表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第5章 馬車の旅編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/176

第48話 ノーム

 土の精霊魔法で作った人形を追いかけて山の中にある洞窟の前まで来た。中に入っていく人形を見失わないように、俺たちも後をついて行く。



「ご主人様、石があっちこっちに落ちてますね」


「たぶん何かを掘り出してたんじゃないかな」


「……少し歩きにくい」



 洞窟はあちこち削った跡があり、通路の端の方には石の塊も積み上げられている。ここで何かの採掘をしていたんだろうか。



「鉱山みたいなところなんでしょうか?」


「恐らくマイちゃんが言うように、何かの鉱石が採れるんだと思うわ」


「ダイくん、向こうのほうが少し明るくなっているのです」



 周りの状態に気を取られていた俺たちより先に気づいたウミが、奥の方に見える明かりのある場所を教えてくれた。人形もその方向に向かっているようなので、距離をとって歩いていく。


 光るの漏れている場所は少し広い空間になっていて、採掘に使うための道具らしき物も置いてある。ゴーレムが集めた薬草を置いた近くには、ハーフリング族より小柄な人物が横になっている。その人物の右足は大きく腫れ色も変わっていて、とても歩けそうな状態ではない。土人形に薬草を集めさせていたのは、それを治療するためだったのだろう。



「あれはノーム族ね、普通は北の方に住んでいるのだけれど、この辺りに居るのは珍しいわね」


「ノーム族ってなんですか?」


「精霊に近い種族と呼ばれているのです、土の精霊ととても仲良しなのですよ」



 アイナの疑問にウミが答えてくれたが、それで土の精霊魔法が使えたのか。単純な事とはいえ、土人形に命令を与えて自律行動させられるのだから、かなり高度な精霊魔法を使えるのだろう。


 しかし目の前で寝ているノームの状態はあまり良くないようだ、俺たちも部屋の中に入っていった。



「おめえたち誰だ」



 部屋に入ってきた事に気づいたノームの男性が、俺たちの方に睨むような視線を向けてくる。起き上がろうとしているが、右足が痛むのか辛そうだ。



「俺は冒険者のダイといいます、近くの村まで来たんですが、土の人形が林の中をうろついているという話を聞いて調査に来ました」


「この人はウミの仲間なのです、心配しなくてもいいのですよ」


「おめえは水の精霊か」


「そうなのです、水の中級精霊なのですよ」


「そうか、精霊が仲間なら信用できる」



 ウミが男性の前に飛んでいって俺たちのことを説明してくれると、警戒を解いてくれたようで再び横になった。



「あなた、なぜそんな状態になっているのかしら」


「なんだエルフまで居るのか、変わったパーティーだな」



 後ろの方に居たイーシャが話しかけると、男性は少し驚いた顔をして俺たちの方を改めて見渡す。人族2人に獣人族が2人、それにエルフ族と精霊族というメンバーなので男性の目にも珍しく映ったようだ。



「うっかり足をけがしちまって、そこから腫れてきたんだ。数日前から動けなくなって、おらの代わりに土の人形に薬草採集を頼んでたんだ」


「怪我をしたところからなにか悪いものが入ったのかもしれませんね、治療を試してみてもいいですか?」


「治してくれるのか? それはありがたいが良いのか」


「このまま放って置くと、足が使えなくなるかもしれないのでやってみます」



 これは傷口からバイキンが入って腫れてしまったんだろう、放置しておくと足を切らないといけなくなるかもしれない。持ち歩いてるポーション類が効けば良いんだが。


 男性が了承したので、まずはウミに聞いてみることにする。



「ウミ、この腫れって治せるか?」


「毒を消すポーションと、ウミの精霊魔法でなんとかなると思うのです」



 カバンから毒消しポーションを取り出して、男性に渡す。薬草などから作る毒消し薬と違い、ポーションは色々な種類の毒に効くので、体内に入った毒素をこれで消して、ウミの精霊魔法で傷の治療をしてもらう。


