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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第5章 馬車の旅編
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第54話 オーフェリアの魔法

今日は朝と夜で2話投稿しています。

第5章はこれで終了になり、次は舞台をヴェルンダーの街に移します。


第6章では準レギュラーになるかもしれない人物も登場しますので、ご期待下さい。

資料集の方も、この後にここまでの話を反映したものに更新します。

「オーフェは他の種族の生活が見たくてこの大陸に来たんだよな、それなのに何故こんな何もない場所の森の中なんかに居たんだ?」



 オーフェを仲間に加えることを決めて、そのまま雑談を開始したが、俺の質問に少し困ったような恥ずかしそうな顔をしている。



「えっと、実はね、ボクは少し方向音痴みたいなんだ。近くのお店に行こうとしたら、いつの間にか森の中に居たり、友だちと遊んでいたら隣町に居たこともあったかな、不思議だよね」


「それは少しなんでしょうか」



 麻衣がまた鋭く切り込んでいった。しかし確かに少しどころじゃないな、俺たちの居た世界のようにGPS付きのスマホなんて無いだろうから、よく今まで無事に暮らせていたものだ。



「迷子になってお家に帰れないと大変なのです」


「それは大丈夫なんだ、ボクの固有魔法で帰れたからね」


「さっきの魔族も固有魔法とか言っていたな、それは何なんだ?」


「魔族にはその人だけが使える魔法があるんだ、さっきの魔族が使っていた炎の魔法もそうだけど、道具とか無しで使えるんだよ」


「……あれは凄かった」



 普通の魔法回路で作り出せる魔法とは違うと思っていたが、あれが固有魔法なのか。威力の調整が出来るような事も言っていたから、使い勝手は良さそうだ。



「ボクは空間魔法が使えるんだよ、覚えている場所なら繋げられるから、迷子になっても家に帰れたんだ、だから方向音痴も治らなかったんだけどね」



 そう言いながらオーフェは照れたように笑っている。しかし空間をつなぐ魔法とは凄いな、別の場所にワープできるなんて、移動が馬車か徒歩しかないこの世界ではチート能力すぎる。



「その魔法があればここから魔族界にも帰れるのかしら?」


「距離が離れすぎててちょっと無理かな」


「この大陸で行ける場所とかまだないのか?」


「まだここには来たばかりだから、覚えている場所は最初に降りた海の近くだけだね」


「確か海には危険な魔物が居るって前に船長さんが言ってましたけど、オーフェちゃんは海を渡ってここまで来たんですか?」


「いい質問だねアイナちゃん、海は危険だからボクたち魔族でも超えられないね。それに方向音痴のボクだと、途中で何処か別の場所に行ってしまいそうだよ。そんなボクがこの大陸に来ることができた理由は、魔族界の鳥に運んでもらったからさ」



 少し自虐気味に言っているオーフェだが、鳥に運ばれたのなら彼女でもここまで来られたのは納得だ。しかし海からでなく空から来たというのは盲点だった、この世界には飛行船なんて無いみたいだしな。他の魔族も同様の方法でこの大陸に来ているようだが、一度に何人も運べないそうだ。



「目立たない場所に運んでもらったから、近くには何もなくてね。そこから街に行こうとしたんだけど大変だったよ、街道を歩いてたはずなんだけど気がついたら森だったりして、いつまで経ってもたどり着けなかったんだ、みんなに出会えてよかったよ」


「苦労したんだな」


「そうなんだよダイ兄さん! 空間魔法でしまっていた食べ物も無くなってどうしようって思ったよ」


「物もしまえるんですか?」


「マイちゃんの持っている精霊のカバンみたいに時間が止まらないから、食べ物は傷んじゃうんだけど便利だよ」



 そう言って何もない空間から、着替えや小物を取り出している。荷物も持たずに旅をしていたと思ったら、そんな魔法が使えるからか。その人にしか使えないと言っていたが、固有魔法は便利だな。



「……その魔法って他の人も運べるの?」


「うん、エリナちゃんも一緒に移動できるし、ここに居るみんなくらいなら一度に移動できるよ」


「それは凄いわね、私たちはこれから北の方の街に行くのだけれど、そこを覚えておくといつでも行けるわね」


「何処かに行く時はボクに任せてよ! だから色んな所に連れて行ってね」



 これはまた凄いメンバーが加入してしまったな。どこかの街に拠点を作って、そこから空間移動で色々な場所を旅するのも良いかもしれない。大陸中央部で安い家とか借りられないか探してみようか。



「オーフェちゃんはさっき崖の上から飛んで来てたですが、怪我とかしてないです? ウミが治すですよ」


「ありがとうウミちゃん、でも大丈夫だよ、実はあれも固有魔法を使って攻撃したから怪我は無いんだ」


「固有魔法っていくつも持てるのか?」


「複数持ってる人はあまり居ないね、ボクは空間魔法とマナコートっていう強化魔法の2つを使えるんだ」


「さっきはすごい勢いで落ちてきたので、びっくりしました」


「脅かせちゃってゴメンねアイナちゃん、あれはマナで全身を包んで落ちてきたんだ、そうすると衝撃を減らせたり、硬いものを壊すことも出来るんだよ」



 麻衣の障壁魔法の鎧版って感じか、見た目は少女なのに肉弾戦に有利な魔法とはちょっと意外だった。マナコートの事を詳しく聞くと、体表を薄いマナの膜で覆う魔法で、防御力が大幅に増加するらしい。そして着ている服もマナで包まれるので、破れたり汚れたいしないという効果もあるようだ。燃費が悪くすぐお腹が空くという欠点はあるが、身体強化と同じように力や速さも上がるみたいだし、固有魔法って本当に便利だ。



