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第23話 麻衣

「ごめん、待たせてしまったかな」


「いえ、いま来たところですから大丈夫ですよ」



 デートの待ち合わせの定番セリフを言う俺たち。相手はもちろん勇者候補の男性、イシノベ・テルキさんだ。今日は彼の彼女だろうか、一人の女性を連れてきている。中学生くらいで、ダークブラウンの髪色をした、ゆるふわセミロングの可愛い女の子だ。どこかで見たことがあるような気がするんだが思い出せない。


 俺が女の子のことをじっと見ていると、彼女も俺の方を食い入るように見ていた。初対面のはずなんだけど彼女になにかしてしまったのだろうか、穴が空くように見つめられている。



「あー、彼女のことは後で紹介するよ、まずはお店に入ろう」



 俺たちが見つめ合っていると、テルキさんがお店に案内してくれた。個室のある喫茶店で、なかなか雰囲気がいいお店だ。壁も厚く造られているようで、中で話をしても声が外に漏れないようになっている。勇者や異世界転移について話すことになるので、それを考えてテルキさんがここを選んでくれた。


 個室に案内されてテルキさんと女の子が並んで座り、反対側の席に俺を中心に右にアイナ、左にイーシャが座る。俺とイーシャとテルキさんが紅茶を、アイナがミルク、女の子は果実水を注文した。飲み物が運ばれてきた所で自己紹介をする。



「昨日も言ったけど改めて、僕の名前は石延輝樹(いしのべてるき)、大学1年生で19歳だ。日本からこの王都に召喚されて勇者候補をやっている」


「わ、私の名前は稲葉麻衣(いなばまい)といいます、中学3年生で15歳です。一応、聖女候補ということになってます」


「俺の名前は朝宮大(あさみやだい)、高校2年生で16歳になります。隣の2人は俺のパーティーメンバーです」


「私はアイナです。犬人族で12歳です」


「私はイーシャよ。エルフ族で年齢は秘密ね」



 出会ってからなんとなく年齢のことは聞いてなかったが秘密らしい。喋り方は落ち着いてるけど見た目が俺と同じ高校生くらいなので、その辺りのことは気にせずに付き合ってきたから、いまさら年齢のことはどうでもいいと思っている。



「それで石延さんはどうして王都に召喚されたんですか?」


「僕のことは輝樹でいいよ、君のことも大君と呼ばせてもらうね。

 それで、ここに呼ばれた理由だけど、一部の魔族がこの大陸への侵略を企んでいるって噂は知ってるかな? その魔族に対抗するために僕たち勇者候補と聖女候補が呼ばれたらしいんだ」


「じゃぁ輝樹さん、候補ってことは他にも何人か居るんですか?」


「日本から呼ばれたのは僕と隣の稲葉さんだけだったね。地球の他の国から呼ばれた人も居たし、全く別の世界から呼ばれた人も居たよ」



 輝樹さんの話によると地球を含めた異世界から勇者候補と聖女候補が数日かけて集められた。輝樹さんと稲葉さんは同じ日本から同じタイミングで召喚されたので、それ以降も一緒に行動することが多いらしい。


 召喚された人達はそれぞれ特別なスキルを得ており、王城にいる希少な鑑定技能を持った人に視てもらうと、輝樹さんは勇者向けの剣技系と身体強化のスキル、稲葉さんは聖女向けの回復力強化と状態異常耐性上昇のパーティースキルを持っていた。


