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第28話 初遠征

「ねぇダイ、この依頼を受けてみない? 報酬もいいし今の私たち向きだと思うわ」



 ギルドで依頼表を見ていた俺にイーシャが一枚の依頼を指さしながら言う。ここから少し遠い岩場にしか自生しない薬草の採取依頼だ。大体2泊3日で行ける距離にあるらしい。



「結構近場だと思うんだが、なんでこんな依頼の報酬が良いんだ?」


「この岩場には集団で遠距離攻撃をしてくる魔物が住み着いていて、他の冒険者たちが行くのを嫌がってるみたいね」


「なるほど、うちには麻衣がいるし確かに俺たち向きの依頼だ」



 そこに居るのは大型の猿の魔物で、巨大な岩を投げてくるらしい。イーシャもソロだと近づきたくない魔物だが、麻衣の障壁なら十分防げるとお墨付きをもらった。



「マイちゃんはどう? この依頼受けてみない」


「はい、今の私なら大丈夫だと思います」



 新しい武器で自信がついてきたのか、麻衣も依頼を受けることに賛成のようだ。それに野営の際の料理も任せてほしいと言ってくれる。料理が得意という話だし、クッキーをあれだけ上手に作れるんだ、期待していいだろう。



「アイナはどうだ? 野営することになるけど大丈夫か」


「野営は王都に来る時もやってるので大丈夫です。それに今回はマイさんがいますから、食事も楽しみですよ」


「よし、じゃぁ依頼を受けて準備をしよう。出発は明日の朝だ」



 ギルドの受け付けで依頼の受注処理をして準備のための買い物に向かった。



◇◆◇



 まずは雑貨屋に向かう。夜は見張りをしながら交代で寝るので、テントはいま持っているのでいいが、麻衣の分の毛布を購入する。それと麻衣が自分のリュックを買って、鍋やフライパンなどの調理道具を購入した。料理に関しての道具や食材は、麻衣が自分で運べる分だけに絞って揃えるそうだ。


 次に食材の確保に行くと、麻衣は調味料やハーブなどをテキパキと揃えて、野菜も少しだけ購入している。



「どんな料理をつくるつもりなんだ?」


「外だとあまり凝った料理は無理なので、簡単な煮込み料理にしようかと思ってます」


「ギルドで教えてもらった話だと、途中の川で水の確保も出来るみたいなのでそれは良いな、楽しみにしてるよ」


「これであの味気ない保存食から開放されるわね」


「もう干し肉だけかじるのは嫌です」



 イーシャとアイナも麻衣の料理を楽しみにしているようで、期待をした目でリュックに詰められていく食材を見ている。持ち運べる食材には限りがあるが、途中の森で現地調達できるものもあるだろうから、麻衣がどう料理してくれるか楽しみだ。


 その後は食堂の夫婦の娘さんがやっているパン屋にも行きパンを購入する。



「あらー、マイちゃんいらっしゃい」


「こんにちは、明日から遠征に出かけるのでパンを買いに来ました」


「そちらはマイちゃんのパーティーの人達?」


「はい、聖女候補を辞退して今はこちらのパーティーに入れてもらっています」


「男の子も居るじゃない、マイちゃんの彼氏? やるわねーマイちゃん」



 お店にいた20歳位のおおらかな感じのお姉さんが、麻衣と親しげに話をしている。あれが食堂の夫婦の娘さんだろう、俺を見た瞬間に彼氏扱いする所など流石に親子だ、よく似ている。



「まだそんなんじゃないです、それよりパン、パンを3日分ください」


「はいはーい、ちょっと待ってね」



 お姉さんはそう言って、保存食用のパンを袋に詰めてくれる。お店の中にはフランスパンみたいな細長いのや、丸いパンなどが並んでいる。日本のパン屋みたいな調理パンや、食パンのように白いパンは無いようだ。



「このお店で麻衣に教えてもらった焼き菓子を売ってるんでねすよね?」


「そうなのよー、お父さんがマイちゃんに教えてもらったお陰で、冒険者の人達に保存食として大人気なの」


「今日はもう売り切れてしまったんですか?」


「ごめんねー、今日の分はもう売れちゃったの。あー、でも待って、形が悪かったり少し焦げてしまって売れないのがあるから、それあなた達にあげるわ」


「ふぁ、い、いいんですか!?」



 パンを詰めた袋を渡してくれていたお姉さんが、店売りできないクッキーを分けてくれるという言葉にアイナが反応する。しっぽが左右にふりふり揺れている、アイナはクッキーが大好きなので嬉しそうだ。



「いいのよー、マイちゃんのパーティーだしね。マイちゃんの事よろしくね」



 そう言って店の奥から小さな袋を持ってきてアイナに手渡してくれた。この人もきっと麻衣のことを心配してくれてたんだろう。


 受け取ったアイナは大事そうにクッキーの入った袋を両手で包んでお姉さんにお礼を言う。俺たちもお礼を言ってお店を後にした。




―――――・―――――・―――――




「みんな準備はいいか」


「はい、バッチリですご主人様」


「問題ないわ、何が来ても平気よ」


「任せてください、美味しいものを作ってみせます」



 アイナは元気に、イーシャは流石に経験者らしく余裕を持って、麻衣はやたらと気合が入っている。確かに今回の遠征は麻衣の手料理も楽しみなんだけど、遠距離攻撃の絶対防衛ラインとしても重要な役目があるので、そっちも頑張ってほしい。でも楽しそうにしてるから良いのかもしれないな。