◇◆◇



 それから色々な話しをしたが、時間も遅くなってきたので休むことにする。


 今はエリナと麻衣が見張りに出てくれていて、アイナは俺のブラッシングの後に眠ってしまった。イーシャとオーフェは別のテントで休んでいる。


 今日は魔族と戦闘があったり大変だった、でも全員無事だったし新しい仲間も増えた。しかも空間魔法の使える魔族の女の娘だ。獣人・エルフ・精霊・魔族と、パーティーのメンバーも多彩になってきた。



「あの、ダイ兄さん、少しいいかな?」



 横になって考え事をしながら、そろそろランプの火を消そうかと思っていると、少し遠慮がちにオーフェがテントの中を覗き込んできた。



「なにか話があるのか?」


「うん、まぁ、そんな感じかな」



 俺が起き上がろうとすると、オーフェは慌ててそのままでいいと制してくる。何か話したいことがあるようだが、いまいち踏ん切りがつかないのか、俺の顔を見たり隣のアイナを見たり視線が忙しく動いている。



「とりあえず入って来ていいよ」



 このテントは3人でも寝る事が出来る広さがあるので、オーフェを中に招き入れる。しかし、なかなか入ってこようとせずに、何か言いたげな顔をしてしばらく迷っていたが、意を決したように俺の方を見てきた。



「あのさ、隣で寝てもいいかな」


「それは構わないが毛布が無いぞ」


「あ、それはちゃんと持ってきたから大丈夫」



 入り口の影で見えていなかったが、毛布を持参してここまで来たようだ。俺の枕で寝ているウミと隣のアイナを起こさないように、オーフェはそっと俺の横に潜り込んできた。



「アイナちゃん気持ちよさそうに寝てるね」


「寝てるといつもくっついて来るんだ、俺が隣りに居ると良く眠れるとか言ってるな」


「それだけ信頼されてるなんて、ダイ兄さんは凄いな」


「出会ってからずっと一緒に寝てたからな、もう習慣のようになってしまってるのかもな」


「そうなんだ、ずっと仲良しだったんだね」



 そう言って優しく笑うオーフェは少女らしい可愛さがあって、少年のような喋り方とのギャップを際立たせる。



「ダイ兄さんは会ったばかりのボクの事をどうして信用してくれたの?」


「襲われていた所を助けてくれたとか、色々な情報を教えてくれたって事もあるけど、一番の理由は美味しそうにご飯を食べる姿と、笑顔が素敵だったって事かな」


「ボクの笑顔が素敵?」


「あぁ、それにとても可愛い笑顔だと思うよ」


「かっ、可愛いなんて言われてもボク困ってしまうよ。ほら、ボクは自分の自我のせいでこんな喋り方だから、そんなの考えたこと無かったんだ」



 オーフェは顔を赤くして横を向いてしまう、耳まで真っ赤になっていてちょっと可愛い。



「髪の毛も長くて綺麗だし、赤い瞳も素敵だと思うよ」


「ダイ兄さん、これ以上ボクをいじめないでよ」



 そう言うとオーフェは俺の腕を抱きかかえる様に体を寄せて顔を埋め、こちらから見えないように毛布をかぶってしまった。少しからかいすぎたかもしれないが、可愛いというのは本心だ。しばらく毛布の中で身悶えしていたが、やがて毛布から顔を出して、こちらの方を見つめてくる。ルビー色の瞳がランプの明かりを受けてゆらゆらと光っている。



「もう一つお願いがあるんだけど」


「俺に出来ることなら構わないよ」


「ウミちゃんも言ってたしイーシャちゃんにも聞いたんだ、ダイ兄さんのなでなでは気持ちがいいって。ボクもやってもらっていいかな」


「それくらいお安いご用だ」



 オーフェに抱えられている方と反対側の手を伸ばして髪の毛を撫でる、この娘の髪の毛も細くて柔らかくて触り心地がいい。目を細めて気持ちよさそうにしている姿を見ながら、頭を撫で続ける。



「これは気持ちいいね、みんなが言うのも納得だよ。実はアイナちゃんやエリナちゃんが撫でられてるのを見て羨ましかったんだ、ボクもやってもらいたかったんだけど、出会ったばかりだし言いづらくて」


「魔族は年齢の概念が違うって言ってたけど、俺から見たらオーフェも10歳の女の娘なんだ、遠慮せずに甘えてきていいぞ」


「うん、ありがとう。ずっと兄さんが欲しかったから、ボクとても嬉しいよ」






 そう言って花が咲いたような笑顔を浮かべたオーフェを、眠りにつくまで撫で続けた。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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