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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第6章 ヴェルンダー編
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第59話 ギルドからの依頼

 レオンさんに作ってもらったミスリルの短剣と籠手(こて)は、思った以上に強力な武器になった。3人共すぐに新しい装備に馴染み、ダンジョンも次々と下層へと進んでいった。


 更に俺たちのパーティーには空間魔法を使えるオーフェが居るので、ダンジョンの下層に潜っても帰る時は一瞬で戻れるという大きなアドバンテージがある。オーフェが覚えている場所という制限があるので、特徴のないダンジョン内に直接移動することは難しいが、復路を気にしなくてもいいというのは時間的にも精神的にも非常に有利だ。


 ついに最終回層である32階も攻略した俺たちは、次に上級ダンジョンを目指そうと考えていた時、冒険者ギルドからある依頼が舞い込んできた。



◇◆◇



「あの、虹の架け橋の皆さんにお願いがあるのですが」



 いつもの様に依頼を受注しようとギルドの窓口に行くと、受付嬢からそんなことを言われた。詳しく聞いてみると、護衛任務で場所は火山ダンジョン、中級冒険者以上が希望でギルドが認める実績がある事。報酬額は破格で、これなら希望者が殺到しそうだが、ある条件が依頼者より提示されているため、受けられるパーティーが居ないという話だ。


 その条件とは“女性のみのパーティーか、女性が過半数以上居ること”というものだ。女性のみのパーティーも割と存在するが、中級ダンジョンの最下層を突破できる実力を持ったパーティーで依頼を受けられる人は、今のヴェルンダーの街には居ないようで、俺たちに白羽の矢が立ったらしい。


 しかし女性に限定する依頼というのはどうも胡散臭い、何か護衛以外の目的があるのじゃないかと勘ぐってしまう。それに俺たちの装備や魔法を他人に見られるのは極力避けたい、レオンさんくらいの観察眼を持っていなければ違和感は感じさせないと思うが、魔族のオーフェも居る。



「この依頼どう思う?」


「そうね、女性の多いパーティーに限定している依頼とか見たことないわね」


「ボクたちと仲が良くなりたい人の依頼とか?」


「それなら指名で依頼してくるかもしれませんね」



 麻衣の言う通り、パーティー名も登録していることだし、うちのメンバーと仲良くしたいという下心があるなら、直接名指しで依頼が来そうだ。もちろんそんな依頼は絶対に受けないが、受付嬢の頼み方からすると今回の依頼はそんな感じでは無いように思える。


 しかし、どうにも目的がわからないので出来れば断ろうと思っていたが、ギルドとしてもかなり困っているらしく、なんとか話だけでも聞いてもらえないかと懇願された。依頼が達成できたら、全員をシルバーランクに上げても良いという条件まで付けてくれたので、こちらから提示する条件を飲んでもらえれば依頼を受けると前置きした上で、話を聞いてみることにした。



◇◆◇



 依頼者がちょうどギルドに居るという事だったので、そのまま奥に案内される。ギルドの奥には初めて入ったが、扉がいつくかあって会議室のように使っているみたいだ。使用中の札がかかっている部屋からも声は漏れてこないので、盗み聞きの対策もしっかりされている様だ。


 その部屋の1つに案内され、中に入ると女性が2人座っていた。1人は20代だろうか背も高く胸も大きくスタイルがいい、とてもクールな感じがする女性だ。もう一人は少し背が低く、顔も童顔だが目には知的な光が宿っているような気がする。



「始めまして、虹の架け橋のパーティーリーダーをしているダイと言います」


「私は国の依頼でダンジョンの地質調査をしているユリーというの、こちらは助手のヤチよ」



 そう言って背の低い方の女性が挨拶をしてくれる、少し驚いたがこちらの方が立場が上の人らしい。助手のヤチさんも挨拶をして、お互いの自己紹介を済ませる。


 ユリーさんもヤチさんも共に20代で、国立の研究機関に在籍して、地質調査を専門にしている。彼女は若くして教授にまで上り詰めた英才で、ヤチさんはその助手をずっと続けているらしい。年齢が若いこともあり、各地にあるダンジョンに出向いて調査を行っているそうだ。



