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第21話 予兆

ブックマークや評価ありがとうございます。

今日もキリのいい所まで2話投稿します、1回目の投稿になります。

 今日から冒険者ギルドの依頼を受ける。


 王都に来る途中にオオカミの魔物の襲撃を凌いだが、実力も付いてきてるようなので少しずつ難易度の高い依頼に挑戦していこう、屋台巡りを存分に楽しめるように。



「ご主人様、どんな依頼があるんでしょうか?」


「さすがに王都は依頼の数も多いな」



 冒険者ギルドの入口の横には色々な依頼がランクごとに分けて掲載されている。定番の収集や狩りの依頼、商店の手伝いや城壁修理の仕事まである。



「あら、無くしたペンダントの捜索なんて依頼もあるわね」


「この広い王都だと難易度高そうだ」


「でも大事なものなんじゃないでしょうか」



 わざわざギルドに依頼するくらいだから大切なものだろうけど、土地勘のない俺たちが探すのは困難だろう。今日のところは定番の収集依頼をこなすことにする。探す途中に魔核も集められるので、アイナの索敵能力とイーシャの知識があればかなり美味しい依頼になる。



◇◆◇



 王都の近くの森に入り素材になる植物や薬草を集めているが、ファースタの街の近くの森とはかなり雰囲気が違う。



「魔物があまり出ないな」


「そうね、普通はこの規模の森だともう少し居ても良さそうだけれど」


「動物の気配も少ないですよ」



 王都近くの森特有の環境なのか、何か時期的な影響があるのかわからないが、途中で出会う冒険者も特に慌てたり警戒している様子もないので、俺たちは素材や薬草の収集をこなして冒険者ギルドに戻る。依頼の完了手続きをした後、宿の近くにある食堂でご飯を食べて部屋に戻った。



「今日はあまり稼げなかったな」


「そうですねー、魔物とほとんど遭遇しませんでしたしねー」



 日課のブラッシングを堪能しながら、アイナも気持ちよさそうにベッドに寝転んで話している。



「王都は冒険者も多いし、狩りつくされてるのかもしれないわね」


「そうだな、朝早めに森に入るほうがいいのかもしれないな」


「明日は少し早く森に入ってみましょうか」



 魔物は夜になると活発に行動する。マナの(よど)みが原因で発生すると言われている魔物だが、それが起こりやすいのも夜だというのが通説だ。ある学説によると月の光が原因で澱みが発生すると考えられていて、人の集まる場所だと人体を通してマナが拡散するので魔物が発生しないが、人の居ない場所では澱みになって魔物化するという仮説がある。


 朝の早い時間なら魔物の数も多いかもしれない。寝息を立て始めたアイナに布団をかけて、俺とイーシャも早めに寝ることにした。




―――――・―――――・―――――




 次の日の朝、早めに冒険者ギルドに出向き依頼の一覧を眺めていると、中年の冒険者が入口を乱暴に開けて受け付け飛び込んでいった。



「何かあったのか?」


「すごく慌ててる感じですね」


「奥から誰か出てきたわよ」



 受け付けの人達が慌ただしく動き、奥から背の高いガッシリとした体つきの男性が出てきた。



「ギルド長のワイズだ、魔物の暴走(スタンピード)が発生した、動ける冒険者は討伐に向かってくれ。これは冒険者ギルドの強制依頼だ、拒否してもペナルティーは無いが、この街を守るために冒険者としての力を貸してほしい。報酬はギルドで保証する」



