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第25話 石窯料理

「麻衣はよく外に食べに行ってたのか? お城だと食事も豪華だろ」


「お城の料理はたしかに豪華で美味しんですけど、私には格式が高すぎて落ち着いて食べられないんです。それで、お城でお世話してくれてた人に聞いてみたら、おすすめのお店を教えてもらえて。そこは石窯で焼いたお肉とかお魚がとても美味しかったんです、それで通うようになってしまいました。石延さんもよく食べに行ってましたよ」


「それで常連になってクッキーを作らせてもらったりしたんだ」


「料理の事を色々聞いたり話したりしていたら、そのお店のご夫婦に気に入られてしまって」



 これは何度も食べに行ってるみたいだな、料理好きの麻衣が通うくらいのお店だから、どんな物が出てくるか楽しみだ。


 いまは麻衣が道案内のためにイーシャと並んで前を歩き、後ろを俺とアイナが手を繋いで歩いている。隣を歩くアイナもどんな料理があるのか楽しみにしてるみたいで、ワクワクしてる感じが繋いだ手から伝わってくる。



「ダイ先輩とアイナさんてとても仲がいいですよね、そうして歩いてると兄妹みたいに見えます」


「アイナはこの世界に来た日に出会って、それからずっと一緒だからな」


「私はご主人様と出会わなければ死んじゃってたかもしれないですし、出会ってからもずっと優しくしてくれるので大好きですよ」


「アイナさんのことも後で色々教えてね。それでずっと気になってるんですけど、その“ご主人様”っていうのは何でしょうか?」


「あぁ、大きな街だと身元保証のない獣人は中には入れないんだ、だから誰かが主人登録して獣人のことに責任を持たないといけない、アイナの主人として俺を登録してるからご主人様と言ってくれるようになった」


「これが私とご主人様の絆の証です」



 そう言ってアイナは麻衣に手首にはめている黒のブレスレットを見せた。それを見た麻衣は前の方を向いて「いつか私も」と言ってるように聞こえた気がする、隣のイーシャも「ライバル出現ね」などと言ってるようだ。


 人間に主人登録は必要ないぞ?



◇◆◇



 中央広場から少し奥に入った場所にそのお店はあった。大きなお店ではないが繁盛してるみたいで、お昼の時間を過ぎているのに席はだいぶ埋まっている。


 麻衣の先導で店の中に入る。



「おばさんこんにちは」


「いらっしゃい、マイちゃん」


「今日は新しいレシピ持ってきたんですけど、後で大丈夫ですか? それと今日から新しいパーティーに入ることになって、この人達の仲間になりました」



 そう言ってお店のおばちゃんに俺たちのことを紹介してくれる。いかにも“食堂のおばちゃん”といった見た目で親しみやすい面倒見のいい感じの人だ。



「マイちゃんにもいい人が見つかったのね。あら、男の子もいるじゃない、マイちゃんも隅に置けないわね」


「いえ、まだそんな関係じゃ……」


「ちょっとアンタ、マイちゃんが彼氏を連れて来てくれたよ!」



 一人盛り上がったおばちゃんが店の奥に声を掛けると、厨房らしき場所から大柄な男性が出てきた。その人は料理人というより、現役の冒険者のように鍛えられた体をしている。



「おう、マイちゃんいらっしゃい。そっちの子がマイちゃんの彼氏か、マイちゃんはいい子だろ大事にしてやるんだぞ!」



 そう言って俺の肩をバシバシ叩く、力が強いので無茶苦茶痛い。


 この二人が麻衣が言っていた夫婦だそうだ、夫婦揃って俺のことを彼氏だと勘違いして盛り上がっている。他のお客さんの注目も浴びて、麻衣は顔を赤くしてワタワタしてる。慌ててる麻衣はちょっと可愛い。



「今日は新しいレシピを持ってきたんですが、後で厨房を使わせてもらっていいですか?」


「おう、もうじきお昼の営業が終わるから、その後好きに使ってくれていいぞ。あんた達もゆっくりしていってくれ、腕によりをかけて料理をつくるからよ」



 夫婦の勘違い攻撃から復帰した麻衣がおじさんに厨房を借りるお願いして、俺たちは席に案内された。



「すごい人達だったな」


「はい、とてもいい人達で私のことも心配してくれてたので、仲間ができたと聞いて盛り上がっちゃったんだと思います」


「マイちゃんなら聖女を辞めてもここで働けたんじゃないかしら」


「おじさんたちも行くところがないならここで雇ってやるって言ってくれてたんですが、でもやっぱり日本の人が近くにいるほうが安心できるので」



 麻衣は俺の方を見ながらそう言った。知らない世界で自分と同じ立場の人が近くに居ない事に不安になるのは仕方がない、マナ耐性が低くて攻撃魔法の苦手な麻衣が、冒険者の俺たちに付いて来ようとしたのはそれが理由なんだろう。