 ポーションを飲んだ男性の右足の近くに行ったウミが腫れた場所に手をかざすと、変色していた部分も元の色に変わっていき、腫れもどんどん治まっていった。



「すげえな、痛みがなくなった、おめえたちありがとう」


「治ってよかったです」


「……これで歩ける、良かった」



 アイナとエリナも回復したことを喜んでいる。俺も治ったことに安堵して声をかけようとするが、その時男性のお腹から「くぅー」っという音が鳴った。



「あの、お腹空いているんですか?」


「おら動けなくなってから何も食ってねえんだ、持ってた食い物も全部無くなっちまった」



 麻衣が腹の音を聞いて確かめると、恥ずかしそうに何も食べてないことを話す。それを見た麻衣はカバンから作り置きのスープを取り出して、男性の前に差し出した。作りたてを収納しているので、まだ湯気が出るような温かいスープだ。差し出されたスープを前に少し戸惑うような感じだったが、美味しそうな匂いに負けたのかスプーンですくって口にする。



「うめえ、おらこんなうめえスープを飲んだのは初めてだ」



 男性は美味しそうにスープを飲んでいき、お代わりもして綺麗に平らげた。


 落ち着いてきた所で事情を聞いてみることにしよう。村で目撃された茶色い人影に関しては既に解決したが、この地方にはほとんど居ないノーム族がここで何をしていたのかは気になる。



◇◆◇



 男性の名前はルーイ、彼は珍しい金属を探してあちこちの山に行っている変わり者のノームらしい。彼らは鉱脈のある場所がわかるので、この山にも珍しい鉱石を見つけて入ってみた。しばらく順調に掘り進めていたが、うっかり足を怪我をしてしまい、いつもの事なので放っておいたら腫れてきて動けなくなったとの事だ。



「この山にあった目的の鉱石はあと少しで掘り終えるんだ、それから他の山に移動しようと思ってたんだけど怪我で動けなくなっちまった」


「あの、薬草を採取していた土の人形で運んでもらって、どこかで治療しようとか考えなかったんですか?」



 ウミの時もそうだったが、また麻衣が鋭い指摘を突き刺した、ルーイさんも一瞬あっけにとられたような顔をしている。普段は優しくて控えめだが、こういう時の手加減の無さはなかなか恐ろしい娘だ、恐らく天然で聞いてるだけだろうけど。



「その手があったな! おら、ここを掘り終えるまで動いちゃダメなんだと思いこんでたんだ、人族の娘さんありがとな、今度からそうするよ」


「そうした方が良いと思うわよ、せっかく土の精霊魔法が使えるのだし」


「またウミたちが助けてあげられるか判らないのです、気をつけてくださいです」


「どこかでお薬買ってください」


「……危なくなったら助けを呼ぶ」



 女性陣が総ツッコミを入れている、ルーイさんの体力ゲージが0を割り込んでしまうイメージが目の前に浮かんだ。精霊やそれに近い存在は、思い込んだら真っすぐ進んでしまう傾向があるのかもしれないな。でも失敗に落ち込んだりせずに、前向きに生きていこうとする姿勢は尊敬できる。



「そうだ、助けてもらったお礼だ、ここで採れた鉱石をあんた達にやるよ」



 そう言ってルーイさんが、俺たちの前に銀色の塊が中に見える石を取り出した。何もない所に出てきたのを見ると、彼も精霊のカバンを持っているみたいだ。精霊に近い種族らしいし、土の精霊と仲が良いみたいなので持っていても不思議ではないか。それに、そんなアイテムがないと掘った鉱石が持ち運べないしな。



「それはミスリル鉱石かしら?」


「さすがエルフの娘さんだ、よく知ってるな」


「ミスリル鉱石ってどんなものなんだ?」


「ミスリルで作った武器は、傷みにくいし手入れも簡単だし切れ味も良くなるの、そして最大の特徴はマナを通しやすい金属なのよ。これで武器を作ると、魔法の発動時間が大幅に短縮できるわよ」