 それを聞いてギルドに居た冒険者たちは外に向かって走り出した。



「俺たちはどうしようか」


「王都の警備隊もいるだろうけど、大きな組織は動きが遅いわ。冒険者が先行しないと街に被害が出るかもしれないし、来たばかりでそんな事態は避けたいわね」


「まだ見てない所がいっぱいあるのに、魔物に壊されたりするのは嫌です」



 俺も来たばかりで異世界転移の手がかりすら探し始めていない状態で街が混乱するのは嫌だ。それに見たいものがいっぱいあるのは同意見だ。



「よし俺たちも参加しよう」



 冒険者ギルドから出て、走りながら門に向かう。衛兵も忙しそうに指示を飛ばしているので、状況を確認してみる。



「どこに向かったらいいですか?」


「右手のほうが押されている、そっちに行ってくれ」



 そう言われて右方向に走る、森の方からは黒い塊が押し寄せるように、多数の魔物が湧き出している。同士討ちを避けるために、冒険者はパーティーごとにある程度の距離を保ちながら戦っているようだ。即席で連携してもうまくいかないからだろう。


 他の冒険者の攻撃を抜けてきた魔物を倒しながら移動する。他のパーティーと少し離れた場所に移動して森の方をみると、空を飛ぶ魔物も居るようだ。



「アイナは孤立しないように魔物をできるだけ引きつけてから倒してくれ、それから周囲の警戒を頼む。俺が風の刃で牽制するから、イーシャは動きの鈍った敵を各個撃破で数を減らしていこう」


「はい!」「わかったわ!」



 マナ耐性の高い俺がとにかく魔法を打ちまくって牽制し、イーシャに確実に数を減らしてもらう。アイナにはいつもの遊撃と周囲の状況把握に徹してもらう事にする。


 並列魔法回路を刻んだ杖が光り風の刃が発現する、魔物に命中すると近くに居た他の魔物も動きを止めてこちらを見る、俺のことを脅威だと認識したんだろう。しかしその隙きをイーシャは見逃さない、水の矢が次々と魔物を倒していく。俺たちの攻撃をかいくぐって抜けてきた魔物も、スキルで身体強化されたアイナと、風の魔法で切れ味の増した短剣が斬り伏せる。


 (まと)なんてあってないようなものなので、前の方に出てきた魔物が見えたらとにかく杖を振る、当たらなくても地面を削るだけで魔物たちに一瞬の隙きが生まれる。アイナも抜けてきた魔物を倒しながら、迫ってくる魔物の位置を俺に教えてくれる。イーシャも水の矢で次々と魔物を倒していくがキリがない。いつもは周りのことをよく見てくれるイーシャだが、さすがに今は余裕が無いみたいで表情に焦りが見える。



「ご主人様、上です!」



 アイナの声にハッとして上を見ると、鳥型の魔物が上空から俺に向かって急降下してきた。遠くの方に飛行型の魔物は見えていたが、こんな所まで近づかれていたなんて油断した、慌てて杖を2度振るとそのうちの1つが命中して魔物は倒れた。



「ありがとう、アイナ」


「ご主人様キリがないですね、この魔物たちはどこから湧いてきたんでしょう」


「わからないが無限に湧くってことはないだろう、必ず終わりはあるはずだ」


「私たちはご主人様の作ってくれた武器があるのでまだ戦えてますが、他のパーティーは押されているところもあるみたいです」



 周りを見ると近くで戦っていたパーティーの何組かが撤退していて、俺たちの周辺に魔物が集中している。魔物の数はまだ減る様子がないし、このままだとジリ貧だ。他のパーティーも自分たちの周りの敵で手一杯で、応援は望めそうもない。



「これはちょっとまずいな、少し後退するか?」


「でもこの状況で私たちが移動すると、他の冒険者さん達に魔物を押し付けちゃいそうです」



 朝の早い時間だったからだろうか、冒険者の数も少なく増援も来ている様子はない。他の場所の状況はわからないが、ここ以外にも戦況の悪い場所があってそっちに行ってるのかもしれない。アイナも身体強化の使いすぎか、息が荒くなって汗もかいている。



