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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 アーキンド編
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第35話 おしどり夫婦

 イーシャとテントの設営をしている、予備で買っていたものと2つだ。夕方になっても奥さんの意識が戻らないので、今日はそのまま野営をすることになった。



「テントの設営、だいぶ慣れてきたわね」


「あぁ、遠征でも何度かやったし慣れてきたと思うよ。でも俺がこんな風に冒険に出たり外でテントを張ったりするようになるなんて考えもしなかったよ」


「以前も家の中で回路をいじる方が好きって言ってたものね」



 王都に行く時、初めて野営でテントを張った時にイーシャと話した事を思い出してお互いに笑い合う。


 アイナと麻衣は夕食の準備をしている。アイナは最近、麻衣のお手伝いをするようになって、野菜の皮を剥いたり切ったりしながら料理を教わっているみたいだ。いつか俺にも手作りの料理を食べさせてあげると頑張っているので、楽しみにしている。


 ロイさんは奥さんの近くで看病していて、ウミもすぐ近くの荷物の上に座っている。傷はふさがったとはいえ、なかなか意識が戻らない奥さんが心配なんだろう。


 テントの設営も終わり、麻衣に今夜のメニューを聞いてみると、今日はシチューみたいな煮込み料理にすると言っていた。野菜やお肉も細かめに切って食べやすくしてくれているらしく、麻衣とアイナの心遣いに温かい気持ちになる。後は煮込むだけみたいなので、みんなで焚き火の近くに集まって話をした。いい匂いが鍋から漂ってきた頃、奥さんがゆっくりと目を開けた。



「……………あなた……私たちどうなったの?」


「お前、目が覚めたか、よかった」



 ロイさんは目尻に涙を浮かべながら奥さんの手を両手で握りしめた。



「あらあらあなた、涙を浮かべてどうしたの」


「お前はひどい怪我をして危なかったんだ、そこにいる冒険者の皆さんと精霊のお嬢さんが治療してくれなかったらどうなっていたか」



 ロイさんに言われた奥さんが俺たちとウミの方を見て目を丸くする。



「まあまあ、そちらの小さくて可愛らしいお嬢さんが精霊さんなの?」


「そうなのです、ウミは水の中級精霊なのです」


「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。この度は助けていただいてありがとうございました」


「もう痛いところとか無いのです?」


「大丈夫よ可愛い精霊さん」



 ウミを見てもびっくりしない人は初めて見たかもしれない。そしてなんだろう、アイナやウミとは違う癒やされるような独特の雰囲気を持ったこの人は。年をめされた人なのに、どこか可愛らしさがある。



「はじめまして、俺はダイといいます、このパーティーのリーダーをしています」


「夫と私が大変お世話になったみたいで、ありがとうございました」



 その後、お互いに自己紹介をして、今日あった出来事を話し始めると、奥さんは「あらあら、まあまあ」と驚いたり感心したりしながら聞いていた。周りには優しい時間が流れている感じがする、リンダさんすごい人だな。



「あのリンダさん、ご飯食べられそうですか?」


「あらあら、あなたが作ってくれたの? さっきからいい匂いがしているのでちょっとお腹が空いていたところなのよ、私たちも頂いていいのかしら」


「お腹にも優しいと思うので食べてください」



 そう言って麻衣はシチュー風の煮込み料理を夫婦に差し出した。少しとろみのある白いスープは牛乳が入っているのだろう、とても優しい味がする。野菜もよく煮込まれていて、舌で押しつぶせるくらい柔らかい。



「これは美味しいな、まさか野営でこんなごちそうが食べられるとは思ってもみなかった、うちで食べる料理より美味しいんじゃないか?」


「あらあらあなた、そんな事を言ってはうちの料理人が可愛そうよ」


「ははは、そうだな」


「でも本当に美味しいわ、マイさんお料理が上手なのね」


「ありがとうございます、お口に合ってよかったです。お代わりもありますので遠慮なく言ってください」



 夫婦を加えた7人で賑やかに食事を楽しんでいく。ウミは俺の膝に座って、お気に入りのドライフルーツ入りケーキを食べている。小さい口ではむはむ食べる姿は相変わらず可愛い。



◇◆◇



 夜、見張りをしているとテントからロイさんが出てきた。



「隣、いいかな」


「えぇ、構いませんよ」



 ロイさんは俺の隣りに座って、星空を見上げる。日本に居た頃はあまり夜空を見上げることはなかったが、この世界は街灯や建物の明かりがないので星が綺麗に見える。しばらく2人で空を眺めていたが、俺の方から話しかけてみることにする。



「奥さん、無事で良かったですね」


「あぁ、本当に良かった。あいつと出会ったのはまだ冒険者をしていた頃でね、当時から今みたいに物怖じせずよく笑う娘だった」


「奥さんと話してるとなんか優しい空気になりますね」


「そうだろう? 商談にあいつが居るだけで必ずうまくまとまるんだよ、今のロイ商会があるのはあいつのお陰だ」


「何となくわかります、あの雰囲気で話をしていると、どんな条件でもサインしちゃいそうです」



 俺とロイさんは顔を見合わせて微笑み合う。



「あいつに先立たれたら私は生きる希望を失ってしまう所だった、本当にありがとう」



 ロイさんは俺の前で深々と頭を下げる。



「頭を上げてください、俺たちは出来ることをしただけですから」


「しかし普通の冒険者なら逃げ出してしまうワイバーンに立ち向かってくれたんだ、出来るだけのお礼はしたい。確か君たちはアーキンドに行くんだったね」


「はい、セカンダーに寄って消耗品の補充をしたら、そのままアーキンドに向かう予定でした」


「実はアーキンドには私の別荘があるのだよ、妻が足を悪くしてからは使っていないのだが、管理と手入れだけは頼んでいるので今でも十分使えるはずだ。良ければ君たちの宿泊先として使ってくれないか?」


