第18話 野営
本日も2話連続で投稿します、その1話目です。
俺たちを乗せた馬車の一行は、今日の野営地点に到着した。
宿場町に泊まることもあるが、途中で何か所かは街道の近くで泊まらないといけない。野営地点は柵を立てて場所を確保していて、馬をつないでおく場所や井戸も掘ってある。
経験者のイーシャがテキパキとテントの設営を始めたので、俺も張り方を教わりながら手伝う。アイナはお湯を沸かす枯れ木を探しに行ってくれた。
「さすがに手慣れてるな」
「ダイの所ではあまりこういう事ってやらないのかしら?」
「屋外で寝泊まりしながら旅行したり冒険したりする人も居るにはいたけど少数派だったな。それに俺は家の中で回路をいじったりする方が好きだったから、テントは学校の野外活動で使ったくらいだ」
イーシャは「回路いじりが好きなのはここに来ても変わってないわね」と微笑みながらテントを組み立てていく。この世界でも回路いじりが出来るとは思わなかったが、日本に居た頃と違いこっちの世界に来て冒険者活動をするようになってから体力もついてきた。森の中を移動するのにも慣れてきたし、体の動かし方やバランス感覚もだいぶ鍛えられたと思う。それでも森の中での活動に長けているエルフのイーシャや、身体能力が高く更にそれをスキルでブーストできる獣人のアイナには敵わないが。
「ご主人様、いっぱい見つかりました」
アイナが枯れ木を抱えて戻ってきた。一度眠って緊張がほぐれてきたのか、いつもの天真爛漫な感じに戻ってきている。
「たくさん見つかったな、ありがとうアイナ」
アイナの頭を撫でながらそう言うと、しっぽをぶんぶん振りながら微笑んでくれる。やっぱりアイナは笑顔のほうが似合う。
乾燥した葉っぱを煮出して作る紅茶みたいなものと、固いパンに干し肉で食事をとる。紅茶っぽい飲み物は、ほんのり甘くて香りもよく俺は結構好きだ。固いパンを浸して柔らかくしながら干し肉をかじる。
「やっぱり外での食事は味気ないわね」
「俺たち誰も料理ができないからなぁ」
「私も茹でるだけとか焼くだけなら出来るんですが、味付けの仕方とかよくわからないです」
俺たちのパーティーメンバーは全員そんな感じだ。俺は日本でも自炊なんてしたことなかったし、アイナは貧しい生活のせいか味付けに関して殆ど知らない、イーシャも里では料理しなかったようだし、冒険に出てからも狩った獲物をその場で焼くとかワイルドな調理法しかしてこなかったらしい。
他も同じような保存食を食べてる人が多いが、中には煮込み料理を作って人がいるのか、火にかけられた鍋からいい匂いが漂ってくる。
「うぅ、切ないです」
「1人で旅をしていた時は仕方がないと諦めていたけれど、こうしてみんなで旅をしてるとパーティーメンバーに料理のできる人が欲しくなるわね」
干し肉をガジガジかじりながらアイナが悲しそうに、イーシャはどこか遠くを見るように言う。今までは街の近くでしか活動してこなかったが、実力がついてきて遠征なんかに行く時に、食事事情の改善は必要かもしれない。
◇◆◇
夜も更けてきてそろそろ寝ようかという時、アイナが何かに気づいた。
「ご主人様、魔物の気配です。数は……すごく多いみたいです」
俺たちがテントの外に出て様子を見てみると、護衛のリーダーらしき人が指示を飛ばしている。外の騒ぎに気づいたのか、他の馬車に乗っていた冒険者たちも外に出てきて護衛のリーダーと話しをしている。討伐の手伝いをするみたいだ。
「魔物の数が多いみたいだし、俺たちも手伝おう」
「わかりました」「わかったわ」
2人の返事を聞いて俺も護衛リーダーのところに行く。
「魔物の数が多いみたいなので、俺たちも手伝います」
「すまねぇ助かる。お前たちはあっちの方をよろしく頼む。危なくなったら大声を上げて助けを呼べ、絶対無理するんじゃないぞ」