 今は魔族との戦闘に備えて訓練を重ねていっているそうだ。



「それで大君はどうしてこの世界に呼ばれたのかな、王城でも見たことなかったし同じ日本人が他にも居てびっくりしたんだ」


「実は俺は異世界転移に巻き込まれてしまって。

 休みの日に家に帰ろうと歩いていたら、道が光って女の子がその中に沈んでいってたんだ、慌てて腕を掴んだんだけどそのまま――」




  ――――ガターン




 俺の話の途中で前の席に座っていた稲葉さんが急に立ち上がる、その勢いで椅子が後ろに倒れて大きな音がする。



「やっぱりあの時、私を助けようとしてくれた男の人」



 稲葉さんが口元を手で覆って目に涙を浮かべながらこちらを見た。そこで俺も思い出す、あの時腕に掴まって泣きながら助けを求めていた女の子が彼女だ。なんとなく見覚えがある理由がわかったし、ずっと見つめられていたのもそれを確かめるためだったのか。



「俺も思い出した、あの女の子が稲葉さんだったんだ。

 あの時は助けられなくてごめん」


「いえ、私の方こそ巻き込んじゃってごめんなさい」


「この世界に来た時はどうしようかと思ったけど、今はアイナも居るしイーシャも居てくれる。それにこの世界の魔法は面白いんだ、結構充実した生活を送れてるから気にすることはないよ」



 アイナの頭を撫でて、イーシャとうなずきあう。2人だけじゃなく、俺たちが出会うきっかけをくれたリザードマンたちも居る。良い出会いに恵まれて、俺はこの世界に来たことの後悔はしていない。



「稲葉さんから、こちらに召喚される時に助けようとしてくれた人がいるって話は聞いていたけど、それが大君だったのか。良かったじゃないか稲葉さん、ずっと会いたがっていたのが彼だろ?」


「いっ、石延さん、それは言わないでって」



 稲葉さんが顔を赤くして慌てて輝樹さんの言葉を遮った。輝樹さんは微笑みながら「王城でもずっと彼のことを探していたじゃないか」とか言っているが、稲葉さんに口を押さえられてそれ以上は聞き取れなかった。



「それにしても君は凄いな、この世界に来てたった2ヶ月ほどでそれだけの出会いができるなんて」


「輝樹さん、ちょっと待ってください、いま2ヶ月と言いましたけど、この世界の暦で2ヶ月ですか?」


「あぁそうだよ、僕たちが召喚されたのは闇の月の初めだった」



 今は水の月だから輝樹さんたちが召喚されたのは確かに2ヶ月前だ。しかし俺がこの世界に来たのは土の月の初め、普通とは違う状態で飛ばされた影響なのか1ヶ月の時間差が出来てしまっている。



「俺が転移してきたのは土の月の最初の方だったんです、輝樹さんたちとは1ヶ月ずれてますね」


「そうなのかい? 事故で召喚されたようなものだから時間がずれてしまったのかもしれないね」



 意外な事実が判明してしまった。それに俺は魔法回路を直接改造できるスキルは持っているが、輝樹さんや稲葉さんみたいに剣技や全体スキルは持っていないはずだ、やはり普通とは違う方法でこの世界に来てしまったので、本来とは異なるスキルを身に付けたり、時間がずれてしまったりしたのだろう。そして俺は一番気になっていることを尋ねる。



「輝樹さん、ひとつ聞きたいんですが、元の世界に戻る方法ってあるんですか?」



 隣りに座っているアイナとイーシャがピクリと反応する気配を感じる。今まで一緒に行動してきた俺が急に帰ってしまうと思って反応したのかもしれない。輝樹さんは少し間をおいてゆっくりと話し始めた。



「実は元の世界に帰る方法はわからないんだ……」



 輝樹さんは申し訳なさそうに目を伏せ、稲葉さんも下を向いてしまった。少し残念だが、帰れないことがわかれば無駄な希望も持たず済む。はっきりと知ることが出来て逆に良かっただろう。



「それについては残念ですが、ちゃんと知ることが出来てよかったです、ありがとうございました」



 そうお礼を言って俺たちは日本のことや、こちらの来てからのことの情報交換を始めた。アイナとイーシャにはよくわからない話で退屈しないかと思っていたが、こことは全く違う世界のことに興味があるのか、時々質問してきたり感心したり楽しそうにしている。



