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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 アーキンド編
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第44話 3人の新しい武器

 エリナのパーティー加入やダンジョン挑戦など、アーキンドに来てからイベントが目白押しだったのですっかり遅くなってしまったが、ロイさんに紹介状を書いてもらった魔法回路屋に足を運んでいる。


 ダンジョンに挑戦してみて実感したが、不測の事態が起こりやすいので、最初に作った並列魔法回路の風の刃と水の矢の杖をいま使えるスキルで改造して、威力は現状維持か少し向上させつつ流れるマナの量を減らそうと思っている。長丁場になるダンジョンの戦闘で、継戦能力を向上させ安全マージンを稼ぐつもりだ。



「いらっしゃいませ」


「こんにちは、セカンダーの街のロイさんに紹介で伺いしました」



 ナイスミドルな男性の店員さんが出迎えてくれたので、その人にロイさんからの紹介状を渡す。店員さんは「拝見いたします」と丁寧に封を切り紹介状を読んでいる。



「おいでくださり、誠にありがとうございます」


「ここでは面白い魔法回路が取り扱っていると聞いて、色々な組み方に挑戦してみようと思ってます」


「当店ではお客様の組み上げる魔法回路に関して、介入しないことを信条としておりまして、動作しない魔法回路を組まれましてもご助言などいたしておりません。紹介状にありましたようにお客様のご要望にも添える店になっておりますので、安心してお買い物をお楽しみください」



 紹介状を読み終えた店員さんは、そう言って丁寧に頭を下げてくれた。ここはマニア専門のお店だ、失敗しても間違っても全てが自己責任という、パーツショップでも時々存在するお店と同じだ。さすがロイさんだ、俺の要望を正確に把握して最適なお店を紹介してくれた。


 店員さんにお礼を言って店内に入る、王都のマニアックな店みたいな雑然とした感じではなく、綺麗に整理された棚が整然と並んでいる。まずは単体の風の刃と水の矢の杖用の回路を組もう。


 以前アイナに新しい魔法回路を作った時に考察した、10の充填回路は4の部分しか動いてなく、最適化しただけだとマナが切断した場所にもリークしていまい、7の消費になってしまう。今のスキル能力を使えば5の規模の充填回路でもその全てを動作させられる、消費が2下がって出力が1上がるわけだ。


 風の刃と水の矢の標準レシピを見ながら、中型回路用のレールに小型の回路を2列並べていく、充填部分を半分の規模にして密度と速度のパーツを大きめにする、発動部分は片方だけにしてダミーブロックで高さを合わせる。


 一度これを印刷してゆっくりと店内を見て回ろうと、会計に向かった。



「お買い上げありがとうございます。印刷機はあちらの奥にございます、印刷が終わった部品はそちらの箱に入れておいてくださいませ」



 中型回路用のレールに小型回路のパーツを2列並べるという、他の人は絶対やらないような買い方をしたが、店員さんは眉一つ動かさず会計と説明をしてくれる。印刷を終えた後に他の棚も見ているが、王都のお店にあったパーツも多い。


 パーツの横にある説明書きをひとつひとつ見ていると、ふと目に止まった構築部分がある。障壁魔法の一種だが、マナを流している間、面を維持する魔法らしい。障壁と違い術者中心でなく遠距離に出せる魔法だが、遠距離発動魔法のセオリー通り精度は悪い。それに土と水以外の属性とは相性問題が発生し、更に強度に問題があるらしく大きすぎると自重で崩壊するし、実用的な強度だとあまり大きなものにならず、魔物も簡単に越えてきてしまうようだ。


 しかしこの分野に関しては並列魔法回路の出番だ、3メートル四方程度の壁を維持できればダンジョンの通路を一時的に塞ぐことが出来る。


 先日の戦闘でウミの作った水の壁を前にして魔物たちが急停止している、恐らく目の前に障害物が出来ても壊そうとせず止まる習性があるのだろう。この習性を利用すれば、目の前に土の壁を作ってやると通れないと判断して近づいてこないかもしれない。複数の通路から一度に襲われた際に、一箇所でも塞ぐことが出来ればかなり戦いやすくなるはずだ。


 それに、この魔法なら麻衣でも使えるだろう、彼女は攻撃することは苦手だが守る事だと躊躇しない。この魔法は麻衣の新たな武器になるはずだ。


 面魔法の説明書にある範囲パーツとの相関表で、希望の大きさになるように調整して密度を高めに組んでいく、充填部分の規模は今までの経験で何となく必要な出力が判ってきたので、障壁の魔法より抑えめのマナの流れになるように全体を調整した。