 宿屋の女将さんに数日部屋を開ける報告をして、俺たちは初の遠征に出発した。



◇◆◇



「ご主人様、前から3匹、右から2匹の魔物が近づいてきます」


「わかった、右は俺が、イーシャは前方を頼む、麻衣は魔物が接近してきたら障壁を展開して守ってくれ、アイナは少し離れて障壁の外で遊撃を頼む」


「わかりました」「わかったわ」「まかせてください」



 事前に打ち合わせしていたとおり、麻衣に遠距離攻撃組の俺たちを守ってもらって魔法で先制攻撃、アイナは障壁の範囲外の位置に陣取って抜けてきた魔物を攻撃してもらう。


 アイナの索敵どおりに、右からは蜘蛛の魔物が、前方にはイノシシの魔物が現れる。アイナは少し離れた場所に移動して短剣を構え、俺とイーシャは杖を持ってそれぞれの敵を狙って攻撃をする。2人の杖が光り風の刃と氷の矢が魔物に向かって発射される。


 こちらに真っ直ぐ向かってくるイノシシの魔物をイーシャの魔法が倒していくが、蜘蛛の魔物は動きが速く、障害物をうまく使って魔法をかわしながら近づいてくるので攻撃が当たりにくい。1匹は倒したが、もう1匹は近くの木の側まで回り込まれてしまった。



「アイナ、木に隠れたやつを頼む」


「わかりました!」



 身体強化スキルを発動したアイナが木に向かって疾走し、隠れていた魔物に肉薄する。蜘蛛の魔物は糸を吐いて攻撃するが、アイナの短剣がインパクトの瞬間に刀身に風をまとわりつかせて糸を切断する。そのまま魔物の本体に剣を振り抜き、魔物は青い光になって消えた。



「マイさん、後ろから来ます!」



 蜘蛛の魔物を倒したアイナの声で麻衣が障壁を展開する。発動された障壁に小さな針のようなものが当たって落ちる、その先を見ると蜂の魔物が近づいてきていた。



「これ、当たると地味に痛くて嫌なのよ」



 そう言いながらイーシャが杖を振ると、氷の矢が蜂の魔物を貫いた。



「さすがに森の奥まで来ると魔物も多くなってくるな」


「でもまだ余裕があると思いますよ」


「そうね、この辺りの魔物だと油断しない限りまだ大丈夫だと思うわよ」


「でも蜂の魔物はびっくりしました、アイナちゃんありがとう」


「障壁はやっぱりすごいですね、どこから飛んできても守れちゃいますから」



 アイナの言葉に麻衣が嬉しそうに微笑む。そして俺たちは魔核を回収するために移動する。



「ご主人様、牙が落ちてますね」



 アイナがイノシシの魔物のレアドロップアイテムを見つけて渡してくれた。イノシシの口から生えていた、少し黄色い色をした長い牙だ。



「これは武器の素材になるし、ギルドで買い取ってもらえるわね」


「やりましたね」


「あぁ幸先がいいな、このまま何事もなく依頼が達成できるように頑張ろう」


「ダイ先輩、それフラグっぽい発言ですからやめましょう」


「ふらぐ、ってなにですか?」


「今みたいにこの先の事に希望を含んだ発言をすると、逆に不幸になっちゃう現象です」


「あら、それは大変ね」


「ご主人様、不幸になるのは嫌です」



◇◆◇



 そんな感じに俺たちは目的地に進んでいく、途中で何度も魔物の襲撃があったが、油断しなければ大丈夫という言葉通り、問題なく今日の野営地点に到着した。ギルドで貰った地図にあった川で水を確保して、岩場の近くで野営の準備をする。場所は経験者のイーシャが、周りが大きな岩で囲まれた場所を見つけてくれた。猿の魔物は森の近くには来ないので、この辺りは安全らしい。


 森で狩った鳥を血抜きして晩御飯のおかずにする。麻衣は嫌がると思ったが、これから慣れていかないといけないし、今からいただく命だからちゃんと向き合わないといけないと言って、解体にも参加した。俺も初めのうちは素材の皮を剥いだりするのは慣れなかったが、麻衣も目をそらさずに向かい合う姿勢は真面目で好感が持てる。


 麻衣は今、鳥肉をハーブと一緒に軽く炒めている。鍋には野菜を入れたスープが火にかけられていて、そこに炒めた鳥肉が入れられる。そのまましばらく煮込むらしい。



「いい匂いがします」


「これは期待できるわね」


「匂いだけでも美味しそうだな」



 鍋からいい匂いがあたりに漂い、食欲を刺激する。煮出したお茶と干し肉にパンだけの野営をしていた、王都へ向かう旅の時とは大違いだ。あの時、料理のできるパーティーメンバーが欲しいと言っていたが、まさか同じ日本人の召喚者が仲間になるとは思ってもみなかった。



「できましたよー」



 鍋のフタを開けると、少しとろみの付いた茶色いスープの中に鳥肉と野菜が煮込まれている。麻衣がみんなの分を取り分けて、パンを配って食事にする。



「スープにパンを浸して食べると美味しいですよ」


「ふぁ、パンにスープが染み込んですごく美味しいです」


「野営でこんなごちそうが食べられるなんて、マイちゃんが来てくれた良かったわ」


「鳥肉も柔らかくなっていて臭みもないし、野菜もほくほくで美味しいな」



 3人は夢中でご飯を食べていく。鳥肉と野菜の出汁がよく出ているコンソメスープのような味の汁が染み込んで柔らかくなったパンも最高だ。異世界の食材でよくもここまでの味が出せると感心する。みんなが絶賛しながら食べている姿を、麻衣は嬉しそうにしながら自分もスープを口にしている。






 そうして美味しい夕食を食べながら、野営の1日目が始まった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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【完結作】
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