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第30話 エルフのお店

 マニアックな品揃えの店だと教えてもらった魔法回路屋に来ている。エルフの店員がいるという話だったので、今日はイーシャが一緒に来てくれた。アイナと麻衣は食堂に行っていて、新作のお菓子に挑戦してみるそうだ。



「いらっしゃい」



 少し痩せたエルフの男性が挨拶してくれる。店内は所狭しと魔法回路のパーツが並べられていて、まさにジャンク屋と言った感じだ。



「エルフの客か、珍しいな」


「あなたこそ人族の街でお店を開いてるなんて珍しいわね」


「ん? お前は西の方の里に居たエルフじゃないか?」


「あら、私のこと知ってるのかしら」


「あぁ、お前はまだ小さかったから覚えてないかもしれないが、確か西の里の――」


「今の私はただの冒険者のイーシャよ」



 エルフの店員さんとイーシャは面識があったみたいだ。もっとも向こうが一方的に覚えているだけみたいだが、他の里の住人らしいこの男性が覚えてるくらいなんて、イーシャは有名人だったりするんだろうか。



「それで今日はどうした、魔法回路でも探しに来たのか?」


「今日は彼の買い物に付き合ってるだけよ、エルフの店員がいるって聞いて見に来たの」



 そう言ってイーシャは俺の腕をとって店員の前に差し出す。店員さんは興味深そうに俺の方を見ている、人間の街でお店を開くくらいだし、イーシャと同じく好奇心の強いエルフなのかもしれない。



「ほう、人族と一緒なんて一体どうしたんだ?」


「ふふふ、この人と一緒に居るととても楽しいの、私の好奇心を刺激してやまないのよ」


「エルフの好奇心を刺激する人族か、なかなか面白いな」


「それでお願いがあるのだけど、彼はいろいろと変わった魔法回路の買い方をするの。でも、あまり詮索しないでもらえると助かるわ」



 イーシャは店員さんにそうお願いしてくれた。確かに同じ魔法回路を2セットづつ買ったり、∩字型に並べられるように分割して買ったりするからな。その辺りを不審に思われないように、手を打ってくれようとしてくれている。



「俺は人族の街の美味い飯を食べるために商売しているんだ。エルフの里の飯は薄味が多くて俺には物足りない、旅を続けていてもうあの食事には戻れないんだ。売上に貢献してくれるなら何も聞かんさ」



 この人も好奇心が旺盛でいろいろ旅をして、人間の街で食べた料理の味に取り憑かれてしまったのか。里を離れて旅をするエルフは変わった人が多いな。



「そう、助かるわ。さぁダイ、色々見てみましょう」


「わかった、じゃあ色々見せてもらいますね」



 イーシャはそう言って俺の手を引きながら店の奥に入っていく、俺も店員さんに会釈してイーシャに付いていった。



◇◆◇



 お店の中はまさにガラクタの山だった。説明書きを見ても何に使ったら良いのかわからないようなものから、どう考えてもネタで作ってるだろうと思われるものまである。花とか動物の形になる魔法なんて何に使うんだ、花火にでもするんだろうか。


 その中に興味を引く発動部分の回路があった、16分割して発動するという変わった回路だ。先日の遠征でも蜘蛛の魔物に魔法が当たらず、アイナのフォローを受けてしまっている。当たらなければ手数で勝負してみようという算段だ、下手な鉄砲もなんとやらだな。



「イーシャ、これを俺の杖に組み込んでみようと思う」


「この16分割して発動するって書いてある部品ね。でも分割する分、それぞれの威力が弱くなって実用に耐えないって書いてあるわね」


「そこは何とかしてみるさ」


「確かにダイが使うと面白いことになりそうね、楽しみだわ」



 さっきイーシャが変な買い方しても詮索しないようにお願いしてくれたので、風の刃のレシピを見ながら小型パーツを中型魔法回路用のレールに2列並べていく。密度のパラメーターパーツを4連結して、充填部分もレールの長さ限界まで詰め込む。一方の回路は発動部分を除いてダミーブロックを入れて高さを合わせておいた。



