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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
175/176

第173話 虹

この章の最終話になります。

 翌日、ユリーとヤチが住んでいた集合住宅に行き、引越の荷造りを開始する。以前ここまで送った時は門の前で別れたので部屋の中は初めて見たが、ここは寝に帰るだけの場所になっていたみたいで、あまり私物は多くなかった。


 圧倒的に多いのは仕事で使う資料だ、それらをまとめて精霊のカバンに次々収納していくと、引っ越しの準備はあっという間に完了した。



「2人とも荷物がほとんど無いんだな」


「別の街に出張してる事が多かったし、ここには着替えとあまり使わない資料しか置いてなかったわ」


「教授はすぐ物を散らかしてしまいますから、少ないほうが良いんです」


「もぉヤチっ! ダイ君の前であんまり恥ずかしい事をバラさないでよ」


「それで俺だけ来てくれればいいって言ったんだな」


「精霊のカバンがあればすぐ終わりますから」



 ヤチに抗議しているユリーを無視して話をしていると、ちょっと涙目になってきた。その姿は可愛らしいが、このままだとヘソを曲げてしまうので、ちゃんと相手をしてあげよう。



「2人とも宝物の棚に飾るものは決まったんだっけ」


「私はヤチにもらった、この鏡にしようと思うの」



 ユリーが俺に見せてくれたのは、机の上に置いて使う小さめの鏡だった。台になる部分や鏡面を支える枠にも細工が施されていて、とても上品な小物だ。



「すごく趣味のよい鏡だな、さすがヤチが選んだだけあると思うよ」


「そうでしょ! 私のお気に入りなのよ」



 自分の荷物の上に置いていた鏡を持ってこちらに近づいてきて、よく見えるように差し出してくれたので、それを受け取ってそのまま頭を撫でてあげると、嬉しそうに微笑んでくれた。



「ヤチは何にするんだ?」


「私は教授にもらったこれにしようと思います」



 ヤチの見せてくれたものは、花の形をした金属の台座に宝石が散りばめられている、アクセサリーみたいなものだった。



「すごくきれいだけど、何に使うんだ?」


「これは服につけたりするのよ」


「とても気に入っているのですが、勿体なくてなかなか付けられないんです」


「ヤチに似合いそうだから贈ったんだけど、ずっと大切にしてくれてるから、あの棚に飾っておくにはちょうどいいと思うわ」


「これはカヤに飾って置ける台を作ってもらおうか」


「そうですね、お願いしてみます」



 ヤチもそれを持って近づいてきたので、その頭を撫でてあげる。2人が家族になって、俺にみんなと同じ話し方で接して欲しいと言われたので、こうして呼び捨てのタメ口で会話しているが、やっと慣れてきたところだ。


 まだぎこちない話し方になってしまう事もあるけど、これから一緒に暮らしていくんだし徐々に意識しなくても良くなるだろう。



◇◆◇



 すっかり物の無くなった部屋を簡単に掃除して、退去の手続きに向かう。結構長い期間ここを借りていたみたいだが、外に泊まる機会が多かった2人にはあまり思い入れがないみたいで、管理人や隣の部屋の住人に手土産を渡して、あっさりと手続きを終わらせ敷地の門から外に出た。



「あれー? ユリーとヤチじゃない、今からお出かけ?」



 門を出た所で横から声をかけられて俺と腕を組んでいたユリーがビクリと反応し、ヤチと繋いでいる手もわずかに震えた。普通の人は働いている時間だったので油断していたが、両手に花状態の所を知り合いに見られてしまったようだ。


 2人とも気まずそうな顔をしているし、俺の方から話しかけてみようと女性の顔をよく見たら、ユリーとヤチを救出したダンジョンの部屋で、博士(はかせ)の隣に倒れていた女性みたいだ。



「はじめまして、俺の名前はダイといいます。ダンジョンの中で魔物に襲われて倒れたとお聞きしましたが、もう大丈夫なんですか?」


「うん、それは大丈夫なんだけど、何故あなたが知っていたの?」


「治療院にヤチのお見舞いに行った時にお見かけして、事情を聞きましたので」


「そうだったのね、心配してくれてありがとう。それであなた達はどこに行くの?」


「ユリーとヤチは今日から俺たちと一緒に暮らしていく事になったので、ここを引き払って今から家に帰るところですよ」


「えっ!?」



 その女性は驚いた顔をして、こちらを凝視したまま固まってしまった。ユリーは少し恥ずかしそうに頬を染めているが、俺と組んだ腕をほどこうとはしていないし、ヤチも俺の手を握ったままだ。



