者や荷物を運んでいる馬車とすれ違うことはあるが、それ以外は動物の姿も全く見ない。



◇◆◇



「ご主人様、少し馬車を止めてください」



 そんな道をのんびり移動していると、アイナが何かに気づいたのか、そんな事を言ってきた。馬車を止めて街道の先の方を見るが、特に変わった様子はない。



「何か見つけたか?」


「えっと、あっちの谷の下の方に小さくて消えそうな気配が感じられるんです」



 馬車にイーシャと麻衣を残して、残りのメンバーで谷の方に移動する。麻衣は高い所が少し苦手のようで、谷の方には近づきたくないらしい。


 上から覗いてみるが、俺の目には何かいるのか見つけられない。目のいいアイナはどうだろうと思って横を見ると、一生懸命谷底の方を凝視しているが何も見つけられない様だ。



「ここからだと何も見えないな」


「確かに気配はするんですが、凄く小さくて弱いので正確な場所まではわかりません」


「じゃぁ、ボクが降りて調べてみるよ、ダイ兄さんを目印に空間転移で戻ってくるから、上から覗いていてね」



 そう言うと、マナコートを発動して谷底に飛び降りてしまった。結構な高さがあるが、オーフェなら大丈夫か。下に降り立ってこっちに向かって手を振っているようだ。



「ウミが飛んで降りてみても良かったのです」


「……オーフェを止める暇もなかった」


「オーフェちゃん、あっという間に飛び降りちゃいましたね」


「まぁ、下で何か発見したらウミだと持って上がれないだろうから、良かったかもしれないな」



 下の方を覗き込みながら話をしていると、何かを発見したらしいオーフェが、俺の見える場所に戻ってきた。手には何か白っぽいものを持っているようだ、所々色が違うのは模様だろうか。



「ダイ兄さん、岩の陰にこの子が倒れてた」



 空間転移で戻ってきたオーフェの手には、白くて毛の長い仔犬が抱えられている。色が違うと思っていた部分は血が出ていて、赤く染まっている。息は微かにしているようだが、体はかなり弱っているようで、ピクリとも動かない。



「ウミが怪我を治すですよ」


「全然動かなかったからだいぶひどい怪我だと思うんだ、ウミちゃんお願いね」



 ウミが白い仔犬に近づいていって怪我の治療を開始する。この仔犬は何かに襲われたんだろうか、まだ小さいし親犬が近くに居てもおかしくないと思うが。



「オーフェ、近くに親は居なかったか?」


「うん、近くも少し探してみたけど、この子以外には居なかったよ」



 親からはぐれて迷っている所を何かに襲われたのか、それとも親元から連れ去られた仔犬が何らかの理由であの谷底に捨てられたのか。あそこで倒れていた理由はわからないが、なんとか助けてやりたい。



「ダイくん、終わったのです」


「ありがとう、ウミ」



 仔犬は傷口もふさがったようで、もう血は流れていない。洗浄魔法もかけてくれて、真っ白なきれいな毛になっている。



「白くてきれいな子ですね」


「……私と同じ色」


「とっても可愛いね、意識が戻るといいんだけど」


「とりあえず馬車に戻ろうか」



 俺が仔犬を抱えて、みんなで馬車に戻る。麻衣とイーシャは俺の連れてきた仔犬を見て少し驚いている。



「ダイ先輩、可愛い仔犬ですね。どうしたんですか?」


「谷底に倒れていたのをオーフェが見つけてくれたんだ、怪我をしていたからウミに治療してもらった」


「ねぇダイ、その子を少し見せてもらってもいいかしら」



 イーシャに仔犬を渡すと、顔をじっくり見たり、耳や足を触って確認している。俺には普通の仔犬にしか見えないが、もしかしたら違うんだろうか。



「イーシャ、その子は犬の子供じゃないのか?」


「この子は多分、白狼(はくろう)の子供だと思うわ」


「イーシャさん、はくろうってなんです?」


「白い狼のことね、神の使いとも言われている珍しい狼よ」


「私たちの居た世界でも、白い動物を(まつ)っている所がありましたけど、そんな感じでしょうか」



 確かに白い犬を飼っている神社とかニュースで見た記憶があるな、名前は“ご神犬(しんけん)”とか呼ばれていたはずだ。



「そんな珍しい狼が、なんであんな所に倒れてたのかな」


「それは判らないが、親からはぐれたのか、あるいは何処かから連れ去られたのか」


「……かわいそう、みんなで飼いたい」


「そうですよご主人様、私たちでお世話してあげましょう」



 動物の世話をするのはみんなのいい経験になるだろうし、拠点が出来たらそこで飼うことに何の問題も無くなる。



「拠点ができたら気兼ねなく飼うことが出来るし、俺たちで世話をしてやろうか」



 その言葉にみんなの顔が明るくなる、後はこの白狼の子供が目を覚ましてくれれば良いんだが。



◇◆◇



 白狼の子供は体が冷えないように毛布に包んで、静かに寝かせている。みんな心配して誰かが必ず側で見ている、呼吸は穏かやになってきたのでもう大丈夫だと思うが、なかなか目を覚まさないのは少し心配だ。


