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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第3章 王都編

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第31話 ウミ

評価やブックマークありがとうございます。

朝の更新に続いて、今日の2回目の投稿になります。

 先日の遠征で自信をつけた俺たちは、森の深いところにある素材の収集に来ている。俺の武器も新しくなったし、素早い魔物が現れても遅れを取ることは少なくなるはずだ。王都の近くにはダンジョンもあって、冒険者の多くはそちらに行くため、森の深い場所になると他の冒険者をほとんど見ない。前衛がアイナ頼みの俺たちパーティーにはまだダンジョンは無理なので行ったことはないが、いずれ挑戦してみたいと思っている。



「ご主人様、前から1匹、魔物が来ます」


「わかった、俺が倒すよ」



 昨日作った杖を構えて敵を狙う。前方からキツネの魔物が飛び出してきた、結構すばやくて狙いがつけづらいが、落ち着いて杖を振る。杖の先から16個の風の刃が発生し、そのうちのいくつかが命中して、魔物は青い光になって消える。



「ダイ先輩の新しい武器、やっぱり凄いですね」


「確かに当たりやすくはあるんだけど、周囲の被害もすごくてな、少し使い所を考えてしまうな」



 俺が魔法を放った周囲の木の枝や草なども巻き込んで、ちょっとした空間になってしまっている。



「広い場所か通路で区切られているダンジョンとかなら使いやすいけれど、森みたいに障害物が多いと少し困るわね」


「だな、でも複数の武器を持ち歩くのもなんか邪魔だしな、2本くらいなら良いがこれから増やしていくとなると何か考えないといけないな」



 小型魔法回路の杖は学校で使うリコーダーくらいの太さで、中型魔法回路の杖はテレビのリモコンくらいの太さがある。そんなにかさ張るものではないが、腰に何本もぶら下げて歩くようなものではないだろう。狩場に合わせて最適な武器を選べば良いんだろうが、色々な魔法回路を試してみたい俺としては悩みどころだ。



◇◆◇



 森の中を移動しながら素材を順調に集めていた俺たちだが、アイナが何かの気配に気づいたのか立ち止まって集中している。



「アイナどうした?」


「えっと少し先に魔物の気配がするんですが、何かを追いかけてるような感じなんです」


「あら、他の冒険者が襲われているのかもしれないわね、行ってみましょう」



 アイナの示す方に進んでいくと、クマの魔物が青くて小さい何かを追いかけていた。その小さくて青い物体は空を飛んでいるようで、必死にクマから逃げている感じだ。鳥か何かだろうと思ったが、よく見ると人間に近い形をしている。



「イーシャ、あれはなんだ?」


「珍しいわね、あれは中級精霊よ」


「イーシャさん、中級精霊って見えるんですか?」


「そうよ、下級精霊は私のように精霊の声が聞こえないと存在を感じられないけれど、中級精霊になると誰でも声を聞くことが出来るし触ることだって出来るわよ」



 アイナの疑問にイーシャが答えてくれた。俺にもはっきり見えてるし、追い回してるくらいだから魔物にも見えているんだろう。そんな話をしていると、中級精霊がこっちの存在に気づいたらしく、俺たちの方に向かって飛んで来た。



「たぁーすぅーけぇーてぇーくぅーだぁーさぁーいぃーでぇーすぅー」


「こっちに向かってきたぞ、クマも一緒だがどうする?」


「あのクマの魔物は、一度狙った敵を倒すか倒されるまで追い続けるから、私たちが襲われることはないわね」


「そうか、それは安心だ。でも中級とはいえ精霊なんだろ、魔法で何とかしないのか?」


「そうよね、中級精霊なら私たちより強力な精霊魔法が使えるから、クマの魔物なんて問題にならないはずなんだけれど」



 追いかけられている中級精霊は逃げるだけで、クマの魔物に攻撃する気配がない。何か攻撃できない理由でもあるんだろうかと考えてしまう。



「お話してないで助けてくださいですーーー!」


「あの、ご主人様、助けてあげなくていいんですか?」


「そうだな、アイナ頼む」



 俺たちの周囲を大きく回りながら、クマの魔物から必死に逃げ回っていた中級精霊が涙を流しながら懇願してきた。このままだとクマの魔物に食べられそうなので、そろそろ助けてやることにする。短剣を構えて飛び出したアイナが、クマの魔物の首を正確に斬りつけると、そのまま体勢を崩して青い光になって消えた。魔核の他に何かアイテムも落ちたみたいだ。



「ご主人様、なんか黒い塊が落ちました」


「これはクマの肝ね、薬の材料になるから高く買い取ってもらえるわよ」



 黒くて乾燥した塊は、クマの魔物が落とすレアアイテムの肝らしい。生じゃなくて乾燥した状態で落ちるんだな、生レバーだと持ち帰るのに苦労しそうだけど、これならカバンに入れても大丈夫だ。