「あなたは自分の部屋に帰るところだったの?」


「えっ、あ、うん、そうだったんだけど……」


「この人もここに住んでるのか?」


「うん、ここには何人か研究所の職員がいるわね」



 目の前の女性に顔をじっと見られて少し恥ずかしいが、彼女には俺のどんな情報が知られてるんだろうか。



「ねぇユリー、この子が例の冒険者なの?」


「えぇ、そうよ」


「年下の冒険者って聞いてたけど、2人の事を呼び捨てにしてるのね」


「これから共に生活していくんですし、ユリーとヤチもその方がいいと言ってくれたので」


「なんか、すごいわ、2人いっぺんになんて……」



 正確にはあの家にはシロも入れて14人の女性が居るんだけど、それを言う必要はないだろう。どんな噂になるかわかったもんじゃないしな。



「引っ越しの荷物整理があるので、そろそろお(いとま)しますね」


「う……うん、わかった、また会いましょうね」



 途中から茫然自失状態だったけど、話を切り上げて帰る事にする。あまり俺のことを根掘り葉掘り聞かれても困るし、他の職員も住んでいるなら目撃者は少ないほうが良いだろう。とは言え、一人に見られたらもう手遅れだとは思うが。



「彼女のあんな顔、初めて見た気がするわね」


「いつも次々と質問してくる人ですから、色々聞かれなくて助かりました」


「変にはぐらかすより、はっきり言ってしまう方が良いと思ったんだけど、迷惑だったかな」


「ダイ君にこんな大胆なところがあったなんて知らなかったけど、ちゃんと言ってくれたのは嬉しかったわ」


「いずれあの家から引っ越したのは他の職員にも知られますし、こうして早い段階ではっきり伝えてしまえたのは良かったと思います。それに私も誤魔化したり狼狽(うろた)えたりされなくて、すごく嬉しかったです」



 この2人は俺たちみたいに自由気ままに動ける冒険者ではなくて組織に所属している社会人なので、特別な関係になった時もしっかり説明できるようにしようと考えていたけど、いきなりその機会が訪れてしまった。2人共さっきよりも俺に寄り添ってきているので、俺の対応に満足してくれたみたいで良かった。



◇◆◇



 3人で家に帰ってくると、門の前に立派な馬車が止まっている。これは国王がいつも使っている馬車だけど、きっと先日の異常事態の事で来てくれたんだろう。ユリーとヤチにその事を伝えると少し緊張していたが、この家でも一度会ってるし、2人が何か言われる事はないと思う。


