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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第6章 ヴェルンダー編
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第56話 鍛冶屋

 今日はイーシャの顔見知りの鍛冶屋に全員で向かっている、ドワーフの老人がやっている鍛冶屋で名前はレオンさんと言うそうだ。老人と言ってもドワーフも長寿種族なので、見た目はおじさんでイーシャの祖父の古い友人らしい。とても信用できる人なので、俺たちのことを知られても絶対に大丈夫だと断言してくれた。



「こんにちは、レオじいさんは居るかしら」



 イーシャが声をかけながら、いかにも鍛冶屋の工房という感じの炉や金属を加工する台が置かれた店に入ると、奥で材料になる鉱石だろうか、石の塊を手にしていた背が低くて手足が太く顔に立派な髭を蓄えた人がこちらを見た。



「イーシャの嬢ちゃんじゃないか、2年ぶりくらいか、まだ旅を続けてるのか?」


「そうね、それくらいになるかしら、旅はまだ続けているわよ、それに今は仲間も増えたの」



 そう言ってイーシャは俺たちの方に視線を向けると、レオンさんもこちらの方をじっと見つめてきた。



「ほぉ、人族に獣人族、そっちのちっこいのは精霊か? それに赤い髪の嬢ちゃんは人族とは少し違うようだな」



 驚いた事にレオンさんは角を隠して普通の人間の子供と同じ姿のオーフェを、人族とは違う存在だとひと目で見抜いてしまった。



「レオじいさんは凄いでしょ、この洞察力が良い武器を作る秘訣だそうよ」


「確かに凄いな、それにここに入った時から空気が違うよ、工房の温度だけでない何かを感じる」


「ダイくん、ここは火の下級精霊がすごく多いのです、そこのドワーフさんは火の下級精霊と、とても仲良しみたいですよ」



 鍛冶に必要な火を使うドワーフにとって、火の精霊との関係はとても重要らしい、レオンさんはそれだけ優秀な鍛冶屋だということだ。



「さすが精霊だな、確かに儂は火の精霊に気に入られているし、とても良い相棒と思っている」



 そう言って笑うレオンさんを見ていると、精霊にお願いをする間柄だけではない信頼関係のようなものが出来ている感じがした。


 とりあえず俺たちも自己紹介をする。



「始めまして、俺はこのパーティーのリーダーをやっているダイといいます」


「私は犬人族のアイナです」


「私は麻衣と言います、普通の人間です」


「ウミは水の中級精霊なのです、よろしくなのです」


「……私は猫人族のエリナ」


「おじいさん、ボクが人族とは違うって良くわかったね。ボクは魔族のオーフェリアだよ、オーフェって呼んでくれると嬉しいな」



 それぞれが挨拶をするが、レオンさんはとても愉快そうな顔をして笑っている。



「イーシャの嬢ちゃん、これは凄いパーティーメンバーじゃないか、旅を続けていた甲斐があったな」


「彼と出会ったから、こんな素敵なパーティーに加わることが出来たのよ」



 イーシャは俺の腕を取って微笑んでいる、レオンさんはその姿を見て更に表情を破顔させた。



「あのちっちゃかったイーシャの嬢ちゃんに、まさか男を紹介される日が来るとは思ってなかったな、今日は実に愉快な日だ。それで、何か用事があってきたんだろ?」


「えぇ、実はミスリルの武器を作って欲しいの」


「ミスリルだと!? 材料はあるのか?」



 そう言われたので、精霊のカバンからルーイさんに貰ったミスリル鉱石をレオンさんに渡す。



「こいつは……かなり純度の高いミスリル鉱石だな、これを何処で手に入れたんだ?」


「旅の途中で出会ったノームの男性を助けたら、そこで採れたこれをお礼にくれたんです」


「その鉱脈にはもう残ってないのか?」


「ほとんど掘り尽くしたと言ってましたね」


「そうか、そいつは残念だ、これだけ上等な鉱石はなかなか手に入らないからな」



 レオンさんはそう言ってとても残念そうな顔をする、ルーイさんに貰ったこの鉱石は、かなり質が良いみたいだ。



「それで、どんな武器を作って欲しいんだ」


「この娘たちが使う短剣をお願いしたいんです」



 アイナとエリナをレオンさんの前に連れてきて、腰に挿している短剣を見せる。



「こいつは魔法回路を刻んでいるのか?」


「はい、ご主人様の作ってくれた回路を刻んでいます」


「……あるじ様の特製回路」


「それならミスリルの武器は最適だ、儂が最高の武器を作ってやる」



 それを聞いたアイナとエリナはすごく嬉しそうな顔をしている。魔族の幹部という強大な存在と遭遇してしまった今、武器が強くなることは、彼女たちも更に望んでいたんだろう。



「それで物は相談なんだが、そのミスリル鉱石がまだ有るならいくつか分けてくれないか、それを貰えるなら武器の製作費はタダにしてやる」



 それは願ってもない事だ、一流の職人が作るオーダーメイドの武器なんて、一体いくら掛かるかわかったものではない、それがタダになるなんて有り難い。それを聞いて、カバンにしまっていた鉱石を全部差し出した。