「こちらの回路もお願いします」


「これは大変お目が高い。この構築部品を選ばれたのは、お客様で二人目に御座います」



 会計に行くと、先程は何も言わずに売ってくれた店員さんが、期待を込めたような目で見つめてきた。密度のパーツを見れば面を維持しようとしているのは判るはずだし、過去にも俺と同じようなことをやろうとした人が居るのかもしれない。同じ発想に至ったその人にも会って話をてみたいものだ。



◇◆◇



 回路を印刷して外に出る、みんなとの待ち合わせ場所に行くと既に集まっていた。



「ごめん待たせたかな」


「大丈夫ですよ、ご主人様」


「……いま来たことろ」



 アイナとエリナがこちらに駆け寄ってきたので頭を撫でてやる。アイナはしっぽを振って、エリナはしっぽを伸ばして喜んでいる。



「ダイ先輩、面白い魔法回路は見つかりましたか?」


「あったよ、それで麻衣の新しい武器を作ってみようと思うんだ」


「わ、私の武器ですか!?」


「この間ウミが水の壁を作って魔物を食い止めてくれただろ、あれと同じことを魔法回路でやってみようと思う」


「ウミの魔法で思いついたのです?」



 ウミが目の前に飛んできたので、「そうだよ」と言って頭を撫でる。どうも最近はウミも頭を撫でられるのが好きになってしまったみたいだ、お姉さんキャラの設定はどこに行ってしまったんだろう。



「それからイーシャの水の矢も、俺の今のスキルで作り直してみようと思う。マナの流れがだいぶ減るから、長時間の戦闘でも負担が軽減されるはずだ」


「それは嬉しいわね、先日みたいに乱射する時も安心できるわ」



 それから武器屋に行って、それぞれ気に入った杖を選んで家に戻る。


 その後はテラスに杖を並べて露光待ちだ。



◇◆◇



「まずは麻衣の魔法回路から試してみようか、コマンドワードは障壁と同じだから発動してみてくれ」


「はい」



 魔法回路の露光が終わった武器をそれぞれ改造して、少し離れた雑木林までやってきてテストする。麻衣の視線の先に土の壁が出現するが、自重で崩壊もしないし強度もそれなりに出ている感じだ。



「イーシャ、実体の弓を撃ってくれるか?」


「わかったわ」



 イーシャが壁に向かって弓を放つと、矢は壁に突き刺さったが貫通はしない。俺も近くに行って押したり叩いたりしてみたが、なかなか頑丈に出来たようだ。



「思ったより頑丈に出来てるみたいだ、これなら少しくらいぶつかられても大丈夫だろう」


「ダイ先輩、これでダンジョンの通路を塞いでしまおうってことですね」


「そうだ、魔物は目の前に障害物があると止まる習性があるみたいだから、それを利用してやり過ごせるかと思ったんだ」


「今までは目の前に飛んでくるものからしか守れませんでしたけど、これからは積極的にみんなを守ることができそうです、嬉しいですダイ先輩」



 麻衣は今まで絶対防衛線として俺たちのパーティーを守ってくれていたけど、自分から戦闘に参加することは出来なかった、でもこれからは戦況を左右する様な立ち回りが出来るようになる。守るという選択肢が増えた麻衣は、とても嬉しそうにしている。


 麻衣が障壁を解かないままなので、アイナも土の壁を押したり叩いたりし始めた。エリナは飛び蹴りを試してるな、壁が崩壊しないところを見ると想像以上に強固に出来たようで俺も満足だ。



「イーシャの杖は今までと使い勝手はそう変わらないと思うが、若干以前より強くなって速度も上がってるので注意してくれ」


「試してみたけど大丈夫よ、少し強くなったのにマナの流れは確実に少なくなっているわ。ありがとうダイ、最高の仕事よ」


「喜んでくれて何よりだよ」



 イーシャも新しい水の矢の魔法回路を気に入ってくれたみたいだ、杖を見ながら嬉しそうに微笑んでいる。マナの流れがシングルの小型魔法回路並みで上位属性の氷の矢を放つ杖と、シングルの小型魔法回路よりマナの流れを抑えつつ、中型魔法回路を超える威力の水の矢の杖、この2つでイーシャの戦闘の幅も広がるだろう。


 そして俺の使う単体の風の刃を発動する杖も少し威力が上がり、流れるマナは確実に減っている。マナ耐性は測定不能なほど高いが、とにかく魔法を使ってみんなの負担を減らすのが俺の役目だと思っている、これはそのための武器になる。



「ご主人様、壁が壊れました!」


「……頑張った」



 ―――――お前たちはまだ壁を攻撃していたのか。


実は面魔法を試してみた一人目とは、この店員さんだったりします(笑)

それとダイが検証しているマナの流れ(消費)とは体感的なものなので、正確な数値ではありません。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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