「アイナ、平気か?」


「はい、まだ頑張れます」



 そうは言っているが、身体強化を使いすぎると発熱や集中力低下の副作用があるので、あまり無理はさせたくない。それにマナ酔いも心配だ。



「イーシャはどうだ、大丈夫か?」



 さっきから無言で魔法を撃っているイーシャに声を掛けるが、何か考え事をしているのか反応がない。とにかく今は魔法を撃ち続けるしか無い、マナ酔いの兆候は無いからまだまだ撃てるはずだ。そう考えて杖を構え直した時、イーシャがこちらの方を向いて言葉を発した。



「ダイ、アイナちゃん、私はあなた達2人の事が好きよ。だからあなた達が傷ついたり倒れたりするのは絶対いやなの。今から私のもう一つの特技を教えてあげるわ」



 そう言ってイーシャは持っていた杖を手放して腰に刺した。



「イーシャ、一体何を……」


「イーシャさん!?」



 敵を牽制しながら俺とアイナはイーシャの行動の意味を計りかねる。イーシャは両手を胸の前で組んで祈るようなポーズをとる、すると周りの空気が変わった。アイナも変化に気づいたようで、あたりを見回している。


 そして組んでいた手をほどいて、「お願いね」と言いながら右手を前の方に差し出すと、それは現れた。




  ――――ゴゥッ




 巨大な竜巻が発生して、移動しながら魔物を上空に巻き上げる。空高く飛ばされた魔物が次々と地面に激突して青い光になって消えていく。竜巻が通り過ぎた跡は動くものは残っていなかった。



「さぁ、残った魔物を倒していきましょう、だいぶ減らせたけどまだ数は多いわ」



 イーシャはそう言って杖を構えなおした。今の状況に俺が言葉を無くしていると、竜巻のお陰で数が減った魔物を倒しながら、こちらの方に走ってくる人が居た。



「君たち、こっちの方で巨大な竜巻が見えたが大丈夫か?」



 その人物は白を基調とした鎧を着て剣を持った、20歳位の明るい茶色の髪を持つイケメンの青年だった。鎧も剣も立派な装飾がされていて、とても身分の高い人に見える。



「えぇ大丈夫よ、それより残った魔物を倒してしまいましょう」


「あ、あぁ、僕も手伝うから倒してしまおう」



 イーシャの言葉で俺たちと白い鎧の青年は戦闘を再開する。青年も魔物に向かって剣を振るが、かなりの実力があるらしくその動きは凄いの一言だった。身体強化で素早さの上がったアイナと同等のスピードで移動したり剣を振ったり出来る上に、その剣技も見事で魔物を次々と斬り伏せていく。剣から衝撃波でも出てるのか、少し離れた魔物まで斬られていくのは圧巻だ。



「ご主人様、凄いですねあの人の動き、私と同じか速いくらいです」


「凄いわね、彼」


「そうだな」



 俺たちも残った敵を倒していき、魔物の暴走(スタンピード)は終息した。他の場所も全て倒したみたいで、向こうの方には鎧を着た人達も見える、恐らく彼らが王都の警備隊だろう。白い鎧の人はあそこから俺たちの方に来てくれたんだろうか。



「君たち、魔物の討伐に協力してくれてありがとう」


「ちょうどギルドに居た時に魔物の暴走(スタンピード)が発生して討伐依頼を受けたので」



 近くに戻ってきた青年にそう答える。



「ところで、あの竜巻は君たちが作ったのかな?」


「え、えぇ、まぁそうですね」



 俺自身さっきの竜巻の正体はわかっていない。イーシャが発生させたことは間違いないが、杖も手放していたし、他の装備品を身につけるような様子はなかった。あれが魔法だったのかすら不明なので、曖昧な返事になってしまう。



「いけない、自己紹介がまだだったね、僕の名前はテルキ。フルネームはテルキ・イシノベと言うんだ」






 イシノベ・テルキ、明らかに日本人の名前だ、彼が王国に召喚された勇者なのだろうか……


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「これはちょっとまずいな、少し後退するか?」 「でもこの状況で私たちが移動すると、他の冒険者さん達に魔物を押し付けちゃいそうです」 アイナのこの言葉は、自分たちよりも他の冒険者を優先し…
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