第22話 イーシャの秘密
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今日の連続投稿の2話目になります。
「フルネームはテルキ・イシノベと言うんだ。一応、勇者候補をやっているよ」
やはり彼が召喚された勇者で間違いないのだろう、いろいろと聞きたいことはあるがまずは自己紹介をする。
「俺の名前はダイ。フルネームだと朝宮大になります。こっちの娘がアイナ、こちらはイーシャです」
あえて日本風の名前の言い方にした。するとテルキさんが驚いた顔で俺の顔を見て近づいてくる。
「あまり見ない黒髪だと思っていたら、君も召喚された日本人なのかい?」
そう言って詰め寄ってくるが、俺は召喚に巻き込まれただけなのでどう答えようか悩む。すると銀色の鎧を着た青年が俺たちの方に近づいてくるのが見えた。
「色々話したいことはあるけど、そろそろ戻らないとダメみたいだ、良かったら明日のお昼すぎに会えないかな、そちらのお嬢さんたちも一緒で構わないよ」
アイナとイーシャの方を見るとうなずいてくれたので、明日のお昼に中央広場の案内板前で待ち合わせる約束をした。別れ際にイーシャがテルキさんに近づいて小声でお願い事をしていた。
「あの竜巻のこと、私たちが発生させたってあまり広めないで欲しいの」
「なにか事情があるみたいだね。わかったよ、それは僕の方で適当に言っておく」
そう言ってテルキさんは近づいてきた青年のもとに歩いていく。
「勇者テルキ様、ご無事でしたか。それで先程の竜巻はいったい」
「うん、僕にもよくわからないんだ。あっちにいる冒険者も突然発生したって言っていたし、何かの自然現象かもしれないね」
テルキさんはこちらの方を見てウインクしながら去っていった。
「会えたわねダイ、良かったじゃない」
「あぁ、こんなにあっさり会えるとは思わなかった」
「ご主人様と同じところから来たってことは、私たち獣人のことも嫌いじゃないんでしょうか?」
「うん、たぶん大丈夫だよ。それにイーシャのお願いを理由も聞かずに受け入れてくれたし、いい人だと思うよ」
彼は“勇者候補”と言っていたが、他にも召喚された人はいるんだろうか。そういえば以前の噂でも勇者と聖女が召喚されたと言われていたので、複数の人が一度にこの世界に来ているのかもしれない。明日の待ち合わせを楽しみにしながら俺たちは冒険者ギルドに引き上げた。
◇◆◇
今日は外出も依頼の受注もやめて宿に戻ってきている。ご飯も屋台で買い込んできて部屋の中でまったりモードだ。
「はぅー、今日は疲れました」
アイナはそう言いながらベッドに倒れ込んでいく。今日は身体強化のスキルも長時間連続で使っているし、風の剣でマナの負担もあるだろう。俺もだいぶ疲れたし、イーシャも同様のようだ。
ギルドに戻って討伐の報告を終えると、かなりの額の報酬をもらうことが出来た。魔物の暴走のような災害クラスの異常事態だと国からも報酬が上乗せされるようで、俺たちパーティーのギルド口座の残高も大幅に増えた。
倒した魔物の魔核やアイテムはギルドが一括で回収して、その分も報酬に含まれているらしい。ギルドランクによって報酬額に差はあるが、個人個人の貢献度とかは考慮されていないようだ。まぁ、あれだけ乱戦だと仕方ないだろう。
「それにしても今日はイーシャさんのおかげで助かりました、あの竜巻は一体何だったんですか?」
「そうだな、あれが無かったら危ないところだった。イーシャ、良ければ竜巻のことについて教えてくれないか?」
以前イーシャが言っていた“魔法以外の特技を目当てに近寄ってくる人がいる”って言葉の理由があの竜巻だろうけど、祈るようなポーズをとった時に感じだ空気の変化や、普通の魔法回路では到底出せないような規模と威力、恐らくマナとは違う力を使った現象なんだろう。
「あれはね、精霊魔法っていうの」
「精霊魔法、ですか」
「エルフ族には精霊の声が聞こえる人が産まれやすいの。私は風の精霊の声が聞こえるのだけれど、近くに居る下級精霊たちにお願いして生み出すのが精霊魔法なのよ」
イーシャはそう言って右手を差し出すと、部屋の中に優しい風が吹いた。
「すごいな、威力も風の種類も思うままか」
「イーシャさん凄いですよ、これだと魔法無しでも大丈夫なんじゃ」
「精霊にお願いする魔法だから、短時間に何回も使うと嫌われてしまうのよ、だから普段は普通の魔法を使っているわ」
使役ではなくお願いだから何度も繰り返すと嫌がられるわけか。しかしそのペナルティーが問題にならないほどの威力を見てしまえば、その力を目当てに人が近寄ってくるのも無理のない話だ。今は俺たちと一緒に行動しているので、あからさまな勧誘は受けていないようだが、1人で旅をしていた時は苦労したんだろう。
「精霊魔法は他に欠点はないのか?」
「そうね、近くに居る精霊の数って一定じゃないの、多い所もあれば少ない所もある、場所によって不安定なのが欠点かしらね」
「全く居ない場所とかもあるんですか?」
「精霊同士相性があって、火の精霊の多い火山には水の精霊がほとんど居なかったりするわね。風の精霊は比較的どこにでも居るけれど、土の精霊と相性が悪いから地下のダンジョンとかだと数が少ないわ」
イーシャの話を聞いていると精霊魔法も決して万能ではないようだけど、使い方さえ間違えなかれば大きな力になることは確かだ。ただ、この力を頼りにしすぎるのはダメだと思う。まとまったお金も入ってきたし、王都でも魔法回路の新しい可能性にチャレンジして、イーシャの負担を増やさないように頑張っていこう。
「ねぇ、イーシャさん、風の精霊にお願いしたら空を飛ぶことって出来ませんか?」
「それは試したことがなかったわね、今度やってみようかしら」
「あのっ、その時は私も一緒に飛ばしてください」
精霊魔法との付き合い方を考えていたら、アイナとイーシャが何やら盛り上がっているようだ。
飛ぶのは良いんだが、2人ともスカートなんだからそのまま飛んだりするのはやめてほしい。