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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第2章 新たな出会い編
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第16話 自作魔法回路

 あれから空いた時間や狩りの合間に、魔法回路を起動状態にできる練習をした。イーシャは天才肌のようで、「この辺りのモヤっとしたものを、スーッと押し流す感じかしら」というような説明の仕方をするので少し苦労したが、一度コツを掴むと簡単にできるようになった。アイナもほぼ同じくらいの時期に出来るようになった。



◇◆◇



 そして俺は今、魔法回路屋に向かって歩いている。今日は狩りもギルドの依頼も受けずに1日休みの予定だ。アイナとイーシャは2人で色々お店を見て回りたいと別行動を取っている。


 今日やってみたいことは2つだ。まずはレシピ通りの回路を2つ並べて、それを並列に接続する改造をする。もう一つはレシピをアレンジして、充填と構築の部分を多めに組んで、それを∩字型に並べた回路を作る。


 魔法回路のサイズは小中大で倍々の横幅になっているので、小サイズのパーツを横に2列並べると中サイズの魔法回路が印刷できるはずだ。




「おう、いらっしゃい」



 いつもどおりガタイのいいおじさんが挨拶してくれる。こちらも挨拶を返して、買い物用のレールを持ってパーツを並べていく。直線のレールの他にも四角と円形のトレイもあって、サイズごとに決められた大きさまでパーツを並べられるようになっている。レシピ通りの風の刃の回路を2本、もう2本は充填部分をレシピの倍にして、形は刃で密度などのパラメーターパーツも倍の数にし、左右の高さを合わせるために端にダミーブロックを入れておく。



「兄さん、自作に挑戦か?」



 パーツを選び終えて支払いに向かうと、店員さんがレールを受け取って、並べているパーツを数えてくれる。



「こっちの2本はレシピ通りの風の刃だが、こっちのはなんだ? 途中で回路が切れてるぞ。2本つなげれば動きそうだが、そんな長さの回路は印刷できねぇ。これでほんとに良いのか?」


「えぇ、魔法回路の起動実験をしたいだけなので、これでお願いします」



 刻んだ回路に手を加えられることは、皆と相談してパーティーメンバー以外には内緒にすることにしてるので、適当な理由をつけてそのまま会計をお願いする。



「まぁ兄さんがそれでいいなら問題ないが。

 じゃぁ、仕切りの向こうにある印刷機で魔法回路の紙を作って、印刷し終わった部品はここに持ってきてくれ」



 支払いを済ませて中サイズの印刷機に向かい、小サイズのパーツを2本並べてセットする。上蓋を閉じて押し込むと、隙間から光が漏れて半透明の紙に魔法回路が印刷された。もう一つの方は下から並べていき、1列目が終わったら次は隣に上から下に向かってパーツを並べる。これで∩字型に並んだ魔法回路の完成だ。


 印刷し終わったパーツをまとめて店員さんに返す。回路を印刷したら使い捨てになるパーツだが、使い終わった後に工房に送ると、再利用してまた印刷できるパーツにするそうだ。



「なんか実験するみたいだが、面白いことが判ったら教えてくれよな」


「うまくいくと良いんですが、自作は初挑戦なのであまり期待はしないでくださね」



 店員さんも興味あるみたいだったが、実際に初めての自作回路なので、そう返事をして魔法回路屋を後にする。隣の武器屋で中サイズの回路が刻める少し太い杖を購入して宿屋に戻った。


 部屋に戻るとアイナ達はまだ帰っていなかった。夕方までショッピングを楽しんむんだろう。


 魔法回路を印刷した半透明の紙は、裏表を間違えないように正しい面で貼ると、吸着タイプの液晶保護フィルムみたいにピッタリ貼り付く。部屋に備え付けの机を窓際まで運んで杖を並べ、魔法回路の露光待ちだ。待ち時間でお昼を食べてくることにしよう。



◇◆◇



 お昼を食べ終えて街の外に出た。人の居ない少し広くなった場所で魔法回路の改造に取り掛かる。まずは∩字型に回路を並べた杖を起動状態にする。途中で回路が切れてるので全体が光らないが、分割した部分の回路同士の接点を繋ぐと全体が光りだす。とりあえずこの状態で一度実験だ。



「おぉっ! 風の刃が大きくなった!」



 出来上がった杖を岩めがけて振ってみると、パラメーターパーツを倍にした分、大きな風の刃が発生した。充填部分も多めにしてるし、容量不足にもならなかったみたいで、まずは成功だ。ただ威力や速度は普通に組んだときとあまり変わっていない。そして動いてない充填部分の回路切断とバイパス処理をもやってしまう。


 もう一度、魔法が打てることを確認して次の杖の改造に取り掛かる。今度は同じ回路を2つ並べた杖だ。魔法回路を起動すると、2つの回路は明るくなったり暗くなったりしている、これが2つ同時に装備した時に干渉して魔法が発動しない原因だろう。同じ機能の左右の回路同士を繋げていく。構築や発動の部分も、それぞれのブロックのインターフェースになってる接点同士を繋げる。最初から成功したことに気を良くして、充填部分の無駄な回路のバイパスもついでにやってしまった。