 玄関の扉を開けるとカヤがそこに待っていた。



「ただいま、カヤ」「ただいま、カヤさん」「ただいま戻りました、カヤさん」


「お帰りなさいませ、旦那様、ユリー様、ヤチ様」


「国王様が来てるみたいだけど」


「国王様と騎士団長様、それに冒険者ギルド長様と側近の方がお見えになっております」



 今回は珍しい組み合わせで来てるな、さすがに魔物の異常発生という大事だったので、これだけのメンバーが集ったんだろう。


 リビングに入ると、国王はキリエと一緒にソファーに座ってお菓子を食べていた。護衛の近衛兵も奥のテーブルで食べさせてもらっているみたいだ。



「国王様、いらっしゃいませ」


「突然すまんな」


「いえ、お待たせして申し訳ありません」



 ユリーとヤチも挨拶をして、ソファーに座ってカヤの淹れてくれたお茶を飲む。国王とキリエがお菓子を食べ終わったタイミングで話を始めた。



「今日お越しいただいたご用件はやはり先日の」


「その件は近衛兵や騎士団からも聞いておるが、大変世話になったの、感謝しておる」


「私たちにも話を持ってきていただいて、こちらこそ感謝しています。兵士の皆さんにも助けていただいたので、こうして2人を無事に救い出すことが出来ました」


「国王様ありがとうございました、こうして無事に帰って来られたのは、救助にご尽力いただいた皆様のおかげです」


「ありがとうございます、国王様」


「そちらのお主は、かなり危険な状態だったと聞いたが、もう大丈夫かね?」


「お気遣いありがとうございます、幸い後遺症もなく、このように回復いたしました」



 そうして、手助けしてもらったリザードマンの事や、研究所や近衛隊長から伝わっていなかった細かな状況を、こちらの方から補足して側近の人にまとめてもらう。



「それから、お主達のパーティーの事だが、儂も正直なところ見誤っておったよ」


「近衛隊長さんから聞いたのですね」


「あぁ、俺の方から国王様にご報告させてもらった」



 やっぱり国に目をつけられてしまったか、あの時は自重せずに最大火力を魔物にぶつけまくったからな。こうなる事はある程度覚悟していたけど、2人を救えたんだから後悔はしていない。



「そこで君達には、このランクの冒険者になってもらいたい」



 そう言って冒険者ギルド長が差し出した物は、虹色に輝くギルドカードだった。俺たちが今いるプラチナ(白金級)は赤のカードで、その上のオリハルコン(硬金級)は紫色だ、更に最高位のアダマンタイト(金剛級)は黒のカードだが、虹色は聞いた事がない。



「このカードは一体なんですか?」


「これはアイリス()ランク()のギルドカードだ」


「どういった等級になるんでしょうか」


「王家直属の冒険者が持つ証になる」



 アダマンタイトは全員が国のお抱え冒険者だという話だったか、王家直属ということは更に上の特別なランクになるのか。



「これは経験の浅い私たちには荷が重すぎます」


「王家がお主達の冒険者活動を縛る事は無いから、安心してくれて構わんよ」


「これは君達パーティーの力が知れ渡った時に、一部の貴族や富豪に利用されないための保険だ」


「普段はプラチナランクとして活動してくれて構わんが、もし権力者や金持ちが意に沿わぬ依頼を強要した場合、このカードを見せてやれば良い」



 国王と隊長とギルド長がそれぞれ説明してくれたが、俺たちの事を考えてこのランクのカードを発行してくれたみたいだ。かなりの強制力があるようで、王家に断り無く強引に依頼をさせようとした場合、爵位剥奪や資産没収などの重い処罰が下されるらしい。



「ありがとうございます、色々と気を使っていただいて感謝いたします」


「キリエちゃんがおるパーティーを、心ない者に利用される訳にはいかんからの」



 国王もぶれないな、こんな大層な地位をもらってしまったけど、なんか安心できる。でも、この人の役に立てる事があったら、王家の依頼も受けよう。特に誰かの笑顔を守るために俺たちの力が必要なら、喜んで協力するという事を国王に伝えておく。



「あの、国王様。そんなランクの冒険者に、私たちが依頼を出してもいいんでしょうか」


「彼らが自分の意志で受ける依頼は全く問題がない、今まで通りやってくれれば良い」


「良かったですね教授、またダンジョン調査に行けそうです」


「あんな事故があったのに、まだこの仕事を続けてくれるのはありがたいの」


「ダンジョンの地質調査は、私の生きがいですから」


「お主達の研究成果は国に多大な功績を残しておるから、これからもよろしく頼むぞ」


「はい、精一杯がんばります」


「しかし、こうしてこの場におるという事は、今後は彼らに専属となってもらうのかね?」


「そこまで縛るつもりはありませんが、調査の際は出来るだけお願いするつもりです」


「ユリーおねーちゃんとヤチおねーちゃんは、ここに住む事になったから、いつでも一緒に冒険ができるんだよ」


「それはとても良い事だが、そうなるといずれこの家も手狭になってくるの……

 この近くに所有者のおらぬ土地は無かったか?」


「この家の裏手にある土地を、国家直営の不動産業者が管理しております」


「そこを王家で買い取り、この者達に下賜(かし)する手続きを進めよ」


「かしこまりました」



 なんか話が勝手に進んでいっているが側近の人はすごいな、王都の土地を全部把握してるんだろうか。確かにこの家の裏はちょっとした植樹があって、その向こうの土地が空いていたが、そこを王家が買い取って俺たちにくれるって事なのか。



