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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第4章 アーキンド編
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第34話 強敵

4章の開始になります。

水着回もありますのでお楽しみに。

 いよいよ夏の季節になった。


 あれから俺たちのパーティーも依頼を順調に達成していて、麻衣はカッパーからアイアンに、イーシャはアイアンからシルバーにランクが上昇した。遠征も何度かこなし、例の集団で岩を投げてくる猿の魔物がいる場所にもギルドからの依頼で行ったが、麻衣はあの晩のように俺に迫ってくることはなくなった。相変わらず好意を向けてくれるのは感じるが、あの時は精神的に不安定だったこともあってあの様な行為に走ってしまったのだろうと考えている。


 俺専用の武器も一つ作った。マニアックな回路を取り扱ってるお店で、面白い発動部分を見つけたからだ。狙った場所の上空に魔法を発動する回路だが、杖の先から飛ばす回路と違って遠距離で発動すると命中精度がガタ落ちして使いものにならない様だ。しかし∩字型に組んだ魔法回路で風の上位属性の雷を発生させ、広域スタン魔法に仕上げてみた。


 命中精度が良くないのでピンポイントで敵を狙うには使えないし、上位属性なので威力も低くなってしまう。それなら広域に雷を発生させて、敵を一時的な行動不能にするだけの威力に割り切ろうと考えて組んでみた。充填部分と範囲と威力のバランス調整に苦労したが、20メートル四方程度の範囲なら気絶状態にすることが出来るようになった。非殺傷系魔法なので麻衣でも使えると思うが、流れるマナの量が多すぎるので俺専用にしている。


 そして俺たちのパーティーは、いちど王都から離れて南に向かうことに決めた。南の方には商業都市が多くあり、ある程度の自治権が認められた自由都市群のようになっているそうだ。それに観光地としても有名で、海に隣接しているので海水浴も楽しめるらしい。うちのパーティーは女性ばかりなので、みんなの水着姿も楽しみにしている。この世界にどんな水着があるのかは知らないのだが。




―――――・―――――・―――――




「それじゃぁ、お世話になりました」


「また来てくださいよ、お客様。精霊さんにもまた会いたいよ」


「王都に来た時は必ず泊まりに来ますので」


「またよろしくなのです」



 ハーフリングの女将さんと別れの挨拶をする。ウミのことを大層気に入ってくれたみたいで、俺たちが別の街に旅に出ると言うとかなり残念がっていた。



「王都に来た時はまたお世話になるわね」


「お世話になりました」


「またお菓子の差し入れしますので」



 全員が挨拶して暁の波止場を出発した。



◇◆◇



 俺たちは南の門に向かって歩いている、今回は徒歩で移動する予定だ。ここから一度セカンダーの街を経由して、南部最大の商業都市アーキンドで長期滞在する。海の幸も有名らしいので、海辺でバーベキューをやるのも良いかもしれないなどと考えている。


 セカンダーの街までは徒歩で7日くらいかかる。精霊のカバンを持ってるお陰で、ほぼ手ぶらで移動できるため、かなり余裕のある行程になると思う。



「次の街も楽しみですね、ご主人様」


「あぁ、観光地っていうくらいだし、商業も盛んみたいだから色々なものが売ってるだろうな」


「海の幸が有名みたいだから、食べたこと無いものがいっぱいあるわよ」


「また屋台巡りが楽しみです!」


「水がいっぱいある所はウミも嬉しいのです」


「海産物で料理するのも楽しみですね」


「麻衣の料理も期待してるよ」


「新しいお菓子の材料もあるといいのですよ」



 みんなで喋りながら道を歩いていく。俺たちには麻衣の回復力強化のパーティースキルが有るので、疲れにくくなるのも他とは違う有利な点になっている。後衛にバランスが傾きすぎているが、それ以外の面では非常に優れてるんじゃないかと思う。




―――――・―――――・―――――




 王都を出発して4日目、特にトラブルもなく旅は続いている。王都で購入した荷車が思いのほか便利で、休憩時にくつろぐスペースになったり、食事の時の椅子とテーブル代わりなどに活用されている。