「それで女性の多いパーティーに限定している理由を聞いてもいいでしょうか」


「火山ダンジョンって暑いわよね、そうするとほら、汗とかかくじゃない。特にヤチはスタイルがいいから、そんな姿を男たちの衆目に晒すなんて私は嫌なの」



 ヤチさんはユリーさんの事を尊敬した目で見ている。自分の事より助手の方を心配している所など、とても優しくて思いやりのある人みたいだ。俺は他のメンバーの顔を見てうなずきあった、この依頼は受けてもいいだろう。



「この依頼お受けしてもいいと考えてますが、俺が1人いますけど大丈夫ですか?」


「貴方1人なら私たちも我慢するわ。それでギルドからも聞いたけど、貴方たち実力はあるのよね?」


「えぇ、俺たちは32階層のダンジョンを最終階層まで突破していますし、火山ダンジョンはそこより難易度が低い場所ですので問題ないと思います」



 火山ダンジョンは溶岩が流れているという危険な場所はあるが、出てくる魔物の強さはそれほどでもない。ただ環境が悪く、汗を沢山かいたりして水を大量に使うので、人気もなく訪れる冒険者も少ない。この依頼を受ける女性冒険者が居なかったのも、その事が理由の1つだったかもしれない。



「他にこの依頼を受けてくれる冒険者は居ないとギルドも言っていたし、貴方たちにお願いしようと思うわ」


「わかりました。それでこちらからの条件なのですが」


「最初に言っていたパーティーメンバーの能力や、使っている武器の事を他人に口外しないだったわね。私も冒険者のルールは知っているし、私たちにも言えない秘密はあるのよ。もし信用出来ないなら、それを教えて交換条件にしてもいいけど、どうする?」


「いえ、そこまでして頂く必要はありません。わかりました、依頼をお受けします」



 その後細かい打ち合わせをして解散した。出発は明日の朝で、ダンジョン内でもし実力がないと判断されたら、その時点で依頼は破棄して街に戻る、と言う条件もついていた。



◇◆◇



「護衛の依頼なんて初めてですね、ご主人様」


「そうだな、でも俺たちの実力があれば大丈夫だと思うぞ」


「そうね、アイナちゃんの索敵もあるし、マイちゃんの障壁もある、失敗することは無いと思うわ」



 このメンバーなら、少なくとも依頼主を危険に晒すようなことは無いだろう。後は俺があの女性たちに嫌われないようにすれば、依頼は達成できると思う。



「暑さ対策はウミにお任せなのです」


「……近づいてくる敵は全部倒す」


「ボクもいっぱい倒すからね、ダイ兄さん」



 頼もしい前衛も増えたし、ウミのおかげでダンジョン内もある程度快適に過ごせるはずだ。俺たちの能力については他言無用にしてくれると断言してくれたし、交換条件を提示しようとしてくれた事もあるので、その点については信用してもいいだろう。



「明日は依頼主2人の分のお弁当も用意しますね」


「俺たちだけ麻衣の美味しい弁当を目の前で食べるのも気が引けるし、お願いできるか?」


「手間はあまり変わらないので大丈夫です、任せてください」



 麻衣の作ってくれるお弁当も、ダンジョン攻略の楽しみの一つだ。宿屋に厨房があるので、アーキンドに居た時と同じように、麻衣はお弁当を作ってくれる。みんなで一緒に食べるお弁当は、学校に居た頃を思い出して楽しくなる。


 その日は街を回りながら明日の準備を整えて、宿屋に戻った。




―――――・―――――・―――――




「おはようございます」


「おはよう、今日はよろしくお願いするわね」



 翌朝、冒険者ギルドの近くで依頼主の教授と合流した。2人とも昨日と違い動きやすい格好をしていて、一見すると冒険者のように見える。背中にはリュックを背負っていて、調査に必要なものが詰まっているんだろう、少し重そうな感じだ。


