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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第5章 馬車の旅編
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第52話 魔族

「ほう、吾輩の気配に気づくとは、なかなか優秀な者が居るようだな」



 人の体にイノシシの顔がついた化け物が、人の言葉を喋っている。少しづつ近づいてくるその化け物の頭には、黒い角が2本生えているのが見える。言葉をしゃべる魔物は居ないはずだし、リザードマンのような亜人とも違う感じがする、とにかく何か危険な気がして心が警笛を鳴らしている。


 先程まで怯えていたアイナは異形の化け物を目の前にして警戒心を強め、エリナも2本の短剣を構えて相手を睨んでいる。俺が先頭に立って怪物と対峙し、イーシャは麻衣を守るように俺の少し後ろに立つ。ウミと一緒に居る麻衣は少し怖がっているみたいだが、俺たちの後ろで杖を握りしめて化物の動きに注意を払っている。



「あなた魔族じゃないかしら、こんな所に何か用なの?」


「エルフも居るのか、珍しい者に会えたものだ」



 魔族と言われた化物は、俺やアイナとエリナに気を取られて気づいていなかったのか、イーシャを見て興味深そうな言い方をした。言葉のニュアンスで何となくわかるが、顔がイノシシなので表情が読めなく非常にやりづらい。



「それで、お前は魔族なのか?」


「いかにも、吾輩は魔族である」


「その魔族が私たちに用でもあるのかしら」


「この辺りで妙な気配がしたのでな、吾輩も存在を隠して近づいたのだが、まさか気づかれるとは思ってもみなかったぞ」



 アイナの気配察知は優秀だからな、しかも昔より精度も範囲も上がっている。しかし、この魔族以外の気配をアイナは察知できていない、この魔族の言う妙な気配が俺たちのものなのか、それとも別の何かなのかはわからないが、他にも誰かが潜んでいるかもしれないことに注意しなければ。



「普通の者なら気づかれることは無いはずなのだが、吾輩も少々(なま)ってしまったかもしれないな」



 魔族は体をほぐすように腕や首をグリグリと動かし始めた。先程から話をするだけで、お互いの距離は全く変わっていないが、嫌な予感はずっと止まらない。



「その妙な気配が俺たちじゃないなら、どこか他所に行ってくれないか」


「それは確かめてみなければ判らないな、特にお前は珍しい色の髪の毛をしているし、雰囲気も他の者とは少し違うようだ」



 そう言うやいなや、魔族が瞬間移動したように俺の目前に姿を表した。イーシャも麻衣も全く反応できない、俺も急に目の前に現れた魔族を見て体が固まってしまう。



「ご主人様から離れてください!」


「……あるじ様は私が守る」



 反応できたのはアイナとエリナだけだった。


 身体強化で加速したアイナが魔族の腕を斬りつけ、俺の近くに来たエリナが体を引っ張って魔族から遠ざけてくれる。


 魔族に攻撃したはずのアイナだが、いつの間にか反撃を受けていたようで腕が少し斬れている。魔族が攻撃を受けた自分の傷痕をじっと見ている隙きに、俺たちは全員で距離をとった。



「アイナ大丈夫か、痛くないか? ウミ、すまない治療を頼む」


「わかったのです」



 ウミがアイナの傷口に手を当てて治療を開始する、こちらを見て大丈夫と言っているが当たりどころが悪かったり、もっと深い傷を負ったりしたらと考えると背筋が凍る。魔族も自分の腕の切り傷から視線を外し、俺たちの方を見た。



「精霊まで居るとは今日は驚くことばかりだ、それに我輩を傷つけられる短剣など見たことがない、お前たちはいったい何者なのだ?」



 魔族の腕は浅い傷が出来ているだけで、すでに血も止まっているようだ。3並列魔法回路でパワーアップしたアイナの風の短剣をもってしても、その程度しか傷を負わせられないなんて魔族の強さは規格外すぎる。勇者を召喚しないと太刀打ち出来ないというのが良く分かる。



「それをお前に言う必要があるのか?」


「答える気がないのなら力ずくで聞くしか無いが、どうするかね?」



 魔族は余裕があるのか、俺の話にも律儀に受け答えしてくれる。しかし魔族はこの大陸の侵略を企んでいるという話だし、俺たちの秘密を話して脅威だと認識されれば、この場で始末されるかも知れない。