「確かにこれは変わった買い方をするな、まぁさっき言ったとおり詮索はしないさ。印刷機はそこの奥にある、印刷が終わった部品は、その(かご)に入れておいてくれ」



 店員さんに言われて印刷機に向かい、中サイズの印刷機に2列に並べた回路をセットして印刷する。



「また来るわね」


「面白いものがいっぱいあるのでまた来ます」


「俺の美味しい飯のためにどんどん買っていってくれ」



 そう言ってお店を後にした。武器屋で中型魔法回路が刻める武器を買って、お店の横にある台で露光開始だ。



「さっきの店員さんはイーシャの里の人だったのか?」


「多分違うわ、里の住人で人族の街に来てお店を開いてる人がいるなんて話は、私は聞いたことが無かったわ」


「向こうは知ってたみたいだし、イーシャって有名人なのか?」


「ふふっ、それはどうかしら。あっちは一方的に私のことを知っていたみたいだけれど、自分が有名人かなんてわからないわね」



 俺の疑問に笑って答えるイーシャ。なんだかはぐらかされている気もするが、まぁ気にせずにおこう。


 その後も露光待ちしながら色々話をした。イーシャと2人きりで出かける機会もあまりないので、こうやってのんびり話をするのも新鮮だ。露光が終わった後は屋台に寄って、お昼を買って食べた後に街の外に移動する。



◇◆◇



「それじゃぁ、始めようか」


「楽しみだわ」


「密度の部分が足りてるといいんだけどな」



 人のいない場所に移動して魔法回路を起動する。2つの回路が明滅しているので、まずは左右のインターフェース部分を繋ぐ。1つの回路として動作しだしたら充填部分の動いてない回路を動作回路で置き換えていって完成だ。うまく動いてくれることを祈りながら、離れた場所にある大きな岩に向かって杖を振る。




  ――――ズガガガガガガーン




 杖から16個の風の刃が発生して岩に次々当たる。場所は結構バラけるみたいで、いくつか岩から外れて地面に当たったものもある。威力はシングル魔法回路よりは強く、並列魔法回路より弱い感じか。密度は4連×4連で16発分になるかなみたいな単純計算だったが、しっかりダメージが出てるところを見るとそう大きく外してはいないだろう。充填部分も大きく取ったのでマナの量も十分みたいだ。



「これはなかなか豪快ね」


「俺は命中精度があまり良くないから、数で勝負してみようと思ったんだ」


「割と広い範囲に攻撃が当たるので、良いと思うわ」


「ただ俺はマナ変換速度が遅いから、少しタイミングが遅れるんだ、これは慣れるしかないな。あと流れるマナの量が多い」


「確かに16個の魔法を一度に使ってるようなものだから仕方ないわね。でもこれはマナ耐性の高いダイには向いているわよ」



 魔法回路屋で見た説明にあった実用的でないという注意書きは、必要なマナを確保するだけの充填量が出せないという点と、たとえそれをクリアしても流れるマナの量が多すぎて使いづらいという両方の理由があったのだろう。それを俺の回路改造スキルと、マナ耐性の高さで強引に解決してしまった。汎用性は無いが、まさに俺専用の魔法と言って良いかもしれない。専用とかちょっと憧れてしまうのは秘密だ。


 ともかく、王都に来てから全員の武器を新調することが出来た。



◇◆◇



 新しい魔法回路の動作テストを終えて宿屋に戻ると、アイナと麻衣も帰ってきていた。



「お帰りなさい、ご主人様、イーシャさん」


「お帰りなさい、ダイ先輩、イーシャさん」



 2人に「ただいま」と返事して部屋に入るといい匂いがする、イーシャも気づいたようで鼻をひくひくさせている。



「いい匂いがするけど、今日は何を作ったんだ?」


「今日はこっちの世界の材料で、カップケーキを焼いてみました」


「試食させてもらったんですけど、とっても美味しかったです」



 そう言って麻衣が袋からカップケーキを取り出す、甘い香りと柑橘系のような爽やかな匂いが部屋に広がる。アイナも美味しかったと言ったが、小麦色に焼けたケーキは見ただけで美味しそうだとわかる。


 俺とイーシャも一つづつもらって食べてみると、優しい甘さと爽やかな香りが口の中に広がる。



「ふわふわで美味しいわね、それにいい香りがするわ」


「蜂蜜で甘さを出して、果物の皮を練り込んでるんです」


「少し歯ざわりの違う部分が果物の皮なのか、甘さもくどくないし良いなこれ」


「いっぱい焼いたので、明日のおやつの分もありますよ」






 明日からまたギルドの依頼を受ける予定だが、忘れずに持っていくことにしよう。明日のおやつの時間が楽しみだ。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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