「あれ? 発動しないな」



 回路を起動してよく見てみるが、配線を間違えてるような部分は見つけられない。しばらく考えてみたが、ひとつ思いついた。もしかすると発動部分も2つ繋げてしまったのが良くなかったのかもしれない。片方の発動部分の回路を切断して、岩に向かって杖を振ってみる。




  ――――ズガーーーン




「………」



 岩が大きく削られた、明らかに威力がおかしい。風の刃の大きさは今まで使っていた杖と変わらないが、恐らくシングル回路の倍以上の威力が出ている気がする。充填や構成部分のパーツ数は∩字型とほぼ同じだが、魔法回路を並列に繋ぐと、何かの相乗効果をもたらすのかもしれない。これで4並列の回路を組めば凶悪な殺戮兵器が出来るかもしれないが、今の俺たちが使うには明らかにオーバースペックだ。


 2種類の繋ぎ方を試してみたが、並列回路は威力や密度が増し、直列回路は規模が増す特性があるようだ。直列は広範囲魔法を作る時に使えるかもしれない、魔法回路の大きさが倍になっても発現される魔法の大きさが倍になるわけではないので、構築部分の組み合わせ次第で中型魔法回路を超える規模の魔法が発動できる可能性がある。


 これでイーシャの新しい高火力武器と、アイナ用には低負荷である程度の威力が出る武器を作ってやれるだろう。




―――――・―――――・―――――




 昨日はもう一度魔法回路屋に寄って、お店に張ってあるレシピ表を見ながら、イーシャ用にはスタンダードな水の矢のレシピ2本を中サイズで印刷。マナ耐性の低いアイナ用は、動作キーを叩くにしてインパクトの瞬間に刀身に風をまとわりつかせて切れ味を増す魔法のレシピを使う。持続時間を短めにして充填部分も削って負荷を減らせるようにアレンジした小規模な回路を2本印刷した。


 アイナ用はシングルの回路だと、ほとんど効果が発揮できないくらいに規模を絞っているが、並列接続の相乗効果があれば実用域になると思う。


 魔法回路屋のおじさんには「実験は失敗したのか」と言われたので、「今度は別の魔法で試してみます」と言っておいた。発動部分は片方にしか要らないけど、発動できない回路を続けて買うと訝しく思われそうなので、少し余分にお金がかかるが両方とも同じ回路にした。



◇◆◇



 朝日と共に露光を始めて、今日は3人で人の居ない場所にやってきた。


 アイナには短剣、イーシャには太めの杖を渡して回路の改造中だ。イーシャは魔法同時発動の才能があるので両方の回路が光っている。アイナは干渉しているようで、俺と同じ様に回路が明滅している。



「ご主人様凄いです! これスパスパ切れますよ!」



 アイナはその辺りに生えてる草や(つる)を短剣で切りまくってる、とても楽しそうだ。ちゃんと攻撃する意志と、対象を意識しないと魔法は発動しないから、よそ見せずに試し切りしてくれ。



「これは……ちょっと言葉にならないわね」



 イーシャの視線の先には、端のほうが(えぐ)れてしまった岩がある。形状が矢なだけあって貫通力が高い。中心を撃ち抜くには威力が足りないと思うが、このサイズの杖としては破格の性能だろう。



「以前使ったことのある中型魔法回路の威力を超えてるわよ、これ。マナも普通の小型魔法回路と変わらない程度しか流れてないと思うわ。2つの魔法回路を繋いでこれだと、4つとか考えたくもないわね」


「俺もそう思う。明らかに手に余りそうなので、どうしても必要な事態にならない限り作るのはやめておこうと思う」


「えぇ、それがいいわ。これくらいの威力ならまだ誤魔化せるけど、これ以上となると誰かに見られでもしたら大変よ。下手すると国が動くわ」



 国家に目をつけられるのは流石に困る。巻き込まれたとは言え、俺は今の生活が割と気に入ってるんだ。日本に居た頃とは違う充実感があるし、何よりアイナやイーシャと一緒に居るのが楽しい。この世界に居るうちは思い通り過ごせるように、4並列魔法回路は封印しておこう。



「それにしても2つの魔法回路を横に繋げるなんて、ダイにしか出来ない発想よね」


「確かに刻まれた回路を直接改造できるからこそだろうけど、繋いで容量や効果を上げようってのは誰かが思いつきそうなものだけどな」


「魔法回路は“マスターパーツ”っていう原版になる回路があって、それを複製したものを元にして作っているの。その複製も国からの要請で返却しないといけない場合があるから、余計な線や接点を作るって発想が無かったのかもしれないわね」



 マスターパーツは国が管理していて、魔法回路を作っている工房や職人は免許を取得した上でマスターパーツのコピーを貰って、そこから市販の回路や様々な部品を作っているそうだ。いつ返せと言われるかわからない物を、勝手に改造とかは出来なかったんだろう。



「ご主人様ぁ~」


「どうした、アイナ」



 アイナが少しフラフラしながら近づいてきた。



「ぢょっど、ぎぼぢわるぐなっでぎまじだ」



 いくら少ないマナで動かせる回路を組んだといっても、もともとマナ耐性の低い獣人が、あれだけブンブン振り回していたらマナ酔いも起こすだろう。






 その日はアイナの回復を待って街に戻ることにした。


印刷機のイメージはプリ○トゴッコです(笑)


これで第2章が終了になります。

第3章からは舞台が変わり仲間も増えます、よろしくお願いします。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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