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第26話 スキルの成長

「アイナちゃん可愛いですよね、しっぽもふさふさで触り心地が最高でした」



 いつものように俺の体に顔を寄せて寝息を立てているアイナを見て麻衣が言う。今日は日課のブラッシングを俺と麻衣にやってもらって、アイナも特別ご機嫌になっていた。出会ってすぐのアイナは痩せていて髪の毛もパサついていたが、今では髪もサラサラでしっぽの毛艶も良くなって、体つきも丸みを帯びてきて色々な所が柔らかくなっている。イーシャは以前「負けたわ」と悲しそうに自分の胸元を見ていたが、何に負けたのか怖くて聞けなかった。


 今は俺と麻衣の間でアイナが寝ていて、もう一方の隣にはイーシャが寝ている。俺が別の場所で寝る意見は、発言の前にイーシャに封殺されている。以前も同じことを言った前例があるので事前に退路を塞いできた、なかなかの策士だ。



「マイちゃんもすっかりアイナちゃんのしっぽの虜ね」


「はい、あのもふもふ感はやみつきになります」


「アイナはブラッシングが大好きで、ブラシを貴重品扱いで持ち歩いてるくらいなんだ、またしてやってくれ」


「頼まれればいつでもしちゃいますよ」



 そう言って俺たちは微笑み合う。今日は美味しい料理もお腹いっぱい食べて、麻衣の焼いてくれたクッキーも堪能して、楽しい一日だった。食堂の夫婦が、最近落ち込んでいた麻衣に笑顔が戻ったと言っていたが、俺たちのパーティーでこの笑顔を守ってやりたい。



「ねぇ、ダイ先輩」


「ん、なんだ?」


「先輩のスキルで、私も今まで以上に魔法が使えるようになるんでしょうか?」


「そうだな、まずは麻衣の使っても大丈夫な魔法回路のレシピを見て、それをアレンジしながら使いやすい形にしていこうと思う」


「大丈夫よマイちゃん、マナ耐性が低くて魔法が苦手な種族のアイナちゃんでも使いこなせる魔法回路を組めるのよ、ダイに任せておけば心配ないわ」


「まずは明日、麻衣が今まで使っていた魔法の武器を改造してみようと思う、それから魔法回路屋に行って合いそうなレシピを探してみよう」


「はい、よろしくお願いします」



 明日やるべきことを確認しながら俺たちは眠りについた。




―――――・―――――・―――――




「麻衣、魔法回路の起動だけしてもらえるか」


「わかりました」



 街の外に出て人のいない場所に俺たちは来ている。麻衣の使っている中型魔法回路の杖は、無属性のドーム型障壁を作る魔法で、術者を中心に半径5メートルくらいの魔法や物理攻撃を防ぐ壁ができる。無属性は他の属性との相性が無く使い勝手がいいが、マナそのものを壁にして力技で防ぐ魔法なので、壁を維持するだけでマナがどんどん流れてしまう。確かにこれはマナ耐性が低いと長時間使えないはずだ。


 聖女候補として活動していた時に回路の起動方法を教わっていたので、麻衣の持っている杖に魔法回路が浮かび上がる。



「私には杖がぼんやり光っているようにしか見えないけど、ダイ先輩にはこれが回路に見えてるんですよね」


「あぁ、どうも俺のスキルらしいんだけど、ちゃんと見えてるよ」



 中型魔法回路をこうして起動状態で見るのは初めてだが、基本は小型と同じ様で充填部分も同じ文字のフォントを変えて表示したような違いの回路が配置されている。じっくり魔法回路をチェックしてみるが、マナを補充しながら発動するタイプの魔法のためか充填部分の規模が大きい、恐らくバッファとして利用してるんだろう。動いてない回路を切断してバイパスを作る作業を進めていく。



「ダイ先輩、今は何をやってるんですか?」


「魔法回路には個人個人のマナ特性の差を吸収するために、様々なタイプに合わせた回路を組み合わせてるんだ、その為にその人にとっては不必要な部分ができてしまって、それが効率の低下や流れを阻害する抵抗になってしまうから、それを取り除いてるんだよ」


「なんかすごいですね、私には見えてないのでどんな状態になってるかさっぱりわかりません」


「動いてない部分は光らないから、そこにマナが流れないように切断して迂回すればいいだけなんだけど、このままだと無駄なスペースを放置してるだけなんだよな、例えばここの動いている回路をこの部分に複製してやればもっと効率が……」



 そう言いながら動いている回路を指でスライドして動いてない部分に滑らせると、回路がコピーされて置き換わった。今まで無駄だ無駄だと思いながら放置していたのだが、別の回路をコピーして置き換えるなんてことは出来なかった。


 ――もしかしてスキルが成長したのか?