「そんな場所お借りしてもいいんですか?」


「あぁ、これでも足りないくらいだと思っている。別荘は海の近くにあるので、海岸に出れば泳ぐことも出来るよ、ぜひ使って欲しい」


「それではお言葉に甘えて使わせていただきます」


「そうしてくれるとこちらも嬉しいよ、他に何かできることはないかね?」



 そう言ってくれるが、特に何も思いつかない。でも一つだけ聞いてみたいことがあるので、それをお願いしてみる。



「アーキンドの街で変わった魔法回路を取り扱ってるお店を知っていたら教えてもらえませんか?」


「そんな事でいいのかね? でも、そうだな、君たちのあの強力な魔法、恐らく特殊な魔法回路の組み方をしているのだろう」



 流石に元冒険者だけあって、普通の魔法回路でないことはわかっていたみたいだ。



「わかった、うちの取引先に面白い魔法回路を取り扱っている店があるから紹介状を書いてあげよう。君たちは余り目立つようなことをしたくないようなので、魔法回路の作り方に関して詮索しないように書いておくよ」


「ありがとうございます、助かります」


「なに、これくらい構わないさ。他に何かできることがあれば、何でも言ってくれて構わないからね」



 それから奥さんののろけ話を聞かせてもらったりした後、ロイさんはテントに戻って行った。夫婦仲もいいし、ロイさんも奥さんのことをとても大切にしている。将来家庭を持ったらあんな夫婦になりたいと思わせてくれる2人だ。




―――――・―――――・―――――




 足の悪いリンダさんを荷車に乗せて街道を歩いている。勾配のある所は俺が引きながら他のメンバーが後ろから押してくれたり、身体強化を発動したアイナが手伝ってくれるのであまりペースを落とさずに進めている。麻衣のパーティースキルの恩恵もあるので、普通に荷物を持って移動する旅行者と変わらないくらいのペースかもしれない。


 ウミとリンダさんは妙に馬が合うようで、馬車の荷台で楽しそうに話をしている。双方の性格と容姿が相まって、一種の癒やし空間みたいになっているのが面白い。


 お茶の時間に出した麻衣のお菓子は夫婦にも好評で、特にリンダさんが気に入ってセカンダーの街にある夫婦の家の石窯で作り方を教えて欲しいとお願いしてきた、麻衣のお菓子は着実にファンを増やしているようだ。


 その話もあって、セカンダーの街では2人の家の離れに滞在させてもらうことが決まった。離れと言ってもかなり設備が整っているようで、なんとお風呂があるそうだ。日本人の俺と麻衣はかなり楽しみにしている、王城に住んでいた麻衣は浴場を使っていたそうだが、俺はこの世界に来てからお風呂に入ったことがないので、久々のお風呂を体験できると思うと心が踊って足も軽くなった。



「あなた、いい人たちと出会うことが出来たわね」


「あぁ、こんな若者たちが冒険者として活動してくれているのは嬉しいな。それに他種族の者たちがこの様に仲がいいパーティーは私も出会ったことがなかった。特にダイくんとアイナさんの関係を見ていると、うちの従業員の事ももう少し違う目で見てみようと思うよ」


「アイナちゃんは可愛いものね、私もわかりますよ」



 荷車の横を並んで歩いているロイさんとリンダさんはそんな話をしている。この世界の獣人は下働きなどに従事してる人が多いので、所得も低く苦しい生活をしているようだが、こういった所から少しづつでも変わっていくきっかけになれれば、俺とアイナも嬉しい。



◇◆◇



 それから3日後、セカンダーの街に無事到着した。予定より1日遅れただけで到着できたので、途中のワイバーンとの戦闘を考えても十分予定通りの日程だ。


 ロイさんは門から家まで行く馬車をオーダーしてくれるそうで、門にいる衛兵と話をしている。この町ではかなり有名な商会のようで、門番も慌てて手配に走っていったみたいだ。



「君たち少し待ってもらえるかな、馬車が到着したら私の客人ということでそのまま入場できるように手配している」


「色々お手数をかけてすいません」


「いいのよ、あなた達は大事なお客様なのだから」



 リンダさんの癒やしのオーラのお陰で罪悪感が減っていく。数日一緒に行動しただけだが、この人の発生させる雰囲気に支配された空間は危険だ。ロイさんが言っていた商談が必ず成功するって話がよく理解できる。


 それからしばらくすると大きな馬車が到着した、7人、正確には6人+1人だがその人数で乗っても十分広く、座席も柔らかくてふかふかだ。アイナはこんな豪華な馬車に乗るのに恐縮しているみたいで、久しぶりに俺の服の裾を握って離れなくなっている。



◇◆◇



 夫婦の家に到着したがそこでも驚く、これは家というより屋敷だ、玄関には使用人らしき人も居る。俺たちが泊まることになる離れも、客人をもてなすゲストハウスとして建てられているようで、非常に豪華な造りになっている。


「旅の準備が整うまで、何日でも泊まっていってくれて構わないよ」


「マイちゃん、良かったら明日にでもお菓子作り教えてね」






 一度それぞれの家で準備をして、その後に夕食を皆でとることになった。こうしてセカンダーの街での滞在が始まった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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