「答えたらどうなるんだ?」


「我らにも使える技術や武器なら奪い取るし、そうでなければ我輩に協力してもらおう」


「この大陸を攻める手助けは出来ないな」



 正直なところ、言葉を喋って人と同じ体を持ったこの魔族を攻撃するのは気が引ける、しかしパーティーメンバーを危険に晒すのは絶対に避けたい。なるべく死なない程度にダメージを与えて撤退してもらえれば良いんだが、相手は魔法回路の秘密を聞く気が満々のようだ。俺は覚悟を決めて風の刃の杖を構える、イーシャも隣で氷の杖を魔族に向けた。



「そんなちっぽけな杖で、我輩を傷つけられるとでも思っているのか?」


「やってみないとわからないさ」



 並列魔法で強化された風の刃と氷の矢が魔族に向かって放たれる、自分にはダメージを与えられないと思っているのか、一歩も動かずに飛んでくる魔法を見つめている。


 俺の魔法が腕に、イーシャの魔法が足に直撃したが、僅かに傷をつけただけだった。そして魔族は傷のついた場所をじっと見つめる。



「我輩に傷を負わせられる魔法が、そんなちっぽけな杖から出せるとは驚きだ、今日は実に衝撃を受ける事ばかりだな。お礼に我輩の魔法も見せてやろう」



 そう言って魔族が腕を振ると、太くて大きい炎の槍が頭上に出現し、こちらに向かって放たれた。これは普通の魔法回路で作り出せる魔法とは次元が違う。


 麻衣の張ってくれた障壁と炎の矢が激突して大きな爆発が発生するが、3並列化した障壁の魔法回路はそれにも耐えきってくれた。



「死なない程度に手加減したとはいえこれも防ぐか、ますます興味が湧いてきた。何としてでもその秘密を聞きたくなってきたぞ」



 あれで死なない程度って、魔族の強さを基準に考えているようで全く手加減になっていない、普通の人間があれを食らったら大怪我どころでは済まないだろう。しかしこのままでは無理やり口を割らされそうだ、最後の手段だがここで使うしか無い。俺とイーシャの杖を3並列化しよう。



「麻衣、すまないけど少しだけ障壁の維持を頼む、俺とイーシャの杖を改造する数十秒だけでいい」


「わかりました」


「イーシャ最後の手段だけどいいな」


「わかったわ、このままだと打つ手がないし、やりましょう」



 俺とイーシャが魔法回路を起動状態にして、3並列化の改造を開始する。



「まだ何か方策があるのか? お前たちは本当に面白いな。見た所そこの男が武器の秘密の鍵のようだ、連れ帰ってじっくり話を聞く事にしよう」



 魔族が攻撃せずにこちらの様子を見ているが好都合だ、回路を縮小して列コピーを行い2つの杖を改造する。3並列化された杖を持ち、2人で魔族に向き直る。



「この攻撃でお前が退いてくれなければ俺たちの負けだ」



 俺とイーシャが杖を振ると、3並列魔法回路でパワーアップされた風の刃と氷の矢が、魔族の腕と足に命中した。魔族は一瞬体勢を崩したが、大きなダメージは与えられなかった様で立ったままだ。先程より深い傷は出来ているが、斬り落としたり貫通するような傷にまでは至っていない。



「まさか我輩がこれほどまでの傷を受けるとは思わなかったぞ。しかも武器を変えずに威力だけ上がるとは驚嘆に値する。お前たちの種族は我らのような固有魔法は使えないはずだが、一体何をやったんだ?」



 これでもダメか。魔法を連射すればある程度のダメージは与えられそうだが、さっきの身体能力を見ると2人で攻撃しても当てられるとは思えない。今はあえて攻撃を受けている感じなのでまともに命中しているが、相手が本気で攻めて来ていれば既に戦闘は終わっていただろう。


 治療を終えたアイナとウミと近くで警戒していたエリナも、俺の側まで来て不安そうに見上げて来る。麻衣も俺の後ろに立ち、服の裾をぐっと握ってきた。イーシャは俺の耳元に顔を近づけて、小声で話しかけてくる。



「ダイ、いざとなったら精霊魔法を使うわ、倒せないかも知れないけれど時間くらい稼げると思うわ」


「いいのか? 魔族に知られるとイーシャまで狙われるぞ」


「どの道あの魔族は私たちの事を色々聞こうとするでしょうし、貴方(あなた)とこんな所で別れなければいけなくなる位なら、魔族に秘密を知られるなんてどうって事ないわ」



 俺が精霊魔法に頼ってその場を撤退しようと決めたその時、崖の上から声とともに何かが落ちてきた。



「オォーフェーリィーアァーキィーッッーク!!!」




  ――――ドゴォーーーーーン




 崖から落ちてきた赤い何かが魔族の顔に命中すると、そのまま地面にめり込んで土煙を上げる。


 もうもうと吹き上がる土煙が晴れると、そこに現れたのは赤いストレートの長い髪を持ち、ワンピースの服の上から、足元まで有るマントのようなものを羽織った、小学生くらいの女の娘だった。