「ダイ先輩、後3日くらいでしょうか」


「そうだな、俺たちのペースは速いと思うから、少し早めに着くかもしれないな」


「マイちゃんが居るから、疲れにくくて助かるわ」


「魔物もそんなに出てきませんしね」


「この辺りは街道が整備されてるからあまり出てこないのかもしれないな」



 そんな話をしながら街道を歩いていた時、アイナが遠くの方を見て何かに気づいた。



「ご主人様、あっちの方で黒いものが飛んでるんですが、あれなんでしょうか?」


「んー、大きな鳥かな」



 街道から少し外れた方向にある丘の向こうに、黒いものが飛び回ってるように見える。一見すると鳥のようだが、距離を考えると少し大きさがおかしい。それに時々下の方に向かって降りては、上空に戻ってきているようだ。



「あれは下にある何かを襲ってるのかもしれないわね」


「何かって動物でしょうか?」


「今まで街道の近くに動物は殆ど出なかったし、他になにかあるのかもしれないな」


「誰か襲われているのかもしれませんよ、行ってみましょうご主人様」



 アイナの言葉で俺たちは走り出した。近づいてくると黒い飛行物体の姿がはっきりしてくる、羽が生えて二本足の恐竜みたいな体をしている。



「あれは、ワイバーン?」


「そうみたいだわ、こんな平地に来るような魔物じゃないはずなんだけれど」


「ご主人様、馬車みたいなものが倒れてます」



 丘を越えると、下の方に横倒しになって壊れた小さな馬車と傷ついて動かない馬が見える。少し離れた場所には人が2人いて、1人は怪我をしているようだ。もう1人が必死に怪我をした人をかばっている。



「マイちゃん、ワイバーンはブレスで攻撃してくるわ、障壁の準備をしておいて」


「わかりました」



 麻衣が杖を握って障壁の準備をする、俺たちもそれぞれ杖を取り出して構える。



「俺が牽制するから、まずはあの2人のところに行って障壁を張って助けよう」



 俺たちは倒れている人に向かって走り、降下してくるワイバーンに風の杖を振る。スピードの速い動きに対応出来ず、杖から生み出された16個の刃はその全てが外れてしまう。しかし牽制には成功したようで、ワイバーンは身を翻して上空に登っていった。



「くそっ、飛んでる敵は当てづらいな、とにかく怪我人の所に行こう」



 倒れている人に近づくと、年配の男女だった。両方とも怪我をしているようだが、女性の方が怪我がひどいみたいで、服が赤く染まって意識がないようだ。麻衣が障壁を張ってくれたので、男性に話しかける。



「大丈夫ですか?」


「助けに来てくれたのか? 済まないが私より妻の方を頼む」


「わかりました、ウミ頼めるか」


「わかったのです」



 ウミが女性の方に飛んでいき、血の流れている場所に手をかざして傷を治していく。かなり深い傷のようで、時間がかかってる。


 上空に移動していたワイバーンは急降下して襲ってくるが、麻衣の障壁が防いでくれた。障壁にもかなりの負荷がかかっているようで、硬い物同士が擦れ合う嫌な音がする。振動が中まで伝わってきて俺たちは身を固くするが、密度を上げて並列魔法回路になった障壁はなんとか耐えてくれている。


 何度か障壁に阻まれて攻撃が届かないとわかったのか、今度は近づいてきて口を大きく開ける。白い炎のようなブレスが口から放射され麻衣の障壁に当たる、視界が白に染まって障壁の外側の地面が焼けたような状態になった。かなり強力な攻撃のようで、中に居ても熱を感じてしまう。これは麻衣の障壁でも防ぐのはギリギリかもしれないな、早めに決着を付けないと危ないだろう。



「上空に上がったら一度障壁を解いてくれ、反撃しよう」


「わかりました」


「イーシャ、あの高さって魔法が当たると思うか?」


「あそこまで遠いと難しいわね」


「飛び込んでくる時はスピードが速いし、広域スタン魔法を試してみるか」



 俺は別の杖に持ち替えて構える、20メートル四方に雷を落とす非殺傷系魔法の杖だ。いくら速くても、近づいて来る位置を先読みして狙えば当たるかもしれない。



「イーシャ、広域魔法を使ってみるが外れたら頼む」


「わかったわ、なんとか当ててみせるわ」



 ワイバーンが上空から弧を描くように降りてきた、かなりのスピードだが進行方向の少し先を狙って杖を振る。上空に雷の雨が降り注ぎワイバーンに命中したが、さすがに強い魔物だけあって気絶するまでの威力ではなかった。しかし動きは確実に鈍っていて、少しふらつきながら高度が下がってくる。



