表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/176

第32話 ウミの精霊魔法

 街に戻ってきた俺たちは、冒険者ギルドへ向かって歩いている。ウミは俺の頭の上が見晴らしが良くていいらしく、しがみついたまま王都の街並みを見ているようだ。入場チェックの時は面倒なことになりそうなので、普通のカバンの中に隠れてもらった。



「ウミも冒険者登録してパーティーに加入したほうがいいんだろうか」


「精霊って登録できるんですか?」


「ウミちゃんも一緒のほうがいいです、ギルドで聞いてみましょうご主人様」


「英雄譚なんかで精霊を仲間にした話はあるけれど、冒険者登録って出来るのかしらね」


「ウミは何か知らないか?」


「昔、冒険者と一緒にパーティーを組んだことがあるって精霊はいましたですよ」



 単に一緒に活動してただけなのか、パーティーとして登録できてたのかはわからないが、聞くだけ聞いてみるか。まずは依頼達成の報告と、ドロップしたアイテムの買い取り願いをする。クマの肝はギルドで高く買い取ってもらえた、今回の依頼は大黒字だ。


 ひと通りの手続きを終わらせて、もう一度受け付けに向かう。



「あら、さっきの冒険者さん、どうかしましたか?」


「えっと、精霊を冒険者登録って出来ますか?」


「ウミは水の中級精霊のウミなのです。冒険者登録してこの人のパーティーに入りたいのです」



 俺の頭から降りて受け付けカウンターに立ったウミを見て、受付嬢が固まった。ずっと俺の頭にしがみついていたが、何かのアクセサリーか目の錯覚とでも思っていたのだろう。硬直から復帰した受付嬢は「しばらくお待ち下さい」と言ってギルドの奥の方に行ってしまった。ちょっと申し訳ないことをしてしまったかな。


 しばらくすると奥から受付嬢が戻ってきた。



「ここに名前や出身地を書いてください、わかる部分だけでいいので。

 文字が書けなかったら代筆するので言ってください」



 何事もなかったように登録手続きが開始された。さすがプロだ相手がどんな存在だろうと、きっちり仕事は遂行するようだ。現実逃避しているだけかもしれないが。


 ウミにペンは大きすぎるので俺が代筆して受付嬢に差し出す。人間だと指を乗せる部分に手を置いて個人登録が完了すると、ウミのギルドカードが出来てしまった。すごいな精霊のギルドカードとか超レアアイテムかもしれない。ギルドカードは俺が預かることにして、パーティー登録も済ませた。


 他の受付嬢からの視線を感じるし、俺たちに気づいた他の冒険者も遠巻きに見ているようなので、そそくさとギルドから退散する。冒険者は他のパーティーのメンバーや、スキルや装備品に関して詮索したり干渉するのはマナー違反として、かなり徹底されているみたいなので、たぶん何も言われるような事はないだろう。



◇◆◇



「出来てしまったな、冒険者登録」


「私はすごい瞬間に立ち会ってしまったのかもしれないわ、エルフの歴史でも語り継がれるかもしれないわよ」



 エルフでも知らない歴史って、そんなにレアなのか。このギルドカードをオークションで売れば……いや、やめておこう、ウミは大事なパーティメンバーだ。思考が変な方向に曲がっていくのを修正する。



「ウミちゃんと一緒になれました、嬉しいです」


「お菓子もいっぱい作りますね」


「これでウミも正式な仲間になったのです」



 アイナと麻衣はウミのパーティー加入を素直に喜んでいる。特に麻衣はお菓子作りに燃えているようだ、明日あたり早速、石窯を借りに食堂に行くかもしれない。精霊のカバンを手に入れたことで持てる量に余裕ができたので、明日は買い物とウミに王都を案内するために依頼の受注は休みにしよう。


 ウミの歓迎会をとも思ったが、彼女の場合は食事よりお菓子でお茶会のほうがいいだろうと、日を改めて麻衣がお菓子を用意するので、その時にしようということになった。宿屋の近くで食事をしてその日は戻ることにした。ウミはカップケーキの残りをもらって食べていたが、ほんとに何処に入っているんだろう。



◇◆◇



「ただいま戻りました」


「お客様、おかえりなさいですよ」



 暁の波止場について挨拶すると、いつものようにハーフリングの女将さんが迎えてくれる。



「あの、今日からまたひとり増えるのですが」


「お客様、また新しい女の子を連れてきたのです?」



 以前も一度宿屋を出てから麻衣を連れて来たこともあるし、また女の子と連れてきたと思われてしまった。宿屋にハーレムを作るつもりはないんだが。



「確かに女の子なのですが、実は精霊でして」


「はじめましてです、水の中級精霊のウミなのです」



 そう言って頭の上にいたウミが女将さんの前に飛んでいって挨拶すると、女将さんが固まった。さっきからこのパターンが多いな。



「すごいよ、精霊なんて初めて見たよ、私より小さくて可愛いよ」



 硬直が解けた女将さんは大興奮だ。俺の腰くらいまでしか背の高さがない女将さんだけど、それより更に小さい精霊のウミを見て、可愛いと連呼している。子供がお人形遊びしている姿にしか見えなくもないが、ここはお互いのために心の奥に仕舞っておこう。



「精霊だし小さいし追加料金はいらないよ、今の部屋をそのまま使うといいよ」


「ありがとうございます、助かります」


「いいよいいよ、お客様は常連さんだし、可愛いは正義よ」



 どこかで聞いたようなセリフを言い始めた女将さんに挨拶して、俺たちは部屋に戻る。



◇◆◇



「女将さん大興奮だったな」


「ウミちゃんと戯れる姿はとても可愛かったです」



 麻衣もさっきの光景は心にきたようで、思い出しているのか少し遠いところを見る目をしている。アイナもイーシャも優しい目で見ていたが、ハーフリングと精霊がじゃれ合う姿はとても微笑ましい光景だった。