 充填部分は使わない回路へのマナの流入をカットして繋がる回路数を減らしても、流れるマナの量が減らした回路数に応じて少なくなっている感じじゃなかった。恐らくパターンカットした部分にもリーク電流のようにマナが流れていたんだろう。ここを別の回路で置き換えることができれば、充填の部分を更に小さくして消費量の削減と効率の増加が図れることになる。規模をそのままにして動く回路だけに置き換えてやると、威力の増加や範囲の拡大が狙えるだろう。



「―――――ダイ先輩、ダイ先輩! ボーッとして大丈夫ですか?」


「あ、あぁ、すまない、ちょっと考え込んでしまった」


「一体どうしたんです、もしかして魔法回路の改造って体に負担がかかるんじゃ」


「いや、違うんだ、ほんとに大丈夫だから心配いらないよ」



 考えにふけっていたら麻衣が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。気がつくと麻衣の顔がすぐ近くにあったのでドキリとしてしまう。


 しかし、これならアイナとイーシャの武器もバージョンアップできる。これから難易度の高い依頼にも挑戦してみようと考えていたので、武器を強くして安全マージンを稼いでおけるのはありがたい。



「みんな聞いてくれ、たぶん俺のスキルが成長した」


「今度は何が出来るようになったのかしら」


「凄いですよ、さすがご主人様です」



 少し離れた場所で話をしていたアイナとイーシャも近くに呼んで説明する。魔法回路の複製と置き換えが出来るようになったこと。動いてない部分を切断しても、その部分にも幾らかのマナが漏れていて、そのせいでマナの流れに無駄が生じていたこと。そこを動く回路で置き換えることで、面積あたりの効率が大幅にアップできること。そして今後の依頼のために全員の武器を新調したいことを話した。



「ご主人様、私は切れ味は今のままでもいいので、もっとたくさん使えるようになる方がいいです」


「私も威力よりも回数かしらね」


「私も回数でお願いします」


「アイナの剣は今より多く使えるように回路を組んでみよう、イーシャと麻衣は少し考えがあるから後で魔法回路屋に行って決めよう、まずは今やってる麻衣の杖を改造して性能を確かめてみるよ」



 改造の途中だった麻衣の杖を起動してもらって、とりあえず回路のカットとバイパス処理だけ行う。この状態で障壁の強度を確認して、次の方針を決める予定だ。



◇◆◇



「それじゃぁ、イーシャ頼む」


「わかったわ」



 少し離れた場所に立ったイーシャが、麻衣が展開した障壁に向かって実体の弓を使って矢を放つ。もちろん術者に当たらないようにだが、イーシャなら狙いが正確なので問題ない。


 放たれた矢は障壁に当たって落下する。次は普通の小型魔法回路の水の矢を放つ、これも障壁に阻まれて霧散した。



「次はアイナ頼む」


「ご主人様、この壁切れません、えい、やー」



 障壁に向かって風の短剣を振るが、やはり阻まれて滑ってしまう。普通の小型魔法回路と威力を抑え気味にしているアイナの風の短剣は防げるようだ、他の障壁魔法は知らないがかなり実用的な強度があるのだろう。だが、このままだと俺が手を貸す意味がない。



「最後にイーシャ、並列回路の方を頼む」



 イーシャが並列魔法回路が刻まれた杖を振ると水の矢が障壁に阻まれるが、そのまま霧散せずに拮抗する。




  ――――パリーーーン




 障壁が耐えきれずに崩壊した。今のままだと並列魔法回路の威力を防ぐほどの強度はないが、新しい武器はこれも防げるような強度を目指したい。


 万一のために麻衣の前に立っていた俺は後ろを振り返る。



「麻衣、マナ酔いは平気か?」


「はい、これくらいなら大丈夫です。杖の回路を改造してもらったからでしょうか、前より負荷は減ってると思います、これだけでも凄いですよ」


「そうか、でももっと負荷も減るし強度も上がるはずだ」


「ちょっと想像できませんね、みんながダイ先輩のスキルの事は秘密にしておこうと言うのがわかります」


「2人ともありがとう、いちど街に戻ってご飯にして、魔法回路屋に行こうか」






 アイナとイーシャにも集まってもらって、3人の武器を新調するため、いったん街に戻ることにする。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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