「そこの冒険者の人たち、助けてくれてありがとうございますなのです」



 クマの魔物から逃げ回っていた中級精霊がグロッキー状態から復活したようで、俺たちの近くに来てお礼を言ってくれた。



「大丈夫だったか?」


「はいです、かなり怖かったですけど大丈夫なのです」


「あなた水の中級精霊でしょ、こんな所にいるなんて珍しいわね」


「あや、エルフさんもいたのですか、あなたは風の精霊の声が聞こえるみたいなのですね」



 水の中級精霊と言われた女の子は身長30センチくらいで、腰のあたりまである水色の髪を1本の三つ編みにしている。その女の子はサファイア色の瞳でイーシャの事を見ると、風の精霊魔法使いであることをひと目で見抜いた。



「さすがは中級精霊ね、私は風の精霊魔法が使えるのよ」


「風の下級精霊がエルフさんの近くに集まっているからすぐわかるのです」



 イーシャも精霊の声が聞こえて存在を感じることは出来るけど姿は見えないと言っていたが、精霊同士だと下級精霊も見えているようだ。



「それで、なんで魔物に襲われていたんだ?」


「実はお腹が空いていたので食べ物を探していたのです。それで美味しそうな蜂蜜を見つけて食べようとしたら、魔物さんの食べ物だったみたいで怒られてしまったのです」


「甘いもの好きなのか?」


「はいです! 甘い蜂蜜とか果物とか大好きなのです!」


「じゃぁ、これ食べてみるか?」



 本当に好きなものを語る時のキラキラした目で喋る姿を見て、思わず今日のおやつに持ってきていた麻衣の作ったカップケーキを差し出してみた。精霊の女の子は差し出したカップケーキに近づいてきて、匂いを嗅いだ後に小さな口でケーキにかじりついた。



「ふわっ! なんなのですこれ! こんな美味しいもの食べたこと無いのです!!」



 そう言ってカップケーキを小さな体で持ち上げてハグハグと食べ始める。その体の何処に入るんだというのが気になるが、あっという間に食べ終わってしまった。あまりの食べっぷりの良さに、ついもう1個差し出したが、ケーキに縋り付くように飛んできて、また両手で抱え上げて食べ始めた。



「これは凄いものなのです、こんな美味しいものが人族さんの街にあるなんて知らなかったのです」


「いや、これはここに居る麻衣が作ったお菓子なんだ、街でも売ってないと思うぞ」


「うぅっ、そうなのです!?」



 一瞬で悲しそうに顔になった精霊の女の子が、俺たちの顔を見ながらウンウンと(うな)りだした。そしてしばらく考え込んだ後に俺の顔を見てこう言った。



「私は水の中級精霊のウミというのです。あなた達の仲間に入れてほしいのです」



 俺たちは全員で顔を見合わせてしまった。まさか麻衣の作ったカップケーキで、精霊が釣れるとは思っていなかった。凄いな麻衣のお菓子、人だけでなく精霊まで(とりこ)にしてしまった。この精霊が食いしん坊なだけの気もするが。



「イーシャはどう思う?」


「私はいいと思うわよ、実体を持った精霊なんてめったに会えるものではないし、中級精霊が近くにいると他の下級精霊も集まってきやすくなるから大歓迎よ」


「麻衣はどうだ? この精霊の女の子にお菓子を作ってあげないとダメみたいだが大丈夫か」


「作り置きできるお菓子ならまとめて作れますし、あんなに美味しそうに食べてくれるんだからいくらでも作りますよ」


「アイナはどうだ?」


「ちっちゃくてふわふわ飛んでるのがすごく可愛いです、私も賛成です」



 みんなの意見はまとまった、少々食い意地が張ってるかもしれないが、イーシャの精霊魔法を見てから精霊という存在にも興味があったし、目の前でふよふよと飛んでいる姿はとても可愛い。



「わかったよ、これからよろしく頼むなウミ」


「はいなのです、よろしくおねがいしますです」



◇◆◇



 その後、俺たちはそれぞれ自己紹介をして、そのままおやつタイムに突入した。麻衣が余分に持っていたカップケーキを俺と精霊のウミに分けてくれたが、ウミはさっき食べたにもかかわらず、もう1個平らげてしまった。ほんとにこの体の何処に入っているんだろう。



「ところで、なぜさっきの魔物に魔法を使わなかったの? あなたならエルフの私より精霊魔法は得意なはずよね?」


「うぅっ、魔物さんに攻撃するなんてウミには出来ないのですよ」



 麻衣がシンパシーを感じているらしく、ウミを見ながらうんうんとうなずいている。



「でも、もっと上の方に逃げればよかったんじゃないですか?」


「あぅっ、それは気づかなかったのです。後ろから追いかけられたので前に逃げてしまったのです」



 魔物を攻撃できないウミに共感を得ていた様子の麻衣だったが、鋭い指摘を投げつけていた。それは気が付かなかったと落ち込んだ様子だったが、すぐ復活して「今度からそうするのです」と言って笑っていた。