 それにしても、なんだか王都に来て立て続けにイベントが発生してる気がして少し疲れたな。魔物の暴走(スタンピード)に勇者候補の輝樹さんとの出会い、麻衣との再会があって精霊のウミがパーティーに加わった。これで俺たちのパーティーメンバーも5人になった、俺以外は全員女性だけど、意図してこの構成になっているわけではない。


 ……………たぶん。


 今日は森の奥まで入って少し汚れたし、水を多い目に貰ってこようと思い、みんなに断わって部屋の外に出た。アイナは最初のうちは自分が行くので俺は座っていてくれと言っていたが、これは男の俺がすることだからと何度か説得して部屋で待っていもらうようにしている。自分の主人を雑用に使うことに罪悪感があるみたいだが、俺としては妹と同じくらいの身長の女の子にやらせるのは耐えがたい。


 女将さんに水代を払って取っ手のついた桶を両手に下げて部屋に戻ると、女性4人はベッドの上で楽しそうに話に花を咲かせていた。



「水もらってきたぞー」


「ダイくん、その水どうするのです?」



 こちらに飛んできたウミが、俺の持っていた桶の中にある水を覗き込んで質問してくる。ウミは俺のことは君付けで、女性陣はちゃん付けで呼ぶようになった。中級精霊になるまではかなりの年月がかかるらしく、少しお姉さんぽい所を見せようとしている感じだが、容姿と身長のお陰であまり成功しているとはいい難い。



「これで体を拭くんだよ、今日は森の奥まで入ったから少し多めにもらってきた」


「そうなのですか、それならウミにお任せなのです」



 両手を腰に当てて上体をそらして、えっへんと言いたげなポーズを取るウミだが、やっぱり可愛い生き物にしか見えない。



「服は着たままでいいのです、装備品とかカバンは念のため外してくださいです」



 一体何をするつもりなんだろうと思いながら、言われたとおりに魔法の杖と腰につけていたバッグを外す。



「言われたとおり外したけど後はどうすれば良いんだ」


「後はそこに立ってくださいです、なるべく動かないでくださいですよ」



 ウミは俺の前に飛んできて右手をすっと俺の方に振ると、足の爪先から頭の方に少しひんやりとした感覚が抜けていった。



「なんか冷たいものが足から頭の方に抜けていった感じがしたぞ」


「これは洗浄の精霊魔法なのです、体とか髪の毛がきれいになったですよ」



 言われて確認してみたが、確かに体はさっぱりしたし、髪の毛もサラッとして1日森の中に居たとは思えない爽快感がある。



「確かに1日動いた後とは思えないくらいさっぱりしたし、髪の毛もさらさらになった、すごいなウミ」


「攻撃は苦手なのですが、綺麗にしたりするのは得意なのです」


「すごいわ、この緻密な魔法制御、さすがは中級精霊ね」



 イーシャも今の精霊魔法を見て感心している。服とか濡れているわけでもないし、体だけきれいになっているのはとても不思議だ。中級精霊の使う精霊魔法の凄さの一端を見た気持ちになった。



「服は苦手なのですが、お皿とかも洗えますですよ」


「ウミちゃん助かります、お菓子いっぱい作るからこれからもよろしくお願いします」



 麻衣が恐ろしい勢いでウミのセリフに食いついた。前回の遠征の時も洗い物は苦労してたしな、焚き火で使うと鍋なんか黒くなるし。



「後はあまりひどくない怪我なら治せるのです」


「ウミちゃん、私の擦り傷とか治せたりしますか?」



 今度はアイナが食いついた。前衛で動き回るアイナは小さな傷を負うことがあるからな、それがその場で治るなんて願ってもないことだろう。


 ウミはアイナの前に飛んでいって傷の場所を見せてもらっている。手の甲にできた擦り傷の上に手をかざすと、傷と一緒に赤くなってた肌もきれいに治ってしまった。



「ふぁ、すごいですウミちゃん、ありがとうございました」


「怪我をしたらいつでも言ってくださいです」



 アイナはしっぽをぶんぶん振って、さっきまで擦り傷のあった所を触りながら喜んでいる。それにしても精霊魔法はすごいな、攻撃だけでなく生活に便利な魔法や怪我の治療まで出来てしまうなんて。


 しかし一つ気になることがあるので聞いてみる。



「なぁウミ、精霊魔法って使いすぎると下級精霊に嫌われたりしないのか?」


「エルフさんなんかは下級精霊にお願いするので使いすぎると嫌われるのです、でも中級精霊は下級精霊に指令できるので大丈夫なのです」



 上位の精霊の命令には必ず従ってくれるってことか。これはすごいメンバーが加入したな、麻衣のお菓子には感謝だ。



◇◆◇



 その後、全員洗浄魔法で綺麗にしてもらって、貰ってきた水は洗濯に使った。


 ウミは俺の頭の横で枕を布団にして、タオルを体に掛けて寝ている。精霊は寝る必要はないらしいが、別に寝ないわけでは無いようで、俺たちの生活リズムに合わせて寝ることにするらしい。寝ている間に押しつぶしてしまわないように気をつけて眠ることにしよう。


資料集も更新しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「なぁウミ、精霊魔法って使いすぎると下級精霊に嫌われたりしないのか?」 「エルフさんなんかは下級精霊にお願いするので使いすぎると嫌われるのです、でも中級精霊は下級精霊に指令できるので大…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