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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第171話 二人の気持ち

「ただいま、カヤ、みんな」


「お帰りなさいませ、旦那様、皆様。

 ユリー様、ヤチ様、ご無事で何よりです」


「ユリーおねーちゃん、ヤチおねーちゃん、おかえりなさい」


「カヤさん、キリエちゃん、みんな、心配かけてごめんね」


「皆様、今回の件ではご迷惑をおかけしました」



 少し遅い時間になってしまったが、みんな起きて待っていてくれたみたいだ。揃って帰ってこられた事をみんなに喜んでもらって、ユリーさんもヤチさんも嬉しそうにしている。こうして2人に笑顔が戻って本当に良かった。


 お風呂もまだみたいだったので、俺がお湯を沸かして順番に入ってもらう。その間に治療院に居たメンバーは軽くご飯を食べる、安心したらお腹が空いてきたので美味しかった。ユリーさんもヤチさんも美味しそうに食べていたので一安心だ。



◇◆◇



「ベッドが更に大きくなっていたなんて驚いたわ」


「しかも寝心地が格段に上昇していますね」


「カヤちゃんの力作ですから」


「お二人にも喜んでいただけてとても嬉しいです」



 ヤチさんのそばから離れようとしなかったユリーさんも、ご飯を食べてお風呂に入ったらだいぶ落ち着いてきたみたいで、いつもの調子に戻ってきていた。



「こんな大きなベッドは宿屋でも見たことが無いわよ」


「私とご主人様とイーシャさんがお世話になっていたファースタの街にある宿屋に、これと同じくらいの大きさのベッドが置いてある部屋がありますよ」


「そんな宿屋があるのですか、一度見てみたいですね」


「ボクの転移魔法でいつでも行けるから、みんなで泊まりに行こうよ」


「宿屋のおじさんに、またパーティーメンバーが増えたと思われてしまうわね」


「……あるじ様以外は全員女の子」


「お兄ちゃんのお嫁さんがまた増えたって思われるかな」



 休憩もできる宿屋だからそんな誤解を受けてしまいそうだけど、ユリーさんとヤチさんは迷惑だったりしないだろうか。俺としては2人の事はもう家族みたいに感じているし、今回の件があって思っていた以上に大切な存在だと再確認してしまった。



「お二人に迷惑がかかりそうなら、俺は別の部屋か宿に泊まっても……」


「私は別にそう思われても構わないわよ、ダイ君が年上の女性を嫌いじゃなければだけど」


「私も年上ですが、ダイさんみたいに頼れる人族の男性となら、そう思われても問題ありません」


「2人とも、その点は私が居るから大丈夫よ」



 ユリーさんもヤチさんもイーシャも、少しいたずらっぽい目をしてるけど、どこまで本気なんだ。でも、今日のユリーさんの様子を見る限り、俺の事を相当頼りにしてくれてるみたいだし、ヤチさんは心にもない冗談を言う人ではないので、聞き流さずにしっかりその気持を考えることにしよう。



「キリエの妹ができたら、おかーさんがいっぱいだね」


「私も卵を生むのが楽しみになってきたよ」


「ウミはやっぱりお城が必要だと思うのです」



 ウミは何故かお城に(こだわ)っている所があるよな、何か思い入れでもあるんだろうか。それにシロもこっちをじっと見てるし、やっぱり俺の子供が欲しいのか?



「今すぐは無理だけど、ちゃんと考えるようにするよ」



 みんなはこっちを見て嬉しそうに微笑んでいるし、ストレアさんはさっきからすごくニコニコとして、俺たちのやり取りを眺めている。これだけ楽しんでくれているなら、本体の方にも情報が流れて喜んでくれるだろう。



◇◆◇



 その日は帰りが遅くなってしまったという事もあり、ブラッシングの最中にアイナやエリナも寝てしまったので、ストレアさんの事もあまり話ができずに眠る事にした。明日はユリーさんとヤチさんが上司に詳細な説明だけして、それが終わったら家に必要なものを取りに行って、またここに帰って来るそうなので、それからゆっくりと話をしようという事になった。


 みんなダンジョン内で全力戦闘をしているし、クレアも初めての魔法を使って疲れたみたいで、年少組は全員眠ってしまった。イーシャや麻衣も睡魔が忍び寄ってきてるみたいで、口数が少なくなってきている。



「私ね、男の人が苦手なのよ」


「はい」


「その返事はもしかしてこの事を知っていた?」


「実は児童養護施設(孤児院)の施設長に聞いてました」


「そう……、お母さんから聞いてたのね」



 今日はユリーさんが俺の隣で横になっていて、その向こうにはヤチさんが居る。いつもベッドの離れた場所で寝ていたので、並んで眠るのは今回が初めてだ。



「私は背が低いから、自分より大きな人を見ると威圧されてしまうの、特に男の人はその感じが強くなって苦手なのよ」


「俺の事もやっぱり苦手だったんですか?」


「最初はね、だから他の男の人にするのと同じ様に虚勢を張ってたんだけど、途中から今まで出会った冒険者とは違うなって思って、良くわからなくなっちゃったの」


「火山ダンジョンに行った時に、うまく距離感が掴めてないような感じがしたのは、そのせいだったんですか」


「だから、その日の調査が終わった後に、あなたの手を自然に握ることが出来たのは、自分でもびっくりしたのよ」



 そう言いながら、ユリーさんは布団の中で俺の手をそっと握ってきた。大人の男が苦手という話は聞いていたけど、その具体的な理由までは知らなかった。そんな彼女が俺にすがり付いて涙を流したり、不安そうな顔でずっと離れなかったのだから、特別な存在として見てくれていると思うのは自惚(うぬぼ)れじゃないだろう。