「これなら私の魔法でも当てられるわ、羽を狙って地面に落とすから一気にとどめを刺しましょう」



 イーシャが羽の付け根に氷の矢を当てると、体勢を崩したワイバーンが地響きを立てて地上に落ちてくる。俺も威力の強い単体の風の杖に持ち替えて、落ちてきたワイバーンに攻撃する。ブレスを撃たせないように注意しながら攻撃を集中させると、暫くもがいていたが次第に動きが鈍くなってきた。そこにアイナが走り込んでいって首を切りつけると、それがとどめになりワイバーンは青い光になって消えた。



「危なかったな」


「えぇマイちゃんの障壁や、ダイの作ってくれた武器が無かったらやられていたかもしれないわ」


「首もすごく硬かったです」


「下級とは言え竜種だから、魔法にも強いし剣も通りにくいわ」


「ブレスも強力でした、障壁も維持できるかどうか不安でしたから」



 なんとか倒すことが出来たが、今回は危なかった。この世界にはまだまだ強い魔物が居ることを実感する。



「ダイくん、なんとか傷はふさがったのです」


「ありがとうウミ、ご苦労さま」



 治療を終えたウミが近くに飛んできて報告してくれた。



◇◆◇



 倒れていた人のところに行くと、両方とも血は止まってるみたいでだいぶ落ち着いた様子だった。女性の方はまだ目を覚ましていないが、男性の方は話ができる状態みたいだ。



「ワイバーンは倒しましたので、もう大丈夫ですよ」


「助けてくれてありがとう、君たちは命の恩人だ」


「セカンダーの街に旅をしている途中でたまたま遭遇したので、間に合ってよかったです」


「そうだったのか、ともかく感謝している。申し遅れたが私の名前はロイと言う、彼女は妻のリンダだ」


「俺はダイといいます、このパーティーのリーダーです」



 俺たちはそれぞれ自己紹介をした。この夫婦はセカンダーの街で商会を経営していて、王都まで商談に来ていたそうだ。その帰り道にワイバーンに襲われ、馬も慌てて街道から外れた方に走ってしまった。護衛に雇っていた冒険者も逃げてしまい、足の悪い奥さんをかばいながら壊れた馬車から逃げ出したが、もうだめだと思った所に俺たちが来たらしい。



「エルフに精霊まで居て、あの強力な魔法と武器、君たちはかなり名の知られた冒険者ではないのか?」


「いえ、俺たちはまだ1人を除いてアイアンランクの冒険者です」


「そうだったのか、ワイバーンを倒すくらいなのでかなりランクの高い冒険者だと思っていたのだが」


「俺たちはいろいろな事情があって集まってるパーティーなので、申し訳ないですがあまり詳しいことは……」


「あぁ、詳しいことを聞くつもりはないから安心してくれていい、それに他の人に広めるつもりはないよ。私も昔は冒険者をやっていたので、色々と詮索するのはマナー違反だとわかっている。それに恩人の不利益になるようなことはしないよ、商売は信用が第一だからね」



 そう言ってロイさんは笑ってくれた、話のわかる人で良かった。国や貴族に知れ渡ってしまうと、色々な(しがらみ)が出来て自由に動き回れなくなりそうなので、それはなるべく避けたい俺としては大助かりだ。



「それで非常に図々しいお願いだと思うのだが、よければ私たちをセカンダーの街まで護衛してくれないだろうか。もちろんお礼はさせてもらう、ロイ商会の名にかけてね」


「行く方向が一緒なので構いませんよ」



 みんなに目で確認すると頷いてくれたので了承する。これから寄ろうと思っていた街だし、依頼を受けて急いで旅をしている訳でもない。



「ありがとう、妻は私が背負ってでも連れて行くからよろしくお願いするよ」


「あ、それならなんとかなりますよ」



 俺は精霊のカバンから荷車を取り出した。とりあえず水の入っている樽をカバンに戻して、人が横になれるスペースを確保する。



「そ、それは精霊のカバンかね。いや、精霊が仲間にいるんだ、持っていても不思議ではないか」



 びっくりしているロイさんだが、すいませんパーティーメンバー全員持ってます。



「とりあえず今は街道の近くに移動しましょう。奥さんもかなり血を流していましたから、意識が戻って体調を見ながら街に向かうほうがいいと思うので」


「色々と気を使わせてすまない、君たちの旅の邪魔をしてしまって申し訳ないと思う」


「いえ、もともと予定などない旅ですし、目的地はアーキンドなので少しくらい日数がずれても大丈夫です」



 そう言って荷車に毛布を敷いて奥さんを寝かせ、街道の方に移動した。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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