 俺たちがあっけにとられて見ていると、女の娘は地面に埋まって動かなくなった魔族の上から降りると、両手を腰に当てて見下ろした。



「キミ、他の種族をいじめたらダメじゃないか」



 女の娘は魔族に向かって説教しているようだが、蹴られた方はピクリとも動かない。近づいて叩いたりつま先で突いたりしていたが、意識が戻らないようなので諦めたらしく、今度は俺たちの方に近づいてきた。



「あなた達、怪我はなかったかな? ごめんね、魔族がちょっかいかけちゃったみたいで、許して欲しい」



 そう言って女の娘は頭を下げるが、俺たちには何が起こったのかまだ理解できない。突然崖の上の方から声と共に飛び降りてきて魔族に蹴りを入れたが、あの高さから落ちてきたのに怪我ひとつ無いようだ。蹴られた方は死んでしまってる様なダメージを受けているのに少しおかしい。



「君はいったい誰だ?」



 俺は警戒しながら、パーティーメンバーを後ろにかばい女の娘に問いかける。



「警戒しなくても大丈夫だよ。ボクの名前はオーフェリア、魔族だけどあなた達に敵対するつもりはないよ」



 オーフェリアと名乗る少女は、自分は魔族だと言った。だがこちらを攻撃するような素振りも、さっきの魔族のような威圧感も感じない。俺たちが少し緊張を解いた時、蹴られて地面に埋まっていた魔族が復活した。慌てて杖を構え直すが、オーフェリアが手で制してきたので様子を見る。



「我輩、一体何をしていたのだ?」


「キミは他種族の大陸に来てしまっていたんだ、もう帰ったほうがいいよ」


「そうなのか、何の理由があって来たのかは判らないが、帰ることにするのだ」



 そう言って先程まで俺たち秘密を聞き出そうとしていた魔族は、あっさりと離れていった。一体何が起こったのかさっぱりわからないが、命拾いしたことは確かだ。



「えっとオーフェリアさんだったな、ありがとう助かりました」


「敬語とさんはいらないよ、それに名前が長いからオーフェと呼んでくれていいよ」


「わかった。オーフェ、さっきのは一体何だったんだ?」


「説明すると長くなるんだけど、少し落ち着いて話せる所はないかな」


「俺たちは近くで野営しているから、そこで良ければ」


「うん、そこに行こうか」



 そうして、俺たちは全員で野営地点まで戻る、みんなに断わってまずは馬の様子を見に行く。先程の戦闘音や爆発が怖がっていたみたいで、俺の顔を見るとすり寄って甘えてくる。



「ごめんな、怖かっただろ、もう大丈夫だからな」



 そう言いながら馬の首をしばらく撫でていると落ち着いてきたみたいで、大人しくなった。テントの近くに戻って、オーフェの話を聞く前にパーティーメンバーの状態も確認する。



「アイナさっきは助かったよ、怪我は大丈夫だったか?」


「はい、ウミちゃんが治療してくれたのでもう大丈夫です」


「アイナが怪我をした時は背筋が凍る思いをしたけどウミが居てくれた助かったよ、ありがとう」


「傷はそんなに深くなかったので心配いらないのです」


「エリナも俺を守ってくれてありがとう、怪我はないか?」


「……うん、どこも怪我してない」


「イーシャは何処かおかしいところはないか? 急いで改造してしまったから、何かあったら言ってくれ」


「大丈夫よ、ダイ。あなたの作ったものですもの、心配はいらないわ」


「麻衣はどうだ? 相手の魔法はかなり強力だったし、変な負荷はかからなかったか?」


「はい、先日作ってもらった杖でなければ防げなかったかもしれませんが、ちょっと怖かったくらいで何ともありません」



 みんな不調は無いようで安心する、オーフェを待たせたままなのでそろそろ話を聞こう。



「ごめんオーフェ、待たせてしまったな」


「いいよ、大切なパーティーメンバーだしね。それにキミもみんなに信頼されているみたいで、いいパーティーじゃないか」






 そしてオーフェリアとの話が始まった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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