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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 アーキンド編
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第39話 エリナ

ブックマークや評価ありがとうございます。

今日はキリのいい所まで2話更新します、その1話目です。

 次の日の朝、少し早く目が覚めすぎてしまった、外はまだ薄暗い。


 二度寝しようかと思ったけど、眠れないのでみんなを起こさないようにそっとベッドから出て、テーブルに書き置きを残して散歩にでかけた。



「早朝の海岸は気持ちいいな」



 日中は結構暑くなる南部地域だけど、朝の風は涼しくて爽やかだ。浜辺に打ち寄せる波も穏やかで、泳ぐにはちょうどいい日かもしれない。


 浜辺をゆっくり歩いていると周りもどんどん明るくなってきた、戻る頃にはみんな起きているだろう。


 そろそろ家に戻ろうかと思った時、浜辺の向こうの方に漂流物が打ち上げられてるのを発見した。黒っぽい物体が何もない浜辺にぽつんと存在するのは、景観が損なわれているみたいで気になるので、片付けておこうと近づく。


 近くに行ってよく見ると、漂流物ではなく黒いフード付きのローブを身に着けた人だった。慌てて抱き上げ呼吸をしているか確認したが、手に微かに息が当たるので生きているようだ。フードの隙間から見える髪の毛は、砂まみれだが白くてきれいな色をしている。


 ローブが水を吸って少し重いが、そのまま背負って家に向かって走る。



◇◆◇



「みんな起きてるか?」



 部屋に入るとベッドの近くにいた全員が振り返る。



「ご主人様どうしましたか、そんなに慌てて、それにその荷物」


「詳しい話は後からするよ、ウミは洗浄魔法を頼む、アイナはなにか拭くものを持ってきてくれ、イーシャは着替えを頼む、麻衣はどの部屋でもいいからベッドを用意してくれるか」



 俺の運んできたものが人だとわかってみんな一斉に動き出す。ウミが洗浄魔法をかけて、拭くものを持ってきたアイナと、着替えを持ってきてくれたイーシャと入れ替わりで俺は部屋を出る。さっき背負った時に、倒れていたのは女の子だとわかったからだ。


 俺も服が濡れて砂まみれになってしまったので着替えて部屋に戻ると、女の子の着替えも終わっていた。そのまま抱き上げて、麻衣の用意してくれた部屋に運んで寝かせる。



「ご主人様、この娘、猫人族みたいですけど一体どうしたんですか?」


「あぁ、海岸を散歩していたら、浜辺に打ち上げられていたんだ」


「何かの事故にでも巻き込まれたんでしょうか、それにこの髪の毛の色……」


「アイナ、何か心あたりがあるのか?」


「はい、以前奴隷商に売られる時に、その人が“銀色の髪の猫人族がいたら高く買い取ってやる”って言ってたんです、この髪の毛はたぶんその色じゃないかと」



 ウミの洗浄魔法できれいになったその女の娘は、前髪がきれいに切りそろえられていて、輝くような白い髪の色をしている。頭には猫のような小さめの耳がついているので、獣人族だというのもわかる。



「銀色の髪の毛をした猫人族はとても珍しいのよ、だから好事家(こうずか)に狙われたりするの。この娘も誰かにさらわれそうになって逃げてきたのかもしれないわね」



 大陸南部の街のいくつかは、港があるせいか主人登録なしでも中に入れるので、もしかしたら他人に見つからないようにこっそり生活していたのかもしれない。



「ご主人様、この娘どうされるつもりですか?」


「困ってるなら助けになってやりたいと思うよ、もしかしたな不要なトラブルを引き込んでしまうかもしれないけど、みんなどうかな?」


「私も同じ獣人族として助けてあげたいです」


「私もいいわよ。ダイなら大丈夫だと思うし、また妹が増えるみたいで嬉しいわ」


「私もこんな可愛い娘が、物好きな誰かに無理やり連れて行かれるなんで許せないです」


「ウミも賛成ですよ、なにか困ったことがあってもウミに任せるのです」


「みんなありがとう」



 おれはトラブルを抱えてでも、女の娘を助けようとしてくれる優しい仲間たちにお礼を言った。



◇◆◇



 それからみんなで交代しながら看病をしているが、お昼を過ぎても女の娘は目を覚ますことはなかった。そして日も少し傾き始めた頃、女の娘はわずかに身じろぎをした。そろそろ目をさますかもしれないとベッドに近づいて顔を覗き込んでいると、女の娘がゆっくりと目を開ける。