「国王様、なにか話がよく見えないのですが」


「都合の良い場所が空いておってよかったの、隣の土地と地続きにして家を大きくするなり、離れを作って暮らすなり好きにすれば良いぞ、これで家族が増えても安心だの」



 あれ? なんかすごい方向に気を使われてる気がする。子供が増えてくると、この家では手狭になるのは事実なんだけど、ユリーとヤチは頬を染めて恥ずかしそうにしてるし、国王自らそんな心配をするっていうのはどうなんだ。



◇◆◇



 国への報告という事で堅苦しくなってしまったが、それが終わった後はいつも通りキリエと遊んだり世間話をして、全員でお昼を食べて行く事になった。この家の料理を初めて食べたギルド長や側近にも好評で、作った5人も嬉しそうにしていた。


 結局、裏手にあった土地はその日のうちに俺たちが所有する事になった、国の研究機関に務める職員の救出に貢献した褒美だと言っていたが、少しもらい過ぎな気もする。でも、せっかく気を使ってくれたんだし、ヤチが増えて5人になった厨房はさすがに手狭なので、家の拡張は本気で考えよう。


 その後は48個の結びの宝珠を寄贈したが、近衛隊長にものすごく喜ばれた。さすがにこの数の超レアアイテムを無償で譲り受ける訳にはいかないという事で、相応の金額で買い取られることになったが、側近の提示してくれた見積もりは桁が少しおかしな事になっていた。


 マスターパーツも国で買い取ってもらう事になり、こちらも魔法ギルドで内容を確認した後に振り込まれるが、新発見のパーツならかなりの高値がつくらしい。


 そして、“虹の架け橋”というパーティー名だったが、まさかギルドランクが虹を意味するものになって、カードまで虹色に輝くとは思わなかった。みんなも新しくなった綺麗なカードを見て嬉しそうにしているし、ユリーとヤチにストレアさんもそんな俺たちを微笑みを浮かべて見つめてくれている。



「おとーさん、きれーだね」


「キラキラ光っていて、とても不思議だな」


「パーティー名と同じなのが嬉しいです」


「パーティー名を考えた時に、漆黒の秘密結社にしなくて良かったわ」


「……マイはダイナって言ってた」


「そんな事を言った覚えがありますね」



 確か俺とアイナの名前をくっつけてそんな事を言ってた気がするが、エリナはよく憶えてたな。それにイーシャの考えた名前って、俺をからかってるって思ったんだけど、割と本気だったのだろうか。



「あなた達は目を離すと、すぐとんでもない事をすると思ってたけど、見ていてもやってしまったわね」


「王家直属の冒険者になったり土地を下賜されたり、一般に目にする機会など無い桁数の見積もりまで見てしまいました」


「側近の人が分割払いでお願いしますって言ってたね」


「結びの宝珠は、数個見つかるだけでも大騒ぎになるのですよ」


「ストレア様、あれはそれほど貴重なものだったのですか」



 俺たちはまとまった数を2度にわたって見つけてるから感覚が麻痺しているが、騎士隊長の驚き方を見るとかなり貴重な物だというのがわかる、そのせいで見積り金額がとんでもないことになったんだが。


 俺としては大幅に割り引いてくれてもいいと思ったけど、国としての面子(メンツ)があるみたいなので、分割で支払ってくれるらしい。



「土地も大きくなったのですし、やっぱりお城を建てるといいと思うのです」


「こんな街中(まちなか)にお城は無理だけど、家を大きくするのは考えたいと思うから、みんなも相談に乗ってくれるか」


「花壇もいっぱい作りたい」



 土地も広くなって、冒険者ランクもアイリスという特別なものになったけど、こうしてみんなで仲良く楽しく暮らしていく生活だけは守っていきたい。和気あいあいと話している家族を見て、その気持を改めて自覚した。


突然ですが、この物語は一旦ここで一区切りにしたいと思います。

連載中に紆余曲折はありましたが、主人公がこの世界の謎と技術の真髄に辿り着くまでを目標として書いていました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

活動報告の方に後書きみたいなものを書く予定にしています。



連続更新でおまけを1話追加しますが、完結処理は保留にするつもりです(未練w

(※2019/07/22 この作品のエピソードを追加する予定は当面なさそうなので、完結処理をしました)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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