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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 アーキンド編
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第36話 お風呂

 夕食はロイさんたちが気を使ってくれて、ディナー形式でなく家庭的な感じでテーブルをみんなで囲って食べる形にしてくれた。正直テーブルマナーなんて知らないので助かった。食事はどれも美味しくて、全員お腹いっぱい頂いた。ウミには新鮮な果物を色々出してくれて、満足そうに頬張っていた。



◇◆◇



 いよいよお待ちかねのお風呂タイムだ。お湯は魔道具で作るそうで、マナ耐性の高い使用人さんがお湯を張ってくれた。かなり大掛かりな魔道具みたいで、据え置きで設置しないとダメなほど大きいようだが、なんとか魔法回路で再現できないかと考えてしまった。


 お風呂に入ったことのないアイナが俺と一緒に入りたがってしばらく粘っていたが、日本人の麻衣も居るのでなんとか諦めてもらった。ウミも俺と入りたいと言ってきて、ウミなら一緒でもいいかと一瞬考えたが、小さとはいえ女性なので自重する。意外なことにイーシャも麻衣も俺と一緒にお風呂に入ってもいいと言ったが、さすがに全員で入れるほど広いお風呂でもないし、何よりそんな状況に俺が耐えられそうにないので断わった。俺の自制心グッジョブだ。


 頭からお湯をかぶって全身を軽く洗い湯船に浸かる。



「はぁ~、久しぶりの風呂はいいなぁ」



 拭くだけではきれいになった感じがしない指の隙間や体の凹凸にもお湯が染み渡って気持ちがいい。ウミの洗浄魔法のお陰で、俺たちのパーティーメンバーは遠征中でも清潔でいられるが、やはりお湯に浸かるのは別の爽快さがある。お湯の暖かさが全身に広がって、体の中もきれいになっていく感じがする。



「このまま寝てしまいそうになるなぁ~」



 気持ちが良すぎてつい言葉が出てしまう、油断すると本当に寝てしまいそうだ。この後女性陣もお風呂に入るので、そろそろ出ることにしよう。体と頭を洗ってお風呂から出てリビングに向かう。



「先に使わせてくれてありがとう、みんな」


「ダイ先輩すごく楽しみにしてましたからね」


「麻衣は王城でお風呂に入ってたんだっけ」


「あそこはお風呂と言うより銭湯みたいな感じでしたね、お湯を溜めるのがかなり大変みたいでした」



 銭湯サイズのお湯を溜めるならかなりのマナを流さないとダメだろうな、専属でお湯を張る人を何人も雇ってたりして。



「ご主人様、お風呂ってそんなに気持ちいいんですか?」


「あぁ、全身溶けそうになるぞー、アイナも存分に味わてくるといい」


「溶けるのはちょっと嫌ですよぉ」


「ははは、このあと麻衣と一緒に入るんだろ? 行ってくるといいよ」



 麻衣とアイナが着替えを持ってお風呂に向かっていった。あの気持ちよさを知れば、アイナもきっとお風呂が好きになるだろう。



「イーシャはお風呂に入ったことあるんだよな?」


「旅に出てからはほとんど無いのだけれど、大陸の北の方には温泉もあるから、そこに入ったりしたわよ」


「なに!? 温泉があるのか?」


「えぇ、北の方は火山が多くて温泉が湧いている場所もあるわよ」


「そうなのか、温泉か……寒くなったら行ってみたいな」



 寒い時期に雪を見ながら温泉なんていうのもいいかもしれない。大陸南部で夏を過ごしたら、今度は北を目指してみるのもいいかもしれないな、次の行き先を決める時みんなに相談してみよう。



「ダイくん、頭がほかほかしてるのです」


「お湯にたっぷり浸かってきたから、しばらく温かいぞ」


「それにいい匂いがするです」


「石鹸で洗ってきたからな、その匂いだな」



 お風呂には石鹸が置いてあった、日本で使っているのと少し違う感じだが、泡も出るしいい匂いもする。シャンプーは無いみたいなので、それで全身と頭も洗ってきた。石鹸で洗うと髪の毛がゴワゴワになるとか言われてた気がするが、この世界の石鹸だとそんな事にもならないみたいだ。今までは気にしてなかったけど、雑貨屋で見つけたら買ってみるか。



◇◆◇



 お風呂から上がってきたアイナと麻衣と交代で、今度はイーシャとウミがお風呂に行っている。アイナも全身ほかほかしていて、お風呂を十分堪能してきたみたいだ。



「アイナ、お風呂はどうだった?」


「溶けそうになりましたぁ」


「そうだろ? お湯に浸かるとそうなるんだ」


「アイナちゃん、途中で寝そうになりましたからね」


「あれは気持ちよすぎます、1人で入ったらそのまま眠って沈んでしまいそうです」



 お風呂初体験のアイナもすっかり(とりこ)になってしまったみたいだ。やっぱりお風呂はいいものだ、やはり温泉のある北部地域は行き先の候補に入れておかなければなるまい。




―――――・―――――・―――――




 日課のブラッシングも終えてアイナも眠ったので、俺は部屋で1人ベッドに寝転んでいる。この世界に来てからずっと誰かと一緒に眠っていたので、少し落ち着かない感じがする。ウミは俺の部屋の枕をベッド代わりにして寝ているが、アイナがいつも顔を埋めて寝ている胸の辺りが特に寂しく感じる。