 アメジスト色の瞳が俺の方を見てしばらく見つめ合っていたが、女の娘は急に起きて俺の方に手を手刀のようにして真っすぐ突き出してきた。とっさのことに反応できずにいると、頬を指先がかすめる感覚がして、女の娘がそのまま俺の方に倒れ込んできた。


 起き抜けで力が出ない所に急に動いたのでバランスを崩したみたいだ。いきなり手刀で攻撃されて体勢を崩していた俺も、倒れ込んできた女の娘を支えきれずに盛大に尻餅をついてしまう。



「いてててて……君、大丈夫か?」



 思いっきり床にお尻を打ち付けてかなり痛かった、女の娘が怪我してないと良いんだが。女の娘は俺から離れようともがいているが、体に力が入らないみたいで必死に手足で踏ん張ろうとしては俺に体重を預けてくる。



「ご主人様、大きな音がしましたけど大丈夫ですか?」


「あぁ、この娘が目を覚ましたんだけど、起きようとして力が入らなかったみたいで倒れてきたしまったんだ、支えきれずに俺も尻餅をついてしまった」



 俺は女の娘を抱き起こしながら、アイナの方を見て説明する。女の娘は俺を何故が睨みつけたままだ。



「ご主人様、頬が切れてるじゃないですか、すぐウミちゃん呼んできます」



 アイナが部屋を出てウミを呼びに行ってくれた、俺は女の娘を抱きかかえてベッドに寝かせる。



「大丈夫か? どっか痛いところはないか?」


「………人族……きらい」



 やはり何かあったのか人間不信になってるみたいだ。俺がそばにいると落ち着けないから、ここはアイナに任せたほうが良いかもしれないな。



「ダイくんどうしたのです?」


「あぁ、さっき転んでしまって頬を怪我しちゃったみたいなんだ」


「すぐ治してあげるのです」



 ウミはそう言いながら手をかざして、頬の怪我を治して血の跡も消してくれた。



「ウミありがとう」


「どういたしましてなのです」


「それとアイナ、悪いんだけどこの娘の世話をお願いできないか、俺は少し警戒されてしまってるみたいなんだ」


「はい、いいですよ」



◇◆◇



 俺は女の娘の世話をアイナに任せてリビンクへと移動した。リビングではイーシャと麻衣が俺のことを心配そうに迎えてくれた。



「怪我をしたってアイナちゃんが言っていたけれど大丈夫?」


「ちょっと倒れ込んできた女の娘の手が頬をかすってしまってな」


「あら、急に起き上がろうとでもしたのかしら」


「目を覚まして俺の顔をしばらく見てたんだけど、急に手を手刀みたいに伸ばしてきて避けきれなかったんだ」


「ダイ先輩、攻撃されたんですか!?」


「いや、びっくりして思わず手が出てしまっただけだと思う」


「それにしてもいきなり手刀とか一体何があったのかしら」


「人族が嫌いと言ってたから、恐らくなにか嫌なことがあったんだと思う、だから怒らないでやってほしいんだ」



 あんな場所に打ち上げられていたんだ、きっと誰かから逃げて海に飛び込んだとかが原因だろう。珍しい髪色の猫人族らしいので、以前からもずっと狙われていたのかもしれない。


 しばらくリビングで話をしていると、アイナが戻ってきた。



「あの、エリナさんがご主人様と二人だけでお話がしたいって言ってます」


「あの子の名前はエリナっていうのか、わかった行ってくるよ」



 頭の上にいたウミが離れるのを確認してエリナの部屋に向かった。



◇◆◇



 ノックをして部屋に入る。エリナはベッドの背もたれに背中を預けて上半身を起こしていた。俺はベッドの横に椅子を移動させてそれに座る。



「もう起きて大丈夫か?」


「……うん」


「名前はエリナでいいのかな」


「……そう」



 ちょっと会話が続きづらい、エリナもまだ緊張してるみたいで身を固くしている。



「……さっきアイナに言われた、ご主人様に怪我をさせてしまったのなら謝ってくださいって」


「あぁ、いいんだ、起きていきなり人族の男に覗き込まれていたらびっくりしただろ」


「……うん、捕まって売られるかと思った」


「それなら仕方ないさ、それにうちには精霊のウミが居るから怪我のことは気にしなくていいよ」


「……でも、ごめんなさい。……そして、助けてくれてありがとう」



 そう言ってエリナは頭を下げて謝ってくれた。嫌な思いばっかりしていただろう人間に対して、ちゃんと謝ってくれるエリナは、きっと素直で良い娘なんだろう、思わず頭を撫でてしまいそうになる。