 夜、テントで寝ていると誰かに顔を触られている気がして目が覚める。目を開けると目の前で白いものが動いている、どうも白狼の子供に顔を舐められていたようだ。ヴェルンダーで購入した大きめテントの中には、俺とアイナとウミとエリナとオーフェが寝ている。みんな寝る瞬間まで白狼の子供を見ていて、そのまま一緒の毛布で眠ったんだった。



「お前、目が覚めたのか」


「く~ん」



 白狼の子供は俺の声に答えるそうに顔をペロペロと舐めてきた。外で見張りをしてくれているイーシャと麻衣に報告に行こう、お腹が空いているかもしれないし何か作ってもらえるだろう。


 横で寝ているアイナ達と、枕で寝ているウミを起こさないように、そっとテントの外に出た。



「イーシャ、麻衣、白狼の子供が目を覚ましたぞ」


「良かったわ、ちょうど今その話をしていた所なのよ」


「何かご飯食べるでしょうか」



 麻衣は小鍋にミルクを入れて、焚き火で温めている。白狼の子供はそれをじっと見ているが、やがて温まったのか麻衣が鍋に手を当てて温度を確認した後に、お皿に入れて目の前に差し出すと、少し匂いを嗅いだ後に舐めるように飲み始めた。



「かっ、可愛いですね」


「なにか癒やされる感じだわ」


「一生懸命飲んでる姿が健気(けなげ)でいいな」



 一心不乱にミルクを飲んでる姿を見ていると、心がほっこりする。3人とも優しい目で白狼の子供の見守った。その後もう一杯お代わりをして飲み終えると、お腹が一杯になったのかまた眠ってしまった。


 俺はそのまま見張りを交代して、白狼の子供を抱えた麻衣がテントに入っていく。



「たくさん飲んでたわね」


「あぁ、これで元気になってくれると思うよ」


「あの子は女の子みたいだから、飼うなら名前を決めてあげないとね」


「そうだな、みんなで相談して決めよう」



 あの白狼の子供はメスだったのか、何かいい名前を考えてやらないとな。



「イーシャは何かを飼った経験はあるのか?」


「私は無いわね。エルフは小鳥や小動物を飼うことはあるけれど、あまり大きな生き物は飼わないしね」


「俺もないな。近所の友だちが犬を飼っていたから、散歩とか一緒に行ったことはあるが」



 近所の友だちが飼い始めた仔犬が可愛くて、よく散歩に付き合ってたけど、半年くらいでかなり大きくなるんだよな。1年もすると成犬と同じくらいに成長して、びっくりした覚えがある。



「これは庭付きの家を探さないといけないな」


「アイナちゃんやエリナちゃんと庭を走り回る姿が目に浮かぶわ」


「2人とも走るのが速いから、狼にも負けないだろうな」



 そんな話をしながら、イーシャと2人で笑い合った。




―――――・―――――・―――――




「ふわっ、可愛いです」


「……白くてもふもふ」


「元気になって良かったよ、ボク心配したんだぞ」


「いっぱいご飯を食べてもっと元気になるのですよ」



 昨晩、白狼が目を覚ましたところを見ていなかった4人が、撫でたり抱きしめたりもみくちゃにしている。白狼も嬉しそうに尻尾を振っているので大丈夫だろう。


 その後、名前を考えることにしたが、なかなか決まらなかった。俺の思いつく名前といえば“ホクト”とかかっこいいけど、これはオスの名前みたいだし、あとは“ユキ”とか“シロ”とか我ながら単純だ。


 結局、白狼の子供に決めてもらおうという事になり、それぞれが名前を呼んでみて吠えたものに決定する事になった。みんなで1-2個の名前を呼んでいるがここまで誰にも反応していない。残るは麻衣と俺だけだ。



「シュガー」


「…………」


「しらたま」


「…………」



 麻衣は食べ物シリーズのようだな。シュガーはウミが喜びそうな名前だし、しらたまも美味しそうな名前だ。白色を連想させる食べ物ばかりで、麻衣らしい名前の付け方だ。


 しかし白狼の子供からは反応はなかった、次は俺の番か。



「ユキ」


「…………」



 ユキはだめか、白い動物の名前の鉄板だと思ったが、ここは異世界だしな。仕方がないので次に行ってみよう。



「シロ」


「あんっ!」



 おっ、反応した。単純な名前の付け方だと思ってたけど、これを気に入ってくれたらしい。真っ白できれいな毛並みだし、それをそのまま表現しているようでちょうどいいかもな。



「よし、今日からお前の名前はシロだ」


「あんっ!」



 みんなに名前を呼ばれて、嬉しそうに尻尾を振っているシロ。

 旅の途中で見つけた白狼の子供が、俺たちの仲間に加わった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
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魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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