「皆さんにお礼がしたいのです、ついてきて欲しいのです」



 ウミはそう言って俺たちを森の奥に先導していく。そして大きな木のウロの前で「少し待っていて欲しいのです」といって、中に消えていった。



「ご主人様、消えちゃいましたよ」


「どこにも居ないみたいですね」



 びっくりしてるアイナと、ウロの中を覗き込んだ麻衣がウミが何処かに消えてしまったと慌てている。俺もウロの中を見てみたが、奥の方に穴が開いてるわけでもなくウミは本当に消えてしまったようだ。



「精霊はこことは違う“精霊界”という場所で生活しているの、ここは精霊界と繋がっている秘密の出入り口みたいね。それで精霊界で産まれた下級精霊たちは私たちの居る世界に来て、長い年月をかけて力をつけて中級精霊になるのよ。中級精霊になるとほとんどは精霊界で過ごすのだけれど、たまにこっちの世界に遊びに来る子達も居るの」


「それがウミちゃんなんですね」


「ここが精霊界と繋がってる場所なんですか」



 アイナと麻衣は改めてウロの中を覗き込んでいた。指を突っ込んでみたりしているようだが、他の世界に繋がっているような感じはなく、本当にただ木に空いている穴だ。精霊しか出入りできないゲートになっているんだろう。



「ウミは中級精霊ってことだけど、上級とかも居るのか?」


「えぇ、精霊界に戻った中級精霊の一部で特に力をつけたものが上級精霊、大精霊と成長していくわよ。ただ、それらの精霊たちは精霊界から出ることはないわ」


「俺たちが直に見る機会のある精霊は中級精霊だけなのか」


「それも滅多に見られるものではないけれどね」



 イーシャに精霊の話を聞いていると、ウロの中からウミが戻ってきた。手にはポケットティッシュサイズのカバンのような物を4つ抱えている。ウミが持つとちょっと大変そうで、フラフラしながら飛んできた。



「これを皆さんに差し上げるのです」



 受け取ると上に小さな蓋がついていて、ひもを通してぶら下げるための穴もついている。受け取ったイーシャはちょっと驚いた顔をしてこの小さなカバンを見ているが、精霊が持ってきてくれたものだし何か特別な機能がついているのかもしれない。



「これは精霊のカバンじゃないかしら」


「そうなのです! 蓋を開けてカバンの中に指を入れて欲しいのです、そうするとその人にしか使えなくなるのです」



 そう言われて全員が蓋を開けてカバンの中に指を入れる。ちょっと吸い込まれる感じがしたが、カバンから引き抜いた指には何の変化もない。これでその人しか使えなくなったと言っていたが、どういうことだろう。



「イーシャ、精霊のカバンって言ってたけどこれは一体何なんだ?」


「さっき精霊はこことは違う精霊界に居るって言ったわよね、そこと繋ぐことの出来るのが精霊のカバンなのよ。入れられる容量はほぼ無制限という、とんでもないアイテムよ。この世界にもいくつかあって“精霊の忘れ物”とか“精霊の落とし物”と言われていて、貴族や裕福な商人、それに上級冒険者くらいしか持っていないわね」


「ふぁ、そんな貴重なものをもらってしまっていいんですか!?」


「いいのですよ、魔物から助けてもらったのと、美味しいお菓子のお礼なのです。それにこのカバンに入れたものは時間が進まないのです。食べ物も腐らないし、温かいものはそのまま保存できるのです。これで出来たてのお菓子がいつでも食べられるのです」



 さてはそれが目当てだな、さすが食いしん坊精霊なだけはある。しかし、これで武器を増やしても大丈夫だし、麻衣も重い食材や調理道具を好きなだけ運ぶことが出来る。これからの冒険にとても役に立つアイテムだ。


 それからウミに使い方の説明を受けた。


  ●カバンに指を入れて登録した人しか出し入れができない

  ●入れる時はカバンと入れたいものを手で同時に触って念じると入る

  ●出す時は出したい場所に手を置いて、片方の手でカバンを触り出したいものを思い浮かべる

  ●入れたものを忘れると出せなくなるので注意すること

  ●人や動物など生きたものは入れることが出来ない

  ●蓋を開けてカバンを逆さまにして底を叩くと中身を全部出せるが、一気に出てくるので壊れたり仕舞っていたものがこぼれたりするのでおすすめできない






 こうして水の中級精霊のウミが仲間になり、俺たちは素材集めを終えて街に戻っていった。


3人目の現地ヒロインが登場しました。

いわゆる「無限ストレージ」をパーティー全員が取得してしまいました(笑)


資料集の方も後日更新します。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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