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第19話 王都シルディーオ

連続投稿の2話目です。

前話もよろしくお願いします。

 次の日、馬車に揺られていると、あの話し好きのおばちゃんが声をかけてきた。



「アンタたち魔物退治を手伝ってくれたんだって、ありがとね」


「あんな事しょっちゅうあるんですか?」


「わしは年に数回この街道を通るが、魔物の襲撃は時々あっても、あんな数で襲われたことは今まで無かったな」



 正面の席に座っていた中年のおじさんがそう言った。



「最近、魔族が攻めてきてるって噂もあるし、そのせいかね」


「王都に呼ばれたっていう勇者様が早く退治してくれるといいんだけどねぇ」



 馬車の中では昨夜の魔物襲撃や王都の勇者のことで盛り上がっている。他の乗客の話を聞いていると、俺の珍しい髪の色とエルフや獣人と一緒に行動しているのを見て、訳ありと思って話しかけづらかったそうだ。魔物の討伐を手伝ったことで、ずいぶん話しかけてくれるようになった。



「そうだアンタ、隣のお嬢ちゃん達とこれをお食べ」



 そう言ったおばちゃんは乾燥させた果物を俺たちにくれた。

 少しかじってみると、舌の上で水分を含んだ果肉がじんわりと甘くなり、果物の香りとともに口いっぱいに広がっていく。



「ふわぁ、ご主人様これ甘くて美味しいです」



 アイナが幸せそうに見上げてくるので、「良かったな」と言いながら頭を撫でる。



「ありがとうございます、とっても美味しいです」


「いいよ、アンタたち3人ともかなり活躍したって聞いたからね」



 アイナとイーシャもお礼を言って、ドライフルーツを味わっていく。2人ともとても幸せそうだ。その後はイーシャも話に加わったり、アイナも時々相槌を打ったりしながら馬車の旅は続いていく。俺とアイナのやり取りも変な目で見られることはなくなったし、この世界の人間の獣人に対する印象が少しでも変わればいいと思った。




―――――・―――――・―――――




 あれからは魔物の襲撃にも会うことはなく、王都への旅は今日で終わりだ。今は馬車を降りて城門の前に並んでいる。流石に王都だけあって入場待ちの列も長い。



「さすがに王都だ城壁も立派だし大きいな」


「城門も大きくてすごい迫力ね」


「ご主人様、壁の端っこがよく見えないくらい大きいです」



 王都には東西南北に中央門があるが、目のいいアイナにも見通せないくらい外周が大きい。王都内でも離れた場所に行くのは馬車が必要で、庶民の移動の足になる辻馬車も運行されているそうだ。大きい以外の感想が出ない俺たちだが、やがて入場審査が始まる。



「王都シルディーオへようこそ。

 入場証か身分証を提示してくれ」



 俺たちは全員ギルドカードを衛兵に渡す。アイナのブレスレットも俺のギルドカードと一緒に差し出す。



「3人とも冒険者だな、そっちの獣人の主人は君で間違いないな」


「はい」



 アイナのブレスレットの内側に刻印されている識別番号と、俺のギルドカードを見た衛兵が確認してきたので返事をする。



「では通っていいぞ」



◇◆◇



 ファースタの街とは違い、特に問題なく俺たちは王都に足を踏み入れた。入場待ちの人も多いので、流れ作業のように確認がすすめられている。


 王都はとにかく何もかもが大きい、道幅も馬車が並んで走れるくらいの幅があるし建物も大きい。遠くからでもはっきり見えるひときわ大きな建物が王城だろう。歩く人の多さに気圧(けお)されたのか、アイナは俺の服の裾を掴んで歩いている。



「アイナ、大丈夫か?」


「はい、あまり怖くはないんですが、人が一杯で迷子になりそうで」


「じゃぁ手を繋いで歩こうか?」


「はっ、はい! よろしくおねがいしますご主人様」



 アイナに手を差し出すと、おずおずと握り返してきた。顔は伏せられているが、ちょっと赤くなってる感じがする。もしかするとアイナと手を繋いで歩くのは初めてかもしれない。それを意識したら俺もちょっと恥ずかしくなってきた。