 なかなか寝付けずに窓から夜空を眺めていたら、部屋の扉が開く気配がした。扉の横にはアイナがこちらを窺うように立っている。



「どうかしたのか?」


「あの……今日はなぜか目が覚めてしまって、寝ようとしたんですけど眠れないんです。その……なんか寂しくて落ち着かないんです。ご主人様と一緒に寝たらだめでしょうか?」



 アイナも誰かとずっと一緒に寝ていたから、やっぱり独り寝が落ち着かないみたいだ。俺も同じ様に思っていたので、アイナを招き入れることにする。



「いいよ、俺もなんか眠れなかったし、一緒に寝よう」


「はい、ありがとうございます」



 アイナと一緒にベッドに入り、いつものように並んで横になる。



「野営の時も誰かが隣りにいるんですが、やっぱりご主人様が一番落ち着く気がします」


「そうか、俺も今日は少し落ち着かなくて、アイナが隣りにいると安心するよ」


「ご主人様と一緒の気持ちで、私も嬉しいです」



 そう言って笑うアイナの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じてすぐに寝息を立て始めた。暫くするといつも通り俺の体にくっついてくる、その心地よい重みを感じながら俺も目を閉じた。



◇◆◇



 翌朝、アイナ、イーシャ、ウミ、俺の4人で街の中に買い出しに行く。麻衣はロイさんの家でお菓子作りを教えてあげるみたいだ。ロイさんの商会は色々なものを取り扱っているらしく、必要なものは揃えてくれると言ってくれたので石鹸の事を聞いてみたら、家で使っているものなら在庫があるので分けあげると手配してくれた。


 セカンダーの街は王都とアーキンドの街の物流拠点になっていて、この街まで海路で運ばれてきた荷物が王都に陸路で運ばれて行くので、ここには港があって倉庫も多い。


 俺たちは買い物がてら港に来てみた。



「ご主人様、すごく大きな湖です、向こうのほうが見えませんよ!」



 海を初めて見たアイナがその大きさに驚いている。



「アイナ、あれは海と言って湖とは違うよ」


「うみ? うみってウミちゃんと同じ名前ですね」


「名前は同じなのですが、海の水は塩辛くて美味しくないのです」


「水に味が付いてるんですか!?」



 桟橋から身を乗り出して海の水に触ろうとするアイナ。



「アイナちゃん、落ちないように気をつけるのよ」


「はいー、……ふわぁ、塩味の水です!」


「ここから見えてる水は全部塩味だぞ」


「すごいです、どれだけ塩を混ぜたらいいんでしょうか」


「海の水が甘かったら、ウミはこの近くに住みたいのです」



 これが全部甘い水だったら、ウミだけでなく色々なものが寄ってきそうだな、昆虫とか。


 ロイさんが船の手配をしてくれたので、明日この街を出発する予定だ。客船は便数が少なく相当先まで予約で埋まっていたが、ちょうどロイさんの商会の荷物を運んでいる運搬船が出港するのでお願いしてもらうと、一緒に乗せてくれる事になった。明日はこの港から乗船するので、その下見も兼ねてここに来ている。船だと3日位で着くらしく、陸路で行くより遥かに速い。



◇◆◇



 買い物を終えてロイさんの家に戻ると、麻衣のお菓子も完成しているようだった。ロイさんの商会でジャムを取り扱っているので、紅茶のお茶請けにもなるスコーンを焼いたそうだ。


 紅茶と一緒にジャムを付けて食べたスコーンは美味しかった。ロイさん夫婦も喜んでいたし、屋敷の使用人の人たちにもおすそ分けして好評を得ていた。ジャムの新しい販路になると、ロイさんがスコーンを商会で取り扱わせて欲しいとお願いしていたくらいだ。


 麻衣が自由に販売してくれて構わないと二つ返事で了承したら、お礼にジャムを大量に貰って嬉しそうにしていた。それより嬉しそうだったのがウミで、放っておくとジャムだけ瓶ごと食べそうな勢いだ。


 この世界のジャムは飲み物に溶かして飲むのが一般的な使い方だったらしく、お菓子に塗って食べるなんて誰も思いつかなかったそうだ。麻衣はまたこの世界に革命を起こしてしまったらしい、もしかしたらお菓子で世界を征服できるかもしれない。




―――――・―――――・―――――




 昨日の夜もアイナが部屋に来て一緒に眠ることになった。アーキンドの街で使わせてもらうロイさんの別荘でも、一緒に寝る方法を考えないとだめかもしれない。予想外だったのは、イーシャと麻衣も1人で寝るのは落ち着かないと、アイナのことを羨ましそうに見ていた事だ。一体どこへ向かっているんだろう、俺たちのパーティーは。


 ロイさんからは命を救ってもらった感謝の印だと、多額の謝礼をいただいてしまった。こちらもお世話になったので断わったのだが、麻衣のスコーンの販売許可のこともあるし、これだけは譲れないからと押し切られた。



「いろいろお世話になりました、ありがとうございました」


「こちらこそ感謝している、セカンダーに来ることがあったら必ず連絡して欲しい」


「お風呂気持ちよかったです、ありがとうございました」


「アーキンドの別荘にも付いているから、自由に使ってくれて構わないよ」


「船の手配もありがとうございました、私も海の船は初めてだから楽しみだわ」


「客船でないのは申し訳ないが、気をつけて旅を続けてきてくれ、また会えるのを楽しみにしているよ」


「ジャムも沢山ありがとうございました」


「マイちゃん、またお菓子の作り方教えてね」






 それぞれ挨拶して、ロイさんの家を後にする。

 船に乗って3日後には、いよいよアーキンドの街に到着だ。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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