 みんなが挨拶した後に徒歩で火山ダンジョンに向かう、距離はそんなに離れてないので時間もかからない。あちこちのダンジョンに調査に出かけているからか、2人とも足取りはしっかりしている。


 火山ダンジョンは地下ダンジョンと違い階層がない、山の内部を登っていく構造になっていて、坂道も多いので2人の荷物はこちらで預かってあげた方がいいだろう。



「貴方たちはそんな軽装で大丈夫なの?」


「必要なものは全部持っていますから大丈夫ですよ」



 普通の防寒具しか身に着けていない俺達を見た教授が不審そうに尋ねてくるが、全員精霊のカバンと空間魔法に必要なものをしまっているので、ほぼ手ぶらの状態だ。教授は納得していない様子だが、黙ってついてきている。


 ダンジョンの前に到着すると、狭い入口があってその奥が広い空間になっている。突き当りに上へ伸びる階段があり、あそこを登るとダンジョン内部に入れるようだ。入り口ホールには他の冒険者は誰も居ないので、ここで準備を整えてしまおう。



「みんな、防寒具は脱いで準備しよう。教授たちも防寒具を脱いで、必要なものだけ小さなカバンがあれば入れ替えて、リュックは俺たちに預けてくれていいですか?」


「運んでくれるのは有り難いけど、私たちもそれなりにダンジョンは経験してるので、自分の荷物くらい運べるわよ?」


「いえ、俺たちはこれがあるので」



 そう言ってパーティメンバー全員が自分の防寒具を精霊のカバンに収納し、装備品を次々取り出す。教授たちは2人とも目を丸くして驚いている。



「そ、それは精霊のカバンね。しかも全員持ってるだなんて」


「教授、このパーティーには水の中級精霊が居ますから、持っていても不思議ではないですよ」



 先にウミの存在を思い出したのか、助手のヤチさんが教授に状況説明をしている。1人は空間魔法だが、わざわざ説明する事もないだろう。荷物を預かることが出来るのに納得したのか、2人とも必要なものを小さなカバンに詰め直して、リュックを渡してくれる。男性の俺より女性が持ったほうがいいだろうと、イーシャが預かってくれた。



「それじゃぁ、ダンジョン内部に行こうか」



 全員で階段を登りダンジョン内部に到着すると、そこは赤い世界だった。所々溶岩が流れていて赤く光っているし、壁や天井もほのかに赤い色を発している。そして入った瞬間に肌にまとわりつくような熱気で、汗がじんわりと吹き出してきた。



「思った以上に暑いな」


「……これだけ暑いと、私も住みたくない」



 寒いところの苦手なエリナだが、この暑さは流石に遠慮したいようだ。夏場に締め切った教室に入った感じの熱気だろうか、大陸南部の夏とはまた違う暑さだ。



「ウミ、お願いしていいか?」


「任せるのです!」



 そう言った瞬間に、今までの熱気が嘘のように温度が下がった。体感的には大陸南部の少し気温の高い日くらいだろうか、先程の熱気に比べるとずいぶん過ごしやすくなる。依頼主の2人も急に温度が下がったので驚いているようだ。



「きゅ、急に温度が下がったわよ!?」


「ウミがみんなの周りの温度を下げたのです」


「そっ、そうなの? これが精霊の力……」


「火の精霊が多いこの場所だと、水の精霊はほとんど居ないから、ウミちゃんじゃないと使えない方法ね」



 イーシャの説明に教授たちは、何か神々しいものを見るような目でウミのことを見つめている。汗をかいた自分たちの姿を異性に見られる事に抵抗があった2人にとって、ウミはまさに神のような存在に見えているのだろう。ウミも両手を腰に当てて、えっへんポーズをしているのがとても可愛い。



「準備が整いましたし、出発しましょうか。調査地点の近くまで来たら教えてください」


「わ、わかったわ。それじゃあ、護衛お願いね」






 火山ダンジョン調査の護衛依頼が始まった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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