 その気持を確かめるように、大人の女性としては小さなその手を、俺も優しく握り返した。



「今日は本当にありがとう」


「仲間たちや国の兵士、それにリザードマンの3人も協力してくれましたので」


「うん、それはわかってる、けど私はあなたにお礼が言いたいの。

 あなたに出会えてよかったわ」


「それは俺もです、ユリーさん」



 反対側の手でユリーさんの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じてそのまま寝息をたて始めた。今日は怖いことや不安なことが沢山あって、気が休まる暇がなかったと思うし、ゆっくりと眠って欲しい。



「ダイさん、今日は教授の事を支えていただき、ありがとうございました」


「俺で役に立てたんでしたら良かったです」


「この子は、人に甘えるのがあまり上手じゃないんです」


「そうだったんですか」



 ヤチさんは優しい目つきで眠っているユリーさんを見つめて、その頭をそっと撫でている。今日、改めて2人の事を聞かせてもらって、ヤチさんの方が一つ年上だと知った。普段は上司と部下という立場を意識して接しているみたいだけど、素の状態だとこんなお姉さんみたいな態度になるんだな。



「育ってきた環境もあったのだと思いますが、私と一緒に行動するようになってからも、最初のうちはずっと遠慮がちだったんです」


「今のお二人の関係を見ると想像できませんね」


「今みたいに付き合えるようになるには、結構時間がかかったんですよ」



 ダンジョン内で魔物に襲われて危なかった所を助けたのが出会いだと聞いたけど、命の恩人に対して負い目みたいな気持ちもあったんだろう。



「でも、ダイさんに対しては出会ってすぐ自然体で付き合えるようになって驚きました」


「麻衣のお弁当やウミの精霊魔法のおかげもあったのでしょうけど、こうして頼りにしてもらえるのは俺も嬉しいです」



 隣で幸せそうに眠るユリーさんの頭を撫でてあげると、俺の腕を抱きかかえるようにして寝返りを打って、こちらに近づいてきた。



「ダイさんは私が人見知りなことは聞いていますか?」


「はい、簡単にですが教えてもらっています」


「克服しようと頑張ってはみているのですが、なかなかうまく行かなくて、折角この大陸まで来たのに歯がゆい思いをしていたんです」


「俺が見た範囲だと、他の種族とも結構うまく交流しているように思えましたが」


「ダイさんと一緒に居る人達には、不思議とすんなりお話できるんです」


「そんな事でも役に立っているなら嬉しいです」


「あなたと出会えてよかったです、これからも宜しくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」



 ユリーさんが俺にくっついて開いたスペースを詰めてきたヤチさんが、こちらを見つめて笑顔を浮かべてくれたので、その頭を優しく撫でてあげる。しばらくそうしていたが、ヤチさんからも静かな寝息が聞こえてきた。


 今日はユリーさんを守るために限界以上の力を使って危ない状態だったけど、こうして回復してくれて良かった。大事な人が居なくならないで済んだのは、魔族の肉体強度にオーフェとクレアの魔法のおかげだ。


 このままぐっすり眠って欲しいと願いながら、しばらくヤチさんの頭を撫で続けた。



◇◆◇



「こうしてみんなが寄り添って寝ている光景はとても良いですね」


「これを守れたのは、ストレアさんが助言をしてくれたおかげです、ありがとうございました」


「リザードマンと良い関係を結べたのも、魔法回路の作成に成功したのも、全てダイさんの力とこれまでの行いの結果ですよ」


「ダイ君のやることは、全てうまく繋がっていくのが凄いと思うのです」


「あんな極限状態だったにもかかわらず、こうして笑顔を浮かべて眠っていられるのは、君の持つ“気”のお陰でもあるから、もっと誇ってもいいよ」


「皆様の笑顔が守れてよかったですね、旦那様」


「あぁ、本当にそう思うよ」



 まだ起きているメンバーにそう言われて、改めて悲しい思いをする人が出なくて良かったと、ユリーさんとヤチさんの頭を撫でながら考える。この世界に来て初めて言葉をかわした人たち(リザードマン)に、こうして助けになってもらえたのは、今までの冒険者活動が無駄じゃなかったと思えて嬉しい。


 それに新しい魔法回路も作れるようになったが、俺の作る魔法は誰かの助けになれるものにしようという気持ちが、明確に固まった。それを実現する想像力を養うために、これから先も冒険者活動を続けていこう。


ユリーとヤチのフラグが完全に立ちましたね(笑)

メインヒロインに昇格した2人のプロフィールを、資料集の方に加筆修正して追加しています。


勇者 輝樹の下に、マスターパーツを作った人物も追加しました。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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