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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第5章 馬車の旅編

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第47話 お化け

5章の開始になります、よろしくお願いします。

 俺たちの旅は順調に進んでいる。途中に精霊界へ通じるゲートがあったので、そこでエリナの精霊のカバンも入手できた。エリナは自分の武器や貴重品扱いのブラシを収納してとても喜んでいた、今までブラシ以外はアイナに預けていたが、やはり自分で持てるのは嬉しいんだろう。


 馬を借りた店のお姉さんも言っていたが、体力があって力も強いので舗装されていないこの世界の道も、難なく進んで行ってくれる。この馬も俺のブラッシングを気に入ってくれたようで、その日の移動が終わったらウミの洗浄魔法の後に、ブラッシングしてやるのが日課になっていて、借りた当初より明らかに毛艶も良くなった。パーティーメンバーの誰が御者をやっても、よく言うことを聞いてくれる賢くて素直な馬だ。あまり人に懐かないと言っていたが俺たちとの相性は良いみたいで、ウミの判断を信じて決めたのは正解だった。


 今日はこの先にある小さな村で野営をさせてもらおうと考えている、冒険者や商隊もあまり立ち寄らない村のようだが、水の補給ができるようなので利用させてもらうつもりだ。



「だいぶ山に近づいてきたわね」



 イーシャが先に広がる山を見ながら御者台から話しかけてくる。山はあまり木の生えていない岩山で、それほど高くはないようだが、幅は見渡す限り続いている。



「主要な街道から少し外れるんだけど、近くに水源があって水が豊富みたいだから、水樽の中に一気に補充してしまいたいんだ」


「井戸から汲み上げるのは大変ですから、水が湧いているところだと楽に補充できそうですね」


「私も手伝いますよ、ご主人様」


「……あるじ様、私も手伝う」


「みんなよろしくな」



 お手伝いを買って出てくれる2人の頭を撫でてやる。街道の要所要所にある井戸でも補充できるが、楽にできる場所があるなら一気にやってしまいたい。



◇◆◇



 村に到着すると、本当に小さな村だった。周囲は魔物よけの壁で囲まれていて、中には民家と畑があるのみだ。村の代表の人に挨拶をすると、滅多に来ない冒険者という事とメンバーの構成を見て驚いていた。エルフや精霊がいるパーティーなんて初めて訪ねてきたそうだ。


 水を分けて欲しいとお願いして、お礼はお金より食料のほうがいいと言うので、麻衣の買い置きから新鮮な野菜と果物を差し出すと、かなり喜んでくれて空き家を一軒貸してくれることになった。ありがたい申し出だったので、馬と馬車を引きながら村の中を歩いている。


 代表に案内されながら道を進んでいると、少し離れた家の中から小さな女の子が俺たちの近くに走ってきた。



「お兄ちゃんたち冒険者なの?」


「そうだよ」



 女の子と目線を合わせるように、しゃがんで話す。



「あのね、最近夜になると村の近くの林にお化けが出るの、退治して欲しいの」


「こら、無茶なお願いしたらダメじゃないか。すいません冒険者の皆さん、子供の言うことなので」



 代表の男性はそう言っているが、ちょっと詳しい話を聞いてみようと思う。もし退治できそうなら俺たちで解決してしまってもいい。



「どんなお化けか判るかい?」


「えっとね、茶色くておっきいの」



 村の代表の人にも詳しい話を聞いてみたが、最近夜になると大きな人影のようなものが、林の中をうろついている事があるそうだ。村が襲われたり誰かが被害を受けたりはしていないが、気味が悪いので村人が怖がっているらしい。


 危険も少なそうだし、みんなと相談すると調べてみようということになったので、今夜確かめてみよう。



「じゃぁ、お兄ちゃんたちが今晩調べてみるよ」


「うん、ありがとう!」



 女の子は元気に手を振りながら家に帰っていった。



「ありがとうございます、お手数をかけてしまうようで申し訳ないですが、皆怖がっていますので」


「退治できるかはわかりませんが、出来るだけの事はしてみますので」



 空き家まで案内してもらった後に水源の場所を聞き、馬車から馬を外して一緒に行く。



「茶色いお化けってなんでしょうね」


「夜だけ活動してるってのも変わってるな」


「私、お化けやホラーはちょっと苦手です」



 アイナはよく判っていないようだが、麻衣は苦手みたいだ。俺もスプラッタ系はちょっと嫌だが、話を聞く限りそんな事も無さそうだし、まずは確かめてみないとな。



「地上にアンデッドが出てくることはないから、多分大丈夫よ」


「……私がマイを守る」



 エリナのオトコマエな発言に、麻衣が手を握ってお願いしている。この世界のアンデッドはどうやって倒すんだろうな、聖属性の魔法に弱かったり銃で撃ったりするのはゲームの世界でおなじみだが。



「アンデッドってどう倒すんだ?」


「ウミは水の精霊なので無理なのですが、焼くのが一番なのですよ」



 ウミは攻撃するのが苦手なのでアンデッドでも躊躇しそうだが、焼却が一番なのか。だが臭いとか酷そうなので、俺も倒すのをためらいそうだ。



◇◆◇



 水源に着いたが周りを石で囲っていて、その中に水が湧いていた。端の方に水を汲む場所が作ってあり、水路へと流れていっている、水も澄んでいてとても綺麗だ。


 桶で汲み上げて馬に飲ませてやると、美味しそうに飲んでいる。俺も手ですくって飲んでみたが、冷たくて美味しい。



「冷たくて気持ちいいです」


「……美味しい」



 アイナとエリナも手ですくって同じように飲み始めた。これだけ綺麗な水があるなら、宿場町としても人気が出そうな気がするが、湧き出す量はそれほど多くないみたいで、大勢の旅人が訪れたら供給しきれないか。