 そうしていると料理が運ばれてきた、これが石窯で作った料理なんだろうか、焼き魚とこんがり焼けたお肉がお皿に盛られている。



「うちの自慢の石窯焼きだよ、たくさん食べとくれ」



 おばちゃんがそう言いながらお皿を並べてくれる、どれもいい匂いがして美味しそうだ。4人で乾杯をして料理に手を付ける。



「ご主人様、このお魚、身がふわふわですよ」


「このお肉も肉汁がたっぷり染み出してきて美味しいわ」


「これはうまいな、肉も魚も身が固くならずに火が通してある」


「ここの料理は焼き加減が絶妙なんです、私も厨房を借りて作ってみたことがあるんですが、この焼き方は真似できません」


「こんな美味しい料理が出るなら、ここに通いたくなるのもわかる」



 俺たちが料理に舌鼓をうっていると、厨房からおじさんが別の皿を持ってテーブルまでやってきた。



「こいつは俺からのサービスだ。これはマイちゃんが教えてくれた料理で、今では石窯焼きと同じくウチの看板料理なんだ」



 テーブルに置いてくれた皿には、唐揚げと魚のフライが盛り付けてあった。



「これは唐揚げとフライじゃないか」


「こいつもうまいぜ、ゆっくり食っていってくれよ」



 そう言っておじさんが厨房に消えていく。アイナとイーシャの2人は見たことない料理に釘付けだ。確かにこの世界に来てから、揚げ物料理は見なことがなかった気がする。クッキーといい揚げ物といい、麻衣はこの世界の料理に革命を起こしてるのではないだろうか。なかなか恐ろしい娘だ。



「これは何の料理なのかしら」


「なんか茶色い塊と、ザラザラした平べったいものが載ってますよ」


「これはお肉に衣をつけて油で揚げた唐揚げと、魚にパン粉をまぶして油で揚げたフライと言うの、美味しいですよ」



 2つの料理に手を伸ばして恐る恐る口に運ぶアイナとイーシャ、しかし口に入れた瞬間2人の表情が変わる。



「これ外がサクサクして中はふんわりしてます、なんですかこれ」


「このカラアゲというのも美味しいわ、噛むと肉汁が口いっぱいに広がってお酒が欲しくなるわね」



 2人にも好評なようでお皿の上の料理が次々消えていく、俺も無くなる前に食べてしまおう。



◇◆◇



 お腹いっぱい料理を堪能して、今はテーブルを囲んで話しをしている。お昼の営業が終わってお客さんは誰も居ないが、この後に麻衣が厨房を借りる約束をしているので、午後の仕込みが終わるまでお店の中を利用させてもらっている。



「じゃぁ、アイナちゃんはダイ先輩に助けてもらってなかったら、魔物に食べられちゃってたかもしれないんだ」


「そうなんです、リザードマンでも倒せなかった魔物をご主人様が倒してくれたんですよ」



 麻衣はいつの間にかアイナのことを、ちゃん付けで呼ぶようになっていた、だいぶ打ち解けて仲が良くなってきたみたいだ。3人の話題は主に俺のことが中心で、俺と出会ってからの話を麻衣は興味深そうに聞いていた。


 話に花を咲かせていると、テーブルにおばちゃんが来て仕込みが終わったと告げてくれた、麻衣は厨房に行っておじさんに新しい料理を教えてあげるそうだ。おばちゃんは人数分の飲み物をテーブルに置いて、自分も空いてる席に座った。



「アンタたち、マイちゃんが聖女候補のことで悩んでたのは知っているかい?」


「えぇマナ耐性が低くて聖女候補から外されそうになっていたと聞いてます」


「あの娘は優しい子だからね、攻撃魔法は使いたくないってずっと悩んでたのさ。でも今日あの娘を見ると、とてもいい笑顔をしててね、これもアンタたちのお陰だね。お願いだからこの国みたいに、役に立たないから捨てるなんてことしないであげておくれ」


「それは大丈夫よ、彼女は私たちのパーティーに絶対必要なメンバーだもの、あの娘が嫌になってパーティーを抜けない限り手放すつもりはないわ」


「そうです、マイさんは私のことも大事に思ってくれてるので離れるなんて嫌です」


「そうかい、あの娘は本当にいい人たちに出会えたみたいだね、私からもお礼を言うよ、ありがとうね」



 そう言っておばちゃんは頭を下げてくれた。ここの夫婦は本当に麻衣のことを心配して、大切に思ってくれていたみたいだ。もし彼女が俺たちに出会わなかったら、この夫婦が絶対に何とかしてくれていただろう。