「こいつはいくら何でも貰いすぎだ、もう一つくらい武器を作ってやれるが何か無いか?」



 そう言われても近接武器を使ってるのはアイナとイーシャだけだし、他と言われてもと考えていたら1つ思い浮かんだ。



「オーフェはマナコートと普通の魔法は同時に使えるのか?」


「魔法回路を刻んだ武器ってことだよね、使えるよ」


「それなら、何か使ってみたい武器とか無いか?」


「うーん、ボクは基本的に殴るか防ぐだけだから、あまり考えたことなかったなぁ」


「それなら、籠手(こて)を使ってみたらどうだ」



 オーフェが悩んでいると、レオンさんがそんな提案をしてくれる。籠手って、剣道の防具や鎧の手の部分のことだろうか。



「それってどんな武器なの?」


「武器とはちょっと違うんだが、手からひじを守る防具だな。だがそこに魔法回路で刃を発生させると、武器にもなるし、守る時も相手への攻撃になる」


「それは凄そうだね、ダイ兄さんお願いしてもいい?」


「あぁ、オーフェ用の魔法回路を組んでやるぞ」



 こうして、短剣と籠手の制作をお願いした。短剣はいま使っている物と同じバランスになるように、調整してくれるようだ。流石に一流の職人は凄いと思った。


 製作に10日程かかると言うので後日また訪れることにしたが、その前にレオンさんがこんな事を言ってきた。



「武器の(めい)はどうする?」


「めいって何ですか?」


「武器の名前だな。せっかくミスリルで作るんだ、名前があったほうがいいだろ?」



 そう言われたが急には思いつかない、みんなにも聞いてみたが、なんか俺が決めるという流れになってしまった。


 アイナは風の剣だし、エリナは氷の剣だ、オーフェは何となく炎のイメージだな。火の魔法は使い所が難しいが、オーフェの場合は素の状態でもマナコートの防御力があるので、必要に応じて発動させるコマンドワード方式にすれば大丈夫だろう。



「アイナの短剣は“疾風(しっぷう)”、エリナの短剣は“氷雪(ひょうせつ)”と“氷雨(ひさめ)”、オーフェの籠手は“紅炎(こうえん)”でどうだろう」


「ご主人様、それはどういう意味なんですか?」


「疾風は急に吹く強い風のことだ、氷雪と氷雨は氷に関する自然現象だな。オーフェの籠手には火の魔法回路を刻もうと思ってるから、紅炎は表面から立ち昇る炎のことを意識してみた」



 たまたま知っていた熟語を並べてみたが、何となくしっくりする。



「ボクはそれでいいよ、ありがとうダイ兄さん」


「私もそれがいいです」


「……あるじ様のつけてくれた名前、とてもいい」


「決まったみたいだな、その名前を武器に刻んでやる」



 日本語の熟語だけど、読み方をこちらの文字で武器に刻んでくれるみたいだ。



◇◆◇



 レオンさんの鍛冶屋を後にしてみんなで街を歩く、昨日はあまり見て回れなかったが、改めて見ると人族とは違う種族が多く歩いている。


 俺の腰くらいまでの身長で、耳が少し尖っているハーフリング族。王都の宿屋の女将さんしか見たことがなかったが、この町では結構見かける。彼らは手先が器用なので、宝飾品の加工などをしているそうだ。


 そして旅の途中でも会った、ハーフリング族よりも小柄なノーム族。北部には良質な鉱山が多く、それを採掘するために集まってきているようだ。


 レオンさんと同じドワーフ族もたくさん見かける。手足が太くて背の低いがっしりした体型で、男性は全員が立派な髭を蓄えている。子供には生えていないが、体型は大人をそのまま小さくした感じなので、まるっとしていて可愛らしい。



「さて、武器が出来上がるまでどうしよう」


「ご主人様、この街にダンジョンは無いんですか?」


「確か32階層の中級者向けと、128階層の上級者向けダンジョンがあったな」


「私たちが行くとすれば32階層の方かしらね」


「ここのダンジョンも通路を塞げるような構造だといいんですが」


「……オーフェが増えたから、少しくらい敵が多くなっても大丈夫」


「ボクもパーティーに入って初めてのダンジョンだし頑張るよ」



 オーフェとの連携も色々確かめないといけないし、まずは難易度の低いダンジョンに挑戦するべきかな。新しい武器が出来て、その扱いにも慣れてきたら上級の方にも挑戦してみよう。



「昨日ギルドに行った時に、火山ダンジョンってあったと思うんだけど、そこには行かないの?」


「あー、うちにはウミが居るからな、火山は水の精霊には辛そうだし考えてなかった」



 オーフェが見たのと同じものを俺も見たが、中は溶岩が流れているようなダンジョンで、暑そうだし水の下級精霊がほとんど居無さそうだし除外してた。



「ウミなら大丈夫なのですよ、ダイくん」


「そうなのか?」


「火の精霊がいっぱい居ても、ウミの周りには水の下級精霊が集まってくれるのです」


「それは中級精霊の力なんですか?」


「そうなのですよ、マイちゃん。それに火山の中の暑さも和らげられるですよ」


「中級精霊って凄いんだね、ボク尊敬しちゃうよ」


「もっとウミに頼ってもいいのです」



 なんか久しぶりにウミのえっへんポーズを見た気がするな。しかし、以前イーシャに火山には水の精霊はほとんど居ないと教えてもらったけど、中級精霊がいるとそれに集まってくるのか。その上、暑さまで緩和できるとは、万能すぎるな精霊って存在は。



◇◆◇



 その後は街でダンジョン攻略の準備をして、レオンさんに渡すお礼の酒も用意した。人族にはキツすぎて飲めないという、火が点くくらいのアルコール度数のお酒だが、ドワーフは水のように飲むそうだ。


 旅の途中で俺とイーシャの杖を3並列にしてしまったので、2並列のものを作り直したりしていたら夕方になってしまった。


 その日は宿屋に帰り明日に備える。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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