 これを加工して短剣にすれば、アイナとエリナの武器の強化に繋がりそうだ。アイナの武器は王都から新調していないし、エリナも戦いやすくなるなら願ってもないことだ。



「あの、そんな効果がある金属ってとても貴重なんじゃないですか?」


「まぁ滅多に採れるもんじゃないんだが、おらは何かを作るより採掘する方が好きなんだ。獣人の娘さん達の腰に挿してる短剣、それは魔法回路を刻んでるのか?」


「……あるじ様の作ってくれた魔法回路を刻んでる」


「なら話は早ええ、そいつをミスリルの武器に変えるだけでもっと強くなれるんだ、あるだけ渡してやる」



 アイナの心配事を聞いたルーイさんは、2人が魔法回路を刻んだ武器を使ってると聞いて、とてもいい笑顔でミスリル鉱石を次々と精霊のカバンから取り出している。アイナとエリナも強くなれるという言葉に反応して、俺の方を期待を込めた目で見つめてきた。



「ルーイさん、ありがとうございます」


「なーに構わねえさ、この辺りの山は誰も採掘してない所が多いんだ、ミスリル鉱脈くらいすぐ見つかるから心配は無用だ」



◇◆◇



 ルーイさんとしばらく話した後に、俺たちは洞窟を後にした。この山の採掘はもうすぐ終わるので、次の場所を探しに旅に出るそうだ。旅をしながら採掘を楽しんでいるノーム、この世界にも変わったことをする人は多いな。



「ミスリル鉱石を大量に貰ってしまったな」


「ミスリルの武器なんて、上級冒険者になっても易々と持てないものよ、これを売ればひと財産になるけれど、ダイは売る気はないわよね」


「当たり前だ、これは俺たちの武器を作るために活用させてもらうよ」


「ふふふ、さすがダイね」


「私たちの新しい武器、楽しみです」


「……うん、あるじ様のためにもっと頑張れる」



 アイナとエリナもとても嬉しそうにしている。折角の貴重な武器になるんだから、魔法回路もパワーアップしてやりたいところだが、短剣サイズだと2並列の魔法回路しか組んでやれないのがもどかしい。近接武器なので多少ぶっ飛んだ威力でもバレるリスクは少なそうだから、もっと思い切った性能に出来れば良いんだが。







 村にたどり着いたときには、かなり時間が遅くなったので報告は明日にして、今日は眠ることにした。




―――――・―――――・―――――




 次の日、出発の準備を整えて村の代表者に報告に行く。


 近くの山にノームが住んでいて採掘をしていたこと、そのノームが怪我で動けなくなり土の人形に薬草を採取させていたこと、もうすぐ彼の採掘も終わるのでこの近くからは移住してしまうことを話した。



「そうでしたか、それで茶色の大きな人影が目撃されたんですね」


「えぇ、その人形は人を襲うことはないので心配はいりません」


「これで安心して暮らしていけます、冒険者の皆さんありがとうございました、何もない村なのでお礼もろくに出来ませんが許してください」


「いえ、おいしい水をいただきましたし、家を貸してもらえただけで十分です」



 そう言って挨拶をしていると、俺にお化け退治を依頼してきた女の子が、他の小さな子も連れて駆け寄ってきた。



「お兄ちゃんたちありがとう! これ依頼料なの」



 子ども達はそれぞれ、きれいな石や花で作った冠を俺たちに渡してくれる。アイナやエリナにも手渡ししてくれるのを見ると、子ども達の素直な気持ちが感じられて心が暖かくなる。みんなも嬉しそうに依頼料を受け取っていた、これは何者にも代えがたい価値があるように思える。



「ありがとう、こんな素敵な報酬をもらえたのは初めてで嬉しいよ」



 みんなでお礼を言って、麻衣は子ども達にお菓子を配っていた。水をもらいに寄るだけの予定だったが、色々な報酬を受け取ってしまった、この村に滞在してよかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