「お前たち何の話をしてるんだ?」



 おばちゃんと話をしていると、厨房からおじさんが戻ってきた。新しい料理の作り方はもういいんだろうか。



「マイちゃんのことを話したのさ、もう料理の方はいいのかい?」


「あぁ、マイちゃんが作り方を紙に書いて渡してくれてな、コツも教わったから俺でも作れるぜ」


「それでマイちゃんはどうしたんだい」


「石窯で焼き菓子を作りたいからって準備してるぜ、パーティーメンバーに食べさせてやりたんだと」


「そうかい、じゃぁ私が行って手伝ってくるよ、アンタはこの子達の話し相手になってあげな」



 おばちゃんが厨房の方に向かっていき、代わりにおじさんが席についた。しかし、このごついおじさんが、あの繊細な焼き加減の料理を作っているなんて未だに信じられない、人は見かけによらないとはまさにこの事だ。



「クッキー、いや焼き菓子ってここでも売ってるんですか?」


「あれは俺の娘がやってるパン屋で売ってるぜ、パンを焼く窯でも作れるからな」


「冒険者に人気の保存食だって言われて貰ったんですが、かなり手に入りにくいみたいですね」


「おう、マイちゃんに頼んで作り方を教えてもらったんだが、ウチの店で売るような商品じゃなくてな。娘に作り方を教えて売ってみたら飛ぶように売れちまって、今では娘の店の人気商品だ。この店の料理といい、マイちゃんにはほんとに感謝してるんだぜ」


「すごいですね、彼女」


「ここんとこずっと落ち込んでたんだが、今日はすごく明るくなっててな、お前たちのお陰なんだろ、ありがとよ」



 おじさんもそう言って頭を下げてくれた、麻衣は本当にいい人たちに出会えたな。



「ところで、お前たちも冒険者なんだろ、実は俺も昔は冒険者やってたんだ。マナ耐性が高かったから魔法剣士をやってて、炎剣(えんけん)のラルフっていやぁ少しは有名だったんだぜ」


「鍛えてるみたいで力も強かったので、やっぱり冒険者やってたんですか」


「今は食堂の料理人だけどな。それで、お前さんの腰に挿してるのは中型魔法回路の杖だろ、マナ耐性も高いんじゃないか?」


「えぇ、俺は魔法主体で戦ってますね」


「じゃぁ面白い店を教えてやろう、役に立たないガラクタも多いんだが、時々凄い掘り出し物があってな、俺の使ってた剣に刻んだ魔法回路もその店で手に入れたんだ」



 そう言っておじさんは通りから外れた場所にあるお店のことを教えてくれた。なんでもエルフが経営しているお店で、昔から殆ど変わらない姿をした店主が店番をしてるそうだ。そこで扱ってる魔法回路の部品は、他の店でも見ないものが多く、中には使い道のないものまで売っている。ただ、組み合わせ次第で普通とは違う効果を発揮する魔法回路も組めるようで、有志によって新たな回路レシピが開発されているらしい。


 これはありがたい情報を聞いた。以前いた街では一般的なパーツしか置いてなかったので、出来ることは限られてしまったが、そんなマニアックな店ならば新たな魔法回路の可能性にたどり着けるかもしれない。



「クッキー出来ましたよ」


「ふわぁ、美味しそうな匂いがします」


「出来たてはやっぱり香りが違うわね」



 麻衣が運んできたクッキーに女性陣が反応する。確かに焼きたての甘くて香ばしい匂いが辺り一面に広がって、その出来栄えに期待が膨らむ。おばちゃんが紅茶を淹れてきてくれたので、みんなでお茶会に突入した。



「美味しいです、さくさくしてます」


「口の中でとろけるような感じ、これは凄いわ」


「やっぱり焼き菓子は、俺も娘もマイちゃんには敵わねぇな」


「なんど食べても美味しいねこれは」


「こっちに来てこんな美味しいお菓子を食べられるとは思ってなかったよ、凄いな麻衣は」



 全員が絶賛する中、麻衣も嬉しそうにクッキーを口に運んでいた。






 こうして麻衣の歓迎会と、その後のお茶会も終了した。

 余ったクッキーはお持ち帰りさせてもらった、アイナが大事そうに布の袋を抱えて歩く姿が微笑ましかった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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