リーダーの指示した方に向かい柵の外に出る。月明かりに照らされて赤い目がいくつも光っている。
「オオカミの魔物ね。群れで行動する魔物だから厄介よ、とにかく近寄らせないように牽制しましょう」
俺とイーシャは並列魔法回路の杖を、アイナは風の魔法を刻んだ短剣を構える。
「俺とイーシャで先制攻撃、アイナは抜けてきた魔物の遊撃、いつものパターンで行こう」
「はい」「わかったわ」
まずは2人で魔法を放つ。並列魔法回路で増幅された風の刃が数体の魔物を一度に切り裂き、水の矢が後ろの魔物もまとめて貫いていく。魔物たちは一瞬警戒して動きを止めたが、今度はバラバラになって動き出した。まとまったままだと危ないと思ったんだろう、なかなか頭のいい魔物だ。
ランダムな動きに翻弄されつつ魔法を撃っていくが、何匹かはすり抜けてこちらに向かってくる。
「アイナ頼む!」
身体強化スキルで素早さの上昇したアイナが、オオカミの動きを捉え短剣を振る。インパクトの瞬間発生した風の魔法が剣の切れ味を鋭くし、オオカミの首を切り裂く。横から連携して攻撃を仕掛けてきたオオカミにもアイナは反応する、振り抜いた剣を戻すように横に一閃すると切れ味の増した剣がオオカミの足を切り飛ばした。倒れ込んできたオオカミからバックステップで距離を取ると、そこにイーシャの水の矢が命中する。
流石にイーシャは周りの状況もよく見えてるし、狙いも俺より遥かに正確だ。幅のある風の刃と違ってピンポイントで狙わないと当たらない水の矢だが、動いている魔物にも確実に命中している。俺ももっと経験を積んでいかないとダメだな。
◇◆◇
そうして数を減らしていった魔物たちは全滅した。他に手伝っていた冒険者たちもベテランだったらしく、誰も大きな怪我がなく魔物の襲撃を乗り切ることが出来た。
「お前たち凄いな、助かったよ、ありがとう」
護衛のリーダーに完了の報告をすると、そう言って少し驚いた顔をしていた。
「エルフのお嬢さんは流石に魔法が得意みたいだし威力もすごかったな、それに獣人の嬢ちゃんもいい剣を使ってるみたいだ」
イーシャは「魔法は得意ですから」と微笑みながら杖をちょっとだけ掲げて、アイナは俺の後ろに少し隠れるようにしながら、腰に刺した剣の鞘を撫でている。
「それに兄さんもすごかった。持ってるのは中型の杖みたいだが、俺はあんなの見たことねぇ」
並列回路の効果で増幅された魔法は、同じサイズの魔法回路の威力を超えるので、経験を積んだ冒険者には普通とは違うとわかるんだろう。
「おっといけねぇ、他の冒険者のスキルや装備を詮索するのはマナー違反だった。すまねぇ忘れてくれ。ともかく助かった、魔核とドロップアイテムは倒したやつが持っていってくれていい。それとお礼だ、これを受け取ってくれ」
俺が答えに窮していると、リーダーはそう言って布の袋を渡してくれた。中には焼いたクッキーのようなものが入っていた。
「最近王都で売り出された保存食なんだ、甘くて女性冒険者に人気があるんだぜ」
リーダーはアイナとイーシャを見ながらニカッと笑った。
王都では保存食の革命と言われてるらしく、人気があってなかなか手に入らないらしい。
「すいません、貴重なものを頂いてしまって。ありがとうございました」
「いいってことよ、こっちこそ世話になったな。後は俺たちが見張りをするんで安心してゆっくり休んでくれ」
◇◆◇
そうして俺たちはテントに戻ってきた。
「珍しいものを貰ってしまったわね」
「あの、ご主人様。一つ食べてみてもいいでしょうか?」
アイナは見たこと無い保存食に興味津々のようで、目がキラキラと輝いている。イーシャも興味あるようで匂を嗅いだりしている。
「みんなで一枚ずつ食べてみようか」
そう言って食べた保存食は甘味の少ないクッキーそのものだった。