「アイナちゃん、こっちの手は私と繋ぎましょう」



 そう言ってイーシャが反対側の手を握る。両方の手を握られて歩くアイナは嬉しそうだ。傍目には俺たちどう見えてるだろうか、さすがに親子には見えないと思うが。そもそも全員種族が違うし、仲のいい仲間に見られているだろうか……


 そして俺たちはまず冒険者ギルドに向かう、獣人と泊まれる宿を紹介してもらうのがその理由だ。獣人と一緒にパーティーを組んでいる冒険者もいるが、その人達はたいてい別々の宿に泊まるみたいだ。俺たちはアイナと別の宿に泊まるなんて考えられないので、ファースタの街のようないい宿が見つかることに期待しよう。



◇◆◇



 ギルドで紹介してもらった宿【暁の波止場】に来ている。王都でも獣人と泊まれる宿は選択肢が少なく、ここでも衛生面で一番評判の良い宿を選んだ。玄関から入ると受け付けには小さい女性が居る、背の高さは俺たちの半分くらいだろうか。ぱっと見、子供が店番してる感じだ。どう話しかけていいか困っていると、イーシャが耳打ちしてきた。



「あの人はハーフリング族ね、背の高さが半分くらいしか無いの。あれでもう大人なのよ」



 この世界に来て街の中でも人間とは違う種族の人を何人も見たけど、ハーフリング族は初めて見た。よく見ると耳もエルフ程じゃないが少し長くなっている。



「そこの人族のお客様はハーフリング族は初めて見るのかな? これでも大人だから安心してここを利用するといいよ。うちの宿は安心・安全・清潔を信条にしてるからお客様もきっと満足するよ」


「すいません、初めて見たので驚いちゃって」


「いいよいいよ、私たちハーフリングは大陸の北の方で装飾品とか作ってる人が多いのよ。大陸中央ではあまり見かけないかもしれないよ」



 そう言って受け付けの女性はカウンターから降りてこちらに歩いてきた。カウンターの床はちょっと高くなっているようで、近づいてくると本当に小さい。俺の腰くらいまでしか背の高さがなく、トコトコと歩く姿はちょっと可愛い。



「それでお客様、今日はご休憩とご宿泊どっちにするね」



 あ、いま真夜中の止まり木でも聞いたのと同じセリフが聞こえた。ここもやっぱりそういう事にも利用できる宿なのか。しかしここまで来て宿を変えるのは気が引ける。それに建物の中も綺麗で、清潔という看板に偽りはないと思う。



「それじゃぁ、3人の宿泊で5日間お願いできますか」


「ありがとうございますですよ、鍵はこれになるよ」



 カウンターに小走りに戻っていった受け付けの女性が、番号の書いた木札が付いた鍵を渡してくれる。5日分のお金を支払って宿のシステムを聞く。真夜中のとまり木と同じで、水は有料、ランプも油を購入する、この宿も食堂は無いので、外で食べるか持ち込んで食べるかしないといけない。



「鍵のかかる棚があるから、大事なものはそこに仕舞うといいよ。でも貴重品は持ち歩くほうがいいよ」



 受け付けの女性に「ゆっくり楽しむんだよ」と言われつつ番号札の部屋に入る。引き出しのついたクローゼットとテーブルに椅子が3脚。引き出しの1つは鍵がかかるようになっている。部屋もきれいに掃除されているし、広さも3人で泊まるには十分なスペースがある。ベッドのシーツもきれいに整えられており、とても清潔な感じがする。これなら気持ちよく泊まれるだろう。






 ベッドは1つしか置いてないが。


おばちゃんは、いわゆる“大阪のおばちゃん”です(笑)

この世界には、あめちゃんが無いのでドライフルーツになりました。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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