「じゃぁ、稲葉さんは俺と同じ高校に進学する予定だったんだ」


「はい、もし合格していたら朝宮さんは先輩になってましたね」


「ご主人様、コウコウってなんですか?」


「アイナは学校はわかるか?」


「はい、色んな人が集まってお勉強するところですよね」


「そうだ、俺の住んでた世界には小学校・中学校・高校・大学とあって年齢ごとに通う学校が違っていたんだよ」


「へー、面白いですね」


「この世界だと同じ学年でも年齢がバラバラだったりするから興味深いわね」



 アイナもイーシャもこの世界とは違う学校の仕組みに感心しているようだ。しかし稲葉さんと同じ学校に通うことになっていたとして、今のように知り合うことは出来ただろうか、そんな事を思わず考えてしまう。



「稲葉さんが同じ学校に進学してきて、今みたいに知り合うことが出来たかな……」


「それはわかりませんが、たぶん知り合えたんじゃないでしょうか、なんとなくですが」



 稲葉さんは微笑みながらそんな事を言ってくれる。



「それで、あの、朝宮さん、良かったら私のことも名前で呼んでくれないでしょうか。それとアイナさんやイーシャさんみたいに呼び捨てにしてくれると嬉しいです」


「いいのか? じゃぁ麻衣って呼ばせてもらうよ、俺のことも大でいいよ」


「はい、じゃぁダイ先輩って呼ばせてもらいます」



 少し頬を染めて麻衣は笑顔を浮かべてくれた。



◇◆◇



 飲み物のおかわりや軽食を頼んだりしてしばらく話をしていたが、輝樹さんが居住まいを正して俺に話しかけてきた。



「大君、君に相談があるんだ。実は稲葉さんのことなんだけど、彼女はマナ耐性が低くて魔法をあまり多く使うことが出来ないんだ。聖女に求められる支援系の魔法は必要なマナの量が多くてね、それで攻撃に回ってもらおうとも考えたんだけど、彼女は攻撃魔法にどうしても抵抗があるらしく、聖女候補から外そうという動きが出ているんだ」



 麻衣は顔をうつむかせてしまっている。勝手に召喚しておいて、使えないから候補から外すというのもずいぶん身勝手なことだと思う、少し腹が立ってきた。アイナとイーシャも不機嫌な顔になっている。



「それで聖女候補から外れたらどうなるんですか?」


「国の方である程度の保障はしてくれるんだ、でも最終的には自分で生活できるようになってほしいと考えているようだね」



 いきなり知らない世界に放り出さないだけマシだが、いくらこの世界の成人年齢が15歳だとしても、俺たちの世界だと麻衣はまだ中学生なんだ、俺としても何とかしてやりたい。



「俺に出来ることはありますか?」


「今日、大君に会ってみて話をして、そしてアイナさんやイーシャさんを見て、君になら任せられると思った。稲葉さんを君のパーティーに入れてやってくれないか」


「アイナ、イーシャどう思う?」


「私は賛成ですご主人様、せっかく呼んだマイさんを放り出すなんて許せません」


「私も問題ないわよ、妹が増えるみたいで嬉しいわ」


「俺としても力になってあげたいから問題ないけど、麻衣はそれでいいかい?」


「はい! あまり役に立たないですけど、雑用でも荷物運びでも何でもやります、お願いします」



 麻衣は立ち上がって深々とお辞儀をした。






 こうして同じ日本から召喚された麻衣が俺たちのパーティーに加入することになった。


 今日は王城に戻って聖女候補の辞退を申し入れて、荷物を整理して明日の朝に冒険者ギルド前で待ち合わせることになった。候補側から辞退するのに問題はないかと尋ねたが、既に何人か辞退している人がいるそうなので問題ないようだ。明日は麻衣のパーティー登録や、新しく利用する宿を決めなければならない。


現地ヒロイン以外のキャラクターが登場する回になりました。

この投稿の1話後に資料集の方も更新する予定です。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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