「水の下級精霊も集まっていて、とってもいい場所なのです」


「これだけ綺麗だと水だけ汲みに来る人も居そうですけど、あまり知られてないんでしょうか」


「主要道から少し外れた場所だし、わざわざ寄り道してまで来る人は居ないのかもな」


「隠れた名水みたいですね」



 そう言って手ですくった水を見て麻衣は微笑むが、確かに元の世界だとペットボトルに入れて売れそうだな。この世界だと軽くて使い捨ての容器は無いし、輸送が大変なのでわざわざ水だけ売ろうって人も居ないだろうが。



「ふぅ、気持ちいいわね。

 ダイ、水の補給もやってしまいましょうか」



 水に手を入れて気持ちよさそうにしていたイーシャの号令で、俺は荷車を精霊のカバンから出して、みんなで樽の中に水を補充していった。ウミも水の玉を作って手伝ってくれるが、彼女が本気を出すと一瞬で終わってしまうので自重してもらっている。飲料水や洗浄魔法で水の下級精霊にはお世話になりっぱなしなので、自分たちで出来ることはなるべく自らの手でやろうという、俺の小さなこだわりだ。



◇◆◇



 そしてその夜、ランプと月明かりだけを頼りに俺たちは林の近くに来ている。この辺りは魔物も少なく、居ても弱いものばかりなので、アイナとエリナが一瞬で倒している。しかし暗い場所はやはり怖いのか、麻衣は俺の腕にしがみついて密着状態だ。風か野生の動物が出しているのだろうか、何かの物音がするたびにビクリと緊張している。



「麻衣、怖かったら家に居ても良かったんだぞ?」


「い、家の中に1人で居る方が怖いですよぉ」



 麻衣はちょっと涙目になって俺の方を見上げてきた、口調も普段と少し違うし、かなり無理してる感じだ。アイナは気配で他の動物や魔物の位置がわかるので普段とあまり変わらないし、エリナは夜目がきくらしくこちらも普段と変わらない。イーシャは麻衣の後ろで微笑ましそうに俺たちを見ているし、ウミは定位置の俺の頭の上で周囲を見渡している。


 しばらく林の周囲を歩いているが、特に何も見つからないのでそろそろ帰ろうかと思っていると、アイナが何かを発見した。



「ご主人様、この先に大きな何かが居ます、気配は人でも魔物でもない感じです」



 アイナが感じたことのない気配って、本当にお化けとかなのか。麻衣も同じ結論に至ったのか、俺の腕に一層しがみついてきた。夜目のきくエリナが、気配を消して確かめに行ってくれる。



「……あるじ様、茶色くて大きな人形みたいなのが居た」


「それは動いてるのか?」


「……うん、何か探してるみたいだった」



 茶色くて大きな人形みたいな生物って一体なんだろう、それに何かを探しているというのも気になる。



「イーシャ、そんな生き物に心当たりはないか?」


「うーん、無いわね。実際に見てみるとわかるかもしれないけれど」


「少し近づいてみるか。麻衣、障壁の準備だけしておいてくれ」


「はっ、はいぃ」



 麻衣が障壁の杖を取り出して俺の腕と一緒に握る、杖が当たってちょっと痛いが無理させているし我慢しよう。


 アイナとエリナを先頭にして林の中に入っていくと、遠くの木々の隙間に何か動く者がいる。エリナの言った通り何か探しているようで、時々しゃがんで拾うような動作をしているみたいだ。もう少し近づいてみると、月明かりに浮かぶそれは泥のようなもので出来た人形に見える。



「ダイくん、あれは土の精霊魔法で作った人形なのです」



 頭の上に居たウミが人形の正体を教えてくれる。精霊魔法の使える誰かが作った、クレイゴーレムみたいなものなんだろうか。



「それって危険はないのか?」


「単純な命令しか聞けないので大丈夫だと思うのです、あの人形は何かを探す命令を受けているみたいなので襲ってこないですよ」


「もう少し近づいてみるか」



 人形の正体がわかって麻衣も少し落ち着いてきたようなので、慎重に近づいてみる。近くで見ると目も鼻もない土の塊の頭がついた人形だった、何かを黙々と探しているようで俺たちが側にいても何もしてこない。



「ほんとに何もしてきませんね」


「この人形、薬草を探してるみたいだわ」



 俺の腕から離れた麻衣とイーシャが土の人形をじっと見ていたが、イーシャがなにかに気づいたようだ。よく見ると人形の手には、いくつかの薬草が握られている。



「ご主人様、誰か病気なんでしょうか」


「そうだなぁ、病気か怪我で動けなくて人形に薬草を集めさせてるとかかもしれないな」


「……あるじ様、助けてあげる?」



 動けないくらい大きな怪我や病気をしているのなら、このまま放っておくのも目覚めが悪いし、近くまで行くだけでも行ってみよう。みんなに相談して土人形の後をついていくことにする、しばらく薬草を探していたが向こうに見える山の方に人形は歩いていく。


 林の中をしばらく歩くと、山の中の洞窟へと人形は入っていった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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