「事情は話せる時に話してくれたらいいよ、とにかく今日はゆっくり休むといい」


「……アイナの言ってたとおり、とても優しい。……それに撫でられると気持ちがいいって言ってた」


「エリナも撫でていいのか?」


「……ん」



 そう言ってエリナが頭をこちらの方に寄せてきたので撫でてあげる。エリナは目を閉じて黙って頭を撫でられている、耳のあたりに手が触れるとちょっとピクッと動くのが可愛らしい。



「……気持ちよかった。……また撫でて」


「あぁ、いつでも撫でてあげるよ」



◇◆◇



 一度リビングに戻ってみんなと話をする、麻衣は夕食の準備をしているみたいだ。



「アイナ、話をしてきたよ」


「どうでしたか、ご主人様」


「やっぱりびっくりしただけみたいだ」


「エリナさんも思わず手が出てしまったって言ってましたから」


「ちゃんと謝ってくれたし、助けてくれたお礼も言われた、素直で良い娘だと思うよ」


「ダイのなでなでスキルがあれば、どんな獣人の子でも仲良くなれると思うわよ」



 イーシャはなんで俺がエリナの頭を撫でた事を知ってるんだ。アイナから話を聞いて予想しただけかもしれないが、なんか行動パターンが読まれてしまっているようでちょっと悔しい。



「ダイくんそんなスキルを持っているのですか?」


「いやそんな話は聞いたことがない」



 アイナの頭はしょっちゅう撫でてるから、それなりに技術は上がってると思うが、そんなスキルなんて持ってないはずだ。そんなのがあれば魔族の頭を撫でて、侵略をやめさせられるかもしれない。



「ダイくん、試しにウミの頭も撫でてみて欲しいのです」



 そういってウミが俺の目の前に飛んで来る。流石にサイズが違いすぎて手では撫でられないので、人差し指を伸ばして優しく撫でてみた。ウミの髪の毛もさらさらで触り心地がいいな。



「これは気持ちいいのです、ちょっと癖になりそうなのです」


「あらそうなの? 私も撫でてもらおうかしら」



 今度はイーシャまで頭を差し出してきた。仕方ないのでイーシャの頭も撫でる、イーシャの髪の毛もきめ細かくて触り心地がいい。



「これは想像以上ね、アイナちゃんの気持ちがわかるわ」


「みんなばっかりずるいです、ダイ先輩、私の頭も撫でてください」



 麻衣まで乱入してきてしまった。


 それからしばらくなでなで大会が続けられたのであった。



◇◆◇



「なでなでが気持ちよくて忘れるところでした、ダイ先輩、エリナちゃんに食事を持っていってくれませんか?」


「俺でいいのか?」


「はい、私もさっき食事をどうするか聞きに行ったんですが、ちょっと警戒されてるみたいで。アイナちゃんにも相談したんですが、ダイ先輩が行くのが一番いいだろうって」


「わかった、じゃぁ行ってくるよ」



 エリナの部屋に行ってベッドの横に座る。だいぶ緊張が解けてきたみたいで、ベッドの上で身を固くするような素振りは見せなくなった。これがなでなで効果なんだろうか。



「食事持ってきたけど食べられそうか?」


「……まだ力が入りにくい、食べさせてくれると嬉しい」


「わかった、熱いから気をつけて食べるんだぞ」



 そういってよく煮込まれて具もほとんど溶けているスープを、スプーンですくって息をかけて冷ます。十分冷ましてから口元にスプーンを持っていくと、小さな口を開けてスープを飲み始めた。



「どうだ?」


「……ん、美味しい」


「この食事はさっき来た麻衣って娘が作ってくれたんだ、彼女はすごく料理が上手でお菓子作りも得意なんだ」


「……お礼言っておく」


「麻衣もきっと喜ぶぞ、彼女も俺と同じで獣人が好きだからな」



 エリナは少し頬を赤く染めてうなずいた。その後もゆっくりとしたペースで食事を摂り、エリナはスープを完食した。食べ終えると疲れてきたので眠ると言って、俺が支えながらベッドに横になった。



「……眠くなるまで、頭なでて欲しい」


「わかった、お安いご用だ」



 頭を撫でるとエリナは目をつぶって気持ちよさそうにしている。



「俺たちはしばらくこの家に滞在するから、落ち着くまでずっと居てもいいぞ」


「……ん」



 そうしてしばらく頭を撫でていると、エリナは寝息を立て始めた。この家にいる間くらいは嫌なことを忘れて、ゆっくりと生活して欲しいと思った。


いよいよ4人目の現地ヒロインが登場しました。

実はアイナとエリナは筆者の好みが大きく反映されているキャラだったりします(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
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【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
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