第1話 異世界
色々と拙い部分もありますが、お楽しみいただけると幸いです。
主人公のチート能力が開花するのは第2章の後半からになります。
ストックの有るうちは間を開けずに投稿しますので、是非お付き合いください。
「………あれ……ここは、どこだ?」
気がつくと地面の上に仰向けに寝ていた。
快晴の青い空が広がっていて、頬を優しく風が撫でる。
(俺、なんでこんなところで寝てるんだっけ?)
まだ完全に覚醒していないのか、記憶がはっきりとしない。
(確か街に出かけて買い物を済ませて、家に帰る途中だったはず―――)
―――――・―――――・―――――
彼の名前は“朝宮 大”。
市内の公立高校に通う2年生。
趣味はパソコンや電子回路をいじること。
最近は“Blueberry Tarte”に繋げる周辺機器の自作にハマっている。
その日は電車で電子部品を取り扱っているお店に行った帰り道だった―――
◇◆◇
「いつもは通販で済ませるけど、たまにリアル店舗に行くと思いがけない部品が見つかって面白いよな」
浮かれすぎてつい独り言が出てしまった。
店で見かけたコンデンサの型番をスマホで調べてみると、高評価なレビューが数多く寄せられていたので、Blueberry Tarteに繋げる自作アンプの音質がどう変わるか楽しみだ。
うきうきとした足取りで暗くなり始めた住宅街を歩いていると、突然曲がり角の先から光が溢れた。
「な、なんだ!?」
車のライトや懐中電灯とは違う、道そのものが光ってるような全体を照らす明かりだ。いきなりのことに驚いて、その場で立ち止まって曲がり角の先を見ていたが、そこから女性の声が聞こえてきた。
「え? な、なにこれ!? 誰か助けてー!!」
慌てて声の元に走っていくと、中学生ぐらいの女の子が光の渦の中に沈んでいく姿が目に入った。まるで水に溺れてるみたいに必死に手を伸ばしてもがいている。
「うぉっ! なんかやばい」
反射的に駆け寄って腕を引っ張ろうとするが、必死に振りまわしてるので掴みにくい。
「おい、大丈夫か! いま引き上げてやるから腕に掴まれ!」
声に気づいた女の子が、俺の顔を見て腕にすがるように掴まってくる。
力いっぱい引き上げようとするが女の子はどんどん渦の中に沈んでいく、涙を浮かべた目で「助けて、お願い助けて」と叫ぶが沈む速度は変わらない。
「くっ、くそっ!」
腕に更に力を込めたその時、光の渦が弾けて辺りが真っ白になると、先程までの光は消えて何もなかったように静かになり、2人の姿も消えていた―――
―――――・―――――・―――――
(そうだ、光に飲み込まれていく女の子を助けようとしてたんだ)
「あっ! 女の子はどうなった!?」
上半身を起こして辺りを見てみたが人影のようなものは見当たらない。
視線の先には岩で出来た崖がそびえていて、後ろを見ると遠目に鬱蒼とした森が広がるだけだった。
服に付いた土埃を払いながら立ち上がり、体の様子を見てみたが怪我や骨折はないようでホッとしたが、持っていたカバンは落としてしまっていた。
今日買った部品やスマホに財布まで入っていたカバンを落としたのは痛い。それにこの景色、そして日に日に気温と湿度が上昇して、今年も猛暑になるという予報にうんざりしていた季節とは違う、乾燥した風と気温も高くなく過ごしやすい陽気、恐らくここは日本じゃない。
英語とか学校の授業で習った程度しか喋れないが、こんな何もない所で突っ立っていても仕方ない。言葉が通じなかったら身振り手振りで何とかしてみようと、前方に見えた崖に沿って道っぽい所を歩いていくことにした。
◇◆◇
1時間ほど歩いただろうか、少し休憩でもしようと道端の大きめの岩に座ろうとした時、少し先のカーブの向こうから何かの壊れるような大きな音と、動物とも人とも違う叫び声のような音が聞こえた。
「またなんかのトラブルかよ……
俺、巻き込まれ体質じゃなかった気がするんだけどなぁ」
嫌な予感にひとりごちながら、かといって近くで起こっているトラブルに知らんぷりも出来ず、音の聞こえたカーブの先に小走りで近づいて行き目に入ったのは、想像を遥かに超えた光景だった。